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第18話 戸川くんとはじめての喧嘩④
しおりを挟む戸川くんのお母さんは腰に手を当てたまま再び場を見渡す。
そして「ん?」と言って、櫻さんが目に入った所で動きを止める。
「あら、あなた櫻ちゃん?お久しぶりね」
そう言って櫻さんに微笑みかける。
「……お久しぶりです……楓さん……」
少しバツが悪そうに答える櫻さん。
そんな櫻さんを上から下まで見た戸川くんお母さん――楓さん――は笑いながら話しかける
「格好は随分変わったけど、相変わらず可愛いわね櫻ちゃん」
「いえ……そんな事は……」
と、下を向く櫻さん。
先程までとは雰囲気が全く違う。
「おいババァ、てめぇ何勝手に仕切ってるんだよ、あぁ?」
そう言って、剛と呼ばれていた男はお母さんに凄む。
「ババァ?てめぇ?おいクソガキ、誰に口聞いてるんだ?あぁ?てめぇ」
凄まじい圧力で睨みつけるお母さん。
その圧に思わず怯む男。
「おいおばさんよ、先に手を出したのはそっちの女だぞ。こっちはそれに対応しただけだ。いい加減な事ぬかすとこっちも出る所に出るぞ」
そう言って戸川くんのお母さんに凄む。
私が下を向いてると、戸川くんのお母さんは大きな声で笑い出した。
「あっはっはっは。出るとこ出るか。面白いね君」
そう言って、私の方を見る。
「あなた、鈴音さん?あなたの事は旦那と蒼から聞いてるわ。いつも怜がお世話になっているわね」
そう言ってニコッと笑う。
そして私と櫻さんを交互に見て
「まー、今の彼女と昔の彼女が顔を合わせたら、多少の何かはあるでしょうねぇ」
そう言って戸川くんの方を見る。
「怜、こうなったのはあんたのせいでもあるんだからね。ちょっとは反省しな」
「そんな事は無いです、手をだした私が悪いんです」と私が発しようとする言葉を制し、今度は櫻さんの方を向いて話しかける。
「櫻ちゃん。あなたと怜の間に何があったか詳しくは知らないけど、ここにいる鈴音さんね、うちの旦那と蒼の話を聞く限りそんな簡単に手を上げる子じゃないと言う印象なの」
そう優しく語りかける。
「そんな子が手を上げてしまったと言う事は、それなりの事をあなたがしてしまったと言う事で良いのかな?」
櫻さんは下を向いている。
「あとそこのガキ」
戸川くんのお母さんに凄んだ男に声を掛ける。
「出るとこ出るって言ったな?お前。やれば?櫻ちゃんの顔を見れば若干赤くはなってるけど出血もしてないし。変わって怜はどうだい。口の端を切って出血している。私の大切な息子を傷つけてどうしてくれるんだい。そっちがそう言う態度なら、いくらでも出てやるよ?お前こそケツまくって逃げるんじゃねーぞ?」
そうお母さんに睨まれて「先に手をだしたのはそっちで……」とモゴモゴ言う男に櫻さんは声を掛けた。
「やめな、剛。楓さん……怜のお母さんは弁護士だから。それも凄腕の」
そう言って私を見る。
「私は別にこの女を訴えるつもりは無いし……それにその人に睨まれたら剛、あんたの将来なんて簡単に潰されるよ」
戸川くんのお母さんの方をチラッと見る。
男は弁護士という言葉を聞いてぎょっとした顔になり、途端に静かになって下を向く。
そんなやり取りを聞いていた蒼さんがこちらに歩いてきた。
「はいはいはい。こんな街中で揉め事起こしてもしょうがないでしょー。解散解散。ほら、母さんもこんな若い子に凄んじゃ駄目でしょうよ。まだ怜と同い年くらいだよこの子きっと」
そう言って剛と呼ばれていた男の肩をポンポン叩く。
「今回はまぁ先に手を出したのがこちらの身内と言う事だし?怜の傷も大した事なさそうだしお互い痛み分けと言う事で」
そう笑って話しかけた後、ガラッと表情が変わり
「今回は痛み分けだけど、次またオレの弟に手をだしたらお前潰すからな?」
と綺麗な顔からは想像も出来ないドスの利いた声で男に話しかける。
男は「ッス」と小さく頷いてその場を離れる。
そんな様子を見て、櫻さんは後ろにいたグループに話しかける。
「あー、んじゃ行こっか。ほら行くよ剛」
そう言って男の肩をポンと叩く。
そして戸川くんと敦くん達の方を向いてカラッとした声で言った。
「それじゃーね。次は会っても声は掛けないよ」
今度は私の方をチラッと見てぼそっとつぶやく。
「じゃーね。彼氏と仲良くね」
そう言ってスッと離れる。
そして最後に戸川くんのお母さんに話しかけた。
「それでは楓さん……私は先に失礼します」
そう言って頭を下げる。
戸川くんのお母さんはちょっと寂しそうな顔をした後
「はいはいまたね櫻ちゃん。あと私が言う事じゃ無いかも知れないけど……付き合う友達はちゃんと選ぶんだよ。あとあの彼氏、しっかり躾けときな」
剛と呼ばれる男を指差して笑った。
「あんなの彼氏なんかじゃ無いですよ。ご忠告、胸にしまっておきます」
そう言ってその場を離れ、櫻は仲間の元に戻っていった。
「彼氏なんて……怜と別れてから1人も作った事ないですよ」
小さくボソッとつぶやいた櫻の言葉を耳にする者は、誰1人としてその場所にはいなかった。
「さ、怜。あんた一体何やってるんだい」
そう言って今度はお母さんのお説教が戸川くんに始まった。
戸川くんは下を向いたまま溜息をついている。
「うち等の母親、凄いでしょ」
笑いながら蒼さんが話しかけて来る。
「たまたま母さんをクライアントの所に送っていく途中で凛ちゃん達を見かけてね。見つけて良かったよ。怜が色々迷惑を掛けてごめんね」
頭を軽く下げる蒼さん。
「いえいえ、そんな事は全然!私が勝手に怒って勝手に手が出てしまって……逆に戸川くんたちに迷惑を掛けちゃったみたいで」
そう言って戸川くんたちの方を見る。
「でも良かったです。お友達と仲直り出来て」
私は穏やかな目で戸川くん達を見る。
そうしているとお説教が終わったのか、戸川くんとお母さんがこちらに歩いてきた。
「鈴音さん、うちのバカ息子が迷惑を掛けて申し訳無いわね。これからもこの子を宜しくね」
そう言って頭を下げる
「いえいえ!私こそいつもお世話になって!こちらこそどうぞよろしくお願いいたします!」
私もぴょこっと頭を下げる。
「じゃ、怜、うちらは行くわ。またな!」
そう言って敦くんと結くんたちが手を振る。
「おー!またなー!」
戸川くんも手を振る。
そんな戸川くんを見つつ、櫻さんの事を思い出した。
櫻さんは戸川くんと別れてしまったけれど、私はずっと戸川くんと一緒にいたい。
ううん、戸川くんとずっと一緒にいるんだ!
私は心の中でそうしっかりと想いを決めた。
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