はじめて出来た地味彼氏の戸川くん、実はワケありの元遊び人だった?

わーくほりっく

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第19話 戸川くんとはじめての……(前編)



 街のあちらこちらからクリスマスソングが流れてくる。
12月も中旬に入り、すっかり街はクリスマス一色である。


「美味しいハンバーグだったね!」


戸川くんと手を繋ぎ、街を歩きながら話しかける。


「や、本当に美味しかったね。一応前評判を調べて行ったけど、あんなに美味しいとは思わなかったよ」


笑顔で答える戸川くん。


「今日はまだ行った事が無いご飯屋さんを新しく開拓しよう!」と言う戸川くんの提案の元、私達は夕ご飯を食べる為、如月駅にやって来た。


「新しい所を開拓するのも楽しいけど、ここのハンバーグメニューを全て制覇したいな」


戸川くんはお店からいただいてきたメニューチラシをじっと眺める。


「でも僕ら2人ともそんなに食べる方じゃないから、制覇するには当分時間がかかっちゃうけどね」


「確かに!」


 そう言って2人で笑っていると駅が見えてくる。
 2人で仲良く階段を上がり改札の前に立つ。戸川くんと私は帰る方向が逆なのでここでお別れである。


「それじゃあ鈴音さん、またね」


 笑顔で手を振る戸川くんに「あ、戸川くん。良かったらなんだけど」と話しかける。


「丁度クリスマスの日なんだけ……ど、私からお誘いして良いかな?」


「ん?」となる戸川くん。


「あ、変な言い方だったね。来週のクリスマスの日、私とデートしてくれませんか?」


自分の手をギュッと握って戸川くんに問いかける。


私からデートに誘うのは今回がはじめての事だ。


「わっ、勿論だよ。鈴音さんから誘われたのははじめてだったから一瞬戸惑っちゃったけど、喜んでお受けするよ」


そう言って戸川くんはニコッと笑う。


「良かった!じゃあ、いつもお店とかは戸川くんに決めてもらっているから、今回は私が決めるね!デートプランも色々考えちゃう」


両手をぐっとして頑張るぞ!のポーズを作り、戸川くんに伝える。


「あはは。ありがとう。当日は楽しみにしているよ」


 そう言って戸川くんは笑顔で「じゃ、また学校で!」と言って改札の奥に消えて行った。


私も笑顔で戸川くんを見送り、自宅への帰路についた。






「ふ~さっぱりした」


 自宅へ戻った私はゆっくりお風呂に浸かった後、自分の部屋でドライヤーをかけ、化粧水を顔にパタパタとはたく。
 一通り、お顔のお手入れが終わった後、スッと立ち上がり姿見の前に立つ。


 敦さんや結さん、そして櫻さんのあの一件以来、戸川くんは以前よりも増して雰囲気が柔らかくなった。
 以前までは特に気にならなかったけど、今の戸川くんを知ると昔は随分壁を作っていたんだなと思う。
 今では敦さんや結さん達と会って色々遊んでいるみたいである。


 戸川くんのお家にもちょくちょくお伺いしている。
 相変わらず戸川くんのお母さんは不在の事が多いけれど、お父さんも蒼さんもとても良くしてくれる。


姿見に映ったパジャマ姿の自分を見る。


 戸川くんのお部屋だったり、ちょっとした時に戸川くんからキスをされる事は良くある。ただその先は……まだない。
 自分が戸川くんからとても大切にされているのは分かる。
 戸川くんは口には出さないけど、昔の自分の行いを気にしている事も……何となく分かる。

 姿見に映っている自分と、記憶の中の櫻さん……戸川くんの元彼女の姿を比べる。

一時期感じていた様な劣等感は、今の私には無い。

だって戸川くんを信じているから。

 だから今感じている気持ちは他人と比べてどうこう、と言う焦りを含んだ感情では無く、純粋に私が求めている物なんだろう。


「うん。私って贅沢だよね」


そう鏡の中の自分に話しかける。


でも仕方が無い。戸川くんの事が好きなんだから。


「良し!頑張るぞ!」


 そう言って私はごろんとベットに寝転がり、スマートフォンで色々と検索を始めた。





 クリスマス当日、待ち合わせ場所に行くと、既に戸川くんが待っている姿が見えた。


「わっ、戸川くん早い!」


そう言って戸川くんの元へ走って行く。


「お待たせ!ごめん待たせたかな?」


息を切らしながら戸川くんの前に立つ。


「あ!鈴音さん!いやいや僕が早く着きすぎたんだよ。何か嬉しくてそわそわしちゃってね、自分でも驚くくらい早く着いちゃたから、さっきまで雑貨屋さんを回ってたよ。ここについたのはついさっき!」


照れくさそうに笑う戸川くん。


「あはは。それって最初のデートの時の私だね!私も嬉しくて凄く早くついちゃったから」


そう言って2人で笑う。


「今日はデートに誘ってくれてありがとうね」


私の目を見て優しく微笑む。


「こちらこそありがとう!今日は私が色々デートプランを練らさせていただきました!よろしくね、戸川くん」


 私は戸川くんの手を握り、「さ、まずは戸川くんにクリスマスプレゼントを買いたいです!」と言って、戸川くんが良く買う洋服のブランドが入っているデパートへ歩き始めた。







「うーん、このソーセージ凄く美味しいな!」


戸川くんがびっくりした顔でソーセージを頬張っている。


 デパートで戸川くんのクリスマスプレゼントとして一緒にマフラーを選んだ後、雑貨屋を巡って今は予約したご飯屋さんで食事を楽しんでいる。


 私が頭をうんうん唸らせてスマートフォンで調べて見つけたお店は手作りソーセージが有名なお店で、本場ドイツから来た料理人が腕をふるっている。
 評価が高い割には値段もそこまでべらぼうに高くは無いので思い切って予約したけど、喜んで貰えて良かった。


 コースで予約したので様々なソーセージが目の前に並び、見た目も楽しませてくれる。
 ソーセージを一通りいただくと今度はピザが運ばれてきた。


「うわ、このピザも美味しそう」


戸川くんはそう言ってピザを一切れ取り、自分のお皿に移して口に運ぶ。


「うーん、このピザも美味しい!」


「あ、私もいただくね」


そう言って、私もピザを自分のお皿に移しハムッと口に入れる。


「わ、確かにこれは美味しいね!」


「でしょ?このお店、出てくるものが全部美味しいね」


そう言って2人で笑いながら食事を進めていった。





「ご馳走様でした!」


2人ともデザートまで綺麗に平らげて、食後のコーヒーをいただく。


 ふう、と息をついた所で、「あ、そう言えば鈴音さんっ」と何か言いかけた戸川くんの言葉を制するように、私は言葉を重ねる。


「戸川くん、ご飯の後、もう一箇所行きたい所があるんだけど良いかな?」


戸川くんはキョトンとした顔で


「あっ、うん。良いけれどもここから近いの?」


そう問いかける戸川くんに


「うん。ここから歩いて10分くらい!」


と笑顔で答える私。


 出来るだけ冷静さを装っているけど、ずっと心臓はバクバク言いっぱなしだし、食後のコーヒーを飲んでいるにも関わらず、喉はカラカラである。


「うん。じゃあそこに行こうか。あ、ここのお代は?」


と、聞く戸川くんに私は「ふふん」と笑って


「ここは私がご馳走します」


といたずら顔で私は答える。


戸川くんはニコッと笑って


「ご馳走様です。今度は僕が払うからね」


と同じ様にいたずら顔で答える。


 それでは行こっか、と言って私は密かに震えている手でお財布を取りだしお会計に向かった。





お店を出て戸川くんと歩く。


 最初は楽しそうに話しかけて来てくれていた戸川くんだったけど、私の様子がおかしいせいか段々と口数が減ってきて、静かに2人で手を繋ぎながらゆっくりと歩く。
 繁華街を過ぎ、周りが静かになってきた所で戸川くんが再び話しかけてきた。


「鈴音さん、結構周りが静かな所になってきたけど……行きたい場所ってこの辺りなの?」


「うん。もうすぐ着くよ、ごめんね。ちょっと歩かせちゃって」


軽く引きつった笑顔で答える私。


 さっきのソーセージ屋さんから私が行きたいと言った所までの道は頭に叩き込んである。
 すぐ目の前の角を曲がればもう到着する。


角を曲がり、その建物の前に到着する。


くるっと戸川くんの方を向き、私は震える声を出来るだけ抑えて笑顔で言った。


「ここが私が来たかった所!」


戸川くんはその建物を見上げてボソッとつぶやく。


「鈴音さん、ここって」


「うん……。戸川くん、今日ってお泊り出来る?」


震える声で戸川くんに問う。


 外見はとてもお洒落でモダンな作りになっている建物ではあるが、ジャンル的には所謂ラブホテルと言われる場所である。
 スマートフォンで色々検索して、出来るだけ綺麗でお洒落な所を探した。スパやリラクゼーション施設もあり、昼間には女子会として使われる事もあるらしい。事前にお部屋の予約も出来る。
 それでもラブホテルと呼ばれる場所、女の私から誘うのはどうなんだろうとずっと悩んでいた。
 でも私は戸川くんともっと親密になりたかった。櫻さんの事とか戸川くんの過去を気にしてでの決断では無く、純粋に戸川くんの事が好きだから望んだ事だ。


 戸川くんは黙ったままじっと私を見る。そして「ふぅ」と軽く一息ついて私に近づきキュッと抱きしめる。


「ごめんね鈴音さん、女の子の口からそんな台詞を言わせてしまって」


そう言って頭の後ろをポンポンとしてくれる。


「僕にとって鈴音さんはとても大切な人で。でも僕自身、昔の事がどうしても気になって中々鈴音さんに……そう言う事が出来なくて」


 戸川くんに大切にされている事は十分自覚できていた。
 大切にされているからこそ……戸川くんがそう言う事を求めて来ないと言うのも十分に分かっていた。


 私は戸川くんと付き合って、はじめて嫉妬心や独占欲を知る事が出来た。
 そして自分が思っているよりも、貪欲だって事もわかった。


――私は身も心も、戸川くんの全てが欲しい――


 キュッと抱きしめていてくれた戸川くんがスッと離れる。
 私の目をじっと見て、満面の笑顔で私に答えてくれた。


「お誘いありがとう。とても光栄だよ。喜んでお誘い、お受けするよ」


そう言って頰に軽くキスをする。


私達2人は手をギュッと繋ぎ、建物の中に入っていった。



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