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プロローグ.
しおりを挟む「おはようございます、レン。今日も良い天気ですね。きっと素敵な一日になりますよ」
彼は俺の右手を取り、恭しく手の甲へと口付けた。
朝日に照らされ、煌めく金髪。シャツ越しでも分かる鍛えられた体躯の、見目麗しい騎士。今は部屋着のシャツ姿であるにも関わらず、それはまるで一枚のスチルを切り取ったような光景だ。
挨拶をするつもりだったのに、思わぬものを目撃してしまった。開いたドアの隙間から声をかけようとした俺の視線は、思わずその“物”に吸い寄せられる。
あの腕は、紛れもなく俺自身のものだ。数年前、魔人になりかけた魔物に斬り落とされた右腕。血の気が失われたまま、時を止められたかのように保存されている。
斬られた直後の記憶が蘇り、少しだけ胸の奥が冷えた。
……もっとも、人の手を使って自慰する場面を見てしまったこともあるので、それに比べれば衝撃は薄い。
彼は壊れ物を扱うかのように右手をそっと箱へと戻し、ベッド脇のサイドチェストに置いた。腐敗を防ぐための保存魔法──みたいな術が施されているのだろう。
軽く箱を撫で終えると、彼はこちらに気付き、笑みを浮かべて扉を開けた。
未だ残る深い隈のある顔で、碧色の瞳を優しく細めながら。
「おはよう、レン。食事の準備ですか? 俺も手伝います」
「……うん、おはよう。もしかして……それに毎日、挨拶してるの?」
魔素で作られた黒い右手を上げ、俺はチェスト上にある箱を指差す。声が震えていたのは、きっと気のせいじゃない。
「勿論だよ。毎朝、語りかけてからでないと、俺の一日は始まりませんから」
「……そう、なんだ」
次の瞬間、彼は俺の黒い右手にも口付けを落とした。この世界の住人が疎む闇魔法で作り上げた手には、温もりなど一切ないのに。彼は嫌悪するどころか、慈しむように触れる。
自然な仕草で腰を抱き寄せられ、俺は彼を見上げた。その瞳が愛おしそうに、俺を映している。
「今日は何をしましょうか」
本来なら、彼はここにいる筈がない。王都から遠く離れた森奥の小さな小屋にではなく、二人の神子と共に、この世界を救うための任務に就くべきなのに。
彼は全てを放り出して、死んだ存在の傍らにいる。
原作とは異なる彼の行動に、俺は頭を抱えるしかなかった。
一体、どこで間違ってしまったのだろう。
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