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02.
しおりを挟む「では神子様、一時間後に改めて館内をご案内致します。少しの間、お休みください」
「うん、ありがとう」
案内してもらったのは神子専用の離宮だった。この建物の存在はゲームで知っていたため「部屋で休みたい」と言ったのだが、ヴィルヘルトは特に怪しむこともなく頷き、ここまで連れてきてくれた。
部屋の前で別れ、中に入ると靴を脱ぎ、そのままベッドにダイブする。ふかふかの枕に顔を埋めると、思わず呻き声が漏れた。
……覚悟はしたけど、これからどうしよう。
案内イベントをスキップして部屋に直行してしまったので、少し時間を置いてから改めて離宮を案内してもらうことになった。だから、それまでに考えを整理しなければ。
枕に顔を押しつけたままでは余計に混乱する気がして、起き上がり、部屋の隅に置かれた姿見に近づいた。
鏡に映ったのは、いつも見ていた自分とは違う少年の姿。いくら睨んでみても、そこにいるのは俺ではなかった。
肩につかない程度の黒髪は、前髪が長くて目元にかかっている。灰色の瞳は光が薄く、どこか影を帯びた印象を与えた。主要キャラクターの一人ではあるので、派手さはないが整った顔立ちだ。中性的で可憐な雰囲気があり、陰キャ寄りの美少年といったところか。
身長は百七十センチほどで、華奢すぎず、逞しくもなく、平均的な体格。学生という設定のため、今着ているのは制服だ。紺のブレザーに白いシャツ、グレーのスラックス。胸元にはワインレッドとネイビーのレジメンタルネクタイ。この豪奢な離宮の中では、どこか浮いて見えた。
「……やっぱり、黒月蓮で間違いないっぽいな」
自分の姿を確認して、肩を落とす。
どうやらここは友人が作ったゲーム『祈光のレゾナンス』の世界で間違いないらしい。神子×騎士×絆をテーマにしたシミュレーションRPGで、プレイヤーは二人の神子をどちらか選んで操作し、騎士との絆を深めながら魔物を討伐していく物語。
その二人の神子は、桐谷陽真と真壁朔夜。先ほど俺の横にいた学生だ。
明るい赤茶髪の少年が陽真で、騎士アルヴェールがペア。紫がかった黒髪の少年が朔夜で、騎士ダリオがペア。
この二組は最初から相性が悪くなく、ストレスなく絆を深められる。登場人物は男だけだが、友人曰くBLゲームではない。ただ、仲良くなればなるほど、神子に対する騎士の激重感情が顕になるのがこのゲームの醍醐味……だった筈。
ちなみに、俺が憑依(転生?)してしまった神子──黒月蓮は序盤で退場する。
アルヴェールを一目見て気に入った蓮は「ペアを変えて欲しい!」と駄々をこね、ことあるごとにちょっかいを出す。ライバル……というよりはお邪魔キャラに近い。
結果、自分のバディであるヴィルヘルトとは絆を築けず、第一の試練で『ハズレ神子』の烙印を押されてしまう。
「お前が僕を信じてない所為で、負けたんだ!」と逆切れし、陽真とアルヴェールの絆に嫉妬する。試練で一番相性が良かったのが二人だったから、余計に許せなかったのだろう。
そして、王都に潜り込んでいた魔人に唆され、闇堕ちしてしまう。魔人とは魔物が進化した悪の存在で、普通の魔物より遥かに強い。レベルを上げなければまともに戦えない強敵だ。
魔人化した蓮はチュートリアルボスとして現れ、倒され、神子の力で消滅する。そんな救いのない役回りだった。
バディとの絆を強制的に意識させるためのイベントキャラなので、死ぬのは確定なんだよな。
「いや、死にたくない。絶対に、生き延びてみせる……」
原作ではバッドエンド確定のポジションでも、俺が黒月蓮になった以上、そんな展開はごめんだ。
だからこそ、ヴィルヘルトとは良好な関係を築く必要がある。他の神子や騎士とも仲良くして、闇堕ちなんか絶対しないぞ。
それに正直、アルヴェールよりヴィルヘルトの方が俺の好みだし。
そもそも、何故俺は友人のゲームに入ってしまったのか。
転生? 憑依? 理由は分からないが、死なないためには選択肢を間違えずに生き抜くしかない。
……もしかして、俺の名前が神子と同じ響きの“廉”だったのも、何か関係ある?
なんて、それは流石に邪推し過ぎか。
深く溜め息を吐いて、再びベッドに腰を下ろす。立派な部屋だというのに、落ち着くことはできなかった。
遠くで神殿の鐘が、低く鳴り響いた。
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