とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎

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3話.イケメンに少しだけ嫉妬する



「嘘つきっ! 信じてたのに……時雨の裏切り者っ!!」
「それは葉が勝手にそう思ってただけだろう。俺は何も言ってない」
「た、確かにそうだけど……でもさぁ……」

 俺の悲痛な叫びに、時雨は悪びれる様子もなく平然と答える。
 以前はあんなにも一緒で「俺たちは仲間だ」と無邪気に笑い合っていた彼はもういない。変わってしまったんだ……。

「もー、平凡仲間だと思ってたのに、なんでイケメンになってんだよ。時雨のバカ!!」
「何言ってるんだよ。俺は普通だって。変わらずお前の仲間だろ? ほら、怖がることなんてないからなー」

 吠える俺をぎゅっと抱き締め、時雨は優しく背中をぽんぽんとあやすように叩く。
 くそっ、こんなんで俺は誤魔化されないからな……!

「つーか、お前さ、抱き癖でもあんの? やたらとそれやるよね。正直、子供扱いされてる気がして、なんか微妙なんだけど」
「我が家での慰め方がこれだから、もはや癖みたいなもんだな。なんだ、正気に戻ったか?」
「俺はいつでも正気だって」
「いや、食べ物が絡む時だけお前は正気じゃない」
「あっ、はい」

 いつものように軽口を叩き合いながら、時雨の腕から離れる。最近のこいつ、離れようとする度に名残惜しそうな顔をする事が増えたけど、なんなんだ?

「葉の抱き心地、良いんだよなぁ……。寒い時に助かる」
「梅雨だからか! いや、人で暖を取るのはやめろよな。寒いなら上着でも羽織っとけ!」


 時雨と仲良くなってから気付けば二ヶ月が経ち、季節は六月で、梅雨真っ只中。
 初めて会った頃と比べて、彼の姿は驚くほど変わった。

 まずは制服。元々は従兄弟からのお古で、段ボールに雑に詰められていたらしく、既にヨレヨレな状態だった。忘れていたのか登校前夜ギリギリに届いたため、当然クリーニングに出す時間もなく、仕方なくそのまま着てきたのだとか。俺が母に持たされたアイロンを貸してやったら、それなりに皺が伸びて、マシになった。
 次に眼鏡。注文していた新しいのが届き、文化祭の変装喫茶で使っていたという丸いぐるぐる眼鏡は、丸みを帯びた幅広のスクエアタイプに進化した。それが時雨の切れ長の目に妙に似合っていて、知的で頼りがいのある雰囲気を醸し出している。翌日に時雨と顔を合わせたクラスメートは、面白い位に動揺していた。
 そして今日。散髪代すらなかったという切ない理由により、肩まで伸びっぱなしだった髪は、すっきりとした清潔感があるショートカットへ。どうやらバイト代が多く入ったので、学園併設の美容院に行ってきたらしい。料金表を眺めて悩んでいると、たまたま暇だった美容師さんにカットモデルを誘われ、タダだったんだと。機嫌良く帰ってきて、そう報告する彼の姿を見て、俺は固まった。なんか格好良くなってるんだが?

 そして、この冒頭のやりとりに戻る訳だ。


「でも、ほんっとにイケメンになったよなぁ……」

 頭のてっぺんから足先までじっくりと眺める俺に、時雨は呆れたように溜め息を吐く。

「だから、イケメンなんかになってないって。ちょっと小綺麗になっただけで、顔は普通のままだろ?」

 それは……嫌味なのか?
 若々しく爽やかな顔立ちと、実は一重ではなく奥二重だった切れ長の目元、スッと通った鼻筋に、アーチ状に整った眉。これをイケメンと呼ばずして、何をイケメンと言うんだ。
 時雨が変わっていく度に、クラスの皆も注目していたから、明日はもっと大騒ぎになるに違いない。
 きっと人気が出て、友達も増えるだろうし、親衛隊も出来ちゃうかもな。そしたら、俺といる時間は段々と減っていき、他の奴らと楽しくしてる姿を遠くで眺めるしかなくなって……。なんて想像したら、急に寂しさを覚えた。俺が寂しいからって、時雨の交遊関係に口出して束縛するつもりはないし、言うつもりもないけどさ。

「あたしをこんな体にしといて、酷いわっ!」
「え、今度は何の茶番を始めようとしてるんだ?」

 俺は敢えて冗談めかして言いながら、時雨の肩にどんとタックルしてみると、彼はなんなく受け止めてくれた。

「ちょんぼりがなくなっても、俺たちずっとベスティーだよ」
「葉が何を言いたいのか……うん、ちょっとよく分からないけど……なんだよ、急にどうしたんだ?」

 本日二度目のぽんぽんを背中に受けた。優しくされたのが嬉しくもあり、悔しくもあったので、肩口にぐりぐりと頭を押し付けてやる。

「んー、いや……たださ。時雨のちょんぼりが良い味出してたから、勿体なかったなーって」
「もしかして、髪の事を言ってるのか?」
「そう。今の方が断然すっきりしててカッコいいけど、前のモサッとした感じも好きだったなぁ……なんて思っちゃったり」

 多分あのちょんぼりがあることによって、時雨のイケメンオーラがうまく隠されていたんじゃないかと思う。

「あーあ。折角姉ちゃんが可愛い髪飾りを送ってくれるってのにさぁ」
「だったら、葉がその髪飾りをつければいいんじゃないか?」
「俺、髪長いの無理だし。ウザくなったらそっこー切るもん」
「おい。俺だって、好きで髪を伸ばしていた訳じゃないからな」
「やーい、万年金欠野郎め~。って、あ、ちょっ……やめて、技かけないで。中身出ちゃう……痛、あいたたたた!」

 俺が軽口を叩くと、時雨は無言で俺を引き寄せ、力強いベアハッグをかけてきた。涙が出そうになるくらい痛いけど、楽しくなってきて、お互い笑い合った。その後、彼はぽつりと「見た目が少し変わった所で、中身まで変わる訳じゃないさ。葉は俺にとって大事な相棒だよ」なんて言ってくれて、その言葉にさっきまで心の中にあった寂しさがすっと消えていく。
 照れくさい気持ちがこみ上げてきて、俺も小声で「ありがとう」と呟きながら、自然に笑顔を返していた。


 翌日、登校すると案の定、クラス中は大騒ぎ。あちこちから「うちのグループに入りなよ」とか「放課後、一緒に遊ばない?」なんて声が飛び交っていた。だけど、時雨はどれもきっぱりと断って、まるで当然だというように俺の隣にいてくれた。ま、まいふれんどふぉーえばー!

 授業では変わらずに俺たちはペアを組むし、テスト前には一緒に勉強会もした。スパルタで教え込まれた時は正直逃げ出したくなったけど、その分成績も上がったし、なんだかんだで次も頼りにしている。お互い暇な夜には、共同スペースでTVを見ながら「これ食べたい」とか、女優の好みなんかも語ったりして、楽しい日々を過ごしていた。

 きっとこれからもアイツとなら、退屈なんて言葉とは無縁の毎日が続いていくんだろうな。なーんて、ちょっとクサ過ぎか。


感想 3

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