4 / 22
3話.イケメンに少しだけ嫉妬する
「嘘つきっ! 信じてたのに……時雨の裏切り者っ!!」
「それは葉が勝手にそう思ってただけだろう。俺は何も言ってない」
「た、確かにそうだけど……でもさぁ……」
俺の悲痛な叫びに、時雨は悪びれる様子もなく平然と答える。
以前はあんなにも一緒で「俺たちは仲間だ」と無邪気に笑い合っていた彼はもういない。変わってしまったんだ……。
「もー、平凡仲間だと思ってたのに、なんでイケメンになってんだよ。時雨のバカ!!」
「何言ってるんだよ。俺は普通だって。変わらずお前の仲間だろ? ほら、怖がることなんてないからなー」
吠える俺をぎゅっと抱き締め、時雨は優しく背中をぽんぽんとあやすように叩く。
くそっ、こんなんで俺は誤魔化されないからな……!
「つーか、お前さ、抱き癖でもあんの? やたらとそれやるよね。正直、子供扱いされてる気がして、なんか微妙なんだけど」
「我が家での慰め方がこれだから、もはや癖みたいなもんだな。なんだ、正気に戻ったか?」
「俺はいつでも正気だって」
「いや、食べ物が絡む時だけお前は正気じゃない」
「あっ、はい」
いつものように軽口を叩き合いながら、時雨の腕から離れる。最近のこいつ、離れようとする度に名残惜しそうな顔をする事が増えたけど、なんなんだ?
「葉の抱き心地、良いんだよなぁ……。寒い時に助かる」
「梅雨だからか! いや、人で暖を取るのはやめろよな。寒いなら上着でも羽織っとけ!」
時雨と仲良くなってから気付けば二ヶ月が経ち、季節は六月で、梅雨真っ只中。
初めて会った頃と比べて、彼の姿は驚くほど変わった。
まずは制服。元々は従兄弟からのお古で、段ボールに雑に詰められていたらしく、既にヨレヨレな状態だった。忘れていたのか登校前夜ギリギリに届いたため、当然クリーニングに出す時間もなく、仕方なくそのまま着てきたのだとか。俺が母に持たされたアイロンを貸してやったら、それなりに皺が伸びて、マシになった。
次に眼鏡。注文していた新しいのが届き、文化祭の変装喫茶で使っていたという丸いぐるぐる眼鏡は、丸みを帯びた幅広のスクエアタイプに進化した。それが時雨の切れ長の目に妙に似合っていて、知的で頼りがいのある雰囲気を醸し出している。翌日に時雨と顔を合わせたクラスメートは、面白い位に動揺していた。
そして今日。散髪代すらなかったという切ない理由により、肩まで伸びっぱなしだった髪は、すっきりとした清潔感があるショートカットへ。どうやらバイト代が多く入ったので、学園併設の美容院に行ってきたらしい。料金表を眺めて悩んでいると、たまたま暇だった美容師さんにカットモデルを誘われ、タダだったんだと。機嫌良く帰ってきて、そう報告する彼の姿を見て、俺は固まった。なんか格好良くなってるんだが?
そして、この冒頭のやりとりに戻る訳だ。
「でも、ほんっとにイケメンになったよなぁ……」
頭のてっぺんから足先までじっくりと眺める俺に、時雨は呆れたように溜め息を吐く。
「だから、イケメンなんかになってないって。ちょっと小綺麗になっただけで、顔は普通のままだろ?」
それは……嫌味なのか?
若々しく爽やかな顔立ちと、実は一重ではなく奥二重だった切れ長の目元、スッと通った鼻筋に、アーチ状に整った眉。これをイケメンと呼ばずして、何をイケメンと言うんだ。
時雨が変わっていく度に、クラスの皆も注目していたから、明日はもっと大騒ぎになるに違いない。
きっと人気が出て、友達も増えるだろうし、親衛隊も出来ちゃうかもな。そしたら、俺といる時間は段々と減っていき、他の奴らと楽しくしてる姿を遠くで眺めるしかなくなって……。なんて想像したら、急に寂しさを覚えた。俺が寂しいからって、時雨の交遊関係に口出して束縛するつもりはないし、言うつもりもないけどさ。
「あたしをこんな体にしといて、酷いわっ!」
「え、今度は何の茶番を始めようとしてるんだ?」
俺は敢えて冗談めかして言いながら、時雨の肩にどんとタックルしてみると、彼はなんなく受け止めてくれた。
「ちょんぼりがなくなっても、俺たちずっとベスティーだよ」
「葉が何を言いたいのか……うん、ちょっとよく分からないけど……なんだよ、急にどうしたんだ?」
本日二度目のぽんぽんを背中に受けた。優しくされたのが嬉しくもあり、悔しくもあったので、肩口にぐりぐりと頭を押し付けてやる。
「んー、いや……たださ。時雨のちょんぼりが良い味出してたから、勿体なかったなーって」
「もしかして、髪の事を言ってるのか?」
「そう。今の方が断然すっきりしててカッコいいけど、前のモサッとした感じも好きだったなぁ……なんて思っちゃったり」
多分あのちょんぼりがあることによって、時雨のイケメンオーラがうまく隠されていたんじゃないかと思う。
「あーあ。折角姉ちゃんが可愛い髪飾りを送ってくれるってのにさぁ」
「だったら、葉がその髪飾りをつければいいんじゃないか?」
「俺、髪長いの無理だし。ウザくなったらそっこー切るもん」
「おい。俺だって、好きで髪を伸ばしていた訳じゃないからな」
「やーい、万年金欠野郎め~。って、あ、ちょっ……やめて、技かけないで。中身出ちゃう……痛、あいたたたた!」
俺が軽口を叩くと、時雨は無言で俺を引き寄せ、力強いベアハッグをかけてきた。涙が出そうになるくらい痛いけど、楽しくなってきて、お互い笑い合った。その後、彼はぽつりと「見た目が少し変わった所で、中身まで変わる訳じゃないさ。葉は俺にとって大事な相棒だよ」なんて言ってくれて、その言葉にさっきまで心の中にあった寂しさがすっと消えていく。
照れくさい気持ちがこみ上げてきて、俺も小声で「ありがとう」と呟きながら、自然に笑顔を返していた。
翌日、登校すると案の定、クラス中は大騒ぎ。あちこちから「うちのグループに入りなよ」とか「放課後、一緒に遊ばない?」なんて声が飛び交っていた。だけど、時雨はどれもきっぱりと断って、まるで当然だというように俺の隣にいてくれた。ま、まいふれんどふぉーえばー!
授業では変わらずに俺たちはペアを組むし、テスト前には一緒に勉強会もした。スパルタで教え込まれた時は正直逃げ出したくなったけど、その分成績も上がったし、なんだかんだで次も頼りにしている。お互い暇な夜には、共同スペースでTVを見ながら「これ食べたい」とか、女優の好みなんかも語ったりして、楽しい日々を過ごしていた。
きっとこれからもアイツとなら、退屈なんて言葉とは無縁の毎日が続いていくんだろうな。なーんて、ちょっとクサ過ぎか。
あなたにおすすめの小説
【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。
或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。
自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい!
そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。
瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。
圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって……
̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶
【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ
番外編、牛歩更新です🙇♀️
※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。
少しですが百合要素があります。
☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました!
第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!
ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!
或波夏
BL
「探せ!この靴を作った者を!」
***
日々、大量注文に追われるガラス職人、リヨ。
疲労の末倒れた彼が目を開くと、そこには見知らぬ世界が広がっていた。
彼が転移した世界は《ガラス》がキーアイテムになる『シンデレラ』の世界!
リヨは魔女から童話通りの結末に導くため、ガラスの靴を作ってくれと依頼される。
しかし、王子様はなぜかシンデレラではなく、リヨの作ったガラスの靴に夢中になってしまった?!
さらにシンデレラも魔女も何やらリヨに特別な感情を抱いていているようで……?
執着系王子様+訳ありシンデレラ+謎だらけの魔女?×夢に真っ直ぐな職人
ガラス職人リヨによって、童話の歯車が狂い出すーー
※素人調べ、知識のためガラス細工描写は現実とは異なる場合があります。あたたかく見守って頂けると嬉しいです🙇♀️
※受けと女性キャラのカップリングはありません。シンデレラも魔女もワケありです
※執着王子様攻めがメインですが、総受け、愛され要素多分に含みます
不定期更新予定に変更させていただきます。
♡、お気に入り、しおり、エールありがとうございます!とても励みになっております!
感想も頂けると泣いて喜びます!
第13回BL大賞55位!応援ありがとうございました!
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
告白現場に遭遇したら、まさかの俺の推しだった
花魁童子
BL
配信者である主人公の浅葱は、推しの告白現場に居合わせてしまった。そしてそれと同時に推しには好きな人が⁉ それを知ってしまって、推しとまさかの付き合うことになってしまう。偽りの恋人だけどなぜか嬉しく感じる。高校生活を送っていくうちに芽生える思い‼ 二人の気持ちはどうなるのか⁉
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。