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4話.俺様くんと再会する
いつものようにレガフォーがいる時間をずらして、俺はウキウキしながらカフェに向かっていた。今日は一人ではなく、珍しく時雨も一緒だ。
放課後になると、ふらっといなくなることの多い時雨が、急に「俺もカフェに行ってみるかな」と言い出した時は、何か変なモノでも食べたのかと心配になった。
だって、カフェは有料だ。朝昼晩と無料で食べられる学食のバイキングとは違い、カフェでは一品毎に、そこそこいいお値段が設定されている。
なのに、学園内でちゃっかりバイトしてるのに万年金欠だと公言して、無駄な金を使うのを嫌うあの時雨がだぞ? 俺がスマホでカフェのおすすめメニューを見せたら「美味そうだとは思うけどちょっと高いな。外食するなら俺はシャイゼでいいや」と言った、あの時雨が、だ。
いや、確かにシャイゼは美味しいけどさ。ファミレスのメニューと、有名コンテストで賞を取ったパティシエが手がけたスイーツを一緒にされるのはちょっと微妙かも。
そんな時雨が、カフェに行くと言い出すなんて、普通は思わないだろ。
「お前、本当に時雨か? 中身が宇宙人とでも入れ替わってんじゃないの?」
驚いてそう尋ねると、即座にでこぴんが返ってきた。パチンと、小気味よい音が響く。
なんだよ、お前のお財布事情を知ってるから心配してやってるのに、何て奴だ!
なんか納得がいかないので、心の中でブツブツと文句を言ってみる。
「で、結局何しに行くんだよ?」
額をさすさすと撫でながら聞くと、時雨は少し怪訝そうな表情を浮かべ、首を傾げた。
「カフェなんだから、食べに行く以外の理由って、あるか?」
「お前の場合さ、バイトという選択肢もあんじゃん。お金あんの? 俺も毎月のお小遣い額が決まってるから、貸してはやれないぞ」
「いや、金はない。でもこの前さ、変な奴に絡まれて困ってた人を助けたんだよ。そしたらその人が、偶然にもこの学園のカフェで働いてて『お礼に好きなものを奢るから、いつでもお店に来て』って名刺をくれたんだ。せっかくだしお言葉に甘えようかなって思ってる」
「うわっ、社交辞令を真に受けていやがる。なんて羨ましい奴だ」
「人の好意を素直に受け取るのも、礼儀だよな?」
「くー、悪い顔しやがって!」
「ははは、タダ飯楽しみだなぁ」
レガフォーがいないと、カフェは混雑しないので、静かに落ち着いて過ごせる。
一応、奴らに見つかって出禁を言い渡されないよう、いつも奥の窓から離れた席に座っていた。そこに、時雨と二人で腰かける。
時雨は初めて入るカフェを珍しげにして、店内をキョロキョロと眺めている。
建物や家具に詳しくないが、このカフェは有名な建築家とデザイナーが手がけたお洒落な店だ。クリーム色のいい感じの壁に、豪華でカッコいいテーブルやイス。けれど妙に落ち着けるし、雰囲気も抜群にいい。料理の味もバッチリで、俺の評価は星五つ!
メニューを渡すと、時雨が「腹に溜まりそうなオススメの品は?」と聞いてきたので、軽食セットのページを指差した。ボロネーゼとクロックムッシュ、サンドイッチから好きなのを選んでくれ。
ちなみに俺はもう頼む物を決めている。当然のごとく季節限定の商品だ。
今月のメニューは『トロピカル・エトワール』という、真夏にふさわしい南国テイストのかき氷。
ふわふわに削られた氷に、芳醇なマンゴー、酸味が爽やかなパッションフルーツソースをかけ、彩り豊かなドラゴンフルーツとゴールデンパイナップルをトッピング。表面には星の形のフルーツを散りばめ、見た目にも華やかに仕上げられている。エスプーマで仕上げたココナッツクリームがほんのり南国の香りを引き立て、一口ごとに冷涼感と濃厚な果実味が広がる贅沢な一皿だ。以上ブログより抜粋。
いつもは無表情で事務的なウェイターが注文を取りにくるが、今日はなぜか奥の厨房からパティシエが笑顔で飛び出してきた。
「お待ちしておりました扇谷様! いつ来られるかと首を長くして待っていました! すぐに準備しますので、そのままお掛けになってお待ちください!!」
パティシエはそう一気にまくし立てて、奥へと駆けて行った。嵐みたいな人だな。俺、まだ注文できてないんだけど……。
「なんかすげー歓迎っぷりだな。変な人に絡まれてたって言ってたけど、そんなにヤバイ奴だったのか? 命の恩人みたいな勢いで感謝されてるけど」
「……何だろう、この嫌な予感」
「ん?」
眉根を寄せた時雨はポツリと呟いた後、ガタッと席を立った。
「えっ、急に立ってどうしたんだよ? 待っててって言われたじゃん。ちゃんと座っとけよ。それともトイレか?」
「悪いけど……帰るわ」
「なんで?!」
帰ろうとする時雨の腕をがっしり掴んで引き止めようとするが、案外あいつも力が強い。お互い全力で押し引きし合う形になってしまった。
「軽食かデザートか、何が出てくるか分からないけど、俺にも一口ちょうだいよ! お願いお願いっ!」
「あぁくそっ、ご飯モードになってる! 後でコンビニで何か買ってやるから、今は帰るぞ。ほら、早く!」
「ぐ、偶然だなシグレ! 久しぶりにお前と会えるとは……嬉しいもんだな!」
俺たちのやりとりに割り込んできた声に、ハッと動きを止め、その人物へと視線をやるとレガフォーのリーダーが息を切らしながらカフェに入ってきた。
確か親衛隊の情報では、ほんの一時間前にカフェでお茶して帰った筈だけど、何でまたここに? それに時雨に向かって「久しぶり」って言ったか? 二人は知り合いだったのか? 俺、レガフォーには近寄らない方が良いよってちゃんとアドバイスしてたのに……。
どういうことだと視線で問いかけるも、時雨は気まずそうに顔を逸らす。
「時雨?」
胸がズキリと痛む。別に時雨に他の友達がいても構わないけど、こいつは俺を学園全体でハブるよう仕向けた奴だ。時雨もそれを聞いて、怒ってくれてたよね?
少しショックだが、何かのきっかけで二人が仲良くなったんなら、俺が口を出すべきことじゃない。時雨は俺様くんとの相性が良かっただけで、俺と俺様くんはソリが合わなかった。ただそれだけだし。
「あのさ、隠そうとしなくていいよ? 俺は別にお前が俺様くんと仲良くしてても気にしないから。もし俺に気を遣っているなら気にせず、好きなように付き合ってくれ」
「は?! 葉、お前何を言って……」
時雨が驚いたように顔を戻した瞬間、俺様くんが俺の手を払いのけてきた。
「おい貴様、いつまで俺様のシグレに触れているつもりだ? その手を離せ!」
すごい剣幕で睨まれ、思わずハンズアップしてしまった。時雨は無言で俺の腕をそっと下ろしてから、わざとらしく大きな溜め息を吐いた。
「暴力はやめろよ、一条」
そういや忘れていたけど、こいつ一条とかいう名前だったな……。
咎めるように時雨が俺様くんを見据えると、彼は一瞬たじろいだように見えたが、すぐに自信満々の表情に戻り、得意げに言い放った。
「貴様が誰だか知らねえが、よく聞け! シグレはな、俺様の恋人になる予定なんだ。分かったら、余計な手出しすんじゃねえぞ!」
がっしりと時雨の肩を抱き寄せた俺様くんを見て、俺は悟ってしまった。
──嘘だろ。こいつ俺のこと全然覚えてねぇ。
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