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8話.鬼畜眼鏡にパシられる
急に絡んできたかと思えば、俺そっちのけで話し合っていた一条、ぶりっ子くん、爽やかワンコくんの三人があっさりと去って行った。
早く解放されたかったとはいえ、クール敬語眼鏡くんの一声でこんなにも簡単に解散してくれるとは。思わず呆然と立ち尽くしてしまったが、ハッと我に返る。なんだか肩の力が抜けて、ホッと安堵の溜め息が漏れた。
レガフォー相手との会話がどこまで許されるのかが分からず、実は緊張していたんだよな。心の中では思いっきり突っ込んでたし、たまに口から漏れていたけど……。
よし、気を取り直して、当初の予定通りコンビニへ行こう。今日は北海道産の厳選小豆を惜しみなく使用した粒餡と白玉、ホイップクリームが入った和風クレープを買うつもりだ。洋菓子も良いが、和菓子も好きなんだよなぁ。
食べ物のことを考えると、自然と足取りも軽くなっていく。
まだ近くに立っているクール敬語眼鏡くんを見ないようにして、その場を後にしようとしたが、そう上手くはいかないらしい。
「待ちなさい。時雨と付き合っていると聞きましたが……それは嘘ですよね?」
「えっ?」
無視して立ち去るつもりが、背筋が凍るような言葉に思わず足を止めてしまった。
振り返ると、彼はじっとこちらを見据えている。その視線にたじろぎながらも、俺は慌てて首を横に振った。
「ち、ちがっ、えーっと……俺と時雨は、ちゃんと、その……つ、つつつ付き合ってますけどぉ?」
「その程度の芝居で騙されるほど、私は甘くありませんよ」
完全に嘘だと確信しているようで、彼は鼻で笑った。
ですよね……騙される訳ないですよね。他の二人はどうか知らないけど、一条みたいに恋愛で頭がバカになってる奴じゃないと嘘が通じる筈ないもんな。
「このこと、皆には知られたくないですよね? 特に一条には」
「うぐっ……」
レガフォーメンバーには、誰にバレても面倒なことになりそうだけど、一条にだけは絶対知られたくなかった。
もしバレたら、時雨がフリーだった事実に喜びはするが、嘘をつかれていた怒りの矛先は迷わず俺へと向かうだろう。そして問答無用で退学を言い渡される、そんな未来が見えるな。本人もさっきそんな事を言っていたし……。
そうしたら、俺の楽しい学園生活が失われちゃうっ!
ゴクリと息を飲み、俺は薄ら笑いを浮かべるクール敬語眼鏡くんを睨み付けた。
「……な、何が目的なんですか?」
「そうですね、黙っていて欲しいのであれば……付き合っていただけますか?」
「はぁっ?!」
ぎょっとして硬直する俺の腕を掴むと、そのままどこかへ引っ張って歩き始めた。インテリ美人系の見た目をしている癖に、やたらと力が強く、抵抗しようにもびくともしない。
俺は引きずられるようにして、人気のない廊下を進んでいく。
「ちょっ、放してください!」
「大人しくしていただけないなら、一条にバラしますよ」
低く脅すような声に、俺は押し黙ってしまった。俺は、弱い……。ご飯のためだと仕方なく、大人しくついて行くと、たどり着いた先は薄暗い部屋だった。
背中を押されて室内に足を踏み入れると、背後でドアが閉まる。ガチャリと鍵のかかる音が響き、背筋に冷や汗が流れるのを感じた。
こ、これはえろ漫画でよくある「黙ってて欲しければ体を差し出せ」的なやつなのでは?
大変だっ! 俺の処女が大ピンチ!
……いや、でもなんで俺?
嘘がバレたとしても、普通は恋心を抱いている相手──時雨に脅しをかけるよね。漫画とかだと大体そういう展開になるのに、俺はいつの間にフラグを回収してしまったんだ。あっ、まさか性欲処理として好き勝手に使われて、本命が出来たら捨てられるモブになるってこと?
くそっ、お前のことは今からクール敬語眼鏡くん改め、鬼畜眼鏡と呼んでやる!
「それでは、この本をあいうえお順に並び替えて下さい。埃は、このはたきと雑巾で丁寧に拭き取るように」
「あ、あれ? 俺の体を好きに使わせろという話じゃなかったの?」
想像していたモブフラグは別に立っていなかったらしい。戸惑う俺に、クール敬語眼鏡くんは心底バカにしたような顔をしてハッキリ言った。
「は? 貴方のどこにそんな魅力があると? あまりにも自意識が過剰ではありませんか。私が求めているのは、ただの労働力です。一条に黙っていて欲しいのなら、私の指示に従って、働きなさい」
「あっ、はい」
確かに体目当てだった。性的じゃなく健全的な意味での。
次の日、俺はひどい筋肉痛に悩まされた。
俺たち……いや、主に俺が片付けたのは第二図書室にある大量の本だ。日本に限らず海外の経済や経営、哲学といった様々な分厚い専門書ばかりで、一冊がそれなりの重さとなる。何冊も積み上げて運ぶと、腕はパンパンになり、腰にもじわじわダメージを蓄積していった。
本の整理と掃除がこんなにも大変でしんどいものだなんて、思わなかったよ。
「これから私の呼び出しにはすぐに応じて下さい。逃げ出したり、時雨に助けを求めようとするのは得策ではありませんよ。一条に貴方が時雨の恋人ではないと伝えれば、すぐに学園から追い出されるでしょうから。それとも退学をご希望ですか?」
「ううううっ、俺は今から貴方のパシりです! ワン!」
「さぁ、スマホを出して下さい。私の連絡先が知れて嬉しいでしょうが、特別な関係になったと勘違いして連絡してこないで下さいね。貴方は私が頼む用件に『分かりました』と頷くだけで良いのです。それと、もし私の連絡先を流出でもさせたら……」
「ひいっ!」
「どうなるか、理解できますよね?」
「はい、気を付けますっ!!」
惨めな負け犬の俺は、スマホを差し出し、ぶんぶんと縦に首を振るしかなかった。
クール敬語眼鏡くんの情報を見た時、薄々予想はしていたが……ほら、やっぱり鬼畜だったじゃん。正解しても貰えるのはパシリの座だけど。うわ、返品してぇー。
こうして俺は奴のパシリとなり、陰でこき使われ、内申点稼ぎの為に(鬼畜眼鏡くんが自ら引き受けた)教師からの雑用をこなす日々を過ごす羽目となったのだ。全ては俺のワクワクご飯ライフを守るために。
なにこれ、ウケるー。
俺、村八分の頃がよっぽど幸せだったわ……。
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