10 / 22
9話.時雨を慰める
図書室での過酷な労働を終えた俺は、愚痴りたくて仕方がなかった。
鬼畜眼鏡くんのことは俺のワクワクご飯ライフを守るためには言えないけど、レガフォーの奴らと会ったことぐらいは話しても良いよな? 時雨のお尻が狙われていることも教えてあげないとだし。
なのに、時雨はまだ帰ってなかった。気付けば時計の針は22時を回っている。
そわそわとしながら玄関で帰りを待っていると、ようやく足音が聞こえてきた。俺は急いで立ち上がると、腕を組み、仁王立ちで出迎えた。
授業後にそのままバイトに行っていたのだろう。やっと姿を見せた時雨は、制服姿のままだった。
「大変なことになったぞ」
「え、何が?」
帰宅早々、そんな俺の言葉を聞いた時雨は、きょとんとした表情を浮かべた。
「その前にさ、色々聞きたいんだけど。主にレガフォーメンバーとの関係について」
「ん……いいけど。話をするなら、取り敢えず中に入れてくれよ」
「……あ、悪い」
廊下の真ん中を塞ぐように立っていたことに気付き、慌てて横に避けた。時雨が俺の横をすり抜けていく際に、ふと、肩にかかったスポーツバッグに目が留まる。
「なぁ、バッグ汚れてるけど大丈夫か?」
「……ああ」
俺が指摘すると、時雨はちらりとバッグを確認して、困ったように頭を掻く。
時雨が愛用しているスポーツバックは、年季が入っているが、いつもきれいに手入れされていた。弟からの初めてのプレゼントで、大事な物だと聞いている。
だが、今日は見慣れない泥のような汚れが、側面に付着していた。なんだか、靴跡のような模様にも見えるけど……。
「え、それって足跡じゃないか? 落とした時にでも、誰かに踏まれたりした?」
「いや……まぁ、うん……」
時雨は苦笑いを浮かべながら曖昧に答える。もしかして、ワザと踏まれて出来たものなのか? 嫌な想像が頭をよぎり、この場で問い詰めようとしたが、すぐに思い直した。
「……分かった。よし、その話も後ですることにして。取り敢えず、バッグを先に洗ってこいよ」
話よりバッグの方が大事だろうと、俺は洗面所の方へと指を指した。
「いいのか?」
「おう。俺はリビングで茶でも飲んで、のんびり待ってるから」
「あぁ、ありがとう」
時雨は少し安堵した表情を見せて、洗面所へ向かう。その背中を見届けてから、俺はリビングへと足を進めた。
どうやら、時雨の方も大変なことになっているようだ。
洗濯と着替えを終えた時雨と、共有スペースのリビングで向き合い、話し合うことにした。俺が促すと、時雨が遠慮がちに口を開く。
「俺たちがカフェに行った日、一条の親衛隊がいたらしいんだ。それで、俺が一条から告白された話を仲間内で共有されたみたいで、本当かどうか問い詰められた」
確かに、カフェには何人か親衛隊らしき人たちが集まっていた。こそこそ話していたのは、俺と時雨の件じゃなかったんだな。それにしては、俺の扱いが相変わらず空気で、おかしいなとは思っていたんだよ。そうだよな、冷静に考えて、一条のファンが俺に興味なんて持つ筈ない。
「告白は断ったって伝えたんだけど、納得してくれなくてさ。本当は俺も一条が好きで、ただ駆け引きをしてるんだろうって勘違いされたんだ。色々と文句を言われて……その勢いでバッグごと蹴られた」
「えぇー……」
俺の予想通り、あのバッグの足跡は親衛隊による仕業だったらしい。
一条の親衛隊の中にも、つい足が出ちゃうほど気性の荒い奴がいるんだな。そいつも恋に狂っちゃうタイプか、恐ろしい。
「そいつはそのまま走り去って、俺もバイトがあるから追いかけられなかったけど……また会ったら否定だけはしておかないとな」
時雨が疲れたように大きく溜め息を吐くのを見て、一条への怒りが沸いてきた。
まったく。一条は妄想してる暇があるなら、親衛隊の行動をなんとかしろよな。お前の好きな時雨が被害受けてるんだけど?
本人には言えないので、俺は気持ちを切り替え、時雨を慰めることにした。
「よーし、時雨! 俺をすこれ、頭を撫でろ、腹を吸え。そして存分に癒されるが良い」
「……ふっ。急にどうした?」
「だって俺は、一緒にいて面白いし、可愛いんだろ?」
「んんっ!」
俺の言葉に時雨は吹き出し、腕で顔を隠しながら肩を震わせている。
おい、俺の思いやりを無視して、笑うなよ。恋人(偽)宣言した時に、お前が一条に言ったことだろうが。
「……そうだな。じゃあ、可愛い葉に癒してもらうとするか」
一頻り笑い終わると、時雨が手を広げてきたので、俺はその腕の中に飛び込んだ。ぽんぽんと背中を慰めるように叩くと、耳元で時雨がふっと笑う。
「誤解させて悪いけど、俺、辛くはないぞ?」
「おう、知ってる。でも疲れただろうから、出血大サービスな。俺も今日は話の通じない奴らに捕まって大変だったんだ」
「ああ、そういえば話があるって言ってたよな。そのことか?」
「そうなんだよ!」
俺は時雨の腕から離れると、その両肩をがしりと掴んだ。
「レガフォーの奴らが話してるのを聞いたんだけど……お前、あいつらとは仲良いんだよな?」
「……まぁ、会えば話くらいはするけどな」
「ちなみに今日は誰かと会った? 例えば一条とか」
別れ際に時雨に会いに行くって言ってたけど、会えたのかちょっと気になってたんだよな。
「いや、今日は誰にも会ってない」
「おっけー。ならさ、お前がレガフォー全員に好かれてる自覚はある?」
「全員……? 一条には付き合ってほしいとしつこく言われてたけど、葉が恋人だって嘘をついてからは、諦めてくれたのか会っていないよ。三ノ宮と四十万は……そういえばなんだか妙にあいつらに懐かれてるけど……え、まさか?」
「話聞いた限りだとさ、一条は全然諦めてないし、他のメンバーもお前の尻狙っているぞ」
「はっ?! 嘘だろ?」
彼らの好意に気付いていなかったのか、時雨は顔を青ざめさせ、頭を抱え込んだ。
「ほんとほんと。眼鏡の奴はちょっと分かんないけど……」
鬼畜眼鏡くんには恋人が嘘だってことバレてるし、脅されて俺が奴のパシリにされてるなんて言えないけどな。俺の退学フラグが立つから。
「葉、頼む。このまま俺と恋人のフリを続けてくれないか?」
「でもさ、あいつら俺が時雨と付き合ってようが、構わないみたいだぞ? 意味なくない?」
「……それでも、なんとかする! あいつらには……俺がうまく言いくるめてみせるから!」
必死そうに俺を見つめてくる時雨に、俺はたじろいだ。
元から、俺のワクワクご飯ライフを守るために恋人のフリは続けていた方が良いとは思ってたんだよ。たとえ、効果はなくても。
それに時雨が妥協して、俺じゃなくてレガフォーの中から、誰か一人を恋人に選んだ場合、他の三人に監禁されそうで心配だ。それなら俺と付き合ってるフリした方が、やはりお互い安全なのでは?
「しょうがないなぁ。相棒のためにも頑張りますか。ひとまずラブラブツーショでも撮っとく?」
「助かるよっ!」
承諾すると、時雨はぱっと顔を輝かせて、俺を抱き寄せる。感謝のハグを受けながら、俺は無力ながらも、時雨と俺の生活を守る決意を新たにしたのだった。
あなたにおすすめの小説
【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。
或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。
自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい!
そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。
瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。
圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって……
̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶
【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ
番外編、牛歩更新です🙇♀️
※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。
少しですが百合要素があります。
☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました!
第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!
ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!
或波夏
BL
「探せ!この靴を作った者を!」
***
日々、大量注文に追われるガラス職人、リヨ。
疲労の末倒れた彼が目を開くと、そこには見知らぬ世界が広がっていた。
彼が転移した世界は《ガラス》がキーアイテムになる『シンデレラ』の世界!
リヨは魔女から童話通りの結末に導くため、ガラスの靴を作ってくれと依頼される。
しかし、王子様はなぜかシンデレラではなく、リヨの作ったガラスの靴に夢中になってしまった?!
さらにシンデレラも魔女も何やらリヨに特別な感情を抱いていているようで……?
執着系王子様+訳ありシンデレラ+謎だらけの魔女?×夢に真っ直ぐな職人
ガラス職人リヨによって、童話の歯車が狂い出すーー
※素人調べ、知識のためガラス細工描写は現実とは異なる場合があります。あたたかく見守って頂けると嬉しいです🙇♀️
※受けと女性キャラのカップリングはありません。シンデレラも魔女もワケありです
※執着王子様攻めがメインですが、総受け、愛され要素多分に含みます
不定期更新予定に変更させていただきます。
♡、お気に入り、しおり、エールありがとうございます!とても励みになっております!
感想も頂けると泣いて喜びます!
第13回BL大賞55位!応援ありがとうございました!
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
告白現場に遭遇したら、まさかの俺の推しだった
花魁童子
BL
配信者である主人公の浅葱は、推しの告白現場に居合わせてしまった。そしてそれと同時に推しには好きな人が⁉ それを知ってしまって、推しとまさかの付き合うことになってしまう。偽りの恋人だけどなぜか嬉しく感じる。高校生活を送っていくうちに芽生える思い‼ 二人の気持ちはどうなるのか⁉
血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】
まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。