とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎

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12話.全力で別荘の掃除をする


 青い空、白い雲! ギラギラ輝く太陽! 白い砂浜に透き通るような海!
 まさにこれぞ夏の海という風景が広がっていた。夏休みの海はどこも混むが、ここは鬼畜眼鏡くんのプライベートビーチ。俺ら以外に人影はなく、人混みとは無縁の静かな場所だ。

 車がビーチに到着するやいなや、ジャンケンで時雨の両隣を勝ち取った爽やかワンコくんとぶりっ子くんが、時雨を引きずるようにして砂浜へと駆け出した。三回勝負で全てグーを出して負け、俺の隣になってしまった一条も慌てて車を降り、彼らの後を追いかけて行く。

「え~。時雨ちゃんってば折角の海なのに泳がないなんて、勿体ないよぉ」
「いや、水着がないから、俺は遠慮しておくよ。でも、みんなは気にせず楽しんでくれ」
「心配するな、時雨。お前に似合いそうな水着くらい、ちゃんと用意してんだよ。フッ、これで俺様と海で楽しむ準備は整ったな!」
「オレも用意してるっすよ。これ、時雨さんに似合うと思って……是非、着てみて欲しいっす!」
「アハッ、気が合うねぇ。実はボクもちゃ~んと用意してたんだ。ねぇねぇ、時雨ちゃんは誰の水着を選んでくれるのかなぁ?」

 断った時雨に対し、三人が誇らしげに取り出したのは……ビキニ、紐パン、シースルーだった。
 は? 正気かよ。ろくな選択肢がないじゃん。俺なら全部嫌だ。溺れる可能性は上がるが、まだ着衣水泳してた方がマシ。

 時雨はこちらに背を向けているので、表情は見えないが、俺には分かる。きっと引きつった笑顔を浮かべているのだろうと。首を横に振り、時雨は差し出された水着を拒否しているが、三人はお構い無しだ。遠慮するなと時雨に、各々水着をぐいぐいと押し付けている。
 どうするのかと車内で眺めていると、不意に時雨が振り返り、俺に助けを求めてきた。俺が首を横に振って、腕でバツを作るとガクリと肩を落として再び三人に向き直る。
 ごめんな、時雨。俺の手元にあるのはスマホのみで、水着なんて持ってきてないんだよ。そして奴らが俺に水着を貸す優しさなんて、持ってる筈がないんだ。
 せめて波打ち際で遊ぶのを提案してみるのはどう? 砂遊びや、スイカ割りとか。

 そんな風に心の中で雑に応援しながら、自分に与えられそうな役割について考え始めた。

 荷物番だったら気楽でいいのになぁ。木陰に座れたら尚更ありがたいけど、辺りにそれらしい木は見当たらないか。それと、喉が渇いたり空腹を感じた時はどうすればいいんだろう。サービスエリアで軽く食べたけど、プライベートビーチだから売店なんてある訳ないし。釣りでもして食料調達とか許されないかな。

「葉!」

 切実な声が聞こえて顔を上げると、時雨の目が「早く来い」と真剣に訴えていた。仕方ないなと車を降りようとした瞬間、運転手さんに腕を掴まれる。

「申し訳ございませんが、海で遊ばれる前に、坊っちゃまのお手伝いをお願いしたいとのことです」
「あ……そ、そうですか……」

 なんだ、荷物番じゃなくて買い物のパシリか? 働くのは『後で』って言ってた癖に、着いて早々かよ。少しはのんびりさせてくれてもいいだろ、鬼畜眼鏡め! とかいいつつ、ご当地スーパーの品揃えを確認出来て楽しみな自分がいる。

 そんな鬼畜眼鏡くんはというと、車を降りて時雨に何かを渡していた。受け取った時雨はホッとした様子で微笑み、選ばれなかった三人は悔しそうにギリギリと歯ぎしりしている。一条たちを気にせず、鬼畜眼鏡くんが車に戻ってきた所で、俺は尋ねてみた。

「何を渡したんですか?」
「水着です。時雨が持参していなかったようなので、私の予備を貸しました。一条たちが用意したものでは布の面積が少なすぎて、困っている様子でしたので」

 普段より柔らかな表情を浮かべた鬼畜眼鏡くんに、こいつも時雨のことを特別に思っているんだと改めて感じた。他の三人みたいに俺を牽制したことがなかったから。時雨には優しそうで何よりですね。

「では、別荘に向かいましょうか。最初に掃除をお願いします」

 俺にも優しくしてくれてもいいんだぜ?
 その言葉を飲み込んで、俺は静かに溜め息を吐いた。


 海から移動し、鬼畜眼鏡くんの別荘へと着いた瞬間、俺は思わず息を呑んだ。

 二階建てで白い壁に紺色の屋根が映えるおしゃれな建物。敷地は広々としていて、庭にはプールがあり、BBQ用のコンロの側にはソファとテーブルが並べられていた。庭の先には青い海が広がり、風に乗って波の音が聞こえてくる。まるで、テレビで見る海外の高級別荘そのものだ。

「で、でかっ! すごっ!」
「そうですか? 他の別荘と比べれば、これでも随分と簡素なものだと思いますが」
「お、おう……」

 これで簡素とか、流石はお金持ち。スケールが違うぜ。
 呆れる俺を気にも留めず、鬼畜眼鏡くんはさっさと中に入っていく。仕方なく後を追い、玄関に足を踏み入れると、さらにビックリ!

 やたら高い天井には豪華なシャンデリアが煌めき、足元はツルツルした冷たい材質の床。壁には高そうな絵が飾られていて、リビングにはふかふかそうなソファや大型テレビが置いてある。大きな窓からは青い海が一望できて、最高過ぎないか?

「さて、掃除用具は玄関に用意してありますので、作業を始めてください」
「えっ! あのー……お手伝いさんとかって、いないんですか?」
「お手伝いさんですか? いませんよ」
「なんで!?」
「月に一度の清掃は業者に頼んでいますが、それ以外は私たちだけで事足ります。さぁ、夕食の準備が始まる前には終えられるよう、手際よく進めてください」

 その瞬間、ゴージャスな別荘は俺にとってただの巨大な監獄と化した。


 密かに戦力として期待していた運転手さんは俺たちを降ろすとさっさと車で去ってしまい、俺は鬼畜眼鏡くんに監視されながら掃除を開始することに。寝室を四部屋分と、リビング、ダイニング、キッチンなどの掃除機や雑巾がけ……。事前に清掃はされていたとはいえ、広くて大変だった。ちなみに部屋をチェックし、仕上げにモップをかけ、備品を補充するのは鬼畜眼鏡くんの仕事だ。

「ふむ……まぁ、及第点でしょうか」
「終わったぁぁぁ! あー、もー限界……疲れたぁ……」

 ようやく作業を終えた俺はその場にぺたりと座り込み、額から流れる汗を腕で拭った。Tシャツが体に張り付いて気持ち悪い。そんな俺を横目に、鬼畜眼鏡くんはエアコンを起動すると、涼しい風が部屋に広がり始める。
 あー、早く涼しくなって欲しい……。
 そう思いながらぼんやりと休憩をしていると、鬼畜眼鏡くんが新たな仕事を言い渡してきた。

「材料は長谷川に玄関へ運ばせてありますので、次は料理の準備をしてもらいます」
「えっ、料理も俺がするんですか?」
「えぇ、当然です。一条たちが時雨と一緒に作りたいと騒いでいましたが、彼らでは役に立た……失敬。料理が得意ではありませんからね」
「……あ、そうなんですね。それで、何を作る予定なんです?」
「多数決の結果、バーベキューに決まりました」
「おお、定番ですね! 火加減だけ注意すればいいし、うん、これなら簡単かも。……ちなみに俺も食べていいんでしょうか?」
「は? 何を言っているのですか、労働に対する対価を渡すのは当然です。私は、そこまで鬼ではありませんよ」

 血も涙もない鬼だと思ってました。
 なんて口に出したら、ご飯抜きにされそうなので、余計なことは言わずに喜んでおくか。ご飯が楽しみで疲れも吹き飛ぶぜ!

「やったー! ありがとうございます、さっそく準備しますね!」
「待ちなさい」

 さっと立ち上がり、玄関へ向かおうとした俺を鬼畜眼鏡くんが制止し、じろりと睨んだ。眼鏡のブリッジをくいっと中指で押し上げながら、彼は冷ややかに指摘した。

「その汗まみれの状態で料理をするつもりですか? 非常に不快です。シャワーを浴びて、清潔な状態で始めてください」
「……こっ!」

 この野郎! 確かに料理するには不衛生だけど、頑張って掃除してた俺に対してその言い草はないだろう!
 思わず怒鳴りそうになったが、慌てて口をつぐみ、ひきつった笑みを浮かべて浴室へ向かった。言い返さなかった俺を誰か誉めてくれ。時雨が帰ってきたら、しっかりと労ってもらおうっと。


 広々とした浴室は、床に涼しげなタイルが敷き詰められ、洗面所と湯船、シャワーが一体になった作りをしている。洗面台もなんだか上品で……この柄の石、見たことあるな。もしかして大理石とかいうヤツじゃない?
 掃除していた時は気付かなかったが、バスルームの豪華さに若干気後れしながら、透明なガラスで仕切られたシャワールームの扉を開く。
 汗と埃でべたつく体を綺麗にするため、そしてさっきまでの嫌な気持ちを流し去るために、俺はシャワーのコックをひねった。

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