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16話.新しい服を手に入れる
「ジャンケンでサクッと決めちゃうのは、どうっすかね?」
「却下だ! 俺様は今日一度も勝ってねぇんだよ。お前ら、さては何かイカサマでもしてんだろう?」
「その理由は明白です。一条、貴方が必ず最初にグーを出すからですよ」
「なんだと!?」
「も~、バラしちゃダメだよぉ、フゥちゃん。秘密にしてたのにぃ」
「公平ではないと思い、つい指摘してしまいました……」
「まぁ、流石に負けが見えてる勝負をさせるのは酷っすよね。それなら、トランプはどうっすか?」
「うーん……それだとフゥちゃんが強過ぎて、勝負になんないからヤダなぁ」
そんなやりとりをBGMにしながら、俺と時雨はバーベキューの片付けをしていた。
我が家では滅多にお目にかかれない、オマール海老に黒アワビ、サザエやホタテといった海鮮類だけではなく、和牛やリブロース、地鶏の肉類。野菜も旨かったし、バーベキュー最高でした。
美味しく豪華な食材を堪能し、腹と心が大満足! いやぁ、掃除を頑張った甲斐があったな。
幸せな余韻に浸りながら、片付けを終えた俺が振り返ると、レガフォーの四人組は部屋割りでまだ揉めていた。
寝室は全部で四つある。その内、三部屋は一つのベッドで寝るようになってるんだけど……。誰が時雨と一緒に寝るかで、勝負方法を議論しているが、各々得意なことに偏りがあり、決めあぐねているようだ。
日帰りだと思っていた海遊びは、どうやら二泊三日の日程だったらしい。レガフォーの奴らは最初、一週間の予定で計画していたそうだが、時雨が「一週間も休むのは、流石にバイト先に迷惑がかかるから無理だ」と説得して、この短縮スケジュールになった。それで、俺も時雨のオマケとして、レガフォーのお世話係も兼ねて、二上の別荘に泊まることになったんだ。
騒ぐ四人の目が離れた隙をついて、時雨が自分の荷物を持ち上げ、俺の肩をポンと叩いた。視線で「行くぞ」と促され、俺は無言で頷く。結局、あいつらがどう騒ごうが、部屋割りはもう決まってるんだ。迷うことなく俺、一択だろ。時雨は俺の肩を抱いて「俺たちは奥の部屋を使わせてもらうよ」とレガフォーの奴らに一声かけてから、寝室へと入った。
おっと、ここベッドが一つしかないとこじゃん。いやん。
「待て、時雨! そいつと二人きりなんて、やめとけ。貞操を奪われたいのか!?」
背後では一条の怒声が響き渡る。他のメンバーもワイワイと文句を言い始めたが、誰も扉を開けて部屋に入ってはこない。そういうところは親御さんの躾の賜物なのか、意外と律儀だ。
時雨はすぐさま内鍵をかけると、自分の荷物を床に落とすように置き、俺の肩を抱いたままベッドへとダイブした。
必然的に、俺も巻き込まれる形でベッドに転がり込むことになった。お高そうな柔らかいマットレスが俺たちの体を包み込む。痛みは全くなく、むしろ快適だ。
「おわっ! ちょっ、時雨!」
「……んー、もう限界だ。疲れた……眠い……」
もぞもぞと動きながら体勢を整えた時雨は、俺の肩と腰に腕を回し、がっしりと抱き込んできた。おい、俺は抱き枕じゃないぞ!
「昨日、遅くまで起きてたのか?」
「ちょっと……色々あって、寝たのが二時過ぎだった。それで朝五時頃に……一条たちに叩き起こされたんだ……」
「うわぁ、早いな。おじいちゃんか、遠足前の子供じゃん」
「それなー」
時雨が俺の頭に鼻を埋め、小さく笑った。吐息が当たって、ちょっとくすぐったい。
「葉、なんか煙たい……」
「うっせー。バーベキューしてたんだから、匂いはしょうがないだろう」
それに、お前も同じく香ばしい匂いしてるんだからな。
「んー……まぁ、いいよ。さっきの…………香りよりはずっと、マシ……だ……」
「え、何だって?」
もにゃもにゃとした声でよく聞き取れなかった。聞き返してみたが、返ってきたのは規則的な寝息だけだ。よっぽど眠かったんだな。どうやら限界が来たらしい。
眼鏡つけっぱで痛くならないのかな、クーラー入ってるけど夏の人肌って寝るとき不快じゃないか。いや、寝冷えを心配してお腹にタオルケットでもかけるべきかと色々と悩んでいたけど、身動きが取りづらいので、何かしてあげるのは難しそうだ。睡眠不足な時雨をわざわざ起こすのも気が引けるし、せめてお腹が冷えないよう、俺がくっついて暖でもとっておくか。なんで寝ると体温下がるんだろうな。不思議。
隙間を埋めるようにぺったりくっつく。
まぁ、熱さは我慢できないほどでもないかな。
やることもないので俺も目を閉じ、一眠りすることにした。
目が覚めると時計の針は既に22時を指していた。どうやら二時間も寝てしまっていたらしい。隣では、時雨がまだスヤスヤと寝息を立てている。俺は肩に絡みついている腕をそっと解き、ベッドから抜け出した。トイレに行きたいし、ついでにシャワーも浴びたい。流石に煙臭いままでいるのは気になる。浴室、空いているといいなぁ。
廊下を歩いていると、ちょうど浴室から出てきた爽やかワンコくんと鉢合わせた。タオルで髪を拭きながら出てきた彼に、軽く会釈でもしようかと思ったその瞬間、肩がぶつかる。
「ちっ」
は? なんか舌打ちされたんだが? なんだよ、感じ悪いな!
ムッとして睨もうとすると、敵意むき出しの鋭い視線とかち合う。その迫力に負けた俺は目を逸らし、そそくさとトイレに逃げ込んだ。
用を済ませた後、一応シャワーの許可を取ろうとダイニングを覗くと、そこにはぶりっ子くん一人しかいなかった。ソファに腰を掛けてスマホを弄っていたが、俺に気付くと声をかけてきた。
「あれれ~、時雨ちゃんは一緒じゃないのぉ?」
「時雨ならまだ寝てますよ。昨日バイトが忙しかったみたいで、寝不足だったんでしょうね。グッスリです」
「そっかぁ。フゥちゃんが、時雨ちゃんが襲われる心配はないって言ってくれたから、大人しくリビングに戻ったけど……そのおかげで時雨ちゃんがゆっくり休めたって訳だね~。ボクたちナーイス!」
満足げにぶりっ子くんは胸の前でパチパチと拍手した後、こてりと首を傾げた。
「一応確認するけど……子ブタちゃんは時雨ちゃんが寝てる間に変なことしてないよねぇ?」
「人様のお家で、そんなことする訳ないじゃないですか」
「あぁ、そうだよね~。夜景のキレイなホテルでやる予定なんだもんねぇ?」
「…………ソウデスネ」
苦笑いを浮かべる俺に、ぶりっ子くんが紙袋を差し出してきた。持ってみると軽く、中でビニール袋が擦れる音がした。なんだろう?
「フゥちゃんとこの『大きな子ブタちゃん』からのプレゼントだよぉ。洗濯出来るとはいえ、三日も同じ服を着てるのは可哀想だから、渡してあげてってさ~」
中身を確認すると、新しい下着一式とシンプルなTシャツとハーフパンツが入っていて、思わず小さくガッツポーズを取っちゃった。
大きな子ブタって矛盾してるし、誰だか分からないけど、きっと運転手さんのことだよね? やったー! めっちゃありがたいよ、大人の気遣い最高っ!
「これを渡すために……四十万様が残ってたんですか?」
「そうだよ~。みんなもう部屋に行っちゃったから、たまたま残ってたボクが渡してあげたのぉ。あっ、時雨ちゃんと出来ないからって、代わりに一条たちを襲いに行っちゃダメだよぉ?」
「しませんから! 襲うつもりは全然ありませんので、どうぞ安心してゆっくりとくつろいでください!」
「アハッ、ボクたち護身術習ってるし、襲ってきてもボコボコにしちゃうから、問題はないんだけどねぇ」
ケラケラと笑うぶりっ子くんに、溜め息を吐きたくなった。
男に興味ないし、例え世界中の女性が滅びても、お前らなんか絶対襲わないっつーのに。
「所でさぁ、子ブタちゃんは明日どうするのぉ?」
「はい?」
「ボクたちはまた海に行く予定なんだけどぉ、子ブタちゃんはどうするのかな~って」
「あぁ……なるほど?」
それは、俺が邪魔だからついてくんなって言いたいのか?
荷物番しなくていいなら、部屋でブログでも見てゴロゴロするわ。どうせ二上から、掃除をまた頼まれるだろうし。
「えーっと、一人で残っても大丈夫そうなら、掃除をした後は部屋でゆっくり過ごそうかと思います」
「んん~…………それは、なんで?」
「えっ?」
ぶりっ子くんの真剣な表情に、思わずたじろぐ。だから、普段ニコニコしてる人が笑みを消すと、怖いんだって。
「いくら子ブタちゃんが時雨ちゃんの恋人だからって、ちょっと油断しすぎじゃない? 夕方、フゥちゃんも時雨ちゃんのことが好きだからアピールしたいって言ってきたの知ってたぁ? ここには子ブタちゃんの恋敵が四人もいるんだよ?」
「あ……はい、二上様からは一応、庭でライバル宣言をされたので知ってます」
「それそれ! それって、普通じゃなくな~い?」
ビシッと指を差されて、俺は思わず一歩後ずさる。
「子ブタちゃんってさぁ、ボクたちが時雨ちゃんに言い寄っても、普通に受け入れてるよね。なんで? 嫉妬しないの? 時雨ちゃんと子ブタちゃんの愛って、本当に恋愛? もしかして友愛の間違いなんじゃないの?」
そう指摘されてドキリと胸が鳴り、背中に冷や汗が伝わった。
確かに俺たちのは友愛だよ。こいつ、鋭いじゃん……!
「まぁ、貴春をはじめ、ボクたちが初めて簡単には手に入らない、本気になれそうな相手と出会えたんだから、隙があるならそれはそれで嬉しいけどさ……」
いや、貴春って誰だよ。新たな男か?
真顔なぶりっ子くんと暫く見つめ合う。数秒の沈黙が流れた後、いつもの調子で彼は「アハッ」と無邪気に笑った。
「取り敢えず、時雨ちゃんが納得する言い訳、ちゃんと用意しといてよねぇ?」
「ま、待ってください!」
ダイニングから去ろうとするぶりっ子くんを慌てて引き留めると、彼はくるりと振り返る。
「ん、なぁにぃ?」
「あの、シャワー借りても良いですか?」
「はぁ~? それが言いたかったのぉ?」
予想外の言葉だったのか、ぶりっ子くんが呆れたように顔を歪めた。彼は溜め息を吐くと、くるりと背を向けながら手をヒラヒラさせながら歩きだした。
「あーはいはい。好きに使って良いよぉ。時雨ちゃんにもそう伝えておいてね~」
「はい、ありがとうございます」
こうして俺は、新しい服と共に浴室へと向かった。
湯に浸かるとなんで「あー……」って声が出るんだろうな。そんなことを考えつつ、気持ち良くお風呂に入っていたら、ふと『貴春』が誰なのかを思い出した。自信満々に笑う憎らしい程のイケメン顔が脳裏に浮かぶ。そういや、ヤツのフルネームが一条貴春だったな……と。
ハブ宣言されてから、一度だけプロフィールに目を通していただけだから忘れてた。あの時はレガフォーの連中とこんなに関わることになるとは思っていなかったが、人生って何があるか分からんね。
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