とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎

文字の大きさ
18 / 22

17話.ご飯を堪能しつつ、傍観する


 朝食は、昨夜のバーベキューで余った野菜を乗せたピザトースト。昼は、残っていたホタテとエビでトマトソースパスタを作って食べた。そして夜は、カレーだ。
 昨日と同じく夕食は全員で作る予定だったらしく、海を満喫してきたレガフォーメンバーたちが、時雨と一緒にキッチンへ集まってきた。
 俺は切った玉ねぎをフライパンで炒めながら、サラダを作っているレガフォーメンバーと時雨のやりとりを眺める。時雨は、なんというか……やっぱり、甘い。

「時雨! お前に教わった通りちゃんと猫の手で切ったぞ! ほら、このキュウリ、なかなかうまく切れたと思わないか?」
「あぁ、そうだな……でも、まだ繋がってるから最後まで切ろうな」
「む?」

 得意げに一条が差し出したキュウリは、確かに初めてにしては均等な輪切りになっていたが、端の方が微妙に繋がっていた。時雨は苦笑しつつも、やんわりと指摘する。

「ボクも出来たよぉ。時雨ちゃ~ん、この葉っぱ、うまく千切れたよねぇ?」
「あぁ、ちょうど食べやすいサイズでいいな。でも、これだけじゃ足りないから、もう少し頼めるか?」
「うんうん。時雨ちゃんのお願いなら、ボク、もっと頑張るね~」

 ぶりっ子くんも負けじと、レタスを両手に掲げてアピールしてきた。時雨は相槌を打ちながら、さりげなく仕事を増やしている。誘導、うまいな。

「あのぉ、時雨さん。包丁の使い方ってコレで合ってます? もう一回、じっくりと教えて欲しいっす」
「……あぁ、いいけど、手を握る必要はないよな?」
「ちぇっ」

 わざとらしく手を触れようとする爽やかワンコくんを、時雨はさらっとかわしながら、包丁の持ち方を説明し直す。爽やかワンコくんは口を尖らせつつ、渋々と手を引いた。途中で俺の視線に気付いたのか、睨んできたので慌てて目を反らす。こぇー。

「時雨、サラダのドレッシングは何がお好みですか? 我が家ではシェフの作ったフレンチドレッシングが定番なのですが……」
「そうだな……アレンジもしやすいし、マヨネーズかな」
「マヨネーズですか……なるほど。では今日から、我が家でもマヨネーズを使うようシェフに伝えます」
「いや、別に強制はしてる訳じゃないから。二上も好きなのをかけなよ」

 むむ、と眉間に皺を寄せた二上に、時雨は少し困ったように笑った。こっちはただ好きな物を聞かれてるだけだから、邪険にする理由もないか。

 しかし、サラダを作るだけなのに、こんなやり取りが続いてる所為で全然進んでないの、マジで笑える。
 元々、時雨が面倒見の良い性格だからか、突き放さずに相手してるのも悪いよな。余計に奴らが調子乗るんじゃない?
 ワンチャンあると勘違いさせる時雨って、ほんと鈍感系主人公っぽい。……なんて、まぁ野暮なことは言わないけど。

 ちなみに、俺がほぼ一人で作り上げたカレーは甘口・中辛・辛口の三種類のルーを用意して、具材に好きなルーをかけるセルフスタイルにしてみた。
 時雨は中辛派で、二上とぶりっ子くんは辛口を選んでいたな。ぶりっ子くんは甘口派だと思ってたから、ちょっと意外だった。
 ……意外といえば、一条もだ。驚いたことに一条は辛いのがダメだったようで、最初は見栄を張って中辛を食べていたが、だんだんと涙目に。見かねた時雨が甘口を勧めると、ホッとした表情を浮かべて素直に従がっていた。
 一条はギャップ萌えでも狙ってんのか? 俺は全然萌えないけどな。


 食後の洗い物をして、デザートのコーヒーゼリーを作ってる間に、一条が職人に手配させたプチ打ち上げ花火大会が開催されたようだ。
 俺は元々数に入ってないし、デザート作りの方が大事なので花火は見に行かなかったけど「時雨の隣は俺様だ!」という時雨を巡る争奪戦の声と、ドーンと鳴る花火の音だけは聞こえた。
 打ち上げ花火の音を聞くと夏だなぁって感じがするよな。帰ったら俺も友達誘って花火するか。そう頭の中で予定を立ててから、意識を手元に戻す。

 実はこのコーヒーゼリー、朝食の時に二上が飲んでいたコーヒーを見て、作ってみたかったんだ。お高そうなコーヒーで作ると味がどんな変化するのか気になってさ。試しに作っても良いかと聞いてみたら、あっさりOKが出たので、ルンルンとしながら作ったコーヒーゼリーを器に盛っていく。更にこの上には、時雨に頼んでレガフォーに買わせたバニラアイスも乗せる予定だ。

 昼過ぎ、俺を置いてみんなで海に行くことを聞かされた時雨は勿論反対したよ。なんとか言いくるめて、今日一日レガフォーの奴らと思い出を作るついでに、バニラアイスを買うのを約束させた。
 昨夜ぶりっ子くんに「時雨ちゃんが納得する言い訳、ちゃんと用意しといてよねぇ?」って圧かけられたし、あいつらも大好きな時雨におねだりされて嬉しかっただろう。
 それに、何よりあいつらが満足しないと、予定通り明日帰れない可能性が出てくるし。それは嫌だ、めちゃくちゃ疲れる。だって時雨と話すだけで、爽やかワンコくんからちょくちょく殺意のこもった視線が飛んできて、しんどいんだ。
 ごめんな時雨、悪いけど俺は自分の身が一番大事なんでな。
 あと今後、奴のことは『爽やかワンコくん』改め『狂犬』と呼ばせて頂こう。身の危険を感じるので、一人歩きする時は気を付けなきゃ。あー、恐ろしい。


 花火が終わって、一条と狂犬に両脇をがっちり固められた状態で時雨が戻ってきた。二人とも時雨より背が高いから、まるでトレンチコートの男二人組に捕まった宇宙人みたいだ。
 そのままリビングのソファへと座らせられて、がくりと項垂れている時雨を何とも言えない気持ちで眺める。
 デザートを食べて少しでも元気が出れば良いなと、コーヒーゼリーの上にバニラアイスを乗せていると、ぶりっ子くんが目を輝かせてキッチンに近付いてきた。

「わぁ~、デザートだぁ。ちょうど甘いもの食べたかったんだよねぇ、子ブタちゃんナイスぅ。ボクのはアイス二つねぇ」
「了解です」

 差し出した器に、言われた通りアイスを二つ乗せてやる。

「アハッ、これって時雨ちゃんが珍しく僕らにリクエストしてきたバニラアイスでしょ。子ブタちゃんってば時雨ちゃんを利用して悪いんだ~」
「利用だなんて……時雨を説得するために必要だったんです」
「え~? まぁ、邪魔もなく時雨ちゃんと遊べたから許してあげるよぉ。僕、優しいからぁ」

 それだけ言ってリビングに戻るのかと思いきや、なんと人数分のスプーンを用意して、お盆へと乗せてくれている。
 えっ、まさか自主的に俺のお手伝いしてくれるの? 嘘……ちょっと嬉しいかも。

「あと~、昨日からさ、サンちゃんがごめんねぇ。時雨ちゃんへの想いを自覚するまでもうちょっとだけ我慢してくれるぅ?」
「え? あ、はい……」
「ありがとぉ」

 急に謝られて、思わず反射的に頷いてしまった。そんな俺に、ぶりっ子くんは少しホッとしたような顔をして笑う。
 もしかして俺に対するアタリが強いことに気付いて、フォローしに来たのか?
 そういえば、ぶりっ子くんと狂犬は幼馴染で、小さい頃からの付き合いで仲が良いってどこかの親衛隊が言ってたな。意外とぶりっ子くんの方が保護者だったのか……。

「みんなぁ、デザートだよ~」

 言いたいことを言い終えたのか、ぶりっ子くんがいつもの笑顔で、お盆に乗せたコーヒーゼリーとスプーンを持ってダイニングへ戻っていく。

「なっ、なんで四十万のやつだけアイスが二つも乗ってんだよ!」
「そんなの、リクエストしてきたからに決まってるじゃ~ん」
「くそっ」
「私はアイス不要なので、一条に差し上げますよ」
「おっ、そうか。いらないなら、ありがたく貰ってやるぜ」
「時雨さんはどれがいいっすか?」
「ん、これかな」
「どうぞっす。ついでなんで、オレが食べさせてあげるっすよ。はい、あーん」
「いや、それは遠慮する」
「アハッ、時雨ちゃんてばそんな遠慮しなくてもいいのにね~」

 わいわいと騒がしい中、俺はそっとソファの端に腰掛け、スプーンに乗せたコーヒーゼリーを口に入れる。
 あぁ~、お高い豆で抽出したほろ苦なコーヒーゼリーと、甘くて冷たいバニラアイスがたまらねぇ。香りもいいし、やっぱ市販の商品より味が全然違う気する。最高かよ。

 一人で味を堪能していると、時雨たちと談笑していたぶりっ子くんが、気付けばまた俺の側に近寄ってきた。
 なんだろう、またアイスでも強請りに来たのか?

「子ブタちゃ~ん、食べ終わったらみんなで裏山に肝試し行くよぉ」
「へぇ、肝試しですか。夏の定番イベントですよね」
「でしょでしょぉ? 今回は子ブタちゃんも参加決定ね~」
「えっ」

 今まで邪魔者扱いされてたのに、俺の参加が許されたのは、単なる数合わせかな?
 戸惑う俺をお構いなしに、ぶりっ子くんはどんどん話を進めていく。

「あっ、ちなみにちょっと細工しといたから、よろしくねぇ~」
「細工……?」


感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏
BL
「探せ!この靴を作った者を!」 *** 日々、大量注文に追われるガラス職人、リヨ。 疲労の末倒れた彼が目を開くと、そこには見知らぬ世界が広がっていた。 彼が転移した世界は《ガラス》がキーアイテムになる『シンデレラ』の世界! リヨは魔女から童話通りの結末に導くため、ガラスの靴を作ってくれと依頼される。 しかし、王子様はなぜかシンデレラではなく、リヨの作ったガラスの靴に夢中になってしまった?! さらにシンデレラも魔女も何やらリヨに特別な感情を抱いていているようで……? 執着系王子様+訳ありシンデレラ+謎だらけの魔女?×夢に真っ直ぐな職人 ガラス職人リヨによって、童話の歯車が狂い出すーー ※素人調べ、知識のためガラス細工描写は現実とは異なる場合があります。あたたかく見守って頂けると嬉しいです🙇‍♀️ ※受けと女性キャラのカップリングはありません。シンデレラも魔女もワケありです ※執着王子様攻めがメインですが、総受け、愛され要素多分に含みます 不定期更新予定に変更させていただきます。 ♡、お気に入り、しおり、エールありがとうございます!とても励みになっております! 感想も頂けると泣いて喜びます! 第13回BL大賞55位!応援ありがとうございました!

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

告白現場に遭遇したら、まさかの俺の推しだった

花魁童子
BL
配信者である主人公の浅葱は、推しの告白現場に居合わせてしまった。そしてそれと同時に推しには好きな人が⁉ それを知ってしまって、推しとまさかの付き合うことになってしまう。偽りの恋人だけどなぜか嬉しく感じる。高校生活を送っていくうちに芽生える思い‼ 二人の気持ちはどうなるのか⁉

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。