私、悪役令嬢でしたっけ?……あら、茶柱が立ちましたわ

にとこん。

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17話

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「……神殿の者どもが、お嬢様の“霊的調査”に参りますと」

セバスティアンの声には、いつにも増して張り詰めた響きがあった。

朝、邸の中庭に用意された茶席の準備をしていたシャルロットは、穏やかに振り返る。

「まあ、それはご丁寧に。わたくし、神殿から正式なお客様をお迎えするのは初めてかもしれませんわね」

「ですが……“調査”が目的でございます」

「では、なおさら。お茶をご用意いたしましょう」

話が噛み合っていないようで、確かに“噛み合っている”。  
セバスティアンは小さくため息をつき、既に台所に用意してあった焼き菓子の確認に向かった。

午の鐘が一度鳴る頃――  
レーヴェンロー邸に、神殿直属の監察隊が到着した。

灰色の法衣をまとい、金の紐で巻かれた巻物を携えた彼らは、邸の前庭で一糸乱れぬ列を作る。

その中心、長身で鷹のような眼差しの男が一歩前へ出た。

「我らは神殿の監察官。公爵令嬢シャルロット=ド=レーヴェンロー殿の霊的状態と、神託にある“災い”の兆候を確認すべく、上より派遣された者である」

彼の言葉は簡潔で、重々しく、そして否応の余地がなかった。

だが――

「まあ、ご足労いただき恐縮ですわ。……本日はミントとラベンダーのブレンドをご用意しておりますの」

シャルロットは、中庭の東屋にて、やわらかな笑みと共にカップを掲げていた。

「菓子はハチミツとローズのサブレを焼きましたの。お好みに合うとよろしゅうございますけれど」

監察官たちは、しばし言葉を失った。

書類を読み上げる間もなく、席に招かれ、湯気立つカップと香り高い菓子が目の前に並べられる。  
まるで聖域の祭具に囲まれたかのような錯覚すら覚えた。

「……これは、正式な取調べでは――」

「ええ、ですからどうぞ、ご自由に調べていただけますわ。……あ、ただしグレイ様にはお気をつけて。ときどきお客様のお膝に乗りますのよ」

猫のグレイが、まるで“ここの主”とでも言うような態度で足元を巡回している。

やがて始まった“霊的調査”は、まるで拍子抜けするほど静かだった。

聖水も反応を示さず、文様も揺らがず、鳥の羽占いも安定の象。

挙句、シャルロットがひと息ついてこう言った。

「今朝、鳥が南へ飛んでおりましたの。あれは、季節の変わり目ですわね」

何気ない言葉。  
しかしそれを聞いた神官たちは、息を呑んだ。

南――災いの兆しの方角。  
神託の暗喩を、彼女は読んでいるのか?  
それとも、偶然か?

沈黙のまま、茶をすする一行の前で、シャルロットはほんの少しだけ首を傾げた。

「……皆さま、お顔の色が少し悪うございますわ。ミントを多くしすぎましたかしら?」

違う意味で悪寒を覚えた監察官たちは、帰り際、誰一人明確な報告をまとめることができなかった。

「……異常なし。だが、不可解」

「不可解という報告では、上は納得しないぞ」

「ではこう記そう。“霊的反応なし。人為的影響の兆候も見られず。ただし、対応不可思議”」

監察官のひとりが振り返ると、門の奥――  
風に揺れる花々の中、シャルロットが一輪のハーブを摘み取る姿が見えた。

「また、香りが変わってまいりましたわね」

その言葉に、監察官たちは答えられなかった。  
彼女が何を知っているのか、何も知らないのか――  
それすら分からぬまま、調査隊は静かに門を後にした。
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