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20話
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「まあ、夜の市場というのも、風情がございますのね」
シャルロットはふわりと口元を綻ばせながら、ランタンの明かりが灯る城下の夜市を歩いていた。
カラフルな布地の屋台が並び、香辛料や菓子の香りが混じり合って漂ってくる。
「夜市っていうか……もう、これはほぼ“闇市”よ。貴族が歩くところじゃないのに……!」
隣を歩くロジーナは、周囲を見回しながら半ば呆れたように呟いた。
それでもシャルロットの手を離さないのは、彼女の“ふらりと迷い込む癖”を熟知しているからだった。
「でも、とても賑やかですわ。……あら、あちらの香りは……セージにシナモン?」
「どこ見てるの、シャルロット……っ」
ロジーナの視線の先、ひときわ人だかりができている屋台があった。
そこに並べられていたのは、まるで儀式の祭壇のように積み上げられた――
「……ふわふわ様人形?!」
ロジーナの声が裏返る。
そこには、柔らかな布地で仕立てられた小さな人形たち。
淡い色のドレスに、穏やかな微笑み。手には小さなティーカップ。
誰がどう見ても、それはシャルロット本人を模した姿だった。
「まあ、かわいらしいですわね。……この方、どなたかしら?」
「アンタよ!!」
「え?」
シャルロットは首をかしげたまま、ふわふわ様人形を手に取り、まるで初めて会うお友達のようにじっと見つめる。
「……なんだか、見覚えがあるような、ないような……」
「あるでしょ!! もう、これ完全にあなたの信仰対象よ!? 加護の茶葉って何よ!?」
ロジーナが掴んで見せたのは、“ふわふわ様祝福ブレンド”と銘打たれた小瓶。
香草と花びらが混ざった美しい茶葉に、手書きの札が添えられている。
――「心にやすらぎ、怒りはすべて香りで流します」
「まあ、それは素敵な効能ですわね。……でも、効きすぎると眠くなりませんかしら?」
「そこじゃない!!」
ロジーナが頭を抱えたその隣で、シャルロットは小さな茶缶を鼻に近づけ、くんくんと香りを確かめていた。
「……これ、ティアゴさんのブレンドですわね。あの方、お仕事が早いのですもの」
「商魂がたくましすぎるのよ、あの旅商人……」
「セバスティアンには黙っておきましょうね。きっと、眉間に深い皺が寄ってしまいますもの」
そう言って微笑むシャルロットの肩越し――
遠くの路地に、人影が一つ。
華やかな市場の明かりに照らされたその輪郭は、リリィだった。
祭服の代わりに簡素な外套をまとい、肩を震わせながら、ふたりのやり取りを見つめていた。
“あれは、私が担うはずだった役目”
民に寄り添い、信じられ、笑顔を向けられるはずだった未来。
けれどそこには、何もしていないはずの“あの令嬢”がいて、
誰よりも自然に、祝福を受け取っていた。
リリィは唇をかみしめ、ひとりきりの影の中へと歩みを返す。
“もう、遅いの……?”
屋台の明かりが遠のくなか、シャルロットはふと背を向け、ぽつりと呟いた。
「……やっぱりこのお人形、ちょっとわたくしに似ていますわね」
ロジーナは遠い目をして答えた。
「ちょっとどころじゃないのよ、シャルロット……ほんとに……」
シャルロットはふわりと口元を綻ばせながら、ランタンの明かりが灯る城下の夜市を歩いていた。
カラフルな布地の屋台が並び、香辛料や菓子の香りが混じり合って漂ってくる。
「夜市っていうか……もう、これはほぼ“闇市”よ。貴族が歩くところじゃないのに……!」
隣を歩くロジーナは、周囲を見回しながら半ば呆れたように呟いた。
それでもシャルロットの手を離さないのは、彼女の“ふらりと迷い込む癖”を熟知しているからだった。
「でも、とても賑やかですわ。……あら、あちらの香りは……セージにシナモン?」
「どこ見てるの、シャルロット……っ」
ロジーナの視線の先、ひときわ人だかりができている屋台があった。
そこに並べられていたのは、まるで儀式の祭壇のように積み上げられた――
「……ふわふわ様人形?!」
ロジーナの声が裏返る。
そこには、柔らかな布地で仕立てられた小さな人形たち。
淡い色のドレスに、穏やかな微笑み。手には小さなティーカップ。
誰がどう見ても、それはシャルロット本人を模した姿だった。
「まあ、かわいらしいですわね。……この方、どなたかしら?」
「アンタよ!!」
「え?」
シャルロットは首をかしげたまま、ふわふわ様人形を手に取り、まるで初めて会うお友達のようにじっと見つめる。
「……なんだか、見覚えがあるような、ないような……」
「あるでしょ!! もう、これ完全にあなたの信仰対象よ!? 加護の茶葉って何よ!?」
ロジーナが掴んで見せたのは、“ふわふわ様祝福ブレンド”と銘打たれた小瓶。
香草と花びらが混ざった美しい茶葉に、手書きの札が添えられている。
――「心にやすらぎ、怒りはすべて香りで流します」
「まあ、それは素敵な効能ですわね。……でも、効きすぎると眠くなりませんかしら?」
「そこじゃない!!」
ロジーナが頭を抱えたその隣で、シャルロットは小さな茶缶を鼻に近づけ、くんくんと香りを確かめていた。
「……これ、ティアゴさんのブレンドですわね。あの方、お仕事が早いのですもの」
「商魂がたくましすぎるのよ、あの旅商人……」
「セバスティアンには黙っておきましょうね。きっと、眉間に深い皺が寄ってしまいますもの」
そう言って微笑むシャルロットの肩越し――
遠くの路地に、人影が一つ。
華やかな市場の明かりに照らされたその輪郭は、リリィだった。
祭服の代わりに簡素な外套をまとい、肩を震わせながら、ふたりのやり取りを見つめていた。
“あれは、私が担うはずだった役目”
民に寄り添い、信じられ、笑顔を向けられるはずだった未来。
けれどそこには、何もしていないはずの“あの令嬢”がいて、
誰よりも自然に、祝福を受け取っていた。
リリィは唇をかみしめ、ひとりきりの影の中へと歩みを返す。
“もう、遅いの……?”
屋台の明かりが遠のくなか、シャルロットはふと背を向け、ぽつりと呟いた。
「……やっぱりこのお人形、ちょっとわたくしに似ていますわね」
ロジーナは遠い目をして答えた。
「ちょっとどころじゃないのよ、シャルロット……ほんとに……」
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