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23話
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「お嬢様のご友人、最近よく王宮の図書院に通っておられますな」
何気なく放たれたセバスティアンの言葉が、実は深い“許容”であったことを、ロジーナ本人は知らなかった。
彼女は、動いていた。
シャルロットのために、ではない。
“シャルロットを理解するために”。
「……公爵令嬢の母、エルミナ=ド=レーヴェンロー。記録上では病没とありますが……」
「はい。ですが、その死亡報告が出された年――なぜか神殿の祭礼記録がすべて“欠番”扱いになっているのです」
図書院の司書は、言葉を選びながら答えた。
手渡された巻物には空白と修正印。
そして一部に不自然な墨の滲み。
ロジーナは、祖父から譲られた古い情報網をたぐり、神殿関係の記録官にも接触していた。
「失礼ですが……“聖名保持者”の一覧からも、エルミナという名が削除されていると聞きました」
「……その件については、我らの口からは」
記録官が言葉を濁すたび、ロジーナの胸の中に渦が広がる。
――なぜ母の記録が“消されている”のか。
――なぜ、シャルロット自身はそれを気にも留めないのか。
答えは誰も教えてくれなかった。
*
その夜、レーヴェンロー邸の離れの間。
薄明かりの中で、ロジーナはシャルロットと向かい合っていた。
卓にはローズマリーとアールグレイを合わせた夜用ブレンド。
カップの中で、香りが揺れている。
「……ロジーナ?」
沈黙に包まれたままの親友を、シャルロットは優しく見つめる。
「……ねぇ、シャルロット。……お母様のこと、覚えてる?」
問いかけると、シャルロットは少しだけカップを揺らした。
「ええ。……母の紅茶は、少し苦みが強かった気がしますわ。きっと、強くなれって意味でしたのね」
その返答に、ロジーナは心の奥が軋む音を聞いた。
「……記録にないの。あなたのお母様のこと。神殿の資料からも、名前が……消されてるの」
カップを置く音が、静かに響いた。
シャルロットは、何も驚いた様子を見せなかった。
ただ、ふっと小さく笑うだけだった。
「そうですの?」
「……ねぇ、シャルロット」
ロジーナは胸の奥に押し込んでいた言葉を、震える唇で絞り出した。
「あなた、本当は――何者なの?」
その問いに、シャルロットは答えなかった。
風がレースのカーテンを揺らす。
香りが、空間を静かに包んでいく。
「……わたくし? ふふ、お茶を淹れるのが少し得意な、ただの令嬢ですわ」
微笑みは、いつも通りだった。
だが、その奥に沈む何かを、ロジーナは確かに感じ取った。
問いは風に消え、香りだけがそこに残った。
そしてセバスティアンは、廊下の影で目を閉じていた。
すでに、すべてを知っている者として。
何気なく放たれたセバスティアンの言葉が、実は深い“許容”であったことを、ロジーナ本人は知らなかった。
彼女は、動いていた。
シャルロットのために、ではない。
“シャルロットを理解するために”。
「……公爵令嬢の母、エルミナ=ド=レーヴェンロー。記録上では病没とありますが……」
「はい。ですが、その死亡報告が出された年――なぜか神殿の祭礼記録がすべて“欠番”扱いになっているのです」
図書院の司書は、言葉を選びながら答えた。
手渡された巻物には空白と修正印。
そして一部に不自然な墨の滲み。
ロジーナは、祖父から譲られた古い情報網をたぐり、神殿関係の記録官にも接触していた。
「失礼ですが……“聖名保持者”の一覧からも、エルミナという名が削除されていると聞きました」
「……その件については、我らの口からは」
記録官が言葉を濁すたび、ロジーナの胸の中に渦が広がる。
――なぜ母の記録が“消されている”のか。
――なぜ、シャルロット自身はそれを気にも留めないのか。
答えは誰も教えてくれなかった。
*
その夜、レーヴェンロー邸の離れの間。
薄明かりの中で、ロジーナはシャルロットと向かい合っていた。
卓にはローズマリーとアールグレイを合わせた夜用ブレンド。
カップの中で、香りが揺れている。
「……ロジーナ?」
沈黙に包まれたままの親友を、シャルロットは優しく見つめる。
「……ねぇ、シャルロット。……お母様のこと、覚えてる?」
問いかけると、シャルロットは少しだけカップを揺らした。
「ええ。……母の紅茶は、少し苦みが強かった気がしますわ。きっと、強くなれって意味でしたのね」
その返答に、ロジーナは心の奥が軋む音を聞いた。
「……記録にないの。あなたのお母様のこと。神殿の資料からも、名前が……消されてるの」
カップを置く音が、静かに響いた。
シャルロットは、何も驚いた様子を見せなかった。
ただ、ふっと小さく笑うだけだった。
「そうですの?」
「……ねぇ、シャルロット」
ロジーナは胸の奥に押し込んでいた言葉を、震える唇で絞り出した。
「あなた、本当は――何者なの?」
その問いに、シャルロットは答えなかった。
風がレースのカーテンを揺らす。
香りが、空間を静かに包んでいく。
「……わたくし? ふふ、お茶を淹れるのが少し得意な、ただの令嬢ですわ」
微笑みは、いつも通りだった。
だが、その奥に沈む何かを、ロジーナは確かに感じ取った。
問いは風に消え、香りだけがそこに残った。
そしてセバスティアンは、廊下の影で目を閉じていた。
すでに、すべてを知っている者として。
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