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26話
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「今回は、確実に舞台を仕上げる」
王太子アルベリヒの声が、石造りの会議室に響いた。
王都中心、議事堂地下の密室。
扉の外に誰の気配もないことを確認し、神殿上層部と王宮側の一部重臣たちが顔を揃えていた。
「断罪劇は、民の“浄化”のための儀式だ。前回の失敗は致命的だった。だが今度は、神の名の下、完璧に構築する」
広げられた羊皮紙には、王都中央広場の配置図。
壇上の位置、群衆の導線、証言者の順番、そして“公開裁き”の演出案。
「処刑ではない、あくまで断罪の儀式だ。だが、印象的には“神の怒りを鎮める演出”でなければならない。……民意を導け」
「……それは“民意”とは言いませんな」
重々しく響いたのは、議会代表の一人、ラドルフ老の低い声だった。
「神託と王権のバランスが崩れれば、国の根が折れるぞ。たかが令嬢ひとりに、そこまでの演出が必要かね?」
「たかが、ではない。奴は民心を集め、“聖女”の地位すら脅かしている。神への信仰を曇らせる香りの煙を、このまま放置する気か?」
議場に、張りつめた空気が走る。
「……ふん、ならばせめて、その“煙”の正体を見極めてから火を起こすことだ」
ラドルフはそう言い捨て、静かに席を立った。
その言葉に続くように、数名の議員が退席を始める。
今、議会もまた、分岐の只中にあった。
神官長ミカエルはその様子を黙って見つめていた。
彼の手には一通の報告書――“記録石の乱れが継続している”との報。
(未来が、また揺れている……)
誰が導くのか。
誰が、壊すのか。
その答えは、誰の口からもまだ語られていなかった。
*
その頃、レーヴェンロー邸では――
「……ふむ。ミルクが先か、レモングラスが先か。難しい問題ですわね」
シャルロットは試飲用のトレイを前に、真剣な顔で何度も小さく頷いていた。
彼女の前には、レモングラス入りの数種のミルクティー。
ハーブの風味と乳のまろやかさをどの温度帯で合わせるか、微調整を重ねている最中だった。
「グレイ、どちらが香りが立っていると思います?」
猫はポットの前でくるりと丸くなり、片耳だけを動かした。
「……やはり、ハーブは少し低温の方が品が出ますのね」
台所から見守っていたロジーナは、そんな姿に一瞬笑いかけたものの――
表情はすぐに引き締まった。
(王都広場が封鎖される? しかも、“公開儀式の準備”?)
彼女はすでに、議会の動きに裏から繋がる情報を手に入れていた。
(また、“あの場”を……?)
十年前、王国が一度だけ行った“断罪演出”の記録。
それが何を生み、誰が血を流したのか。
今、それを再演しようとしている者たちがいる。
だがその“主役”が何も知らず、ただ香りのために心を傾けている姿を前にして、ロジーナは、息を呑んだ。
(絶対に……間に合わせる)
香りに包まれた世界の中で、ただ一人、彼女は心に決意の火を灯した。
王太子アルベリヒの声が、石造りの会議室に響いた。
王都中心、議事堂地下の密室。
扉の外に誰の気配もないことを確認し、神殿上層部と王宮側の一部重臣たちが顔を揃えていた。
「断罪劇は、民の“浄化”のための儀式だ。前回の失敗は致命的だった。だが今度は、神の名の下、完璧に構築する」
広げられた羊皮紙には、王都中央広場の配置図。
壇上の位置、群衆の導線、証言者の順番、そして“公開裁き”の演出案。
「処刑ではない、あくまで断罪の儀式だ。だが、印象的には“神の怒りを鎮める演出”でなければならない。……民意を導け」
「……それは“民意”とは言いませんな」
重々しく響いたのは、議会代表の一人、ラドルフ老の低い声だった。
「神託と王権のバランスが崩れれば、国の根が折れるぞ。たかが令嬢ひとりに、そこまでの演出が必要かね?」
「たかが、ではない。奴は民心を集め、“聖女”の地位すら脅かしている。神への信仰を曇らせる香りの煙を、このまま放置する気か?」
議場に、張りつめた空気が走る。
「……ふん、ならばせめて、その“煙”の正体を見極めてから火を起こすことだ」
ラドルフはそう言い捨て、静かに席を立った。
その言葉に続くように、数名の議員が退席を始める。
今、議会もまた、分岐の只中にあった。
神官長ミカエルはその様子を黙って見つめていた。
彼の手には一通の報告書――“記録石の乱れが継続している”との報。
(未来が、また揺れている……)
誰が導くのか。
誰が、壊すのか。
その答えは、誰の口からもまだ語られていなかった。
*
その頃、レーヴェンロー邸では――
「……ふむ。ミルクが先か、レモングラスが先か。難しい問題ですわね」
シャルロットは試飲用のトレイを前に、真剣な顔で何度も小さく頷いていた。
彼女の前には、レモングラス入りの数種のミルクティー。
ハーブの風味と乳のまろやかさをどの温度帯で合わせるか、微調整を重ねている最中だった。
「グレイ、どちらが香りが立っていると思います?」
猫はポットの前でくるりと丸くなり、片耳だけを動かした。
「……やはり、ハーブは少し低温の方が品が出ますのね」
台所から見守っていたロジーナは、そんな姿に一瞬笑いかけたものの――
表情はすぐに引き締まった。
(王都広場が封鎖される? しかも、“公開儀式の準備”?)
彼女はすでに、議会の動きに裏から繋がる情報を手に入れていた。
(また、“あの場”を……?)
十年前、王国が一度だけ行った“断罪演出”の記録。
それが何を生み、誰が血を流したのか。
今、それを再演しようとしている者たちがいる。
だがその“主役”が何も知らず、ただ香りのために心を傾けている姿を前にして、ロジーナは、息を呑んだ。
(絶対に……間に合わせる)
香りに包まれた世界の中で、ただ一人、彼女は心に決意の火を灯した。
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