私、悪役令嬢でしたっけ?……あら、茶柱が立ちましたわ

にとこん。

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39話

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「では最後にお伺いします。殿下とのご婚約について、現在のご見解をお聞かせいただけますか?」

記者の一人が、緊張を押し隠すように声を張った。

その言葉に、会見場の空気がわずかに凍る。

王宮に設けられた特別記者会見室には、王都中の新聞社と地方の通信使が詰めかけていた。  
中央の席に座すのは、レーヴェンロー公爵令嬢、シャルロット=ド=レーヴェンロー。

紅茶のカップを手にしていた彼女は、静かにひと口。  
そして、ほんの少しだけ小首を傾げた。

「……ええ? 婚約……ですの? あら、それはいつのことでしょうか?」

その場の空気が、音もなく崩れた。

記者たちのペンが止まり、ざわめきが波のように広がっていく。

「もしかして、わたくし、そのような書面に署名をいたしましたかしら。どうも記憶にございませんのよ。なにぶん、紅茶の種類は覚えていても、契約書の類は少々……」

ロジーナが思わず咳払いをして肩をすくめ、セバスティアンがそっと眼鏡を押し上げた。

「では、殿下の“ご婚約撤回発言”については……?」

「ご厚意はありがたく頂戴いたしますけれど、それ以前に、そもそもの“ご婚約”というものをわたくし、承知しておりませんでしたの」

笑顔のまま語られたその言葉に、誰もが“これは終わった”と理解した。

記者のひとりが震える手で速報用の鳩文を飛ばし、数分後には王都じゅうにその見出しが流れた。

『公爵令嬢、王太子との婚約を“否定” ——ついに立場逆転へ』

 

会見の様子を別室で見守っていた王太子アルベリヒは、何も言わなかった。  
いや、言えなかった。

彼の表情からは、怒りも戸惑いも抜け落ちていた。  
ただ、何かを喪った空虚だけが残っていた。

その隣で、リリィ=クロフォードはハンカチを握り締めていた。

「……あの方、本当に、怒っていないのね……」

彼女の瞳から、静かに涙がこぼれる。  
それは敗北でもなく、嫉妬でもなく――  
ただ、自分のなれなかった“在り方”を目の当たりにした、悔しさに似た憧れだった。

 

シャルロットはその後も記者たちの質問に丁寧に応じ、  
最後に、こう締めくくった。

「本日はお運びくださりありがとうございました。  
お帰りの際には、どうぞロジーナ特製のハーブティーをお土産に。きっと、心がほどけますわよ」

微笑みのままに手を振るその姿は、  
もはや“悪役令嬢”でも、“婚約者”でもなかった。

ただ静かに――  
この国の風向きを変えていく、“香りの源”だった。
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みんなの感想(2件)

mikan
2025.05.21 mikan

素敵な香りの逆転劇でした。
大どんでん返し。面白かったです😊

解除
n.
2025.05.21 n.
ネタバレ含む
解除

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