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8話
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「……あら? 行き止まりですの?」
帝都北端、かつて砦として用いられていた石造りの街道遺跡。
草に覆われた細道を歩いていたルゥナ=フェリシェは、突如として目の前に現れた分厚い石壁に立ち止まった。
「うふふ、地図通りではございますけれど……この道、どうして壁で塞がれておりますの?」
地図は上下が逆。そもそもその地図は観光用のイラスト地図。
でも、ルゥナは迷子であることを自覚していない。彼女にとって、そこが正しい道だった。
「……とりあえず、軽く押してみますわね」
両手を添えて、そっと石に体重を預ける――その瞬間。
ゴゴゴッ……ゴンッ!!
音を立てて、石壁が大きく揺れた。
ほんのわずかに触れただけのはずが、継ぎ目にあった老朽部分が崩れ、壁全体がズルリとずれ、豪快に――
「……あらまあ」
――崩れた。
土煙が舞い、草が倒れ、瓦礫がごとごとと転がる中、呆然とその様子を見上げるルゥナ。
そして、ぽつりと一言。
「……ちょっと肩が当たっただけですのに」
*
その頃、街道の警備拠点では――
「報告! 北側壁が……落ちました!!」
「落ちた!? 砦跡の石壁がか!? 何百年も動かなかったアレがか!? 落ちたってどういう……」
「原因は――不明! ただ、通行人らしき女性の姿が……」
「通行人って何だ!? どんな武器を持ってた!? 爆薬か!? 魔導具か!?」
「……日傘です」
「は?」
「あと、肩です」
「肩!?」
*
一方、本人はというと。
「まあ、向こうにお花畑が見えますわね」
崩れた壁の奥に広がるのは、昔の軍用畑跡地。今では野花が咲き乱れ、小川が流れる小楽園と化していた。
「壁がなければ気づきませんでしたわ。ありがとう、石の方々」
のんきに礼を述べ、ルゥナは新たな道へと歩み出す。
*
翌日、「肩で砦を破壊した女」として彼女の目撃談が拡散。
それはやがて帝国軍上層部にも届き、軍議の議題にまで取り上げられることとなる。
しかし、本人はその頃すでに次の迷子コースに突入しており、ことの重大性など知る由もない。
壁を押したら崩れた。それだけのこと。
だけど、その“それだけ”が、帝国中を揺るがし続けるのだった。
帝都北端、かつて砦として用いられていた石造りの街道遺跡。
草に覆われた細道を歩いていたルゥナ=フェリシェは、突如として目の前に現れた分厚い石壁に立ち止まった。
「うふふ、地図通りではございますけれど……この道、どうして壁で塞がれておりますの?」
地図は上下が逆。そもそもその地図は観光用のイラスト地図。
でも、ルゥナは迷子であることを自覚していない。彼女にとって、そこが正しい道だった。
「……とりあえず、軽く押してみますわね」
両手を添えて、そっと石に体重を預ける――その瞬間。
ゴゴゴッ……ゴンッ!!
音を立てて、石壁が大きく揺れた。
ほんのわずかに触れただけのはずが、継ぎ目にあった老朽部分が崩れ、壁全体がズルリとずれ、豪快に――
「……あらまあ」
――崩れた。
土煙が舞い、草が倒れ、瓦礫がごとごとと転がる中、呆然とその様子を見上げるルゥナ。
そして、ぽつりと一言。
「……ちょっと肩が当たっただけですのに」
*
その頃、街道の警備拠点では――
「報告! 北側壁が……落ちました!!」
「落ちた!? 砦跡の石壁がか!? 何百年も動かなかったアレがか!? 落ちたってどういう……」
「原因は――不明! ただ、通行人らしき女性の姿が……」
「通行人って何だ!? どんな武器を持ってた!? 爆薬か!? 魔導具か!?」
「……日傘です」
「は?」
「あと、肩です」
「肩!?」
*
一方、本人はというと。
「まあ、向こうにお花畑が見えますわね」
崩れた壁の奥に広がるのは、昔の軍用畑跡地。今では野花が咲き乱れ、小川が流れる小楽園と化していた。
「壁がなければ気づきませんでしたわ。ありがとう、石の方々」
のんきに礼を述べ、ルゥナは新たな道へと歩み出す。
*
翌日、「肩で砦を破壊した女」として彼女の目撃談が拡散。
それはやがて帝国軍上層部にも届き、軍議の議題にまで取り上げられることとなる。
しかし、本人はその頃すでに次の迷子コースに突入しており、ことの重大性など知る由もない。
壁を押したら崩れた。それだけのこと。
だけど、その“それだけ”が、帝国中を揺るがし続けるのだった。
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