悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。

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8話

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「……あら? 行き止まりですの?」

帝都北端、かつて砦として用いられていた石造りの街道遺跡。  
草に覆われた細道を歩いていたルゥナ=フェリシェは、突如として目の前に現れた分厚い石壁に立ち止まった。

「うふふ、地図通りではございますけれど……この道、どうして壁で塞がれておりますの?」

地図は上下が逆。そもそもその地図は観光用のイラスト地図。  
でも、ルゥナは迷子であることを自覚していない。彼女にとって、そこが正しい道だった。

「……とりあえず、軽く押してみますわね」

両手を添えて、そっと石に体重を預ける――その瞬間。

ゴゴゴッ……ゴンッ!!

音を立てて、石壁が大きく揺れた。  
ほんのわずかに触れただけのはずが、継ぎ目にあった老朽部分が崩れ、壁全体がズルリとずれ、豪快に――

「……あらまあ」

――崩れた。

土煙が舞い、草が倒れ、瓦礫がごとごとと転がる中、呆然とその様子を見上げるルゥナ。  
そして、ぽつりと一言。

「……ちょっと肩が当たっただけですのに」



その頃、街道の警備拠点では――

「報告! 北側壁が……落ちました!!」

「落ちた!? 砦跡の石壁がか!? 何百年も動かなかったアレがか!? 落ちたってどういう……」

「原因は――不明! ただ、通行人らしき女性の姿が……」

「通行人って何だ!? どんな武器を持ってた!? 爆薬か!? 魔導具か!?」

「……日傘です」

「は?」

「あと、肩です」

「肩!?」



一方、本人はというと。

「まあ、向こうにお花畑が見えますわね」

崩れた壁の奥に広がるのは、昔の軍用畑跡地。今では野花が咲き乱れ、小川が流れる小楽園と化していた。

「壁がなければ気づきませんでしたわ。ありがとう、石の方々」

のんきに礼を述べ、ルゥナは新たな道へと歩み出す。



翌日、「肩で砦を破壊した女」として彼女の目撃談が拡散。  
それはやがて帝国軍上層部にも届き、軍議の議題にまで取り上げられることとなる。

しかし、本人はその頃すでに次の迷子コースに突入しており、ことの重大性など知る由もない。

壁を押したら崩れた。それだけのこと。  
だけど、その“それだけ”が、帝国中を揺るがし続けるのだった。
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