悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。

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23話

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「……まぁ、活版印刷もずいぶんと細やかになりましたのね」

帝都の大通り。朝露をまとった新聞売りの少年から一部を買い受けたルゥナ=フェリシェは、何気なく一面に目を通していた。

そこに、彼女の名があった。

【“神託の旅人”、帝都を歩く】  
【風と花を従えし祝福の姫、現る】  
【農村、祭事、騎士団に恩寵を授けし者の正体は――】

「……?」

しばし目を瞬かせた後、ページをくるりとめくり、続きの記事へ。

【目撃証言:『笑顔で花を配られた』『一言で婚約破棄を回避した』『転んで人命を救った』】  
【関係者談:『猫と共に現れ、嵐のように去る』『誰も傷つけず、ただ幸福だけを置いていく』】  
【識者の分析:『これは偶然ではない。“風の加護を受けし者”である可能性が高い』】

「……ずいぶんお綺麗に書いていただいてますのね」

ルゥナは紅茶のポットを取り出し(なぜか携帯している)、新聞を読みながらベンチに腰かけた。

その横で、猫がふにゃあと伸びる。

「“祝福の姫”……少々こそばゆうございますけれど、悪い印象ではありませんわね。……ただ、婚約破棄を回避とは?」

彼女が首をかしげる一方で、通りかかった老婦人が新聞を見て足を止めた。

「あら……あ、あなた様は……!」

「ごきげんよう。こちらの新聞、読み応えがございますのよ」

「やはり……本物の姫様……!」

「いえ、わたくしは侯爵家の令嬢でして……」

「どうぞこのまま、我が店の前を三歩だけ歩いてくださいまし! 売上が三倍になると噂が……!」

「……三歩だけ、ですのね?」

「三歩で結構ですとも!」

結局、ルゥナがベンチを離れて歩き出しただけで、通りの商人たちはざわめき始めた。

「見たか!? 今、三歩分、こっち向いたぞ!」

「今日の売上、確定だな!」

「ありがたや……!」

その光景を見て、新聞記者のひとりが背後で小さく呟く。

「……これで、次号の一面も決まりだな。“歩くだけで奇跡を起こす姫”とでもしておくか……」

夕暮れ、ルゥナは丘の上でページを閉じた。

「記事というのは、事実とほんの少しの想像でできておりますのね。……不思議なものですわ」

だが彼女自身が、その“想像”の遥か上を行く存在であることに、まだ気づいていなかった。
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