真っ赤な……

みつか

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真っ赤な……

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和は、田舎から上京した。
電気関係の資格を持っていたので、直ぐに就職出来たのだが、住む場所に困っていた。

最初のうちは友人の家に宿泊させてもらっていたが、友達に彼女が出来ると彼女が友人の家に来る時は家に帰れない。
仕方がないので、ネットカフェ等で過ごした。
結局、友人の家から出る事になり家を探す事ことに。

なかなか家賃の安い家が見つからず、ネットカフェで寝泊まりしていると給料は無くなるばかり……さらには、遅刻の常習者になってしまった。
和は減給され、何度注意されても遅刻を直さなかった為にとうとうクビを宣告されてしまった。
 
田舎に帰ることも考えたが
「もう少しここで頑張ろう」
と考え、暫くは真面目に頑張るのだが、遅刻癖は治らず職を転々とする事となった。

ある日、小さな電気会社に就職が決まった。
その会社の社長さんは、遅刻する和に愛想を尽かすことなく、見守ってくれる豪快な社長だった。
そんな和をある日社長は呼び出し、一緒にお酒を酌み交わす事に。
「和、田舎から出て来た若者を説教するのは嫌なんだが……遅刻だけはどうにかならんか?何で遅刻するんだ?」
と、問いただした。
和は、今までの事を話した。
社長は、黙って和の話を聞いた。
「家賃」の問題、会社まで遠くついつい遅刻してしまう事、色んな会社をクビになって自暴自棄になってしまっている事等。
社長は、頷きながら黙って聞いていた。
その後、お酒もまわって社長自身も田舎の出で苦労した旨を話した。
「よし、分かった。和、お前うちの事務所の2階に住め。部屋は空いてる。ちょっとした条件はあるが、ゆっくりできる部屋だ。荷物をまとめて、明日すぐに来い。」
社長は、苦労している若者を放っておけないと社長の自宅に隣接している事務所の2階の部屋を格安で時々貸し出していたのだった。
たまたま、和が就職した後に空きが出たのである。
「いいんですか?明日……仕事ありますよ?」
和が尋ねる。
「気にするな!明日の仕事は2人位で大丈夫な仕事だ!今夜は遅いから、明日必ず引っ越してこい!いいな!」
社長は、和の背中をバシバシと叩き豪快に笑う。
和は、圧倒されながら頷くしかなかった。1点気になる事があったが……

次の日、約束通り和は引っ越しの準備をした。バック数個の少ない引っ越しだ。
事務所に着くと、社長から鍵を渡された。
2階に上がり、掃除をするよう言われた。
少しカビの匂いがする部屋。窓からは明るい光が差している。
台所にトイレ風呂付き、タンスと押入れもある1人には十分すぎる大きさの部屋だ。
窓を開けて、風を通し掃除する。
お昼前に社長が帰ってきて、一緒に食事に出かけた。
午後から社長と仕事に出かけ、事務所に戻ると諸作業を済ませる。
終業時間後、社長が「ちょっとした条件」を話し始めた。
(ちょっとした条件ってなんだろう……)
ドキドキしながら、真剣な表情を作っていると社長が笑いながら
「心配するな!ホントに大したことじゃない。家具……タンスだったか?まぁ、寝室に使う部屋の物をあんまり動かしてくれるな。軽そうに見えて、1人では動かせないくらい重いからな!昔、やらかしたヤツがいるんだよハハハ。大した怪我しなかったが……急に働き手が居なくなるのは俺も痛いからな!」
笑いながら社長が話す。
「なるほど。」
(ホントに大したことなかったな)
と、内心思いながら頷く。
「あ~、忘れるところだった。寝るとき、窓と平行に寝るのはやめておけ。方角で言えば……東?か。お前の為だ……守れよ。」
タラリと、額から汗が落ちる。
(急にどうした社長!意味深。こえぇ~よ。)
一気に不安になる。表情に出ていたのか社長が、和の背中をバンバンと叩き
「心配すんな!!窓が時々振動するから言っただけだハハハハハ。和はビビりだな!」
豪快に笑い飛ばされた。
(誤魔化された気がする……)
と、思ったが胸の中に閉まった。

夕食を済ませ、部屋でゆっくりする。
押し入れに入っている布団は綺麗だとの事でその布団を使う。
お風呂を済ませ、布団の上でゴロゴロしながらテレビを観る。
社長との約束。窓側に足を向けてその日は眠りについた。
翌朝、何も無くゆっくり眠れた事で疲れもない。快適だった。

数カ月が経ち、慣れてくるとふとした瞬間に社長が言った事が妙に気になりだす。
窓と平行に東側を向いて寝る。約束を破る事になるがただの好奇心だ。
「明日は休みだ。何かあっても支障がない。試してみるのも悪くない。」
ワクワクとドキドキしながら、社長の忠告を破る背徳感に高揚さえ覚える。
「きっと何もないさ。」
気楽に考えた。

布団を敷いて、布団の中にもぐり込む。
何ら変わりない。
「何だ何も起こらないじゃないか。」
安心するとすぐに睡魔に襲われる。

ぐっすりと寝ているハズなのに、何かを感じる。
ふわりと風を感じる。
生臭い匂いと同時に、真っ赤なワンピースの女性が近づいてくる。
髪は長く、濡れている?ような……
髪だけではなく、全身濡れている。
うなだれて、表情は見えない。
濡れたワンピースと濡れた長い髪の女性は急に距離を詰めて来て眼前に。

「うわーーーー!!!」

和は飛び起きた!夢だった。
だが、生臭い匂いや女性の感覚が未だ残っている。「夢」というには生々しい。
濡れていると思ったのは、「血」だった。頭から、下まで全身血まみれだったのだ。
自分の身体にも、血が飛び散っているのではないかと慌てて電気を点ける。周りを見渡し少しホッとする。夜中の3時だった。
まだ心臓がドキドキしている。顔面血だらけの生々しい女性……血まみれの顔で笑っていたのだ。
和の顔から血の気が引いた。
部屋から飛び出して行きたかったが、腰が抜けて動けそうにもない。
仕方がないので、這いつくばって布団から出る。
怖かったが、いつもの寝方で転がりテレビをつけて観る。
社長の言う事守らなかったから……
気楽に考えた自分を悔やんだ。社長は知っていたのだろうか?
一体あの女性に、何があってあんな風になったのか、まとまらない頭で考えた。
ゴロゴロしていたら、いつの間にかまた寝てしまっていた。

変わりない朝だった。
あのあと血塗れの女性は現れなかった。
「血塗れだったけど美人だったな……」
足の間に熱を感じた。
朝日の入る窓を眺めてポツリとつぶやく。

仕事の時に社長に申し訳ない気持ちで聴いてみた。
「女性が出てきました。血濡れの……」
小さく和が話すと社長はニヤリと笑う。
「和……約束守れって言っただろぅ?怖がって出ていくとか言うなよ?厄払いに女性と遊べる所にでも行って発散して来い。生きてる人間に触れて来いハハハハハハ。」
豪快に笑い飛ばしてくれたが
「今度からは、やるなよ?良くないからな……あの向きさえ向かなきゃ問題ないから、」
真剣な顔で言われると従うしかない。

約束を守りながら数年勤めたが、彼女ができたのをキッカケに彼女の近くに引っ越す事に。
彼女も出来たので、給料のもう少し良いところに転職を考えた。社長への恩もあったが、豪快な社長は、快く快諾して見送ってくれた。

数年経ち、同じ会社で働いていた男性とばったり出逢った。話の流れで、数ヶ月前に社長が亡くなった事を知らされる。
聞くところによると、不況の煽りを受けて会社経営が難しくなり、社員皆に新しい就職先を斡旋したあと、あの部屋で自ら命を絶っていた。
との事だった。
和の宿泊していたあの部屋の東側。血塗れの女性が出てきた場所で……

社長の葬儀は家族だけで行われ、残された家族も何処かへ引っ越したとのこと。
あの事務所は売りに出されていたと聞いた。
社長は、最後に血塗れの女性と一緒にイったのか……知るすべはないし、知りたくない。
もしかしたら、俺自身が社長のようになっていたかもしれない……。
和は、心の中でそっと社長へ手を合わせるのだった。








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