小さな町の不思議・怖い話

みつか

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足元1

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冬の寒い日。

狩猟の季節。

夫は猟犬を連れて山に出かけた。長年共に猟に出かけている相棒達。

「今日もよろしくな!頼むぞ!!」

そんな風に頭を撫で3匹と狩猟仲間と共に山に入っていった。

昼間に夫から連絡が入り

「隣の集落辺りで家の犬が目撃されてるから回収してくれ。山降りてるみたいだから、山道沿いに名前呼べば来るはずじゃが。集落の中に降りたら大変だから頼んだ!!」

と、連絡が来たので嫁と娘は猟犬の回収に集落横の山道へ車で乗り入れた。

山の中からチャリン……チャリン……シャリンシャリン……
微かに首輪に付けた鈴の音が聴こえてくる。
イノシシに間違えられて撃たれない様に着けているカウベルの小さい鈴。

犬の居場所を知らせる為の無線装備の首輪にも付けているので、鈴の音は2、3種類の音が響き渡る。

「トラー!トラー!!おいで~!!」

無線装備の首輪識別音から犬の名前を呼んでみた。
元気がない鈴の音。

チャリン……シャリン……チャリンチャリン

「あれ?遠いのかしら?」

2人で話しながら山道を登る。車が数台停車出来るくらいの広い場所で車を停めて犬の名前を呼んでみる。

「おーい。こっちよ~帰ろぉ~おいで~」

暫く待っていると無線機の反応が強くなる。

ピーピー……ピーッ。ピーピー……ピーッ。

無線機の反応が近くなる。

車を降りて辺りを見回していると、山道をションボリうなだれて一気に老けた感じの家の犬。

首をうなだれ、眉間にシワも寄せ、トボトボと歩く犬……。
一歩ずつ一歩ずつゆっくりと近付いてくる。

生まれてから育てていた犬。
見間違うはずが無いのだが、娘が人の犬かと思うくらいに犬の顔がしわくちゃで悩ましい表情をしていた。

「トラ?トラよね?」

犬に向かって声をかけると、申し訳無さげに犬はチラリと娘を見る。

垂れた尻尾を少ーし振るのみで、成果を上げられず途中で棄権した事を落ち込んでいる様子が一目で分かる位分かりやすい表情の犬だった。
嫁と娘は笑いをこらえることが出来ずに爆笑してしまう。

娘は笑いながら犬へ

「頑張ったよ!偉い偉い!!ちゃんと山から降りてこれる子は偉いよ~!お利口さんだったね~!頑張ったね!おやつあげようね!」

そんな風に犬と目を合わせながら頭を撫で褒めまくる。すると、少し気分も上がる犬。

嫁と娘は無線機付き首輪の電源を切ると、猟に出ている夫へ回収した事を告げる。

家に帰り、犬を小屋に繋ぐとおやつをあげて他の子達の帰りを待った。

その日の猟は、イノシシ1頭。
猟師仲間と分け犬も回収したのだが、どうしても一匹だけ見つからない。

夕暮れ時、自力で降りて来るかとも思ったがあちこち一匹で走り回っている様で山の頂上から降りて来ないのである。
夫がほら貝で

「プーップッ」
(帰ってこいの呼び方)

山に向かって呼びかけるが、当の残された犬は一人狩りを続けているのである。

「……今日はダメじゃ!暗くなるから探しに行けない。そのうち帰るだろ?帰って来ないのは放っとけ!!」

夫は怒ってしまった。
夕食を済ませると、怒っていたがやっぱり気にしている様子で外に出て犬の声や無線を確認している。

「ウォーーーン……ウオーーーー。」

山のてっぺんで甘えて鳴いている。
狼の遠吠えのような鳴き方。
『迎えに来て~』
と言うような鳴き方だ。

「山の上……あの辺か!!夜なってから……あの甘え犬は!」

怒りながらも、心配だったようで急いで準備するとトラックに有無を言わさず嫁を乗せる2人乗りの為、娘には留守番を頼むと超特急で走って行った。

山の頂上へ着くと、ほら貝を更に吹く。犬が答える。を繰り返す。

夫は山の頂上、観察の森の最奥の駐車場から更に奥。何もない真っ暗な道。

他に車は通らない。自分の車のライトだけが真っ暗な道を照らしている。

夫は、集落へ降りる獣道を下って探す事にした。

月明かりも街灯もない山の中。
見上げると夜空に星と木の影のみ。
木の影で更に真っ暗。数メートル先も見えないくらいの真の闇。

懐中電灯1個を夫が持ち、嫁は懐中電灯なし。
正確には何とか足元を照らせる位の小さなライトのみ。

昔むかし。LEDのライトでもなく。ケータイもない時代。

犬と夫との会話の為に持たされた無線機1つを持たされ嫁は真っ暗闇の中、車で待機を命じられた。
昭和の時代。

夫の言う事は『絶対』だ。

夜に猟銃の所持は違反になる為持っておらず、夫はほら貝と安全確認の為の長めの棒、登山用の長靴、無線機を装備し

「こっから降りて探すから、犬がもしここに来たら回収して。無線で犬が近くなったら分かるだろ?無線の音が鳴り続けるから……車の中じゃ聴こえにくいだろ?たまには車降りて外で聴けよ!」

真っ暗闇の山の中。
夫は猟に出かける時と同じ位の興奮モード(気が立っている)。

嫁は頷くしかなかった。
普段は優しいのだが、興奮モードだと鬼の形相で威嚇される。

噛みつかんばかりの犬と同じだった。

「気をつけてよ……」

嫁が言うと夫は片手を挙げて真っ暗な山道を少しずつ下って行った。

夫が居なくなると辺りは真っ暗。
無線機が聞こえる様に車のエンジンを切って待つ。

夜の闇の中、風の音とクフの鳴く声と虫やカエルの鳴き声が響く。

時々、犬用の無線が反応してピッピッピッと鳴る時がある。
車の中では飛び飛びになる為、車から降りて外へ。電波の入りやすい所を探す。

薄いライトの灯り。
暗闇の中ザワザワと草木が揺れる。

(早く戻って来ないかしら……不気味だわ!寒いし暗い)

そんな風に思いながら立っていると、コツンと足元で音がする。
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