mito

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花は綺麗だ。
色鮮やかで儚くて、それでいて力強くて。
雨に濡れて少し俯いているのもなんだか可愛らしい。
都会の喧騒も、たった一輪の花で少しだけ… 少しだけ…遠のいていくような気がする。

思い返すと、僕は昔から花が好きだった。
元々病弱だった僕は学校にも殆ど行けず、仲の良い友人と呼べる者は誰一人としていなかったと思う。
ある朝、僕の机に花瓶が置かれていた。
周りを見渡すとみんなが僕を見つめていて、口元は笑っていたけど、目はとても冷たくて、これがいじめというものなのだと一目で理解した。
僕は目の前の菊の花を真っ直ぐ見据えた。
その花だけは僕に微笑みかけているような気がした。

僕はそっと花に手を添え、微笑みかけた。
周りからは暴言が飛んでくる。
でも僕は、ずっと微笑みかけた。
ツーっと…涙が溢れた。

花を家に持って帰ると、押し入れに閉まってあった花瓶にさし、そっと水を注いだ。
言葉は離さないけど、僕には嬉しそうに見えた。

翌年の春。
僕の机に菊の花を置いたクラスメイトは僕の次にターゲットになり、ストレスからおかしくなって自ら命を絶った。
本当は問い詰めたかったんだ。
でも最後まで聞けなかった。
何故あの時僕を選んだのか。
そして伝えたかった。
もう怒ってなんてないよって。
一緒に花でも見に行こうよって。

もう何年経ったかな。
桜の咲くこの季節に、君とあの菊の花を今でも思い出すんだ。
多分、これからもずっと…ずっと…。
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