死にたい俺、不老不死を呪った神を殺す旅に出たら、訳アリ美女たちと日本を救う羽目になった件

Gaku

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最終決戦準備編

第42話『死にたくない理由』

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悠久の牢獄。
常世の神が、悠人の何百年という絶望を凝縮して作り出した、魂の檻。その中で、悠人の心は、神が差し出した「死」という名の、甘い毒に、飲み込まれかけていた。仲間を犠牲にすれば、この永遠の苦しみが、終わる。その、悪魔の囁きが、彼の理性を、少しずつ、確実に、溶かしていく。

現実世界の、雪に閉ざされた体育館。
仲間たちは、絶望的な状況に、それぞれが、それぞれのやり方で、必死に抗っていた。

「ダメです!心拍、さらに低下!このままでは、臓器が、不可逆的なダメージを……!」
麗子は、ありったけの医療器具を駆使し、悠人の命を、物理的にこの世に繋ぎ止めようと必死だった。その顔には、かつて救えなかった少女の面影が、浮かんでいるかのようだった。

「クソッ!脳波のパターンが複雑すぎて、干渉ポイントが絞れない!神の野郎、こっちのハッキングを逆利用して、悠人の意識をさらに深い層に引きずり込んでる!」
莉奈の指が、有り得ない速度でキーボード上を舞う。しかし、彼女の論理と科学は、魂という、あまりに曖昧で、あまりに巨大な迷宮の前で、空回りするばかりだった。

「そもそも、この状況における『契約』の有効性には、著しい疑義が生じます!当事者の正常な判断能力が欠如している状態での合意は、民法第96条における強迫に該当し、取り消しが可能であると解釈するのが相当……!」
慧は、ぶつぶつと、完全に誰も聞いていない、しかし、彼なりの、必死の抵抗を試みていた。

「ああ、もう!理屈はどうでもええねん!おい、悠人!聞こえとるんか、この朴念仁!あんたが死んだら、この世で一番オモロい男がおらんようになるやないか!わてを退屈させて、楽しいんか!?ええ加減に、起きんかい!」
アキラは、悠人の胸ぐらを掴み、涙ながらに、彼女の語彙の中で最大級の賛辞を、罵声として浴びせかけていた。

だが、彼らの声は、言葉としては、悠人には届かない。神が作り出した、分厚い絶望の壁に、弾き返されてしまうからだ。

しかし。
言葉にならない、彼らの「想い」だけは、確かに、悠人の魂の、最も深い場所に、届いていた。



悠人の精神世界。
神は、満足げに、悠人が自らの誘惑に堕ちていく様を、眺めていた。
「さあ、悠人。もう、楽になろう。その手を取れば、全てが、終わる」
差し伸べられた、少年の小さな手。それに、悠人の、魂の指が、ゆっくりと、触れようとした、その瞬間だった。

―――ごんっ。

不意に、悠人の心の中に、直接、鈍い衝撃が響いた。それは、現実世界で、猛が、どうしようもない苛立ちと、祈りを込めて、体育館の床を、ただ、強く、強く、殴りつけた音だった。

その、不器用で、何の力もないはずの物理的な衝撃が、悠人の牢獄に、ほんの、髪の毛一本ほどの、亀裂を入れた。

その亀裂から、流れ込んでくる。

―――ぎゅっ。

現実世界で、猛が、動かない悠人の手を、ただ黙って、力強く、握りしめた。その、不器用だが、ゴツゴツとした、温かい感触。それは、幻影ではない、確かな「物理的な繋がり」となって、悠人に「今、ここに、仲間がいる」という、忘れかけていた感覚を、思い出させた。

―――がやがやがやっ!

アキラの、涙声の罵声。それは、言葉の意味を失い、ただ、やかましくて、エネルギッシュで、生命力に満ち溢れた「音の塊」となって、悠人の、静かで、モノクロームだった牢獄を、めちゃくちゃに、掻き乱していく。それは、死の静寂とは、真逆の、「生きろ」という、剥き出しの欲望の音だった。

―――きら、きら。

栞が、悠人の傍らで、ただ静かに、彼の旅の始まりから今までの出来事を、物語のように、語り続けていた。
座敷童子との出会い。臆病な豪腕。秋葉原の電子霊。機械たちのレクイエム。雪女の熱い涙。古都の嘘と真実。沖縄の、ニライカナイの風。

彼女が紡ぐ言葉の一つ一つが、小さな、温かい光の粒となって、悠人の、灰色だった世界に、少しずつ、色を取り戻させていく。
そうだ。俺の人生は、絶望だけじゃ、なかった。失うだけの、物語じゃ、なかった。
俺は、こいつらと出会って、笑って、怒って、泣いて。
たくさんの、温かい記憶を、手に入れていたじゃないか。

「……うるさい」
悠人の牢獄の中で、神が、初めて、不機嫌そうに、眉をひそめた。
「余計なノイズが、混じってきたな。だが、もう遅い。さあ、悠人。選べ。過去の、終わらない苦しみか。未来の、安らかなる無か」

神が、最後の選択を迫る。
悠人の脳裏に、彼を責め立てる、過去の亡者たちの顔が、次々と浮かび上がる。
『お前だけが、生きている』
『化け物』
『疫病神』

そうだ。俺は、独りだ。俺が、死ねば、全てが……。

―――その時だった。

悠人の心に、仲間たちの、今の顔が、鮮明に、浮かび上がった。

涙ながらに、自分の心臓に電気ショックを与えようとしている、麗子。
血の滲むような顔で、キーボードを叩き続ける、莉奈。
ぶつぶつと、六法全書を諳んじている、慧。
自分の財産を全て投げ打ってでも助けようと、衛星電話で叫んでいる、瑠璃。
ただ、真っ直ぐな瞳で、自分を信じ続けている、美咲。
ただ、黙って、自分の手を、握りしめている、猛。
やかましく、自分の名を、呼び続けている、アキラ。
自分の物語を、紡ぎ続けている、栞。

彼らの顔は、苦痛に歪み、絶望に濡れていた。
俺が、死を選べば、この顔が、俺の、最後の記憶になるのか。

―――嫌だ。

心の底から、声が、湧き上がった。

―――嫌だ。こんな顔で、お別れなんか、したくない。

俺は、本当に、死にたいのか?
この、かけがえのない、やかましくて、どうしようもなくて、しかし、最高に愛おしい仲間たちとの時間を、自ら、終わらせてしまいたいのか?

違う。
俺は、もう、死にたくなんかない。
死ぬのが、怖いんじゃない。
こいつらを失うことが、この温かい繋がりが、なくなってしまうことが、何よりも、怖いんだ。

「……どうしたんだい、悠人?早く、選びなよ」
神が、焦れたように、催促する。

悠人の脳裏に、仲間たちの、笑顔が浮かんだ。
沖縄の海で、馬鹿みたいにはしゃいでいた、笑顔。
焼肉を囲んで、しょうもないことで、言い争っていた、笑顔。

ああ、そうだ。俺は、こいつらの、この笑顔が、好きなんだ。
この笑顔を、守れるなら。
この笑顔と、一日でも、一時間でも、一秒でも長く、一緒にいられるなら。

永遠の地獄だって、上等だ。

「……うるせえええええええええっ!!」

悠人は、何百年ぶりかに、心の底から、腹の底から、魂の、全てを絞り出して、叫んだ。

「俺は、まだ、死んでやらねえぞ、クソガキ!!」

それは、神に対する、怒りの絶叫だった。

「俺は、こいつらと、まだ、見てえもんが、山ほどあるんだ!食いてえもんも、笑いてえ話も、まだ、山ほど、残ってんだよ!!」

それは、自分自身に対する、決別と、誓いの言葉だった。

「俺は!生きたい!こいつらと、一緒に、生きていたいんだ!!」

それは、彼の、何百年という、長い、長い、孤独な旅の中で、初めて、自らの意志で、心の底から絞り出した、純粋な、剥き出しの、「生きたい」という、魂の叫びだった。

―――その瞬間、世界が、砕け散った。

神が作り出した、悠久の牢獄が、悠人自身の、「生きたい」という、あまりに強大な、意志の力によって、内側から、木っ端微塵に、爆発した。

彼を責め立てていた、過去の亡者たちの幻影が、全て、彼が愛した、本来の、温かい笑顔へと変わっていく。
母が、友が、妻が、子供たちが、みんな、悠人に向かって、優しく、微笑んでいる。
『それで、いいんだよ』
『お前は、幸せに、なっていいんだ』
『私たちを、忘れるな。でも、囚われるな』
『前へ、進め』

温かい光が、悠人の、全身を、包み込んでいく。



現実世界。
「……心拍、停止!」
麗子の、絶望的な声が、響き渡った。

しかし、次の瞬間。
ぴくり、と、悠人の指が動いた。
そして、ゆっくりと、その瞼が、開かれた。

その瞳には、もう、かつてのような、諦観も、絶望の色もなかった。そこにあったのは、仲間たちを守り、神の理不尽な遊びに、真っ向から立ち向かうための、鋼のような、決意の光だった。

「……わりい。ちょっと、寝てた」

悠人は、にかっと、不敵な笑みを浮かべて、そう言った。
その一言で、仲間たちの目から、一斉に、涙が、溢れ出した。

夜が、明けていた。
嘘のように、猛吹雪は、止んでいた。
割れた体育館の窓から、朝の、清浄な光が、差し込んでくる。
雪に覆われた、真っ白な世界が、朝日に照らされて、キラキラと、宝石のように、輝いていた。

一行は、廃校の外に出る。
冷たく、澄み切った空気が、火照った頬に、心地よかった。
その、視線の先。
北の空に、全ての始まりの場所であり、全ての終わりの場所となるであろう、悠人の故郷、青森の森が、静かに、彼らを、待っていた。

一行は、もう、何も言わなかった。
ただ、互いの顔を見合わせ、強く、強く、頷き合う。
最後の試練を乗り越え、彼らの心は、今、完全に、一つになっていた。
決戦の時は、来た。
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