死にたい俺、不老不死を呪った神を殺す旅に出たら、訳アリ美女たちと日本を救う羽目になった件

Gaku

文字の大きさ
47 / 51
最終決戦編

第47話『神との契約、人との絆』

しおりを挟む

「私の、負けだよ」

その、子供のように澄んだ声は、神の敗北宣言であり、同時に、人間という、予測不能で、不完全で、そしてあまりに愛おしい存在への、最大限の賛辞だった。
悠人の「答え」は、神が用意した三つの悲劇の脚本を、見事に破り捨てた。それは、支配者たる神の想定を遥かに超えた、被造物による、静かで、しかし、革命的な独立宣言だった。

神は、腹を抱えて笑い転げた後、涙の滲んだ目で、満足げに悠人を見つめた。
「君は、私が用意したどの結末よりも、遥かに面白いエンディングを、自らの手で創り出してくれた。君たちの『絆』という名の、目に見えない相互作用は、この宇宙の全ての原子の動きを計算できる僕の能力すら超える、最高の変数だったようだね」

その言葉に、悠人はただ、不敵な笑みを返すだけだった。もう、この存在に対して、怒りも憎しみも感じなかった。ただ、目の前に、とてつもなく壮大で、そして、少しだけ寂しがり屋な「遊び相手」がいる。そう感じていた。

「だから、褒美をやろう」
神は、そう言うと、悠人に歩み寄った。
「君のその不老不死の力を、解いてやることはできない。それは、この世界の因果に、あまりにも深く組み込まれすぎてしまったからね。でも、その性質を『書き換える』ことならできる」

神は、いたずらっぽく片目を瞑った。
「この力は、もう君を、永遠の孤独で苦しめる『呪い』ではない。世界の、ほんの小さな綻びを繕い、因果のバランスを保つための『楔(くさび)』となるだろう。いわば、この世界の『免疫機能』のようなものだ。君は、誰よりも、この世界の痛みに敏感になる。そして、誰よりも、その痛みを癒すための旅を続けることになる」

その提案は、あまりに、神らしいものだった。悠人を解放するのではなく、新たな役割を与える。彼の旅を終わらせるのではなく、新たな意味を付与して、永遠に続けさせる。
しかし、悠人は、もうそれを「苦」だとは感じなかった。
なぜなら、その旅には、もう、最高の仲間たちがいるのだから。

「ああ、いいぜ」
悠人は、頷いた。
「面白そうだ。やってやるよ」

その答えを聞いて、神は、心から嬉しそうに微笑むと、そっと、その小さな指を、悠人の額に伸ばした。
指先が、悠人の眉間に、触れた。

その瞬間、悠人の全身を、雷に打たれたような衝撃が貫いた。
しかし、それは、痛みではなかった。
彼の体内に、何百年もの間、澱のように溜まり、彼を苛み続けてきた、黒く、重く、冷たいエネルギー。それが、まるで、純白の光に触れた墨のように、すぅっと、霧散していくのが分かった。
時間の不協和音。世界の理から断絶された、孤独の周波数。それらが、一瞬にして、調律されていく。
代わりに、彼の魂の奥底から、温かく、そして、穏やかな、金色の光が、泉のように湧き上がってきた。
それは、呪いが解けたのではない。
呪いが、「祝福」へと、その性質を、完全に変質させた瞬間だった。

悠人は、目を見開いた。
世界が、違って見えた。いや、聞こえた。
これまで、ただの音の羅列でしかなかった風の音が、今は、優しい歌のように聞こえる。
足元の大地から、力強い生命の鼓動が、トクン、トクンと伝わってくる。
遠く離れた海で、小さな命が生まれようとしている、その産声の予兆。
大陸の反対側で、人々の怒りと悲しみが集まり、小さな争いの火種が生まれようとしている、その不穏な気配。
世界の、あらゆる声が、彼の魂に、直接流れ込んでくる。
それは、膨大な情報量でありながら、不思議と、苦痛ではなかった。まるで、巨大なオーケストラの、全ての楽器の音を、同時に、しかし、完璧な調和の中で聴いているかのようだった。

彼は、もう「死ねない」のではない。
彼は、この世界と、そこに生きる全ての命と共に、「生き続ける」存在へと、生まれ変わったのだ。

「す、すごい……」
莉奈が、ヘルメットのゴーグルを何度も拭いながら、呆然と呟いていた。
「悠人の生体エネルギー反応、今まで観測してきた、あのカオスで不安定な波形が、完全に消えた……。代わりに、何これ……? まるで、星の運行みたいに、完璧に秩序だった、巨大で、美しい、エネルギーの流れが……」
莉奈は、そのあまりに美しいデータの波形に、科学者として、畏敬の念さえ覚えていた。

「気が……変わりました」
栞が、そっと涙を拭う。
「これまで悠人さんから感じていたのは、どこまでも深く、冷たい、孤独の気でした。でも、今は……温かいです。まるで、春の陽だまりの中にいるように、全てを包み込んでくれるような、慈しみに満ちた気に……」

「なんか、よく分かんねえけどよ!」
猛が、ガシガシと頭を掻きながら、叫んだ。
「今の悠人は、すげえ、良い匂いがするぜ! 腹の減る、良い匂いだ!」
その、あまりに動物的な感想に、健吾も「ああ、分かる。雨上がりの土みたいな、落ち着く匂いだ」と、大きく頷いた。
彼らは、理屈では理解できずとも、その本能で、悠人の魂が、根本から救われたことを、感じ取っていた。

悠人は、そんな仲間たちの顔を、一人一人、ゆっくりと見渡した。
彼らの心配そうな、しかし、どこか誇らしげな顔。
ああ、こいつらのせいで、俺は、死ぬのをやめたんだ。
こいつらのせいで、俺は、また、面倒くさい役割を、背負っちまった。
だが、悪くない。
いや、最高だ。

悠人は、仲間たちに向かって、悪戯っぽく笑いかけた。
「心配すんな。重荷じゃねえよ」
「こいつは、お前たちと、この世界で、もうちっとだけ長く遊ぶための、最高の相棒だ」

その言葉に、仲間たちの顔が、一斉に、ほころんだ。

神は、その光景を、満足げに見つめていた。
そして、自分の役割が、完全に終わったことを悟った。

「私の『遊び』は、これで終わりだ」
神は、静かに告げた。
「この世界は、もう私の手を離れた。これからは、君たち自身の力で、より豊かに、より複雑に、そして、僕にも予測できないほど、面白く進化していくだろう。実に、楽しみだ」

神は、悠人の後ろに立つ仲間たちに、一人ずつ、その感情のない、しかし、どこまでも深い瞳を向けた。それは、まるで、卒業していく愛しい生徒たち一人一人に、最後の言葉をかける、教師のような眼差しだった。

「橘 栞」
神は、まず、栞を見た。
「君の祈りは、世界のノイズを調律する、美しい音楽だった。その清らかな音色は、どんな物理法則よりも強く、この物語を、優しく支えていたよ」

「田中 猛」
次に、猛を見た。
「君の純粋な力は、どんな理屈よりも強い。その、どこまでも真っ直ぐな想いが、複雑に絡み合った因果の糸を、何度も、力強く断ち切ってくれた」

「鈴木 莉奈」
莉奈は、神と目が合うと、少しだけ、びくりと肩を震わせた。
「君の知性は、神の領域に、最も近い場所にいた。君は、僕が作ったこの世界の『ソースコード』を、誰よりも深く読み解こうとしたね。実に、スリリングだったよ」

「佐藤 健吾」
「君は、モノに込められた『想い』を聞いた。それは、僕が、この世界のあちこちに隠しておいた、ささやかな詩(うた)を、君が見つけてくれたようなものだ。ありがとう」

「伊集院 麗子」
「君は、科学の限界で、魂の在り処を探した。その、飽くなき探究心こそが、生命を進化させる、本当の原動力なのだよ」

「一条 アキラ」
「君は、嘘の中に、真実を見た。その、少しだけ皮肉な目は、誰よりも優しく、この物語の核心を、常に見抜いていたね」

「西園寺 慧」
「君は、理不尽を、法で裁こうとした。その、愚かで、しかし、あまりに尊い挑戦は、人間が生み出した、最高の模様の一つだった」

「朝倉 美咲」
「君の、曇りのない純粋な心は、荒ぶる神さえも鎮めた。それは、どんな権力でも決して手に入れることのできない、本物の『王の器』の証だ」

「三条院 瑠璃」
そして最後に、瑠璃を見た。
「君は、富では決して買うことのできないものを、ようやく見つけたようだね。退屈との戦いは、これからが本番だ。せいぜい、楽しむといい」

一人一人に、最後の言葉を告げ終えると、神は、再び悠人に向き直った。
その顔には、初めて、ほんのわずかな、寂しさのような感情が、浮かんでいるように見えた。

「さらばだ、悠久の旅人たち」
「願わくば、君たちの物語が、永遠に、続くことを」

そう言い残すと、神の体は、ふわりと宙に浮き、やがて、無数の光の粒子となって、空に、溶けるように消えていった。
彼は、最後まで、善でも悪でもない、ただ、純粋な「観察者」であり続けた。

神が、完全に、去った。
その瞬間。
異界と化していた森が、一斉に、息を、吹き返した。

ゴゴゴゴ……という地響きと共に、ありえない角度にねじ曲がっていた木々が、まるで、長い眠りから覚めて伸びをするように、ゆっくりと、本来あるべき姿へと戻っていく。
重力を無視して浮いていた巨岩たちが、静かに、しかし、確かな重みを持って、再び、緑の苔の上に腰を下ろす。
閉ざされていた小川の氷が、パリン、という軽やかな音を立てて砕け、雪解け水の清らかなせせらぎが、何百年ぶりかに、森に響き渡った。
地面を覆っていた不自然な雪が、春の陽光に照らされ、瞬く間に溶けていく。その下から、福寿草や、土筆(つくし)が、待っていましたとばかりに、一斉に顔を出す。

そして、どこからともなく、鳥たちが、戻ってきた。
ホーホケキョ、という鶯の、少しだけ、たどたどしい、しかし、力強い鳴き声が、森中に響き渡った。それを合図にしたかのように、他の鳥たちも、一斉に、生命の喜びを歌い始める。

全てが、終わったのだ。
いや、全てが、始まったのだ。

一行は、言葉もなく、その美しく再生した、故郷の森に、立ち尽くしていた。
悠人は、ゆっくりと、目を閉じた。
そして、胸いっぱいに、春の匂いを、吸い込んだ。
土の匂い。若草の匂い。花の蜜の匂い。そして、生命そのものが放つ、温かい匂い。
それは、彼が、何百年という時間の中で、忘れかけていた、ただの「日常」の匂いだった。

戦いは、終わった。
彼の、長すぎた、個人的な復讐の旅は、終わりを告げた。
しかし、悠人の、そして、彼の最高の仲間たちの、新しい「旅」は。
これから、新たな意味を持って、再び、始まろうとしていた。
彼らの、終わることのない、悠久の旅が。
しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...