無詠唱? キャンピングカーで大冒険。虐げられた少女を拾った俺は、規格外の力と文明の利器で彼女を全力で救う件

Gaku

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第4章:雪解けと、騎士の鎧

第18話:直角に歩く男、騎士ゼイク 〜「完璧」とは、「一箇所のヒビで全壊するガラス細工」である〜

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 季節は、秋が冬へと席を譲ろうとする、その曖昧な境界線の上にあった。

 王都の北側に広がる広大な演習場には、冷たく乾いた風が吹き抜けていた。
 空は高く、薄氷を張ったように透き通った水色をしている。そこから降り注ぐ陽光は、真夏のような暴力的な熱量こそ失っているものの、凛とした透明度を持ち、地上のあらゆる輪郭を鋭く切り取っていた。
 風が吹くたびに、演習場の周囲を取り囲む欅(けやき)の並木が、カサカサと乾いた音を立てて身を震わせる。舞い落ちた枯れ葉が、地面の上を転がり、渇いた土の匂いと、微かに錆びた鉄の匂いを巻き上げていく。

 そんな、冬の足音が聞こえる静かな午後の道を、瞬(シュン)とメイは並んで歩いていた。

「……ねえ瞬、本当にその人で大丈夫なの?」

 メイが、少し不安そうに瞬の袖を引いた。
 瞬が見立てた白い革のアイガードを左目に着けている。かつてのようにボロ布で顔を隠すこともなく、背筋を伸ばして歩いているが、その表情には微かな陰りがあった。
 リナから聞いた「誰も組みたがらない問題児」という言葉が、ずっと胸につかえているのだ。

「大丈夫だって。リナちゃんが『実力はS級』って言ってたし」

 瞬は、メイの手を握り直しながら、あくまで楽観的に答えた。
 彼の歩調は軽やかだ。足元の小石を蹴飛ばし、それが綺麗な放物線を描いて飛んでいくのを目で追いながら、彼は続ける。

「それにさ、俺たちに必要なのは『普通の常識人』より、ちょっとくらい変わってる奴のほうが面白いじゃん? 俺だって大概変な奴扱いされてるし、メイだって……あ、いや、メイは可愛いからいいんだけど」
「……もう」

 メイは呆れたように頬を膨らませたが、繋がれた手から伝わってくる瞬の体温に、少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
 瞬は、いつだってこうだ。
 不安なことや難しいことを、単純明快な明るさで笑い飛ばしてくれる。
 「問題児」という言葉に身構えていたメイだったが、瞬のその能天気な横顔を見ていると、なんだか大したことではないような気がしてくるから不思議だ。

「お、あそこだ。第四演習場」

 瞬が指差した先。
 石造りの壁に囲まれた広場から、鋭い金属音と、気合の入った掛け声が聞こえてきた。

 ***

 演習場の中に足を踏み入れた瞬間、場の空気が変わった。
 そこには、数百人の兵士たちが訓練を行っていたが、彼らが作り出す熱気とは明らかに異質な、冷たく研ぎ澄まされた空間が、広場の隅に一つだけ存在していた。

 まるで、そこだけ空気が凍結しているかのようだった。

 その中心に、一人の男がいた。
 身長は瞬より頭一つ分高い。全身を、鏡のように磨き上げられた白銀の全身鎧(フルプレートアーマー)で包んでいる。
 太陽の光が鎧に反射し、直視できないほどの輝きを放っている。泥一つ、傷一つ、指紋一つさえも見当たらない、異常なまでに完璧な輝きだ。

「……せいッ!!」

 男が木刀を振り下ろす。
 ヒュンッ、という風切り音と共に、空気が真っ二つに裂けるような鋭さで木刀が走る。
 そして、ピタリと止まる。
 微動だにしない。
 まるで彫像のように静止した後、男は機械仕掛けの人形のような正確さで元の構えに戻り、再び同じ軌道、同じ速度、同じ呼吸で木刀を振り下ろした。

「……せいッ!!」

 その動作には、人間特有の「揺らぎ」が一切なかった。
 疲労によるズレもなければ、気分のムラによる乱れもない。
 ただひたすらに、定規で測ったような正確無比な反復運動。

 周囲の兵士たちは、その男から半径十メートル以内には近づこうとせず、遠巻きに、まるで腫れ物に触れるような視線を送っている。
 その空間だけが、世界から切り離された「真空」のように見えた。

「うわぁ……」

 瞬が、思わず声を漏らした。
 それは呆れ半分、感嘆半分といった響きだった。
 素人の目にはただの素振りに見えるかもしれない。だが、身体能力が規格外である瞬には分かった。
 あの男の剣筋には、一切の無駄がない。重心移動、筋肉の収縮、呼吸のタイミング。すべてが数式のように完璧に計算され尽くしている。

「あいつが、ゼイクか」

 瞬はメイに目配せをして、男の方へと歩み寄った。
 ジャリ、ジャリと足音が近づいても、男――ゼイクは素振りを止めない。
 彼にとっての世界は、今、自分と木刀の軌道の中に完結しているようだった。

「よう! こんにちは!」

 瞬が、いつもの調子で明るく声をかけた。
 その瞬間。

 ピタリ。

 ゼイクの動きが止まった。
 振り下ろされた木刀が、地面スレスレ、数ミリのところで静止している。
 数秒の沈黙。
 風が吹き抜け、ゼイクの鎧のマントを揺らしたが、彼自身は岩のように動かない。

 やがて、彼はゆっくりと、錆びついた扉が開くような重厚な動作で、首だけをこちらに向けた。
 兜のバイザーの奥から、冷徹な青い瞳が覗く。
 その視線は、瞬とメイを「人間」として見ているというよりは、「処理すべきエラーデータ」としてスキャンしているような、無機質な冷たさを帯びていた。

「……貴様らか」

 声は、低温で響くバリトンだった。感情の起伏がなく、まるで法律の条文を読み上げるような響き。

「ギルドから連絡のあった、無礼極まりない英雄というのは」
「無礼!? 会って三秒でいきなり失礼だな!」

 瞬がツッコミを入れるが、ゼイクは無視して、懐から真っ白なハンカチを取り出した。
 そして、自分の鎧の肩口を、サッ、サッと拭った。まるで、瞬の言葉が飛沫となって汚したかのように。

「リナ嬢から聞いている。デタラメな力だけで成り上がった『英雄』と、その連れの『魔女』だとな」

 ゼイクの視線が、メイのアイガードに向けられる。
 一瞬、メイの体が強張る。
 だが、ゼイクはすぐに興味を失ったように視線を外し、再び瞬を見た。

「帰れ。私は貴様のような、規律(ルール)を持たぬ者とは組まない」

 取りつく島もない拒絶。
 瞬は眉をひそめ、腰に手を当てた。

「おいおい、まだ何も話してないだろ? なんで俺がルール持ってないって決めつけるんだよ」
「見ればわかる」

 ゼイクは木刀を置き、瞬の方へと向き直った。
 そして、驚くべき行動に出た。
 彼は瞬の足元から頭のてっぺんまでを、指で四角いフレームを作るようにして確認し始めたのだ。

「まず、立ち方だ。重心が右足に寄りすぎている。傾き角度、約三度。美しくない」
「は?」
「次に装備だ。剣の柄に巻かれた革紐が、二ミリほど解れている。整備不良だ。論外」
「細かっ!」
「そして何より……」

 ゼイクは、瞬の顔の前で人差し指を立てた。

「貴様のその、ヘラヘラとした表情だ。戦場において、笑顔など不要。必要なのは、冷静な判断と、完璧な手順(メソッド)のみ」

 ゼイクは言い放つと、カシャン、と音を立てて踵を返した。
 その動きは、直角だった。
 文字通り、九十度に体を回転させ、一歩目を踏み出し、また九十度に曲がって元の位置に戻る。
 彼の歩く軌跡は、完璧な正方形を描いていた。

「……なんだあの動き。ロボット掃除機かよ」

 瞬は呆れて口を開けたまま、隣のメイを見た。
 メイもまた、目を丸くしている。
 だが、瞬の予想とは裏腹に、メイの瞳には呆れの色はなく、どこか悲しげな色が浮かんでいた。

「……瞬」
「ん? どうした? あんな堅物、ほっといて帰るか?」
「ううん。……あの人、怖がってる」
「怖がってる? あいつが?」

 瞬は再びゼイクを見た。
 完璧な鎧に身を包み、完璧な動作で素振りを再開したその姿は、自信の塊にしか見えない。隙など微塵もなく、他者を寄せ付けない威圧感を放っている。

「……私には、わかる気がする」

 メイは、自分の胸元をぎゅっと握りしめた。
 かつて、自分がボロ布で顔を隠し、誰とも目を合わせずに生きていた頃の感覚。
 世界は危険に満ちていて、少しでも気を抜けば傷つけられる。だから、自分だけの殻に閉じこもり、分厚い壁を作って身を守るしかなかった。

 あの騎士の「完璧な鎧」も、「厳格なルール」も。
 それは、彼の身を守るための、悲しいほどに強固な「殻」なのではないか。

「……話してみる」

 メイは意を決して、一歩前に踏み出した。

「おい、メイ?」

 瞬の制止を聞かず、メイはゼイクの背中に近づいていった。
 素振りの音が止まる。
 ゼイクは振り返らない。背中越しに、冷たい殺気のようなものを放っている。

「邪魔だと言ったはずだ。去れ」
「……鎧、重くないですか?」

 メイの声は震えていたが、澄んでいた。
 ゼイクの肩が、ピクリと動く。

「……何の話だ」
「その鎧。傷一つなくて、ピカピカで……とても綺麗です。でも、それを維持するのは、すごく大変なんじゃないですか?」

 ゼイクがゆっくりと振り返る。
 バイザーの奥の瞳が、初めて感情の色――動揺と苛立ち――を帯びてメイを睨んだ。

「貴様に私の何がわかる。騎士たるもの、身だしなみは魂の鏡だ。常に完璧であってこそ、民を守る剣となれる」
「でも」
 メイは、まっすぐにゼイクの目を見つめた。
 紫の瞳が、揺らぐことなく彼を射抜く。

「そんなにガチガチに固めていたら……転んだ時、痛いですよ」

 沈黙が落ちた。
 演習場の喧騒が遠のき、風の音だけが響く。

 ゼイクの目が、わずかに見開かれた。
 図星だったのか、あるいは予想外の言葉に虚を突かれたのか。
 彼の完璧な「型」が、一瞬だけ揺らいだように見えた。

 彼が最も恐れていること。それは「失敗」だ。
 手順通りに動くこと。ルールを守ること。正しくあること。
 それに固執するのは、そうしていれば安全だからだ。「正解」を選び続けていれば、誰も自分を責めないし、予期せぬ不幸に見舞われることもない。
 そう信じているからこそ、彼は「混沌」や「デタラメ」を象徴する瞬のような存在を、生理的に拒絶するのだ。

「……ふん」

 ゼイクは鼻を鳴らし、わざとらしく視線を逸らした。
 彼は木刀を腰に差すと、まるで汚いものでも見るかのように、手袋をパンパンと払った。

「転ぶ? 私がか? ……笑わせるな」

 ゼイクは冷笑を浮かべ、瞬の方へと歩み寄った。
 カシャン、カシャン、と正確なリズムを刻む足音。
 彼は瞬の目の前、正確に一メートルの距離で立ち止まった。

「いいだろう。そこまで言うなら、貴様らが私の『隣』に立つ資格があるか、試してやる」

 彼は懐から、一枚の羊皮紙を取り出した。
 そこには、ギルドの正式な依頼書とは違う、彼自身が書いたと思われる幾何学的な図面と、びっしりと細かい文字で書かれた指示書があった。

「これは私が考案した、特別演習任務だ。北の森に現れた『暴走ゴーレム』の討伐。ただし」

 ゼイクは羊皮紙を瞬の胸に押し付けた。

「私の指示(メソッド)に従うこと。一歩の遅れも、一手の無駄も許さない。私の完璧な作戦通りに動けるなら、組んでやらんでもない」

 上から目線の、傲慢極まりない条件。
 普段の瞬なら、「めんどくせぇ!」と断っていただろう。
 だが、瞬はチラリとメイを見た。
 メイは、心配そうに、けれどどこか期待を込めた目でゼイクを見ている。
 彼女が「この人は自分と同じだ」と感じたなら、それはきっと放っておけない理由があるのだろう。
 それに、瞬自身も少しだけ興味が湧いていた。この堅苦しい鎧の中身が、一皮剥けばどうなっているのか。

「……へえ、面白そうじゃん」

 瞬は羊皮紙を受け取り、ニカっと笑った。
 それは、ゼイクの冷徹な空気を一瞬で暖めるような、太陽のような笑顔だった。

「やってやるよ。その代わり、俺たちが勝ったら、そのピカピカの鎧にサイン書いてやるからな」
「……貴様、私の神聖な甲冑に落書きする気か!?」
「サインだよ、サイン! 英雄シュンの直筆だぞ、プレミアつくぜ?」

 瞬の軽口に、ゼイクのこめかみがピキピキと引きつるのが見えた。
 だが、メイは安堵したように、小さく微笑んだ。

「行こう、瞬。ゼイクさん」

 こうして、世界で一番噛み合わない三人の、奇妙な共同戦線が幕を開けた。
 直角に歩く騎士と、規格外の英雄と、彼らを見守る魔女。
 冬の冷たい風が、三人の背中を押すように吹き抜けていった。

 ***

 北の森は、王都の演習場とは違い、鬱蒼とした原生林が広がっていた。
 木々は葉を落とし、黒々とした枝を空に向かって伸ばしている。地面は湿った腐葉土と、半分凍りかけた泥に覆われ、歩くたびにグチャリと不快な音を立てた。
 日差しは森の奥まで届かず、薄暗い霧が立ち込めている。

 その悪路を、ゼイクは信じられないことに、一定のリズムと歩幅で進んでいた。
 泥を避けるためにジグザグに進むのではなく、あえて泥の中を直進し、汚れるたびに「チッ」と舌打ちをしては、布で鎧を拭う。
 その徹底ぶりは、もはや執念と呼ぶにふさわしかった。

「A地点到着。予定時刻より十二秒の遅れだ。貴様らの歩行速度が不安定なせいだぞ」

 ゼイクが懐中時計を確認し、神経質に指摘する。
 瞬はあくびを噛み殺しながら、頭の後ろで手を組んだ。

「いいじゃん、十二秒くらい。誤差だよ誤差」
「誤差だと!? その誤差が戦場では命取りになるのだ! 歯車の一つが狂えば、機械は動かなくなる。組織も同じだ!」
「はいはい。で、ゴーレムはどこにいんの?」

 ゼイクは地図を広げ、指でルートをなぞった。

「事前調査によれば、この先の開けた場所(クリアリング)に潜伏しているはずだ。作戦通りに行くぞ。私が正面から注意を引きつけ(囮)、その隙に貴様が右側面から回り込み、関節部を攻撃して体勢を崩す。そしてトドメは……」

 ゼイクが綿密なプランを説明し始めた、その時だった。

 ズズズズズ……。

 地面の底から、腹に響くような重低音が鳴り響いた。
 鳥たちが一斉に飛び立ち、空気がビリビリと震える。

「……なんだ?」
 ゼイクが言葉を切る。

 次の瞬間。
 彼らの足元の地面が、爆発したように盛り上がった。

「うおっ!?」
「きゃあ!」

 瞬がとっさにメイを抱きかかえ、横っ飛びに回避する。
 ゼイクもまた、教科書通りのバックステップで距離を取った。

 土煙の中から現れたのは、彼らの想定を遥かに超える代物だった。
 ゴーレム。確かに素材は岩と土だ。
 だが、その形状は「人型」ではなかった。
 無数の岩が不規則に結合し、まるで巨大な芋虫か、あるいは不定形の粘土細工のようにうねうねと動いている。
 しかも、その大きさは「事前調査」にあった三メートル程度ではなく、優に十メートルを超えていた。

「な、なんだこれは……!?」

 ゼイクの声が裏返った。
 彼は慌てて地図と羊皮紙を見比べる。
 
「話が違う! 報告書には『人型、全高三メートル、動作は緩慢』と書いてあった! これは……形状分類不能! サイズ超過! 予測パターンに該当しない!」

 ゼイクの瞳孔が開く。
 彼の脳内コンピューターが、エラーメッセージを吐き出し続けているのが目に見えるようだった。
 「想定外」。
 それが、彼にとって最も恐ろしい事態だった。
 ルールが通じない。手順が役に立たない。
 彼の作り上げた完璧な世界に、混沌という名の亀裂が入る。

「おいゼイク! 作戦どうすんだ!」
 瞬が叫ぶ。

「ま、待て! 再計算する! 敵の重心位置を特定し、弱点属性を分析し、新たなフォーメーションを……!」

 ゼイクがブツブツと独り言を呟きながら後ずさる。
 しかし、現実は彼の計算を待ってはくれなかった。
 巨大な泥の塊が、鞭のようにしなり、ゼイクめがけて振り下ろされたのだ。

「危ない!」

 メイの悲鳴が響く。
 ゼイクが顔を上げた時には、もう回避不可能な距離まで土塊が迫っていた。
 
(終わっ……)

 ゼイクの思考が真っ白に染まる。
 正しく動けなかった。手順を間違えた。だから死ぬ。
 それが彼の信じる因果律だった。

 だが。

 ドォォォォン!!

 轟音と共に、迫り来る土塊が粉々に砕け散った。
 ゼイクの目の前に、一人の男が割り込んでいた。
 瞬だ。
 彼は剣を抜くことさえせず、ただの「裏拳」で、巨大な岩の腕を粉砕していた。

「計算とかいいから! 来たもんを迎撃すりゃいいんだよ!」

 瞬はニカっと笑い、砕けた岩の破片をパラパラと浴びながら、ゼイクの前に立ちはだかった。
 その背中は、泥だらけで、隙だらけで。
 けれど、ゼイクのどんな完璧な構えよりも、遥かに頼もしく見えた。

「……貴様……!」

 ゼイクは呆然と呟く。
 自分の信じる「正しさ」が、音を立てて崩れていく音が聞こえた気がした。

 ゴーレムは、腕を失っても怯まなかった。
 それどころか、失った部分から新たな泥を吹き出し、さらに形を変えていく。今度は空中に浮かび上がり、無数の泥弾を発射する構えを見せた。

「空を飛ぶだと!? 岩石系モンスターに飛行能力など、生態学的にありえない!」
 ゼイクが叫ぶ。

「ありえないことなんてないんだよ! 世界はいつだって、お前の教科書より自由なんだからな!」

 瞬はメイを庇いながら、空中の敵を見据えた。
 その瞳には、恐怖も混乱もない。
 あるのは、「面白くなってきた」という、不敵な光だけだった。

「さあゼイク、どうする? お前のその綺麗な剣で、あの空飛ぶ粘土細工をどう料理する?」

 問われているのは、戦術ではない。
 彼の生き方そのものだった。
 型を守って死ぬか。型を捨てて生きるか。

 ゼイクは震える手で剣の柄を握りしめた。
 冷たい汗が、鎧の内側を伝い落ちる。
 冬の森の冷気が、彼の決断を急かしていた。
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