無詠唱? キャンピングカーで大冒険。虐げられた少女を拾った俺は、規格外の力と文明の利器で彼女を全力で救う件

Gaku

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第11章:最強の拠点、始動

第52話:貧民街の改革と、魔女のティータイム 〜呪いは、希少価値(レアアイテム)である〜

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王都の下層区画、通称「貧民街」。  そこは長年、王都の掃き溜めとして放置され、犯罪と貧困の温床となっていた場所だった。衛兵ですら寄り付かず、瓦礫は積み上がり、腐臭が漂うのが当たり前の光景だった。

 ――アリスの『再開発計画』が始まってから、半月。

「おい、そこの土砂、もっと右だ! 水はけを考えろ!」 「へい、キースの旦那!」 「こっちの配給、まだ行き渡ってない奴はいるかー? 温かいスープがあるぞー!」 「アンナ姉ちゃん、ありがとう!」

 今、その場所は活気に満ち溢れていた。  瓦礫の山は撤去され、デコボコだった道は綺麗に均(なら)されている。  働いているのは、かつてここで日陰者として生きていた住人たち自身だ。彼らの顔には、これまでのような諦めや絶望の色はなく、労働の汗と、「自分たちの手で街を変える」という希望の光が宿っていた。

 その指揮を執っているのは、アリスに雇われた元・義賊団「黒猫」のメンバーたちだ。  リーダーのキースが現場監督を務め、大男のボルグが力仕事を牽引し、アンナとティックが炊き出しと物資の管理を行っている。

 彼らが配るスープの鍋の前には、長蛇の列ができていた。  しかし、それは単なる施しを受け取る列ではない。仕事をした対価として配られる「給料」の一部だ。

「すごいな……。あのアリスお嬢様、本気でここを変えるつもりだ」

 キースが額の汗を拭いながら呟く。  アリスのやり方は徹底していた。ただお金を配るのではない。「仕事」を作り出し、お金を循環させる。瓦礫撤去、道路整備、下水の清掃。これまで誰もやりたがらなかった汚れ仕事を、適正な賃金で発注したのだ。

 そして、アリスは徹底してこう触れ回らせていた。

 『これは、英雄・瞬様のご意志です』と。

 この半月の間に、住人たちの口から漏れる言葉は感謝一色に変わっていた。 「瞬様が、俺たちを見捨てなかったんだ」 「あの英雄様が、俺たちにも働く場所をくれたんだ!」 「瞬様万歳! ローゼンバーグ家万歳!」

 貧民街の至る所で、瞬を称えるシュプレヒコールが定着し始めていた。

 ***

 一方、その頃。  当の英雄様ご一行は、アリスが用意した豪邸のリビングで、優雅なティータイムを過ごしていた。

 魔導空調によって一定の温度に保たれた室内は、初夏の蒸し暑さとは無縁の快適空間だ。  大きなガラス窓からは、美しく手入れされた中庭が見える。

「……なんかさ、最近街を歩いてると、すごい拝まれるんだけど」

 瞬(シュン)が、ふかふかのソファに沈み込みながら首を傾げた。  手には、アリスの屋敷から取り寄せた高級クッキーがある。

「気のせいでしょ? あなた、元から目立つし」

 向かいの席で、アリスが涼しい顔をして紅茶を啜った。  彼女は知らんぷりを決め込んでいるが、その口元は微かにニヤついている。

「いや、気のせいじゃないって。昨日なんて、知らないお婆ちゃんから『あんたは生き仏だよぉ』って拝み倒されて、大根三本もらったんだぞ?」 「いいことじゃない。食費が浮いて」 「そうだけどさぁ……」

 瞬は納得いかない顔をしているが、隣に座っているメイがクスクスと笑った。 「ふふ、瞬は人気者だね。私も鼻が高いよ」 「メイまで……。まあ、悪い気はしないけどな!」

 瞬は単純なので、メイに褒められるとすぐに機嫌を直してクッキーを頬張った。  メイは、そんな瞬を見て幸せそうに微笑み、彼の口元についたクッキーの粉を指で拭ってあげる。

 ――バカップルである。

 その光景を、少し離れたダイニングテーブルで書類仕事をしていたゼイクと、キッチンで新しいハーブティーを調合していたエリーゼが生暖かい目で見守っている。

 アリスは、ティーカップをソーサーに置き、その様子をじっと観察していた。  彼女のサファイアのような瞳が、値踏みするように細められる。

 (ふうん……この子がねぇ)

 アリスの視線は、メイに固定されていた。  先日、密室で瞬が真剣な顔をして言った言葉を思い出す。  『俺、メイに恋してるんだ。本気で』。

 (NPCに本気で恋するなんて、正気じゃないと思ってたけど……)

 アリスは、メイの姿をまじまじと見た。  小柄で、華奢で、守ってあげたくなるような雰囲気。  銀色の髪はサラサラで、肌は透き通るように白い。  確かに可愛い。造形(グラフィック)としては最高ランクだ。  瞬の世話を焼く甲斐甲斐しい仕草も、健気な性格(キャラ設定)も、男受けはいいだろう。

 ただ、一つだけ。  どうしても気になる点があった。

 (なんなの、あれ)

 アリスの視線が、メイの右目に釘付けになる。  白い革で作られた、眼帯のようなもの。  瞬が買ってあげたと言っていた「アイガード」だ。  デザインは悪くない。清楚な白革に、銀の留め具。メイの雰囲気にも合っている。  だが、ここは家の中だ。しかも、気心の知れた仲間しかいないリビングだ。  それなのに、頑なに片目を隠し続けている。

 アリスの中で、前世の記憶(サブカルチャー知識)が疼いた。  片目隠し。白髪。包帯(眼帯)。  その要素が組み合わさった時、導き出される属性は一つしかない。

「……ねえ、メイちゃん」

 アリスが唐突に口を開いた。  リビングの空気が、ふっと変わる。

「は、はい? なんですか、アリスさん?」  メイが背筋を伸ばして答える。彼女はまだ、この「完璧なお嬢様」に対して少し緊張しているようだ。

 アリスは、悪気のない、純粋な好奇心に満ちた声で問いかけた。

「その顔につけてる白いやつ……アイガードだっけ? それ、なんなの?」

 一瞬、静寂が落ちた。  キッチンでエリーゼの手が止まる。ゼイクが書類から顔を上げる。  メイの表情が、見る見るうちに強張っていく。  彼女にとって、それは触れられたくない「傷跡」を守る盾だからだ。

 だが、アリスは止まらない。  彼女は、ニヤリと悪戯っぽく笑って、爆弾を投下した。

「確かに可愛いし、似合ってはいるけどさぁ。家の中でまでつけてるなんて……もしかして、それ……**『厨二病(ちゅうにびょう)』**ってやつ?」

「……へ?」  メイがポカンとする。

「ほら、あるでしょ? 『くっ、静まれ俺の右目……!』みたいなやつ。『邪気眼(じゃきがん)』でも封印してるの? それとも、外すと黒炎龍が出てきちゃう設定?」

 シーン……。

 リビングに、完全なる沈黙が訪れた。  メイは言葉の意味が分からず困惑し、ゼイクとエリーゼは「アリスは何を言っているんだ?」という顔をしている。

 ただ一人、瞬だけが。  「ぶっ!」と吹き出しそうになるのを、必死でこらえていた。  肩を震わせ、顔を真っ赤にして下を向いている。

 (邪気眼……! 黒炎龍……! やめろアリス、腹が痛い……! この世界でその単語を聞くとは……!)

 だが、すぐに瞬は真顔に戻った。  メイが、怯えているのが分かったからだ。  彼女は「馬鹿にされた」とは思っていないだろうが、自分の秘密に土足で踏み込まれそうになって、恐怖を感じている。

 瞬は、笑いを噛み殺し、メイの肩に優しく手を置いた。

「……ああ、それがさ」

 瞬は、アリスに向かってニカっと笑った。  それは「よくぞ聞いてくれた」という合図にも見えた。

「アリスの言う通り、ある意味『封印』みたいなもんなんだよ。……なあメイ、ちょっと外して、アリスに見せてあげてくれないか?」

「えっ……!?」

 メイが弾かれたように瞬を見る。  その瞳が揺れている。  『見せていいの?』『嫌われない?』『また、怖がられるんじゃない?』  そんな不安が、痛いほど伝わってくる。

 瞬は、メイの手をぎゅっと握りしめた。  そして、彼女の耳元で、誰にも聞こえないように囁いた。

「大丈夫だ。信じろ。……あいつは多分、この世界の人たちとは違う反応をする。俺と、同じ反応をな」

 俺と同じ。  つまり、「綺麗だ」と言ってくれた、あの反応。

 メイは、瞬の黒い瞳を見つめ返した。  そこには、一点の曇りもない信頼があった。  この人が言うなら。この人が大丈夫だと言うなら。

「……はい」

 メイは小さく頷いた。  そして、震える手で、アイガードの留め具に手をかけた。
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