無詠唱? キャンピングカーで大冒険。虐げられた少女を拾った俺は、規格外の力と文明の利器で彼女を全力で救う件

Gaku

文字の大きさ
86 / 105
第18章:翡翠の悪夢

第86話:翡翠の森と、破られた盟約 〜荒ぶる波は、凪(なぎ)の海が裏返った姿である〜

しおりを挟む
 「クイーン・アリス号」は、緑の海を泳ぐように進んでいた。
 窓の外には、樹齢数百年を越えるであろう巨木たちが立ち並び、その枝葉が天を覆う天蓋(てんがい)となって、柔らかな木漏れ日を地面に落としている。
 エルフの森。
 世界で最も美しく、そして最も排他的だと言われる聖域。
 だが、車窓からその景色を眺めるアリアの瞳には、懐かしさよりも深い悲しみが宿っていた。

 リビングのソファには、瞬(シュン)、ゼイク、エリーゼ、メイ、そして運転を自動操縦に切り替えたアリスが集まり、彼女の話に耳を傾けていた。
「ねえ、アリア。さっき『戦争』って言ってたけど……」
 メイが、心配そうに膝に置いたアリアの手に触れる。
「エルフさんと獣人さんって、仲が悪かったんですか?」
 アリアは首を横に振った。
 その動作は、かつての幸せな記憶を振り払うかのように重かった。
「いいえ。……かつては、兄弟のような関係だったのよ」
 アリアは遠くを見る目をした。
 彼女の言葉と共に、時間は数年前へと遡る。
 ***
 【回想】
 あの頃の森は、今よりもずっと明るく、笑い声に満ちていた。
 森の境界線にある交易広場。そこでは、エルフと獣人が入り乱れ、互いの産物を交換し合っていた。
『おーい、アリア!』
 元気な声と共に、一人の獣人の青年が駆け寄ってくる。
 レオ。
 狼の耳と尻尾を持つ、獣人国の若き使節であり、アリアの幼馴染のような存在だった。
 彼の手には、森では採れない岩塩や、珍しい鉱石が抱えられていた。
『見てくれよこれ! 山の向こうで見つけたんだ。お前、こういう光る石好きだろ?』
『まあ、綺麗……! ありがとうレオ。お礼に、この傷薬を持って行って。狩りの時に役立つわ』
 私たちは、互いに足りないものを補い合っていた。
 エルフは、森の恵みを育てる魔法と、精巧な薬や織物を。
 獣人は、力強い労働力と、外の世界からもたらされる鉱物や情報を。
「種族は違う。寿命も、考え方も違う。……でも、だからこそ私たちは、お互いを尊重し合えていたの」
 アリアは、レオと並んで夕日を見た日々を思い出していた。
 『俺たちが国を継いだら、もっと交流を増やそうぜ』と笑った彼の、犬歯が覗く無邪気な笑顔を。
 永遠に続くと思っていた、翡翠(ひすい)色の平和。
 ――だが。
 その平和は、一夜にして砕け散った。
 凶報は、風に乗って届いた。
 獣人国でクーデターが発生。
 エルフとの融和を説いていた穏健派の前王が、暗殺されたのだ。
 新たに玉座についたのは、前王の弟であり、過激な武闘派として知られる「ガウ・ゾルガ」。
 彼は即位するなり、こう宣言したという。
 『弱肉強食こそが獣人の掟。力なき者が資源を独占するのは、自然の理に反する』
 そして、使者が来た。
 突きつけられたのは、交渉ではなく「脅迫」だった。
『エルフ族が管理する「世界樹」のマナ(魔力資源)を、全て我々に譲渡せよ。さもなくば――力づくで奪う』
 当然、父様(エルフの王)は拒否した。
 世界樹のマナは森の命そのものだ。それを渡すことは、森の死を意味する。
 交渉決裂。
 その直後だった。
 ***
 その夜、森の空が赤く染まった。
 夕焼けではない。
 紅蓮の炎が、数千年の歴史を持つ巨木たちを舐め尽くしていた。
『敵襲ーーッ!! 獣人軍だ!!』
 警報の鐘が乱打される中、アリアは武器を取り、前線へと走った。
 信じられなかった。
 宣戦布告もなしに、いきなり火を放つなんて。
 かつての友人が、隣人が、そんな非道なことをするはずがない。
「レオ……!」
 燃え盛る森の入り口で、アリアは彼を見つけた。
 レオは、先陣を切ってエルフの防衛隊を蹴散らしていた。
 その爪は同胞の血で濡れ、かつてアリアに綺麗な石をくれたその手で、エルフの戦士の首を締め上げていた。
『やめて! レオ! どうしてこんなことを!』
 アリアは叫んだ。弓を構えながらも、指が震えて矢を放てない。
 レオが振り返る。
 アリアは息を呑んだ。
 彼の瞳から、かつての理性的で温かい光が消え失せていたからだ。
 そこにあるのは、濁った泥のような色。
 そして、どこか虚ろで、狂気に満ちた殺意だけだった。
『……弱いのが、悪いんだ』
 レオは、低く唸るように言った。
 それは、洗脳された人形が喋っているかのような、無機質な響きだった。
『力こそが正義。奪う者が勝者。……アリア、お前たちの「平和」ごっこは、もう終わりだ』
 レオが吼える。
 それに呼応するように、背後の暗闇から、無数の獣人兵たちが赤い目を光らせて現れた。
 彼らの体からは、獣人本来の気配とは違う、禍々しい黒い靄(もや)のようなものが立ち上っていた。
 ――魔族の気配。
 アリアは悟った。
 これは、ただの戦争じゃない。
 もっとおぞましい何かが、彼らを狂わせ、操っているのだと。
 燃え落ちる枝が、アリアとレオの間を分断するように落下した。
 炎の壁の向こうで、かつての友が、獣の顔で嗤(わら)った。
 ***
「……それが、始まりだったわ」
 アリアは、静かに語り終えた。
 車内は静まり返っていた。
 明るい日差しが差し込んでいるはずなのに、アリアの周りだけ、冷たい夜の空気が残っているようだった。
 メイが、泣きそうな顔でアリアの手を握りしめる。
「ひどい……。お友達だったのに……」
「レオという彼も、被害者なのかもしれませんね」
 エリーゼが、沈痛な面持ちで推測する。
「その『黒い靄』……精神干渉や肉体強化の呪術の類でしょう。魔族が関与しているなら、獣人たちもまた、使い捨ての駒にされている可能性が高いですわ」
「胸糞悪ぃ話だな」
 瞬が、不快そうに舌打ちをした。
 彼はソファの背もたれに体重を預け、天井を睨みつけている。
「力こそ正義だぁ? そんなもん、ただの弱い者いじめの言い訳じゃねぇか」
 ゼイクも、剣の柄に置いた手に力を込めた。
「宣戦布告なしの奇襲、民間人への攻撃……騎士道にもとる。いや、生物としての尊厳を踏みにじる行為だ」
 アリスは、無言でモニターを見つめていたが、やがてポツリと言った。
「……データ上の『戦争イベント』なら、ただの経験値稼ぎだけど。……実際に聞くと、ヘドが出るわね」
 彼女は、アリアの方を向かずに言った。
「安心しなさい。私がついてるわ。……あいつらの洗脳だろうが何だろうが、物理的(おかね)と魔法的(ビーム)にひっぱたいて目を覚まさせてやるから」
 アリアは、仲間たちの顔を見渡した。
 怒ってくれている。悲しんでくれている。
 自分の痛みを、我がことのように感じてくれている。
 その事実が、凍りついていた過去の記憶を、少しだけ温めた。
「ありがとう。……でも、話はこれで終わりじゃないの」
 アリアは、震える声を抑えて続けた。
「本当の地獄は、そこからだった。……私たちが、どうやって敗北し、私がなぜ一人で逃げ延びることになったのか。その話を、聞いてほしい」
 クイーン・アリス号は、深まる森の奥へと進んでいく。
 窓の外の景色は、かつての美しい緑ではなく、枯れ果て、傷ついた木々が目立ち始めていた。
 戦争の爪痕が、すぐそこまで迫っていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

最強すぎて無職になりましたが、隣国の姫が勝手に嫁入りしてきました

eringi
ファンタジー
平凡なサラリーマン・佐藤亮は、満員電車で謎の光に包まれ異世界へ転移する。神様から「世界最強の力」を授かったはずが、本人はただの無職ニートとしか思っていない。冒険者ギルドで雑用を請け負う日々。そんな亮の周囲に、冷徹な騎士姫、天才魔導士、元盗賊の少女、竜人族の戦士など個性豊かな美少女たちが自然と集まってくる。一方、彼を「ただの運のいい凡人」と侮る貴族や悪徳商人たちは次々と痛快なざまぁ展開に。亮は「俺なんて大したことないのに」と呟きながら、気づけば国を揺るがす陰謀を解決し、世界を救うことに――。無自覚最強主人公による、爽快ハーレムファンタジー開幕!

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『ゴミ掃除』が役立たずと追放されたが、実は『存在抹消』級のチートだった。勇者一行がゴミで溺れているが、俺は辺境で美少女と温泉宿を経営中なので

eringi
ファンタジー
「悪いが、お前のスキル『ゴミ掃除』は魔王討伐の役には立たない。クビだ」 勇者パーティの雑用係だったアレクは、戦闘の役に立たないという理由で、ダンジョンの最深部手前で追放されてしまう。 しかし、勇者たちは気づいていなかった。 彼らの装備が常に新品同様だったのも、野営地が快適だったのも、襲い来る高レベルモンスターの死体が跡形もなく消えていたのも、すべてアレクが『掃除』していたからだということに。 アレクのスキルは単なる掃除ではない。対象を空間ごと削り取る『存在抹消』レベルの規格外チートだったのだ。 一人になったアレクは、気ままに生こうと辺境の廃村にたどり着く。 そこでボロボロになっていた伝説のフェンリル(美少女化)を『洗浄』して懐かれたり、呪われたエルフの姫君を『シミ抜き』して救ったりしているうちに、いつの間にかそこは世界最高峰の温泉宿になっていて……? 一方、アレクを失った勇者パーティは、武器は錆びつき、悪臭にまみれ、雑魚モンスターの処理すら追いつかず破滅の一途をたどっていた。 「今さら戻ってきてくれと言われても、俺はお客さん(美少女)の背中を流すのに忙しいんで」 これは、掃除屋の少年が無自覚に最強の座に君臨し、幸せなスローライフを送る物語。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。 実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。 追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。 そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。 これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。

ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ
ファンタジー
過労死した俺が転生したのは、大好きな乙女ゲームの悪役貴族アレン。待つのはヒロインたちからの断罪と処刑エンド!?冗談じゃない! 絶対に生き延びて平穏な老後を送るため、俺はゲーム知識を総動員して破滅フラグ回避に奔走する。領地を改革し、民を救い、来るべき災厄に備えて血の滲むような努力を重ねた。 ただ死にたくない一心だったのに、その行動はなぜか周囲に「深謀遠慮の聖人」と勘違いされ、評価はうなぎ登り。 おまけに、俺を断罪するはずの聖女や王女、天才魔導師といったヒロインたちが「運命の人だわ!」「結婚してください!」と次々に迫ってきて……!? これは、破滅を回避したいだけの悪役貴族が、いつの間にか国を救う英雄に祭り上げられ、ヒロインたちに溺愛される勘違い救国ファンタジー!

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

処理中です...