無詠唱? キャンピングカーで大冒険。虐げられた少女を拾った俺は、規格外の力と文明の利器で彼女を全力で救う件

Gaku

文字の大きさ
88 / 105
第18章:翡翠の悪夢

第88話:決死の転移、引き裂かれた絆 〜灯火(ともしび)は一度消えても、魂の炉(ひ)はより熱く燃え上がる〜

しおりを挟む
車窓の向こう、煤けた世界樹の巨木が近づいてくる。  その黒々とした姿は、かつての威容を失い、天に向かって助けを求める枯れた手のようにも見えた。

「……逃げ場なんて、どこにもなかったわ」

 アリアの声が、再び過去の時間を紡ぎ出す。

 ***

 【回想】

 熱風が吹き荒れる森の中、アリアと数名の近衛兵たちは、断崖絶壁に追い詰められていた。  退路はない。  前方からは、血に飢えた獣人たちの精鋭部隊が、じりじりと包囲網を狭めてくる。  彼らの背後には、あの裏切り者――レオの姿があった。

『諦めろ、アリア。お前たちの時代は終わったんだ』

 レオが冷酷に言い放つ。  アリアは折れた弓を捨て、護身用の短剣を握りしめた。魔力は尽きかけ、足は震えている。  隣に立つ近衛隊長も、片腕を失い、肩で息をしていた。

『姫様……我々が突破口を開きます。その隙に……!』 『無理よ! どこへ逃げろと言うの!』

 アリアは叫んだ。  森は燃え、空は煙に覆われている。どこへ行こうと、待っているのは死か、それ以上の屈辱だけだ。  なら、せめてここで。  誇り高く、戦って死のう。王女として、民と共に散ろう。

 そう覚悟を決めた時だった。

『……姫様。どうか、御許しください』

 背後から、しわがれた、けれど力強い声がした。  アリアが振り返ると、彼女に幼い頃から仕え、魔法の指南役でもあった宮廷魔導士長、エルドが杖を地面に突き立てていた。

 彼の全身から、尋常ではない魔力が噴き出している。  それは、大気中のマナを集める通常の魔法ではない。彼自身の「生命力」を魔力に変換して燃やす、禁忌の光だった。

『エルド!? 何をする気なの! その術式は……!』

 アリアは魔導学を修めている。だからこそ、一目でわかった。  彼が展開しようとしているのは、「長距離ランダム転移」。  座標を固定せず、術者の命と引き換えに、対象者を遥か彼方へ飛ばす捨て身の秘術。

『なりませぬ! 私だけ逃げるなんて……!』 『聞き分けのない子だ』

 エルドは、いつものように困ったような、慈愛に満ちた顔で微笑んだ。

『あなたは王家の希望。森の未来そのものです。……ここで炎に巻かれて良い命ではない』

 エルドが杖を振るう。  アリアの足元に、眩い魔法陣が展開される。

『やめて! 嫌よ! 一緒に戦う!』

 アリアは魔法陣から出ようとした。  だが、見えない壁に阻まれて出られない。

『総員! 姫様をお守りしろ! 最期の時まで、一歩も通すな!』

 近衛隊長が吼えた。  残った兵士たちが、雄叫びを上げて獣人の群れに突撃していく。  自らの体を盾にして。壁にして。  一秒でも長く、この魔法陣を守るために。

『ぐあぁっ!』 『エルフの誇りを……!』

 次々と仲間たちが倒れていく。  剣に貫かれ、爪に引き裂かれながらも、彼らは決してアリアの方を振り返らなかった。  その背中が語っていた。  「生きろ」と。

『嫌……嫌ぁぁぁッ!!』

 アリアは結界を叩いた。  涙で視界が滲む。  目の前で、家族のように過ごしてきた人々が死んでいく。私を生かすために。

『行きますぞ、姫様』

 エルドの体が、光の粒子となって崩れ始めていた。  代償の支払いが始まったのだ。

『エルド! お願い、やめて! 私もそっちへ……!』 『……アリア様』

 エルドは、最期に優しく彼女の名を呼んだ。

『どうか、生きて。……いつか、強く美しくなって、この森を取り戻してください』 『あなたの笑顔が、私たちの誇りでした』

 エルドの姿が消える。  同時に、獣人の刃が彼の立っていた場所を薙ぎ払った。

 転移が発動する。  世界が白く染まる直前、アリアが見たのは、血の海に沈みながらも彼女の方へ手を伸ばし、何かを叫んでいる仲間たちの姿だった。

 ――生きろ。

 その声が、鼓膜に焼き付いて離れない。

 ***

 ……気がついた時、私は見知らぬ石畳の上にいたわ。  雨が降っていて、寒くて、泥だらけで。  そこが人間の領地だと知ったのは、巡回中の兵士に見つかって、あの地下牢へ放り込まれた後だった。

「……私が、生かされた理由なんて、わからなかった」

 アリアは、膝の上で拳を握りしめた。  爪が食い込み、血が滲む。

「みんな死んだのに。私だけが、のうのうと生き残って……。こんな、泥水をすするような思いをしてまで、生きる価値があるのかって」

 地下牢での日々。  寒さと飢えの中で、彼女はずっと自問自答していた。  死にたい。いっそ舌を噛んで死んでしまえば、みんなの所へ行ける。  でも、死ねなかった。  『生きて』という最期の言葉が、呪いのように彼女を現世に繋ぎ止めていたから。

「……辛かったですね」

 不意に、温かい感触がアリアを包み込んだ。  メイだった。  彼女は隣に座り、アリアをそっと抱きしめていた。

「一人で……怖かったですよね」

 メイの声は震えていた。  彼女もまた、世界に拒絶され、一人ぼっちで生きてきた過去を持つ。  アリアの孤独が、痛いほど伝わってくるのだ。

「……うん。……怖かった」

 アリアは、メイの肩に顔を埋めた。  強がるのはやめた。  ここでは、ただの弱虫な女の子でいていいと、彼らが教えてくれたから。

「でも、生きててくれてよかったです」

 メイは、アリアの背中を優しく撫でた。

「アリアさんが生きててくれたから、私たちは出会えました。……こうして、一緒にいられます」

 瞬が、窓の外を見つめたまま言った。

「エルドじいさんたちの賭けは、勝ちだったな」

 彼は振り返り、アリアを見た。

「お前は生きて、俺たちと出会った。……そして今、最強の戦力を引き連れて、森に帰ってきた」

 瞬はニカっと笑い、親指で自分たちを指した。

「『森を取り戻せ』って言われたんだろ? 任せとけよ。……利子がつくくらい、派手に取り返してやるからよ」

 アリアは顔を上げ、涙を拭った。  そうだ。  私はもう、無力な子供じゃない。  一人じゃない。  この、デタラメで、温かくて、頼もしい仲間たちがいる。

「……ええ。行きましょう」

 アリアは、前を向いた。  視線の先には、黒く染まった世界樹。  そこにはまだ、過去の悪夢が巣食っているかもしれない。  けれど、今の彼女には、それを直視する勇気があった。

 クイーン・アリス号は、速度を上げた。  死に絶えた森の深部へ。  そこに残された「絶望」と対峙するために。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

最強すぎて無職になりましたが、隣国の姫が勝手に嫁入りしてきました

eringi
ファンタジー
平凡なサラリーマン・佐藤亮は、満員電車で謎の光に包まれ異世界へ転移する。神様から「世界最強の力」を授かったはずが、本人はただの無職ニートとしか思っていない。冒険者ギルドで雑用を請け負う日々。そんな亮の周囲に、冷徹な騎士姫、天才魔導士、元盗賊の少女、竜人族の戦士など個性豊かな美少女たちが自然と集まってくる。一方、彼を「ただの運のいい凡人」と侮る貴族や悪徳商人たちは次々と痛快なざまぁ展開に。亮は「俺なんて大したことないのに」と呟きながら、気づけば国を揺るがす陰謀を解決し、世界を救うことに――。無自覚最強主人公による、爽快ハーレムファンタジー開幕!

異世界では地味な俺が、なぜか神々に最愛されて無双してる件

fuwamofu
ファンタジー
平凡な高校生・桐生ユウは、女神の手違いで異世界に転生した。 チートもスキルも貰えず、冒険者登録すらままならない落ちこぼれ……のはずだった。 しかし周囲の異常な好感度、意味不明な強運、そして隠された神格スキルによって、ユウは「無自覚に全能」な存在へと覚醒していく。 気づけば女神も姫騎士も魔王娘も彼に夢中。誤解と崇拝が加速する中、ユウの“地味な日常”は世界を揺るがす伝説になっていく。 笑いあり、胸キュンあり、ざまぁありの最強(なのに本人だけ気づいてない)異世界ファンタジー開幕!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

『ゴミ掃除』が役立たずと追放されたが、実は『存在抹消』級のチートだった。勇者一行がゴミで溺れているが、俺は辺境で美少女と温泉宿を経営中なので

eringi
ファンタジー
「悪いが、お前のスキル『ゴミ掃除』は魔王討伐の役には立たない。クビだ」 勇者パーティの雑用係だったアレクは、戦闘の役に立たないという理由で、ダンジョンの最深部手前で追放されてしまう。 しかし、勇者たちは気づいていなかった。 彼らの装備が常に新品同様だったのも、野営地が快適だったのも、襲い来る高レベルモンスターの死体が跡形もなく消えていたのも、すべてアレクが『掃除』していたからだということに。 アレクのスキルは単なる掃除ではない。対象を空間ごと削り取る『存在抹消』レベルの規格外チートだったのだ。 一人になったアレクは、気ままに生こうと辺境の廃村にたどり着く。 そこでボロボロになっていた伝説のフェンリル(美少女化)を『洗浄』して懐かれたり、呪われたエルフの姫君を『シミ抜き』して救ったりしているうちに、いつの間にかそこは世界最高峰の温泉宿になっていて……? 一方、アレクを失った勇者パーティは、武器は錆びつき、悪臭にまみれ、雑魚モンスターの処理すら追いつかず破滅の一途をたどっていた。 「今さら戻ってきてくれと言われても、俺はお客さん(美少女)の背中を流すのに忙しいんで」 これは、掃除屋の少年が無自覚に最強の座に君臨し、幸せなスローライフを送る物語。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

追放された鍛冶師、異世界で最強の神器を作ってしまう ~国を捨てたら聖女と龍姫と精霊王に囲まれた件~

えりぽん
ファンタジー
王国唯一の鍛冶師である青年カイルは、嫉妬深い貴族により「無能」と断じられ、王都を追放される。しかし、辺境で出会った美しい聖女と契約したことで、彼の鍛冶の才が神話級であることが判明!作る武器すべてが神器となり、魔物どころか国すら震える存在に。本人はただ「役立つものを作りたい」だけなのに――いつの間にか聖女、龍姫、精霊王に慕われる無自覚最強伝説が始まる。ざまぁとスカッと展開、上昇ハーレムファンタジー!

無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。 実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。 追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。 そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。 これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。

ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ
ファンタジー
過労死した俺が転生したのは、大好きな乙女ゲームの悪役貴族アレン。待つのはヒロインたちからの断罪と処刑エンド!?冗談じゃない! 絶対に生き延びて平穏な老後を送るため、俺はゲーム知識を総動員して破滅フラグ回避に奔走する。領地を改革し、民を救い、来るべき災厄に備えて血の滲むような努力を重ねた。 ただ死にたくない一心だったのに、その行動はなぜか周囲に「深謀遠慮の聖人」と勘違いされ、評価はうなぎ登り。 おまけに、俺を断罪するはずの聖女や王女、天才魔導師といったヒロインたちが「運命の人だわ!」「結婚してください!」と次々に迫ってきて……!? これは、破滅を回避したいだけの悪役貴族が、いつの間にか国を救う英雄に祭り上げられ、ヒロインたちに溺愛される勘違い救国ファンタジー!

処理中です...