やがて、君と見る木漏れ日

Gaku

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早乙女里奈の視点

第三話:三文芝居の観客席

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水曜日の昼休み。 湿気を孕んだ風が吹き抜ける中庭は、弁当を広げる生徒たちの喧騒で満ちていた。

私は、校舎の二階の窓際から、その光景を冷ややかに見下ろしていた。 ここからだと、愚かな人間たちの生態がよく見える。 特に、今日は「面白い見世物」が行われているから、目が離せない。

中庭のベンチ。 そこに、私のクラスメイトである綾香がいる。 そして、その隣には、垣原瞬が座っていた。

「あはは! 瞬くん、マジでー?」

綾香の甲高い笑い声が、二階まで響いてくる。 彼女は、瞬の腕にボディタッチを繰り返し、媚びるような視線を送っている。 瞬もまた、彼女の方に体を傾け、何やら親密そうに話し込んでいる。

(……バカじゃないの)

私は、ストローでパックの紅茶を啜りながら、心の中で毒づいた。 綾香は、自分が「使われている」ことに気づいていない。 瞬が時折、チラチラと視線を逸らし、別の方向——大きなケヤキの木の下を確認していることに、気づいていないのだ。

その視線の先には、前原美影がいる。 友人たちと弁当を広げている、あの地味な彼女。

構図は明白だ。 瞬は、美影に見せつけるために、わざわざ綾香を選んでイチャついているのだ。 「俺はモテるんだぞ」「お前なんていつでも捨てられるんだぞ」という、安っぽいアピール。 なんて幼稚で、残酷な手口だろう。

(相変わらず、性格悪いわね)

かつて、私にも似たようなことがあった。 私が男友達と話した翌日、彼はこれ見よがしに別の女子と仲良くして見せた。 あの時の私は、悔しさと嫉妬で頭がおかしくなりそうで、彼に泣いて抗議した。 すると彼は、冷たい目で「お前が先にやったんだろ」と言い放ったのだ。

あの地獄のような駆け引き。 精神を摩耗させるだけの、愛のないゲーム。 今、そのターゲットになっている美影を見て、私は暗い愉悦を感じていた。 さあ、どうする? 前原美影。 泣くの? 怒鳴り込むの? それとも、ショックで走り去るの?

私は、オペラグラスでも欲しい気分で、美影の表情を注視した。 彼女が、顔を上げた。 瞬と綾香の方を、まっすぐに見る。

その瞬間、私が予想していた「悲劇のヒロイン」の顔は、そこにはなかった。

彼女は、ふわりと笑ったのだ。 まるで「元気そうで何よりです」とでも言うような、穏やかで、力の抜けた笑顔。 そして、軽く会釈までして、何事もなかったかのように友人の方へ向き直った。

(……は?)

私は、紅茶のパックを握り潰しそうになった。 何、あれ。 意味がわからない。 自分の彼氏が、目の前で他の女とイチャついているのよ? なんで笑えるの? なんで平気なの?

「……プライドないわけ?」

呆れを通り越して、苛立ちが込み上げてきた。 あれは「余裕」じゃない。ただの「鈍感」だ。 あるいは、瞬に嫌われたくなくて、必死に「物分かりのいい彼女」を演じているだけだ。 あんな風にヘラヘラと媚びて、自分の感情を殺して……そうやって繋ぎ止めた関係に、何の意味があるというの。

視線を瞬の方に戻す。 彼の表情が、凍りついているのが見えた。 鳩が豆鉄砲を食らったような、間の抜けた顔。 明らかに動揺している。 自分の仕掛けた罠が空振りに終わり、プライドをへし折られた男の顔だ。

(ざまあみろ)

その点に関しては、少しだけスッとした。 瞬の思い通りにならなかったこと自体は、愉快だ。

けれど、それ以上に、美影という女の底知れない「気味の悪さ」が、私の胸にざらりとした後味を残した。 あの子は、瞬と同じ人種なのかもしれない。 感情のない、空っぽの人形。 だから、あんな残酷なショーを見ても、眉ひとつ動かさずに笑っていられるのだ。

「どっちもどっちね」

私は、空になった紅茶のパックをゴミ箱に投げ入れた。 破綻している。 傷つけようとする男と、傷つかないふりをする女。 そんな歪な関係が、長続きするはずがない。

瞬は、今に爆発する。 自分の揺さぶりが効かないことに苛立ち、もっと酷い手を使うようになるだろう。 そして美影は、その笑顔の仮面を剥がされ、ボロボロになるまで追い詰められる。

そのフィナーレを見るのが、楽しみで仕方ない。 私は、冷え切った教室に戻りながら、携帯を取り出した。 画面に映る自分の顔は、美影のあのふやけた笑顔よりも、ずっと美しく、そして悲しいほど冷ややかだった。
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