記憶喪失の悪役令嬢、断罪フラグより国家破綻が目前なので、牢屋の天才と無骨な騎士と国を立て直します

Gaku

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第一話:『目覚めたら悪役令嬢で、周囲の恐怖指数がカンストしている件』

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じっとりとした、肌にまとわりつくような濃厚すぎる薔薇の香りで、私の意識はゆっくりと現実の岸辺へと引き寄せられた。それは、ただ甘いだけではない。まるで灼熱の太陽の下で何時間も煮詰められた果実のジャムのように、凝縮された糖分の香りがむせ返るほどに立ち上り、それでいて、その奥には青々しい葉や鋭い棘の存在を思わせる、どこか攻撃的で官能的な青臭さが潜んでいた。嗅覚を直接殴りつけてくるような、支配的な芳香。私の、四畳半一間の、壁紙がところどころ煤けて黄ばんでいる貧相なアパートには、到底似つかわしくない香りだった。この香りの小瓶一つで、私の家賃の半年分は軽く吹き飛んでしまうに違いない。

それだけではない。ついでに言うと、私の体を柔らかく包み込んでいるこのシーツの、無駄に滑らかな肌触りにも全く身に覚えがなかった。それは、使い古して毛玉だらけになった私の安物の化繊のシーツとは、天と地ほども違う。指先でそっと撫でれば、まるで磨き上げられた絹か、あるいは清らかな湧き水そのものに触れているかのような、ひんやりとしてとろけるような感触が伝わってくる。体の重みを全く感じさせない、雲の上にでも寝ているかのような極上の寝心地。何もかもが、私の知る日常からかけ離れていた。

(……どこだ、ここ)

抗いがたい微睡みの引力に逆らい、鉛のように重たい瞼をこじ開ける。瞬きを数回繰り返して焦点を合わせると、私の視界に飛び込んできたのは、私のちっぽけで堅実な常識を、まるでブルドーザーで踏み潰すがごとく粉々に打ち砕く光景だった。

まず、天蓋だ。視界のほとんどを占める、巨大な天蓋。まるで流れ出したばかりの新鮮な血のような、深く、艶やかな深紅のベルベットで作られた、悪趣味なほどに豪華絢らんを極めた天蓋が、ベッドを荘厳に覆っている。布地には金糸で複雑な唐草模様の刺繍がびっしりと施され、光の加減でその模様がきらきらと金色に明滅していた。その天蓋を支える四隅の柱には、これまた悪趣味の極みとでも言うべき彫刻が施されている。なぜか、そのモチーフは天使なのだが、翼を持つその者たちは、慈愛に満ちた表情など浮かべてはいない。むしろ、全員が筋骨隆々で、まるで地獄の番人か何かのように不機見そうな顔つきでこちらを睨みつけていた。その隆々たる筋肉の一つ一つ、そして不満げに歪められた唇までが、熟練の職人の手によって驚くほど精緻に彫り上げられ、惜しげもなく塗りたくられた金色の塗料でギラギラと悪目立ちに輝いている。安眠を誘うどころか、悪夢を呼び込みそうなデザインだった。

おそるおそる視線を横にやれば、広々とした部屋を埋め尽くす調度品の数々も、いちいち度を越して豪華絢爛だった。しかし、そこには統一感という概念が完全に家出をしてしまったかのような、凄まじいまでの不協和音が満ち満ちていた。例えば、窓際には猫足の曲線が優美なロココ調の長椅子が置かれているのに、その向かいには、まるで中世の拷問器具を思わせるような、黒檀で作られた重厚で直線的なゴシック調のテーブルが鎮座している。部屋の隅には、東洋から運ばれてきたのであろう、見事な青藍色の龍が描かれた巨大な壺が、不釣り合いな存在感を放っていた。床に敷かれた絨毯は、砂漠の民が織り上げたかのような、幾何学模様が複雑に絡み合う肉厚なものだ。それぞれの品は単体で見れば間違いなく一級の美術品なのだろうが、それらが一つの空間に押し込められた結果、互いの美点を殺し合い、ただただ持ち主の成金趣味と自己顕示欲の強さを物語るだけの、混沌とした空間を生み出していた。

分厚く、重々しいドレープカーテンの隙間から、早朝の柔らかな日差しが、一条の光の帯となって差し込んでいる。その光の筋の中を、無数の埃が、まるでダイヤモンドダストのようにキラキラと、しかしどこか気だるげに、優雅に舞っていた。それはまるで、この部屋の空気が少なくとも数日間はよどんだままで、窓が開けられることも、ろくに掃除がされることもなかったという事実を、何よりも雄弁に物語っているかのようだった。

(夢……だよな。うん、夢だ。絶対に夢に決まってる)

私は心の中で強く、自分に言い聞かせるように断定した。そうだ、昨日の夜、スーパーの閉店間際に三割引で手に入れた特売の冷凍餃子を、胃がはちきれそうになるまで詰め込んで寝たからだ。きっと、ニンニクの効きすぎたその餃子が、私の脳にこんな奇妙で悪趣味な夢を見せているに違いない。貧乏人の胃袋には、豪華すぎる夢は消化不良を起こすのだろう。そうに違いない。納得した私は、この不快な夢から一刻も早く覚めるべく、もう一度固く目を閉じようとした。

その時、ふと、視界の端で何かが動いた気がした。部屋の壁際に設えられた、巨大な姿見。その豪奢な金縁の鏡に映り込んだ自分自身の姿に気づき、私の動きはぴたりと止まる。

鏡の中にいたのは、断じて、私ではなかった。

そこに立っていたのは、現実離れした美貌を持つ、一人の見知らぬ少女だった。降り積もったばかりの新雪のようにどこまでも白い肌は、陶器のように滑らかで、一切のシミやくすみも見当たらない。肩口で切りそろえられた髪は、まるで夜空に輝く月光をそのまま溶かして紡いだかのような、幻想的な輝きを放つ銀色。そして、何よりも印象的なのは、その双眸だった。磨き抜かれた極上のルビーを嵌め込んだかのように、深く、鮮烈な赤い瞳。長く豊かな睫毛に縁どられた大きな瞳は、見る者を吸い込むような不思議な引力を持っていた。人形めいた、と言っても過言ではないほどに整いすぎた顔立ちは、確かに誰がどう見ても絶世の美少女と呼ぶにふさわしいものだった。

だが、その完璧な美貌には、致命的な欠点があった。その眦は、まるで研ぎ澄まされたナイフの切っ先のように鋭く吊り上がり、薄い唇は「不満」という言葉をそのままかたどったかのように、への字に固く結ばれている。世界中のありとあらゆる不幸をその身に背負っているかのような、あるいは、自分の意に沿わない全てのものを憎悪しているかのような、険のある表情。絶世の美少女、というよりは、絶世の性格が悪い美少女、といった方がよほど的確な表現だろう。

そして何より、問題は、その顔に私自身が見覚えがあったことだった。

(……嘘でしょ)

喉の奥から、乾いたひび割れたような音が漏れた。それは、私が昨夜、寝る前に、安物のスマートフォンで読んでいたウェブ小説の登場人物。そのあまりの傍若無人な振る舞いから、読者のコメント欄が毎話のように非難と罵倒で埋め尽くされ、蛇蝎の如く嫌われていたキャラクター。その悪逆非道の限りを尽くした挙句、物語のクライマックスで婚約者の王子から罪状を突きつけられて断罪され、惨めな破滅を迎えることが運命づけられている、典型的な悪役令嬢。

その名は、アリシア。

「…………」

言葉を失ったまま、私はゆっくりと、震える自分の右手を持ち上げ、そっと頬に触れる。鏡の中の、あの性格の悪そうな銀髪の美少女も、全く同じタイミングで、全く同じ動きをする。指先に触れた肌は、信じられないほどきめ細かく、そして冷たかった。夢じゃない。これは、紛れもない、現実だ。

(転生!? 何かの間違いで転生しちゃったの!? しかも、よりによって一番嫌いなキャラに!?)

頭の中で、私の人生史上、最大級の絶叫が木霊した。私は、このアリシアという女が、心の底から大嫌いだったのだ。自分の気分次第で、些細なことで臣下を牢獄に放り込み、自分より美しいというだけの理由で何の罪もない侍女を即刻クビにし、飢饉に喘ぐ民がいるというのに、国の財産をまるで湯水のように使い潰しては、毎夜のように豪華な舞踏会を開く。そんな彼女の悪行が描かれるたびに、私はスマートフォンの画面に向かって「こいつ、早く断罪されろ!」「破滅エンドまだか!」と願いながら読んでいたのだ。そんな、私が最も軽蔑していた女に、この私がなってしまったというのか。

パニックで今にも甲高い悲鳴を上げて暴れ出しそうになるのを、奥歯を噛み締めて必死でこらえる。正気を保て、落ち着け、と自分に言い聞かせる。と、その時だった。まるで雷に打たれたかのように、不意に頭の中に、いくつかの断片的な情報が洪水の如く流れ込んできた。

鬱蒼とした森の中を馬で駆ける映像。木漏れ日が目まぐるしく視界をちらつく。風を切る音。何かに驚いた馬が、けたたましい嘶きと共に前足を上げる。振り落とされ、宙を舞う体。地面に叩きつけられる、鈍い衝撃。後頭部を襲う、割れるような激痛。そして、急速に遠のいていく意識――。

どうやら、このアリシアという王女は、趣味の乗馬の最中に落馬事故を起こしたらしい。頭を強く打ち、三日三晩、意識を失っていたこと。そして、城中の誰もが、王宮の医師たちでさえもが、「王女様は事故の衝撃で記憶を失われた可能性が高い」と認識していること。

(……記憶喪失?)

流れ込んできた情報の意味を反芻し、私は一瞬考え、そして、口の端が意地悪く引きつるのを感じた。

(使える……!)

そうだ、これほど好都合なことがあるだろうか。まさに天啓、地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸だ。何も知らないのも、何も覚えていないのも、「記憶喪失」の一言で全てが説明がつく。これまで本物のアリシアが積み重ねてきた悪行三昧の数々も、「申し訳ありません、全く覚えておりませんの」で押し通せるかもしれない。まずは情報収集だ。私が原作通り、悲惨な破滅エンドを迎えることになる前に、この世界の情報を、私の置かれた立場を、そして私を破滅へと導くフラグの全てを、根こそぎ把握しなくてはならない。生き残るためには、それしかない。

「ごめんあそばせ」

鏡の中の美少女――つまり私――は、不自然なまでに上品な咳払いを一つした。よし、やるぞ。腹は決まった。

私が不退転の決意を固めた、まさにその時だった。

「―――失礼いたします、アリシア様。お目覚めでいらっしゃいますか」

まるで猛獣の檻の扉を開けるかのような、恐る恐る、といったか細い声と共に、部屋の重厚な扉がゆっくりと、軋む音を立てて開かれた。そこに立っていたのは、まだ十代半ばといったところだろうか、そばかすの残る顔立ちがどこか幼い印象を与える、メイド服に身を包んだ少女だった。彼女は銀のトレーに乗せた、美しいカットガラスの水差しとグラスを手に持っている。しかし、その顔は血の気が引いて真っ青で、小動物のように絶えず瞳を揺らし、その体は見るからに小刻みに震えていた。そして、ベッドの上で半身を起こした私と目が合った瞬間、彼女は「ヒッ」と短い悲鳴を上げ、全身を硬直させた。その衝撃で、トレーの上の水差しとグラスがカチャンと甲高い音を立て、危うく床に滑り落ちそうになるのを、彼女は必死の形相で抱え込んだ。

(……え、私、そんなに怖い? そんなに恐ろしい見た目してる?)

内心の激しい動揺を悟られまいと、私は努めて威厳のある(あくまで自分の中でのつもりの)声で、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「ええ。おはよう」

たったそれだけの、当たり障りのない朝の挨拶。しかし、その言葉はメイドの少女にとって、死刑宣告にも等しい響きを持っていたらしい。彼女はビクッと雷に打たれたように肩を揺らし、ただでさえ青白かった顔からさらに血の気が引いて、まるで蝋人形のようになってしまった。そして、ほとんど足音を立てない、幽霊のような足取りで部屋を横切り、ゴシック調のテーブルの上に震える手で水差しを置くと、一礼もそこそこに、文字通り脱兎のごとく部屋から逃げ去ってしまった。

後に残されたのは、しんと静まり返った広大な部屋と、濃厚な薔薇の香り、そして、私の内心の嵐のようなツッコミだけだ。

(なんで!? なんであんなに怯えるの!? 「おはよう」だよ!? 世界で一番無害で、平和な挨拶じゃないの!? それとも何か、この世界では「おはよう」が悪魔を召喚する呪文か何かと相場が決まっているわけ!?)

自分の置かれている状況の、想像を絶するヤバさを、私は改めて痛感した。周囲の人々が私に対して抱いている恐怖指数が、明らかにカンストしている。これは、生半可なことでは覆せない。記憶喪失というカードを、最大限に有効活用する必要がある。

それからしばらくして、今度は先ほどの少女よりは幾分か年嵩の、四十代くらいだろうか、きっちりと髪をシニョンにまとめ、糊の効いたエプロンをつけた侍女長らしき女性が、銀のティーセットを恭しく運んできた。彼女は恐怖という感情を、完璧なまでの無表情の下に隠している。だが、その平静さはあくまで表面上のもので、ティーカップをソーサーに乗せたまま差し出すその指先が、緊張のあまり血の気を失って白くなっているのを、私は見逃さなかった。彼女の背筋はピンと伸びているが、その全身からは「一刻も早くこの場を立ち去りたい」という切実なオーラが放たれている。

「アリシア様、お目覚めのお紅茶でございます。本日は、アッサムのファーストフラッシュをご用意いたしました」

差し出された優美な白磁のカップから、ふわりと甘く、芳醇な香りが立ち上る。しかし、その上品な香りを嗅いだ瞬間、私の脳裏に雷鳴のように轟いたのは、ただ一つの、しかし極めて重大な疑念だった。

(毒)

これだ。これに違いない。悪役令嬢ものの物語にはお約束の、毒殺イベントだ。私が今まで、つまり本物のアリシアが、散々非道の限りを尽くしてきたことへの腹いせに、誰かがこの紅茶に致死性の毒を盛ったのだ。間違いない。この侍女長か、あるいは彼女に紅茶を渡した厨房の誰かか。原作では毒殺未遂のイベントがあったはずだ。まさか、それが目覚めて早々の今日だというのか。

(古典的! 古典的すぎる! 私、この物語のまだ第一話の段階で死ぬ運命なの!? そんなのあんまりじゃない!? せっかく生き残るって決意したばっかりなのに!)

私の内心は、今やカテゴリー5の巨大台風が直撃したかのような、大パニック状態に陥っていた。しかし、ここで「毒が入っているのではないか」と騒ぎ立てたり、飲むのを拒否したりする選択肢はない。それをすれば、間違いなく「なぜ飲まないのだ」と怪しまれるだろう。それどころか、「お前は本当にアリシア様なのか」と疑われかねない。記憶喪失という、今の私にとって唯一無二の最強の盾を、こんな序盤で失うわけにはいかないのだ。

飲むしかないのか。この、明らかに怪しい液体を。私の短い第二の人生は、この一杯の紅茶と共に終わるのか。

私は意を決し、覚悟を固め、すっとカップに手を伸ばした。その瞬間、私の動きを注視していた侍女長の目が、ピクリと微かに動いたのを確かに見た。

ゆっくりと、本当にゆっくりと、まるでスローモーション映像のように、カップを口元へと運ぶ。そして、飲む直前で動きを止め、カップに鼻を近づけた。くんくん、と警察犬のように念入りに、神経を集中させて香りを確かめる。侍女長の喉が、ゴクリと乾いた音を立てた。

(うん、すごくいい香りだ。芳醇で、少しだけ麦芽のような甘い香りがする。毒の匂いは……知らないから分からん!)

万事休す。もうどうにでもなれ、と私はほとんどヤケクソの心境で覚悟を決めた。一口だけ、ほんの少しだけ口に含む。すぐに飲み込まず、舌の上でゆっくりと転がし、万が一の事態に備えて、苦味や痺れといった毒の味を探る。私の味蕾よ、仕事をしてくれ、と心の中で祈りながら。

(……ん? 普通に、すごく美味しい紅茶だ)

雑味がなく、深いコクと甘みがある、極上の一杯だった。ほっと安堵の息をついたのも束の間、私が考え込むように紅茶を口に含んだまま黙り込んでしまったことで、目の前の侍女長の顔色が、みるみるうちに紙のように真っ白になっていくのに気づいた。

「あ、アリシア様……! も、もしや、この紅茶が、お気に召しませんでしたでしょうか……!?」

彼女はわなわなと唇を震わせ、今にもその場に崩れ落ちて土下座しそうな勢いだ。どうやら私の、命がけのセルフ毒味の行動は、彼女には「紅茶の味に著しく不満があって、この紅茶を淹れた人間を、今すぐ牢獄に送るか、あるいは打ち首にするか、その処罰のタイミングを見計らっている」と解釈されてしまったらしい。

違う、違うんだ。あなたの命を心配しているんじゃない、私の命を心配していただけなんだ!

(もういい、こうなったらヤケだ!)

私はカップをソーサーにカチャンと、わざと少しだけ大きな音を立てて置き、侍女長を真正面から見据えた。

「あなた」

「は、はいぃぃっ!」

完全に裏返った、悲鳴のような返事が返ってくる。彼女の膝ががくがくと震えているのが見えた。

「私は、記憶を失くしました」

静かに、しかしはっきりと、私は告げた。

「……へ?」

侍女長は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、ぽかんと口を開けて固まっている。よし、今だ。畳みかけるぞ。

「先日の落馬の衝撃で、何もかも忘れてしまったのです。自分の名前も、あなたの顔も、この紅茶がどんな味なのかさえも、今の私には分かりません」

私の言葉に、侍女長の瞳が困惑と驚愕で見開かれる。よし、効果はある。

「ですから、今日からあなたが私を教育しなさい。この城のこと、私のこと、私が今までどんな人間で、何をしてきたのか。知るべきことの全てです。これは王女としての、命令よ。さあ、まずはあなたの名前から教えてちょうだい」

恐怖におののきながらも、私の命令に逆らうことなどできるはずもない侍女長を質問攻めにし、私は必死に情報を頭の中のメモ帳に叩き込んでいった。侍女長の名前はマーサ。この城には私の私室の他に、広大な食堂、数万の蔵書を誇る図書室、騎士たちが訓練に励む訓練所、そして……私が今まで幾人もの人間を送り込んできたという、暗く冷たい牢獄があること。私の婚約者は、強大な軍事力を持つ隣国の第一王子であること。そして、その王子との関係は、原作通り、最悪と言っていいほどに冷え切っていること。

(情報量が多すぎる……! 頭がパンクしそうだ!)

内心で頭を抱えながらも、私は必死にマーサの言葉を記憶に刻みつけた。これは、私の生存戦略の第一歩なのだ。

こうして、元・日本の庶民である私の、悪役令嬢アリシアとしての、波乱万丈すぎる一日が、ようやくその幕を開けた。

目下の最大の目標は、何としてでも生き残ること。そして、あわよくば、原作知識をフル活用して、この国に山積する問題――おそらくは腐敗しきっているであろう政治――をどうにかして、物語の結末である断罪イベントと、私の破滅エンドを回避すること。

(……ああ、でもその前に。まず最初にやるべきことは決まっている)

私は改めて、この悪趣味極まりない部屋を見渡した。

(この悪趣味な部屋のインテリア、一刻も早くどうにかしたいな……!)

私の壮大なる(はずの)救国計画は、そんな極めて俗っぽい、しかし切実な悩みからスタートしたのだった。
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