チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku

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シーズン2 退屈な観測者と、論理を砕くバグ

第八話:悪夢との再会

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エデニア島からの帰路、最寄りの港町で船を降りた俺たちは、世界の危機という緊急事態を告げ、王国支部から数頭の飛竜を借り受けた。それらは今、力強い翼で風を掴み、雲を突き抜け、ひたすらに北西の空を目指している。

眼下に広がる緑豊かな大地は次第にその姿を消し、やがて俺たちの視界は、どこまでも続く、灰色の雲海だけになった。目的地である「雷雲の空域」は、もう目と鼻の先だ。

「ヒャッホウ! 見ろよ、旦那! まるで雲の絨毯だぜ!」

ジンが、またがっている飛竜の首筋を優しく撫でながら、子供のようにはしゃいでいる。その視線は、隣を飛ぶサラの飛竜ではなく、サラ本人のお尻のあたりにロックオンされているようだったが。

「ジン! 前を見て操縦しろ! 貴様のせいで編隊が乱れるだろうが!」

サラが叱責の声を上げるが、彼女の飛竜もまた、なぜか編隊から大きく外れ、一人だけ南に向かって飛んでいる。

「ちょっとサラ! そっちは南だってば! あたしがこっちだって言ってるのに、なんで自信満々で逆に行くかなあ!?」

サラの飛竜の後ろを飛びながら、斥候役のリナが地図を片手に涙目で叫んでいる。リーダー格であるサラの絶望的な方向音痴は、もはや乗り物が変わろうと一切改善される気配がない。

空は、次第にその表情を変えていった。穏やかだった灰色の雲海は、まるで煮え滾る溶岩のように、どす黒く、不気味な紫色へと変色していく。ゴロゴロ、という腹の底に響くような低い唸り声が、空全体から聞こえ始めた。そして、唐突に、俺たちのすぐ側を、巨大な稲妻の槍が、空から大地へと突き刺さるかのように駆け抜けていった。

ドドオオオオオオオオオン!

鼓膜を突き破るような轟音と、一瞬だけ世界が真っ白になるほどの閃光。俺の乗る飛竜が驚いて大きく身をよじらせる。

「ひゃっ!?」

俺の隣で、セレスティアが小さく悲鳴を上げた。その拍子に、彼女の鼻がむず痒くなったのだろう。

「へ、へっくしゅん!」

彼女の、可愛らしい、本当にごく普通のくしゃみ。だが、その口から飛び出したのは、くしゃみの飛沫ではなかった。それは、先ほど空を切り裂いた稲妻を、そのままミニチュアにしたかのような、極めて強力な雷撃魔法だった。放たれた雷撃は、あらぬ方向へと暴走し、近くを飛んでいたジンの飛竜の尻尾の先を、見事に黒焦げにした。

「ぎゃああああ! 俺の愛竜の、美しい尻尾がああああ!」

ジンの悲鳴と、セレスティアの「ご、ごめんなさーい!」という半泣きの声が、雷鳴のBGMに奇妙なハーモニーを奏でる。

「もう、ここ一帯だけカオスすぎるよ!」

リナが頭を抱えて叫ぶ。もはや、この旅に平穏などという言葉は存在しないのだと、俺は改めて悟った。

何時間、その地獄のような雷雲の中を飛び続いただろうか。誰もが疲労と緊張で口数も少なくなってきた、その時だった。

「ユウキ、見てください」

ソフィアの、凛とした声が響いた。彼女が指し示す先。そこは、まるで巨大な台風の目のように、荒れ狂う雷雲が嘘のように晴れ上がり、ぽっかりと、円形の静寂な空間が生まれていた。そして、その静寂の中心に、それは、静かに浮かんでいた。

巨大な、古代の遺跡。風化し、蔦に覆われた石の壁と、所々が錆びつき、朽ち果てた金属の骨組み。そして、その二つの古代的な素材の間を縫うようにして埋め込まれた、未知の原理で青白い光を放つ、未来的なガラス質のチューブ。荘厳で、美しく、そして、生命の存在を拒絶するかのような、底知れぬ不気味さを湛えた天空の研究所が、俺たちを、まるで王の帰還を待つかのように、静かに、待ち構えていた。

飛竜を降り、研究所の内部へと足を踏み入れた瞬間、外の荒れ狂う雷鳴が嘘のように、完全な静寂が俺たちを包み込んだ。

「……罠の気配はないけど、なんか、すごく嫌な感じがする」

リナが短剣を抜き、周囲を警戒しながら呟く。床にはうっすらと塵が積もり、壁には古代の文字らしきものが刻まれている。だが、その壁の奥からは、まるで生き物の血管のように、青白い光を放つケーブルが、静かに、しかし確かに脈動しているのが透けて見えた。古代と超未来が、歪な形で融合した、異様な空間だった。

「お待ちしておりました」

俺たちが、巨大なドーム状の中央広間へとたどり着いた時、静寂を破る、穏やかで、しかし芯の通った声が響いた。

広間の中心。そこに、一人の男が立っていた。純白の、汚れ一つない法衣に身を包み、その表情は、まるで悟りを開いた聖人のように、穏やかな微笑みに満ちていた。

「神の紛い物と、その玩具たちよ」

だが、その唇から紡がれた言葉は、彼の穏やかな見た目とは裏腹に、明確な敵意と、侮蔑に満ちていた。

「私は、フィデス。この世界の、真なる神、レイ様の教えを預かる、第三の使徒である」

男――フィデスは、ゆっくりと、自らの過去を語り始めた。彼は元々、高名な聖職者だった。誰よりも正義感が強く、誰よりも神を信じ、人々を愛していた。だが、彼の祈りは、天には届かなかった。天災は無慈悲に人々を殺し、病は善人悪人の区別なく命を奪っていく。その理不尽な現実を前に、神は、ただ沈黙を続けるだけだった。

「私は、悟ったのだ。この世界に、我らが祈るべき神などいない。いるのは、不完全で、バグだらけの、冷たい法則だけだ、と」

絶望の淵にいた彼の前に、レイと名乗る青年が現れた。そして、こう言ったのだという。

「――ならば、私が新しい神となり、より完璧な法則で、この世界を救済しよう」

その言葉は、フィデスにとって、暗闇を照らす唯一の光だった。彼は、レイという存在に、魂からの救いを見出し、その思想に、絶対的な信仰を捧げたのだ。

「レイ様こそが、この不完全な世界を導く、唯一絶対の真理。貴様たちのような、旧世界の不合理な感情にすがる者共は、レイ様が創る新世界の、礎となるがいい」

フィデスの全身から、純白の、しかし、どこか冷たい光のオーラが立ち上る。

「さあ、始めよう。旧世界の神々と、新世界の神。どちらの信仰が、より強く、より正しいか。その身をもって、知るがいい」

「ふざけるな!」

最初に動いたのは、ジンだった。彼の剣が、神速でフィデスの胸元を狙う。だが、その切っ先は、フィデスの体に触れる寸前、まるで分厚いガラスに阻まれたかのように、キン!という甲高い音を立てて弾かれた。

「無駄だ。レイ様への、私の揺るぎなき信仰が、この身を守る絶対的な障壁、『神の沈黙』となっている。貴様らのような、不純な力では、この障壁に傷一つ付けることはできん」

フィデスは、その場から一歩も動かずに、静かに宣告した。

「正面がダメなら、死角から!」

ジンの攻撃が弾かれた一瞬の隙を突き、リナが残像を残すほどの速さで背後へ回り込む。毒を塗った短剣を、守りが薄いであろう首筋へ突き立てた。

ガギンッ!

「うそっ!? なにこの硬さ!」

リナの短剣もまた、見えない壁に阻まれ、彼女は衝撃で手を痺れさせながら後退した。

「ならば、これはどうだ!」

セレスティアが放った炎の槍が、障壁に直撃する。だが、炎は障壁に触れた瞬間、まるで水に吸い込まれるように、音もなく消滅してしまった。

「私の信仰は、あらゆる事象を無に帰す。それが、レイ様が与えてくださった、新たな世界の法則だ」

その時だった。この絶望的な状況を、根底からぶち壊す、あまりにも場違いで、あまりにも間抜けな、しかし、誰よりも真剣な声が、戦場に響き渡った。

「いいえ! 断じて、違います!」

声の主は、アンジェラだった。彼女は、この世の全ての悪を断罪するかのような、燃え盛る正義の炎をその瞳に宿し、フィデスを真正面から指差した。

「貴方の言う神など、偽物です! 真の女神様は、そのような、冷たく、無機質な方では断じてありません! 我らが慈悲深き女神ソフィア様は! 黒焦げになったパンを、他のどんな美食よりも愛でる、慈悲深く、そして何よりも香ばしいお方なのです!」

「……は?」

フィデスの、聖人のような微笑みが、生まれて初めて、固まった。彼の、理路整然とした思考回路が、アンジェラの、あまりにも突拍子もない主張を、理解できずにショートしたのだ。

その、ほんの一瞬の隙を見逃すほど、俺たちの聖騎士は甘くない。

「届け、我が信仰! 我が女神様への、揺るぎなき愛の鉄槌よおおおおっ!」

アンジェラは、もはやお馴染みとなった、信仰という名の勘違いを全身全霊で爆発させながら、巨大なウォーハンマーを振りかぶり、フィデスの絶対防御障壁に向かって、猛然と突撃した。

「愚かな! 我が信仰の前に、そのような原始的な攻撃が!」

フィデスの叫びと、アンジェラの鉄槌が障壁に激突した、その瞬間。

誰もが予想だにしなかった、奇妙で、あまりにもシュールな現象が、発生した。

ゴッ! という鈍い音と共に、二つの、全く方向性の違う「信仰」エネルギーが激突した。フィデスの、理路整然とした、冷たく完璧な信仰。そして、アンジェラの、支離滅裂で、根本的にズレているが、一点の曇りもなく純粋で、灼熱の如く熱い信仰。

その二つのエネルギーがぶつかり合った結果、フィデスが展開していた「神の沈黙」の法則に、致命的なバグが発生したのだ。

「罪深き者どもよ! 神の裁きを受けよ! 『論理の審判』!」

フィデスが天に手をかざすと、その頭上に、鋭く尖った十数本の光の槍が出現した。だが、アンジェラの信仰エネルギーの影響を受けたその槍は、なぜか、その形状を保つことができなかった。槍の穂先は、みるみるうちに丸みを帯び、こんがりとした焼き色がつき、しまいには、見事なまでに、フランスパンの形へと変貌してしまったのだ。

「なっ!? なぜ、神罰の槍が、パンに!?」

フィデスの動揺をよそに、天から降り注ぐ、十数本の巨大なフランスパン。それは、もはや裁きというよりは、天からの恵みのようだった。

「おお! 女神様! なんという慈悲! 敵にさえ、聖なる糧をお与えになるというのですか!」

アンジェラだけが、その光景を前に、感動の涙を流している。

「いやいやいや! なんでパン!? どっからどう見てもパンじゃん!」

リナが必死にツッコミを入れるが、さらに、不可解な現象は続く。俺たちがどんな攻撃をしてもびくともしなかったフィデスの絶対防御障壁から、なぜか、ふんわりと、パンが焼ける、香ばしい匂いが立ち上り始めた。

「な、なんだ、この匂いは!? 我が信仰が、汚染されていく!」

フィデスは、自らの聖域が、得体の知れない「香ばしさ」に侵食されていく事実に、明らかに狼狽していた。彼の、完璧で揺るぎないはずだった信仰のロジックが、アンジェラの、あまりにも不合理で、あまりにも純粋な、パンへの愛(という勘違い)によって、根底から揺さぶられ始めていたのだ。

「今だ! みんな!」

俺の叫びを合図に、仲間たちが一斉に攻撃を仕掛ける。そして、ついに、アンジェラのウォーハンマーが、香ばしい匂いを放つ障壁に、ピシリ、と、ほんの僅かな、しかし決定的な亀裂を入れた。

その亀裂から、ジン、セレスティア、リナの怒涛の連携攻撃が、雪崩のように叩き込まれていく。

仲間たちの、捨て身の猛攻を受け、フィデスは、ついにその場に膝をついた。絶対防御障壁は、砕け散ったフランスパンのように、粉々に消え去っている。

だが、追い詰められたはずの彼の表情に、敗北の色はなかった。それどころか、彼は、天を仰ぎ、まるで長年の夢が叶ったかのような、恍惚とした、歓喜の表情を浮かべていた。

「ご覧ください、我が神よ! この者共が、旧世界の、最後の抵抗です! 今こそ、その御姿を、この愚かなる者共にお示しください!」

彼の、狂信的な叫びに呼応するように、フィデスの背後の空間が、まるで静かな水面に小石を投げ込んだかのように、ゆっくりと、そして静かに、揺らめき始めた。

そこから、何の予兆も、何の音もなく、すっと、一人の青年が、まるで隣の部屋からでも出てくるかのように、ごく自然に、歩み出てきた。

純白の、清潔な白衣。穏やかで、理知的で、どこか浮世離れした、完璧なまでの微笑み。その青年が、そこにただ存在するだけで、研究所の空気が、凍り付いた。それは、絶対的な力を持つ者だけが放つ、魂そのものを圧迫するような、凄まじいプレッシャーだった。

その顔を見た、瞬間。

俺の隣に立っていたソフィアの、思考、呼吸、時間の、全てが、完全に、停止した。

伸ばしかけた彼女の手は、力なく宙で止まり、その深く青い瞳は、信じられないものを、この世の終わりそのものを目撃してしまったかのように、大きく、大きく、見開かれる。

その桜色の唇が、声にならない、か細い形で、目の前の青年の名前を、絶望と共に、紡いだ。

「――かんざき、れいと、くん?」

その、ソフィアの魂からの呟きを聞いた青年――レイは、驚愕に固まる俺たち一行など、まるで存在しないかのように、ただ、懐かしいものを見るように、ソフィアにだけ、その目を、細めた。

「やあ、ソフィア。久しぶりだね」

その声は、驚くほど穏やかで、優しかった。だが、その声には、温度というものが、一切、存在しなかった。

彼は、完璧な笑顔のまま、続ける。

「君が、僕をこの世界に送り込んでから、もう、ずいぶん経つかな」

そして、彼は、まるで子供の面白い遊びでも見つけたかのように、楽しそうに、そして、心の底から、嘲笑するように、言った。

「神が、自ら創った、不完全な人間たちと、戯れるとは。最高に滑稽だ。最高の、観察対象だよ」

その瞳は、科学者が、実験台の上の、哀れな実験動物に向ける、どこまでも冷徹で、残酷な、純粋な好奇の色を、たたえていた。

ソフィアの顔から、血の気が、さっと引いていく。

彼女の、過去の、ほんの少しの判断ミスが生み出した、最悪の悪夢が。

今、目の前に、確かに、立っていた。
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