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第1部:出会いと勘違いの旅路
第50話:自己組織化する旅路
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その日の夕暮れは、まるで世界が終わってしまうのではないかと思うほどに、息をのむほど美しかった。
一行が野営の準備をしていたのは、街道を少し外れた、見晴らしの良い丘の上だった。西の空は、燃え盛る炎のようなオレンジ色から、深い悲しみを湛えた紫色へと、刻一刻とその表情を滑らかに変えていく。地平線の向こうに沈みゆく太陽が最後の輝きを放ち、空に残された雲の輪郭を、まるで純金で縁取ったかのように鮮やかに照らし出していた。
吹き抜ける風は少し冷たく、乾いた草の匂いと、夜の訪れを予感させる土の匂いを運んでくる。空気が澄んでいるのか、東の空には早くも一番星が、まるで小さなダイヤモンドのように、力強く瞬き始めていた。
丘の下には、これから一行が向かうはずだったであろう街の灯りが、まるで地上に撒かれた宝石のように、小さく、そして無数に点在しているのが見えた。
そんな、あまりにも静かで美しい世界の中心で、ユウ一行の間に流れる空気は、どこか張り詰めていた。昨夜のギデオンの告白が、彼らの間にあった見えない壁を取り払い、同時に、それぞれが抱える過去や未来について、否応なく考えさせていたからだ。
車内での静寂を破ったギデオンの頼み。その続きの言葉を、誰もが固唾をのんで待っていた。
「俺を強くしてくれ、なんて無粋なことは言わねえ」
ギデオンは、いつもの飄々とした態度を完全に消し去り、一人の剣士として、ただひたすらに真摯な目でユウを見つめていた。
「ただ、強くなるための『きっかけ』が欲しいんだ。何か、心当たりはねえか? おとぎ話に出てくるような伝説の武器とか、失われた古代の秘術とか。お前さんなら、何か知ってるかもしれねえと思ってな」
その、藁にもすがるような、しかし剣士としての最後のプライドを滲ませた問い。それは、彼の魂からの切実な叫びだった。
その問いに、ユウは腕を組み、「うーん」と真剣に唸った。仲間たちの期待の視線が、彼一人に集中する。やがて、彼は何かを閃いたように顔を上げ、きっぱりと言い放った。
「俺は、ただ気合入れて殴ってるだけだから、そういうのは全然分かんねえな!」
その、あまりにも身も蓋もない、そして何の役にも立たない答えに、仲間たちは盛大にずっこけた。
「貴様、この真剣な空気をぶち壊す天才か!」
「まあ、ユウらしいといえば、らしいですけれど……」
アレクのツッコミとシルフィアのフォローが響く中、今度はリリアが「任せて!」と自信満々に胸を叩いた。彼女は目を閉じ、その小さな頭脳の中で、転生時に与えられた膨大な知識のデータベースにアクセスを開始する。
「検索ワード、『伝説』、『武器』、『最強』……っと。はい、ヒットしました!」
リリアが目を開き、得意げに告げた検索結果。それは――。
「『聖剣エクスカリバー(レプリカ)、今なら36回払い無金利キャンペーン中!』『これを飲めばあなたもモテモテ!失われた秘薬(※効果には個人差があります)』『伝説の鍛冶師が打った至高の一振り(※ただの包丁)』……だめね、ろくな情報がないわ」
シリアスな空気を一瞬で霧散させる、あまりにも現代的で、あまりにもくだらない情報。ギデオンのこめかみに、青筋がピクリと浮かんだ。
その、どうしようもない空気が漂い始めた、まさにその時だった。
丘の下から、二つの人影が、血相を変えてこちらへ駆け上がってくるのが見えた。食料の買い出しと情報収集を兼ねて、麓の街に降りていたアレクとレオンだった。
「大変だ! ユウ! みんな!」
息を切らし、肩で呼吸をしながら、アレクが叫ぶ。その表情は、いつもの暑苦しいほどの自信に満ちたものではなく、焦りと、そして純粋な怒りに染まっていた。
「隣の『法国』が、とんでもないことになっているらしい!」
レオンもまた、珍しく冷静さを欠いた様子で言葉を続ける。
「単なる噂ではない。法国から命からがら逃げてきたという行商人から直接聞いた話だ。信憑性は、極めて高い」
彼らが街で仕入れてきた情報は、にわかには信じがたい、おぞましいものだった。
敬虔な女神信仰で知られ、大陸でも最も平和で穏やかだと言われていた法国。その国で、半年前に新法王が即位して以来、全てが変わってしまったという。
異端狩りが激化し、女神の教えに少しでも疑義を唱えた者はもちろん、隣人からの些細な密告を受けただけの、何の罪もない民が、見せしめのように次々と捕らえられ、広場で公開処刑されている。
そして、その処刑方法というのが、あまりにも残忍極まりないものだった。「聖なる浄化の炎」と呼ばれる、決して消えることのない魔法の炎で、罪人が灰になるまで、何日もかけてじっくりと焼き尽くすというのだ。広場には、断末魔の叫びが昼夜を問わず響き渡り、街は恐怖と、肉の焼ける異臭に満ちているという。
その話を聞いた瞬間、車内にいた全員の表情が変わった。
最初に反応したのは、ギデオンだった。彼の目が、カッと見開かれる。
「――聖なる、浄化の炎、だと?」
彼の脳裏に、剣士として培ってきた知識と、古文書で読んだ古代の伝承が、稲妻のように結びつく。それは、ただの魔法の炎などではない。神代の時代に使われたという、魂そのものを焼き尽くす、失われたはずの神聖魔法。もしそれが本物ならば、そこには、現代の魔術体系とは比較にならないほどの、強大な力の源が眠っている可能性がある。
(きっかけは、そこにあるかもしれねえ……!)
彼の個人的な「強くなりたい」という動機が、法国という場所に、明確なアンカーを打ち込んだ。
次に声を上げたのは、アレクだった。彼は怒りに拳を震わせ、その顔を正義の炎で真っ赤に染めていた。
「許せん! 断じて許せん! 女神の名を騙り、無実の民を虐げるなど、悪の所業そのものではないか! 我々が行き、その偽りの正義に鉄槌を下す!」
彼の「困っている人々を救いたい」という純粋な正義感が、法国という場所に、燃え盛る松明を突き立てた。
その隣で、リリアとイザベラが、冷静に、しかし鋭い視線を交わしていた。
「一国の体制が、法王一人の交代でそこまで急激に変化するなんて、尋常じゃないわ。背後に何か、大きな力が働いていると見るべきね」
「ええ。それに、その『消えない炎』とやらにも興味がありますわ。もしそれが古代の遺物(アーティファクト)の力によるものだとしたら、放置すればいずれ、この大陸全体の脅威となりかねません」
彼女たちの「異常事態を看過できない」という知的好奇心と、為政者としての責任感が、法国という場所に、冷徹な分析の光を当てた。
そして、シルフィアは。
彼女は、何も言わずに、ただ静かに、唇を噛みしめていた。
理由もなく、ただそこにいるというだけで断罪され、恐怖に怯え、なすすべもなく命を奪われていく人々。その姿に、彼女は、魔族に蹂-された故郷の民と、絶望の淵にいたかつての自分を、痛いほどに重ね合わせていた。もう、あんな思いを誰にもしてほしくない。
彼女の「理不尽に苦しむ人々を救いたい」という共感が、法国という場所に、静かで、しかし何よりも強い祈りを捧げた。
強くなりたいという、個人的な渇望。
悪を許せないという、純粋な正義感。
謎を解き明かしたいという、知的な好奇心。
国を動かす者としての、大きな責任感。
他者の痛みに寄り添う、深い共感。
それぞれの、全く異なるベクトルを向いていたはずの想いが、この瞬間、「法国」という一つの座標軸の上で、奇跡のように重なり合った。
誰も、明確に「次へ行こう」とは言っていない。リーダーがいるわけでも、多数決を取ったわけでもない。しかし、パーティ全体の意志は、まるで無数の水滴が互いに引かれ合い、やれ一つの大きな流れを形作るように、自然に、そして確固として定まっていった。
その、不思議な一体感を破ったのは、いつものように、全く空気を読まない、底抜けに呑気な声だった。
「よし、決まりだな!」
丘の上に立ち、眼下に広がる法国の無数の灯りを見下ろしながら、ユウが宣言した。彼は、仲間たちの顔を一人一人見渡し、満足そうに頷くと、満面の笑みで拳を突き上げる。
「次は法国だ! なんか美味いモンあるといいな!」
その、あまりにも場違いで、あまりにも彼らしい言葉に、張り詰めていた空気がふっと和らぎ、仲間たちの顔に苦笑が浮かんだ。
それぞれの想いを胸に、一行のカオスな旅は、偽りの神が支配するという、新たな波乱の待つ地へと、その舵を切った。
シルフィアは、冷たい夜風の中で、静かに拳を握りしめた。その瞳には、かつてのような絶望の色ではなく、守るべきものを見つけた者の、強く、そして優しい光が宿っていた。
一行が野営の準備をしていたのは、街道を少し外れた、見晴らしの良い丘の上だった。西の空は、燃え盛る炎のようなオレンジ色から、深い悲しみを湛えた紫色へと、刻一刻とその表情を滑らかに変えていく。地平線の向こうに沈みゆく太陽が最後の輝きを放ち、空に残された雲の輪郭を、まるで純金で縁取ったかのように鮮やかに照らし出していた。
吹き抜ける風は少し冷たく、乾いた草の匂いと、夜の訪れを予感させる土の匂いを運んでくる。空気が澄んでいるのか、東の空には早くも一番星が、まるで小さなダイヤモンドのように、力強く瞬き始めていた。
丘の下には、これから一行が向かうはずだったであろう街の灯りが、まるで地上に撒かれた宝石のように、小さく、そして無数に点在しているのが見えた。
そんな、あまりにも静かで美しい世界の中心で、ユウ一行の間に流れる空気は、どこか張り詰めていた。昨夜のギデオンの告白が、彼らの間にあった見えない壁を取り払い、同時に、それぞれが抱える過去や未来について、否応なく考えさせていたからだ。
車内での静寂を破ったギデオンの頼み。その続きの言葉を、誰もが固唾をのんで待っていた。
「俺を強くしてくれ、なんて無粋なことは言わねえ」
ギデオンは、いつもの飄々とした態度を完全に消し去り、一人の剣士として、ただひたすらに真摯な目でユウを見つめていた。
「ただ、強くなるための『きっかけ』が欲しいんだ。何か、心当たりはねえか? おとぎ話に出てくるような伝説の武器とか、失われた古代の秘術とか。お前さんなら、何か知ってるかもしれねえと思ってな」
その、藁にもすがるような、しかし剣士としての最後のプライドを滲ませた問い。それは、彼の魂からの切実な叫びだった。
その問いに、ユウは腕を組み、「うーん」と真剣に唸った。仲間たちの期待の視線が、彼一人に集中する。やがて、彼は何かを閃いたように顔を上げ、きっぱりと言い放った。
「俺は、ただ気合入れて殴ってるだけだから、そういうのは全然分かんねえな!」
その、あまりにも身も蓋もない、そして何の役にも立たない答えに、仲間たちは盛大にずっこけた。
「貴様、この真剣な空気をぶち壊す天才か!」
「まあ、ユウらしいといえば、らしいですけれど……」
アレクのツッコミとシルフィアのフォローが響く中、今度はリリアが「任せて!」と自信満々に胸を叩いた。彼女は目を閉じ、その小さな頭脳の中で、転生時に与えられた膨大な知識のデータベースにアクセスを開始する。
「検索ワード、『伝説』、『武器』、『最強』……っと。はい、ヒットしました!」
リリアが目を開き、得意げに告げた検索結果。それは――。
「『聖剣エクスカリバー(レプリカ)、今なら36回払い無金利キャンペーン中!』『これを飲めばあなたもモテモテ!失われた秘薬(※効果には個人差があります)』『伝説の鍛冶師が打った至高の一振り(※ただの包丁)』……だめね、ろくな情報がないわ」
シリアスな空気を一瞬で霧散させる、あまりにも現代的で、あまりにもくだらない情報。ギデオンのこめかみに、青筋がピクリと浮かんだ。
その、どうしようもない空気が漂い始めた、まさにその時だった。
丘の下から、二つの人影が、血相を変えてこちらへ駆け上がってくるのが見えた。食料の買い出しと情報収集を兼ねて、麓の街に降りていたアレクとレオンだった。
「大変だ! ユウ! みんな!」
息を切らし、肩で呼吸をしながら、アレクが叫ぶ。その表情は、いつもの暑苦しいほどの自信に満ちたものではなく、焦りと、そして純粋な怒りに染まっていた。
「隣の『法国』が、とんでもないことになっているらしい!」
レオンもまた、珍しく冷静さを欠いた様子で言葉を続ける。
「単なる噂ではない。法国から命からがら逃げてきたという行商人から直接聞いた話だ。信憑性は、極めて高い」
彼らが街で仕入れてきた情報は、にわかには信じがたい、おぞましいものだった。
敬虔な女神信仰で知られ、大陸でも最も平和で穏やかだと言われていた法国。その国で、半年前に新法王が即位して以来、全てが変わってしまったという。
異端狩りが激化し、女神の教えに少しでも疑義を唱えた者はもちろん、隣人からの些細な密告を受けただけの、何の罪もない民が、見せしめのように次々と捕らえられ、広場で公開処刑されている。
そして、その処刑方法というのが、あまりにも残忍極まりないものだった。「聖なる浄化の炎」と呼ばれる、決して消えることのない魔法の炎で、罪人が灰になるまで、何日もかけてじっくりと焼き尽くすというのだ。広場には、断末魔の叫びが昼夜を問わず響き渡り、街は恐怖と、肉の焼ける異臭に満ちているという。
その話を聞いた瞬間、車内にいた全員の表情が変わった。
最初に反応したのは、ギデオンだった。彼の目が、カッと見開かれる。
「――聖なる、浄化の炎、だと?」
彼の脳裏に、剣士として培ってきた知識と、古文書で読んだ古代の伝承が、稲妻のように結びつく。それは、ただの魔法の炎などではない。神代の時代に使われたという、魂そのものを焼き尽くす、失われたはずの神聖魔法。もしそれが本物ならば、そこには、現代の魔術体系とは比較にならないほどの、強大な力の源が眠っている可能性がある。
(きっかけは、そこにあるかもしれねえ……!)
彼の個人的な「強くなりたい」という動機が、法国という場所に、明確なアンカーを打ち込んだ。
次に声を上げたのは、アレクだった。彼は怒りに拳を震わせ、その顔を正義の炎で真っ赤に染めていた。
「許せん! 断じて許せん! 女神の名を騙り、無実の民を虐げるなど、悪の所業そのものではないか! 我々が行き、その偽りの正義に鉄槌を下す!」
彼の「困っている人々を救いたい」という純粋な正義感が、法国という場所に、燃え盛る松明を突き立てた。
その隣で、リリアとイザベラが、冷静に、しかし鋭い視線を交わしていた。
「一国の体制が、法王一人の交代でそこまで急激に変化するなんて、尋常じゃないわ。背後に何か、大きな力が働いていると見るべきね」
「ええ。それに、その『消えない炎』とやらにも興味がありますわ。もしそれが古代の遺物(アーティファクト)の力によるものだとしたら、放置すればいずれ、この大陸全体の脅威となりかねません」
彼女たちの「異常事態を看過できない」という知的好奇心と、為政者としての責任感が、法国という場所に、冷徹な分析の光を当てた。
そして、シルフィアは。
彼女は、何も言わずに、ただ静かに、唇を噛みしめていた。
理由もなく、ただそこにいるというだけで断罪され、恐怖に怯え、なすすべもなく命を奪われていく人々。その姿に、彼女は、魔族に蹂-された故郷の民と、絶望の淵にいたかつての自分を、痛いほどに重ね合わせていた。もう、あんな思いを誰にもしてほしくない。
彼女の「理不尽に苦しむ人々を救いたい」という共感が、法国という場所に、静かで、しかし何よりも強い祈りを捧げた。
強くなりたいという、個人的な渇望。
悪を許せないという、純粋な正義感。
謎を解き明かしたいという、知的な好奇心。
国を動かす者としての、大きな責任感。
他者の痛みに寄り添う、深い共感。
それぞれの、全く異なるベクトルを向いていたはずの想いが、この瞬間、「法国」という一つの座標軸の上で、奇跡のように重なり合った。
誰も、明確に「次へ行こう」とは言っていない。リーダーがいるわけでも、多数決を取ったわけでもない。しかし、パーティ全体の意志は、まるで無数の水滴が互いに引かれ合い、やれ一つの大きな流れを形作るように、自然に、そして確固として定まっていった。
その、不思議な一体感を破ったのは、いつものように、全く空気を読まない、底抜けに呑気な声だった。
「よし、決まりだな!」
丘の上に立ち、眼下に広がる法国の無数の灯りを見下ろしながら、ユウが宣言した。彼は、仲間たちの顔を一人一人見渡し、満足そうに頷くと、満面の笑みで拳を突き上げる。
「次は法国だ! なんか美味いモンあるといいな!」
その、あまりにも場違いで、あまりにも彼らしい言葉に、張り詰めていた空気がふっと和らぎ、仲間たちの顔に苦笑が浮かんだ。
それぞれの想いを胸に、一行のカオスな旅は、偽りの神が支配するという、新たな波乱の待つ地へと、その舵を切った。
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閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
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現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
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