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第2部:偽りの神と作られし者たち
第60話:一緒に行きましょう
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偽りの神が打倒され、本物の法王がその座に戻ってから数日が過ぎた。法国の首都は、まるで長い悪夢から覚めたかのように、急速に活気を取り戻しつつあった。
恐怖政治を敷いていた異端審問官たちは捕らえられ、保身のために友を売った幼馴染のリオをはじめとする密告者たちもまた、次々と法の裁きを待つ身となった。だが、今のエリアには、彼らに向ける憎しみさえも残ってはいない。
不当に投獄されていた人々が解放され、街角には人々の笑い声が戻り、市場の喧騒が響き渡る。空は高く澄み渡り、降り注ぐ太陽の光は、この国の再生を祝福しているかのようだった。
しかし、その光が届かない場所もあった。
大聖堂の、ステンドグラスの光が届かない片隅。エリアは、ただ一人、膝を抱えて座り込んでいた。
故郷は解放されたはずなのに、彼女の心は凍りついたままだ。
「……父様」
昨日、あの暗い地下牢で法王様から告げられた言葉が、まだ耳の奥にこびりついている。 『父は立派であった。私を庇い、最後まで信仰を貫いて……』
遺品として手渡された古びたロザリオを、エリアは痛いほど強く握りしめた。自分が転移魔法で逃げた後、父は捕らえられ、あの冷たい石の床の上で、法王を守る盾となって息を引き取ったのだ。
自分が逃げなければ、父はまだ生きていたかもしれない。あるいは、もっと早く立ち向かっていれば。 後悔と自責の念が、胸を締め付ける。
信じていた幼馴染には裏切られ、唯一の肉親であった父も、自分のせいで失った。そして、生涯を捧げると誓った信仰の中心地であったこの大聖堂は、悍ましい魔物に穢されていた。彼女がこれまで執着し、心の支えとしてきた「信じるべきもの」の全てが、意味を失い、音を立てて崩れ去ってしまった。
「私にはもう、帰る場所も、祈る場所もないんだ……」
ぽつりと漏れた呟きは、誰に聞かれることもなく、冷たい石の床に吸い込まれて消えていった。
彼女の視界は、まるで色褪せた古い絵画のようだった。活気を取り戻した街の喧騒が、分厚いガラスを一枚隔てたかのように、やけに遠くに聞こえる。再会を喜び抱き合う人々の笑顔が、自分とは全く無関係な、別の世界の出来事のように見える。心の中は、がらんどうだった。全ての家具が運び出され、窓も扉も固く閉ざされた、空っぽの部屋。そこには、色のない、音のない、ただ広大な虚無が広がっているだけだった。
これからどうすればいいのだろう。どこへ行けば、いいのだろう。
答えなど、見つかるはずもなかった。人生とは、何もかもが思い通りにはならないという絶対的な真実。その真理の、冷たくて硬い地面の上に、彼女はただ一人、立ちすくんでいた。
その時、静かな足音が、彼女の空っぽの世界に響いた。顔を上げると、そこには三人の女性が立っていた。シルフィア、イザベラ、そしてリリア。彼女たちは、それぞれのやり方で、エリアの閉ざされた世界にそっと足を踏み入れた。
最初に、シルフィアがエリアの隣に、音を立てないようにゆっくりと腰を下ろした。彼女は何も言わず、ただエリアと同じように、陽の光が差す中庭の方をじっと見つめていた。しばらくして、穏やかな、しかしどこか芯の通った声で、静かに語りかけた。
「私も、故郷を失いました。魔族の軍勢に国を焼かれ、父も、母も、そして大切だった人たちも、全て……。あの時は、世界から色が消えて、呼吸の仕方さえ忘れてしまいそうでした」
その言葉は、単なる同情ではなかった。同じ痛みを知る者だけが持つことのできる、静かで、深い共感があった。
「あなたの気持ちが全て分かるとは言えません。でも、帰る場所を失った心の痛みは、少しだけ、分かる気がします」
シルフィアは、そう言って優しく微笑んだ。その笑顔は、エリアの凍り付いた心に、小さな温もりを灯した。
次に口を開いたのは、腕を組んで二人を見下ろしていたイザベラだった。その口調は、少し呆れたような、しかし突き放すような冷たさはない、不思議な響きを持っていた。
「国や故郷なんて、案外、窮屈なものよ。王女として生まれれば、生まれた瞬間から役割を押し付けられ、自分の人生を生きることさえ許されない。信仰も同じじゃないかしら? 一つの正しいとされる道だけを歩くことを強いられる。あなたは、それに少し疲れ果ててしまっただけ」
イザベラは、かつての自分を思い出すかのように、ふっと遠い目をした。
「外の世界は、もっと広くて、もっと滅茶苦茶よ。目を見張るほど美味しいものもあれば、度し難いほど不味いものもある。腹を抱えて笑うような面白いこともあれば、腸が煮え繰り返るほど腹の立つこともあるわ。窮屈な箱庭から出て、そういうもので世界をいっぱいにしてみるのも、悪くないんじゃない?」
その言葉は、エリアがこれまで考えたこともなかった、新しい視点だった。失ったものを嘆くのではなく、これから手に入れることができるものの豊かさに目を向ける。イザベラの言葉は、エリアの世界が、決してこの法国だけが全てではないのだという可能性を示していた。
最後に、リリアがニヤリと悪戯っぽく笑いながら、エリアの前にしゃがみこんだ。
「まあ、難しい話は抜きにしてさ」
彼女は、親指で後ろにいる仲間たちの方を指し示す。
そこでは、ユウとアレク、そしてギデオンの三人が、「どっちの拳が硬いか」という、あまりにもくだらないことで言い争いを始めていた。
「俺の拳はドラゴンの鱗より硬いぞ!」 「ハッ、俺の拳は鋼鉄をも砕く!」 「いいや、俺の拳には年季が入ってんだよ! エリアの嬢ちゃんに治してもらったばかりの肩が唸るぜ!」
ギデオンの笑い声は、どこか自らを鼓舞するように、いつもより大きく響いている。一昨日の敗北と屈辱を忘れたわけではない。それでも、今は馬鹿騒ぎをすることで、折れかけた心を必死に繋ぎ止め、前を向こうとしているようだった。
リリアはそんな彼らを呆れたように見つめながら、エリアに向き直った。
「見ての通り、ウチのパーティ、脳筋ばっかりでしょ。あの剣客のおっさんだって、昨日は悔し涙流してたくせに、もうあんなバカ騒ぎして誤魔化してるし」
彼女は次に、言い争いをオロオロと見守る巨漢の僧侶に視線を送った。
「で、回復役はいるにはいるんだけど……あの通り、防御魔法は一級品なんだけど、メンタルが絹ごし豆腐なのよ。戦闘中は必死で耐えてるけど、終わった瞬間に緊張の糸が切れて白目剥いて気絶しちゃうの。おかげで、こっちは戦闘後の手当てが追いつかないわけ」
リリアは身を乗り出し、確信に満ちた瞳でエリアを見つめた。
「だから、そろそろ出血多量でも動じない、肝の座ったヒーラーが一人、喉から手が出るほど欲しいのよ。ねえ、どう?」
それは、あまりにも直接的で、不器用で、しかし、今のエリアにとって何よりも心に響く言葉だった。同情でもなければ、慰めでもない。「あなたが必要だ」という、明確なメッセージ。
三者三様の、不器用だけど、温かい言葉。そして、彼女たちの手が、エリアに向かって差し伸べられた。
シルフィアの、全てを包み込むような優雅な手。 イザベラの、力強く未来へと導くような堂々とした手。 リリアの、一緒に悪巧みをしましょうと誘うような、楽しげな手。
エリアは、差し伸べられた三つの手と、三人の顔を、涙で滲む視界の中で交互に見つめた。彼女たちの目には、哀れみや同情の色はなかった。そこにあったのは、対等な仲間として、一人の人間として、自分を真っ直ぐに見つめる、力強い光だった。
こらえていた涙が、堰を切ったように頬を伝う。それは、もう絶望の涙ではなかった。
「私で……いいのでしょうか……。こんな、何もかも失ってしまった、私で……」
そのか細い問いに、イザベラが力強く笑った。
「いいに決まっているでしょう。失ったものがある人間は、その分だけ、強くなれるわ」
シルフィアが、慈愛に満ちた瞳で微笑む。
「ええ、ぜひ。私たちと一緒に、新しい物語を始めましょう」
そして、リリアが楽しそうにウィンクした。
「ようこそ、カオスへ! 退屈だけはさせないと保証するわよ!」
エリアは、しゃくりあげながらも、ゆっくりと、しかし強く、差し伸べられた三つの手を、その両手で握り返した。
「よろしく、お願いします……!」
「決まりね! 歓迎するわ、エリア!」
リリアは満面の笑みで頷くと、ふと思い出したようにポンと手を打った。
「……っと、その前に。今のままだと定員オーバーで乗れないんだった。ちょっと待っててね」
彼女は広場に停めてあったフェンリル改に向き直ると、高らかにスキル名を叫んだ。
「『創造・座席拡張(エクストラ・シート)』!」
ガガガガッ! という音と共に、ただでさえ巨大な車体がさらに不自然に膨張し、後部の居住スペースが無理やり拡張されていく。
「よし、これで9人乗り仕様よ! さあ、行くわよ!」
その、あまりにも強引で、物理法則を無視した光景に、エリアは涙目で、しかし初めて声を上げて笑った。
その瞬間、彼女の空っぽだった心に、温かくて、賑やかで、そして少しだけ騒々しい光が、確かに灯った。
一つの絶対的な信仰という大きな執着から解放された彼女の世界が、多様で、予測不能で、しかし温かい人々との新しい関係性(縁)の中へと、再編成されていく。自己組織化の始まりだった。
パーティという、どこへ向かうか分からない複雑系に、信仰と絶望、そして癒やしの力を持つ新たな仲間が加わった。一行の物語は、また少しだけその色合いを変えて、次の舞台へと動き出す。
恐怖政治を敷いていた異端審問官たちは捕らえられ、保身のために友を売った幼馴染のリオをはじめとする密告者たちもまた、次々と法の裁きを待つ身となった。だが、今のエリアには、彼らに向ける憎しみさえも残ってはいない。
不当に投獄されていた人々が解放され、街角には人々の笑い声が戻り、市場の喧騒が響き渡る。空は高く澄み渡り、降り注ぐ太陽の光は、この国の再生を祝福しているかのようだった。
しかし、その光が届かない場所もあった。
大聖堂の、ステンドグラスの光が届かない片隅。エリアは、ただ一人、膝を抱えて座り込んでいた。
故郷は解放されたはずなのに、彼女の心は凍りついたままだ。
「……父様」
昨日、あの暗い地下牢で法王様から告げられた言葉が、まだ耳の奥にこびりついている。 『父は立派であった。私を庇い、最後まで信仰を貫いて……』
遺品として手渡された古びたロザリオを、エリアは痛いほど強く握りしめた。自分が転移魔法で逃げた後、父は捕らえられ、あの冷たい石の床の上で、法王を守る盾となって息を引き取ったのだ。
自分が逃げなければ、父はまだ生きていたかもしれない。あるいは、もっと早く立ち向かっていれば。 後悔と自責の念が、胸を締め付ける。
信じていた幼馴染には裏切られ、唯一の肉親であった父も、自分のせいで失った。そして、生涯を捧げると誓った信仰の中心地であったこの大聖堂は、悍ましい魔物に穢されていた。彼女がこれまで執着し、心の支えとしてきた「信じるべきもの」の全てが、意味を失い、音を立てて崩れ去ってしまった。
「私にはもう、帰る場所も、祈る場所もないんだ……」
ぽつりと漏れた呟きは、誰に聞かれることもなく、冷たい石の床に吸い込まれて消えていった。
彼女の視界は、まるで色褪せた古い絵画のようだった。活気を取り戻した街の喧騒が、分厚いガラスを一枚隔てたかのように、やけに遠くに聞こえる。再会を喜び抱き合う人々の笑顔が、自分とは全く無関係な、別の世界の出来事のように見える。心の中は、がらんどうだった。全ての家具が運び出され、窓も扉も固く閉ざされた、空っぽの部屋。そこには、色のない、音のない、ただ広大な虚無が広がっているだけだった。
これからどうすればいいのだろう。どこへ行けば、いいのだろう。
答えなど、見つかるはずもなかった。人生とは、何もかもが思い通りにはならないという絶対的な真実。その真理の、冷たくて硬い地面の上に、彼女はただ一人、立ちすくんでいた。
その時、静かな足音が、彼女の空っぽの世界に響いた。顔を上げると、そこには三人の女性が立っていた。シルフィア、イザベラ、そしてリリア。彼女たちは、それぞれのやり方で、エリアの閉ざされた世界にそっと足を踏み入れた。
最初に、シルフィアがエリアの隣に、音を立てないようにゆっくりと腰を下ろした。彼女は何も言わず、ただエリアと同じように、陽の光が差す中庭の方をじっと見つめていた。しばらくして、穏やかな、しかしどこか芯の通った声で、静かに語りかけた。
「私も、故郷を失いました。魔族の軍勢に国を焼かれ、父も、母も、そして大切だった人たちも、全て……。あの時は、世界から色が消えて、呼吸の仕方さえ忘れてしまいそうでした」
その言葉は、単なる同情ではなかった。同じ痛みを知る者だけが持つことのできる、静かで、深い共感があった。
「あなたの気持ちが全て分かるとは言えません。でも、帰る場所を失った心の痛みは、少しだけ、分かる気がします」
シルフィアは、そう言って優しく微笑んだ。その笑顔は、エリアの凍り付いた心に、小さな温もりを灯した。
次に口を開いたのは、腕を組んで二人を見下ろしていたイザベラだった。その口調は、少し呆れたような、しかし突き放すような冷たさはない、不思議な響きを持っていた。
「国や故郷なんて、案外、窮屈なものよ。王女として生まれれば、生まれた瞬間から役割を押し付けられ、自分の人生を生きることさえ許されない。信仰も同じじゃないかしら? 一つの正しいとされる道だけを歩くことを強いられる。あなたは、それに少し疲れ果ててしまっただけ」
イザベラは、かつての自分を思い出すかのように、ふっと遠い目をした。
「外の世界は、もっと広くて、もっと滅茶苦茶よ。目を見張るほど美味しいものもあれば、度し難いほど不味いものもある。腹を抱えて笑うような面白いこともあれば、腸が煮え繰り返るほど腹の立つこともあるわ。窮屈な箱庭から出て、そういうもので世界をいっぱいにしてみるのも、悪くないんじゃない?」
その言葉は、エリアがこれまで考えたこともなかった、新しい視点だった。失ったものを嘆くのではなく、これから手に入れることができるものの豊かさに目を向ける。イザベラの言葉は、エリアの世界が、決してこの法国だけが全てではないのだという可能性を示していた。
最後に、リリアがニヤリと悪戯っぽく笑いながら、エリアの前にしゃがみこんだ。
「まあ、難しい話は抜きにしてさ」
彼女は、親指で後ろにいる仲間たちの方を指し示す。
そこでは、ユウとアレク、そしてギデオンの三人が、「どっちの拳が硬いか」という、あまりにもくだらないことで言い争いを始めていた。
「俺の拳はドラゴンの鱗より硬いぞ!」 「ハッ、俺の拳は鋼鉄をも砕く!」 「いいや、俺の拳には年季が入ってんだよ! エリアの嬢ちゃんに治してもらったばかりの肩が唸るぜ!」
ギデオンの笑い声は、どこか自らを鼓舞するように、いつもより大きく響いている。一昨日の敗北と屈辱を忘れたわけではない。それでも、今は馬鹿騒ぎをすることで、折れかけた心を必死に繋ぎ止め、前を向こうとしているようだった。
リリアはそんな彼らを呆れたように見つめながら、エリアに向き直った。
「見ての通り、ウチのパーティ、脳筋ばっかりでしょ。あの剣客のおっさんだって、昨日は悔し涙流してたくせに、もうあんなバカ騒ぎして誤魔化してるし」
彼女は次に、言い争いをオロオロと見守る巨漢の僧侶に視線を送った。
「で、回復役はいるにはいるんだけど……あの通り、防御魔法は一級品なんだけど、メンタルが絹ごし豆腐なのよ。戦闘中は必死で耐えてるけど、終わった瞬間に緊張の糸が切れて白目剥いて気絶しちゃうの。おかげで、こっちは戦闘後の手当てが追いつかないわけ」
リリアは身を乗り出し、確信に満ちた瞳でエリアを見つめた。
「だから、そろそろ出血多量でも動じない、肝の座ったヒーラーが一人、喉から手が出るほど欲しいのよ。ねえ、どう?」
それは、あまりにも直接的で、不器用で、しかし、今のエリアにとって何よりも心に響く言葉だった。同情でもなければ、慰めでもない。「あなたが必要だ」という、明確なメッセージ。
三者三様の、不器用だけど、温かい言葉。そして、彼女たちの手が、エリアに向かって差し伸べられた。
シルフィアの、全てを包み込むような優雅な手。 イザベラの、力強く未来へと導くような堂々とした手。 リリアの、一緒に悪巧みをしましょうと誘うような、楽しげな手。
エリアは、差し伸べられた三つの手と、三人の顔を、涙で滲む視界の中で交互に見つめた。彼女たちの目には、哀れみや同情の色はなかった。そこにあったのは、対等な仲間として、一人の人間として、自分を真っ直ぐに見つめる、力強い光だった。
こらえていた涙が、堰を切ったように頬を伝う。それは、もう絶望の涙ではなかった。
「私で……いいのでしょうか……。こんな、何もかも失ってしまった、私で……」
そのか細い問いに、イザベラが力強く笑った。
「いいに決まっているでしょう。失ったものがある人間は、その分だけ、強くなれるわ」
シルフィアが、慈愛に満ちた瞳で微笑む。
「ええ、ぜひ。私たちと一緒に、新しい物語を始めましょう」
そして、リリアが楽しそうにウィンクした。
「ようこそ、カオスへ! 退屈だけはさせないと保証するわよ!」
エリアは、しゃくりあげながらも、ゆっくりと、しかし強く、差し伸べられた三つの手を、その両手で握り返した。
「よろしく、お願いします……!」
「決まりね! 歓迎するわ、エリア!」
リリアは満面の笑みで頷くと、ふと思い出したようにポンと手を打った。
「……っと、その前に。今のままだと定員オーバーで乗れないんだった。ちょっと待っててね」
彼女は広場に停めてあったフェンリル改に向き直ると、高らかにスキル名を叫んだ。
「『創造・座席拡張(エクストラ・シート)』!」
ガガガガッ! という音と共に、ただでさえ巨大な車体がさらに不自然に膨張し、後部の居住スペースが無理やり拡張されていく。
「よし、これで9人乗り仕様よ! さあ、行くわよ!」
その、あまりにも強引で、物理法則を無視した光景に、エリアは涙目で、しかし初めて声を上げて笑った。
その瞬間、彼女の空っぽだった心に、温かくて、賑やかで、そして少しだけ騒々しい光が、確かに灯った。
一つの絶対的な信仰という大きな執着から解放された彼女の世界が、多様で、予測不能で、しかし温かい人々との新しい関係性(縁)の中へと、再編成されていく。自己組織化の始まりだった。
パーティという、どこへ向かうか分からない複雑系に、信仰と絶望、そして癒やしの力を持つ新たな仲間が加わった。一行の物語は、また少しだけその色合いを変えて、次の舞台へと動き出す。
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現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
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