44 / 51
太陽の独白
第8話:完璧(パーフェクト)なシナリオの壊し方
しおりを挟む
九月。文化祭の季節がやってきた。 俺にとって、祭りは全力で楽しむものだ。準備期間のダラダラした空気も、当日の熱気も、全部ひっくるめて青春だろ、と思っている。 だからこそ、クラスの出し物を決めるホームルームの空気は、俺にとって息苦しい以外の何物でもなかった。
「……私が提案するのは、『本格プラネタリウム』です」
教壇に立つ白鳥麗奈。 彼女のプレゼンは完璧だった。資料も見やすい、論理も通ってる、実現可能性も高い。 先生も感心してるし、クラスの連中も「まあ、楽そうだし、いっか」みたいな空気になっていた。 でも。 誰一人、ワクワクしていなかった。
麗奈の顔もそうだ。彼女は「完璧な計画」を遂行することに必死で、眉間にしわを寄せて、まるで戦場の司令官みたいだ。 それって、本当に文化祭か? 仕事じゃねーんだぞ。 俺は、寝たふりをしていた顔を上げた。 ここで口を挟めば、麗奈の機嫌を損ねるのはわかってる。でも、このままじゃ全員が死んだ魚の目で当日を迎えることになる。それは俺が許せない。
「なあ、白鳥さん」
俺は手を挙げた。麗奈が睨んでくる。
「それ、麗奈は楽しいかもしんねーけどさ。みんな、楽しいの?」
教室が静まり返った。 俺が聞きたかったのは、それだけだ。 効率とか、クオリティとか、グランプリとか、どうでもいい。 準備中に笑い合えるか。当日に「やってやったぜ!」って叫べるか。それがないなら、やる意味なんてない。
俺の一言が、堰を切った。 誰かが「もっとバカなことやりてえ」と言い出し、そこからはカオスだった。 プロレス、エイリアン、武将、タピオカ。 意味不明なアイデアが飛び交い、最終的に『戦国武将タピオカ茶屋』という、狂気じみた企画に決まった。 クラス中が爆笑していた。麗奈だけが青ざめていたけれど、俺にはわかっていた。こっちのほうが、絶対に「生きてる」って。
そして当日。 俺たちの店は爆発的に流行った。 俺は伊達政宗のコスプレ(眼帯付き)で接客し、杏はギャル全開で客をさばき、秋葉は厨房で謎の儀式をしながらタピオカを茹でる。 めちゃくちゃだ。でも、最高に楽しい。 ただ一人、麗奈を除いては。
彼女はマニュアルを抱きしめて、必死にこのカオスをコントロールしようとしていた。「セリフが違う」「茹で時間が違う」とイライラしながら。 そして、事件は起きた。 タピオカ全滅。 秋葉のミスだ。でも、この忙しさじゃ誰がミスしてもおかしくなかった。
麗奈が崩れ落ちた。 「完璧だったのに」「私の計画では……」 彼女が泣き出した時、俺は胸が痛んだ。 彼女はずっと戦ってきたんだ。失敗しないように。誰からも文句を言われないように。そのためにガチガチの鎧を着込んで。 その鎧が今、砕け散った。
俺は客を待たせて、彼女の元へ行った。 慰める? 違う。 俺が伝えたいのは、「失敗したお前はダメだ」じゃなくて、「失敗したお前も人間らしくていいじゃん」ってことだ。
「計画通り、いかねえから、面白いんじゃん」
俺は笑って言った。 本心だ。予定調和なんてつまらない。トラブル上等だ。
「てか、お前。そんな顔も、できんだな」
泣きじゃくる顔。悔しがる顔。 いつも澄ました顔しか見せない彼女の、初めて見る人間臭い表情。 俺は、そっちのほうがずっと魅力的だと思った。
麗奈が「助けて」と言った時、クラスが一つになった。 マニュアルなんていらない。それぞれが自分で考えて動く。その熱量が心地よかった。
そして、俺は見た。 レジの隅で、ずっと気配を消していた水無月が、動くのを。 彼女は麦茶のピッチャーを掴むと、看板に何かを書き加えた。
『殿、感涙。本日のタピオカ、終了。代わって、「将軍の涙(麦茶)」、無料にて、振る舞い中』
――天才かよ。 俺は腹を抱えて笑った。 あの、石ころになりたがっていた彼女が。 誰にも関わりたくないと言っていた彼女が。 このピンチの状況を、ユーモアで救おうとしている。 しかも「将軍の涙」って! センス良すぎだろ!
その看板を見た客たちが、怒るどころか笑って麦茶を受け取っていく。 麗奈も、涙目のまま笑っている。
俺は、看板を書く水無月の背中を見ながら、震えるほど感動していた。 彼女はもう、誰かに守られるだけの存在じゃない。 このカオスな物語を、一緒に作る共犯者だ。
伊達政宗の眼帯を麗奈に貸してやりながら、俺は思った。 完璧なシナリオなんてクソ食らえだ。 俺たちが作るのは、泥臭くて、めちゃくちゃで、でも最高に笑える、俺たちだけのドラマだ。 そして、そのヒロインが、あんなに素敵な機転を利かせられる女の子だということが、俺は誇らしくてたまらなかった。
「……私が提案するのは、『本格プラネタリウム』です」
教壇に立つ白鳥麗奈。 彼女のプレゼンは完璧だった。資料も見やすい、論理も通ってる、実現可能性も高い。 先生も感心してるし、クラスの連中も「まあ、楽そうだし、いっか」みたいな空気になっていた。 でも。 誰一人、ワクワクしていなかった。
麗奈の顔もそうだ。彼女は「完璧な計画」を遂行することに必死で、眉間にしわを寄せて、まるで戦場の司令官みたいだ。 それって、本当に文化祭か? 仕事じゃねーんだぞ。 俺は、寝たふりをしていた顔を上げた。 ここで口を挟めば、麗奈の機嫌を損ねるのはわかってる。でも、このままじゃ全員が死んだ魚の目で当日を迎えることになる。それは俺が許せない。
「なあ、白鳥さん」
俺は手を挙げた。麗奈が睨んでくる。
「それ、麗奈は楽しいかもしんねーけどさ。みんな、楽しいの?」
教室が静まり返った。 俺が聞きたかったのは、それだけだ。 効率とか、クオリティとか、グランプリとか、どうでもいい。 準備中に笑い合えるか。当日に「やってやったぜ!」って叫べるか。それがないなら、やる意味なんてない。
俺の一言が、堰を切った。 誰かが「もっとバカなことやりてえ」と言い出し、そこからはカオスだった。 プロレス、エイリアン、武将、タピオカ。 意味不明なアイデアが飛び交い、最終的に『戦国武将タピオカ茶屋』という、狂気じみた企画に決まった。 クラス中が爆笑していた。麗奈だけが青ざめていたけれど、俺にはわかっていた。こっちのほうが、絶対に「生きてる」って。
そして当日。 俺たちの店は爆発的に流行った。 俺は伊達政宗のコスプレ(眼帯付き)で接客し、杏はギャル全開で客をさばき、秋葉は厨房で謎の儀式をしながらタピオカを茹でる。 めちゃくちゃだ。でも、最高に楽しい。 ただ一人、麗奈を除いては。
彼女はマニュアルを抱きしめて、必死にこのカオスをコントロールしようとしていた。「セリフが違う」「茹で時間が違う」とイライラしながら。 そして、事件は起きた。 タピオカ全滅。 秋葉のミスだ。でも、この忙しさじゃ誰がミスしてもおかしくなかった。
麗奈が崩れ落ちた。 「完璧だったのに」「私の計画では……」 彼女が泣き出した時、俺は胸が痛んだ。 彼女はずっと戦ってきたんだ。失敗しないように。誰からも文句を言われないように。そのためにガチガチの鎧を着込んで。 その鎧が今、砕け散った。
俺は客を待たせて、彼女の元へ行った。 慰める? 違う。 俺が伝えたいのは、「失敗したお前はダメだ」じゃなくて、「失敗したお前も人間らしくていいじゃん」ってことだ。
「計画通り、いかねえから、面白いんじゃん」
俺は笑って言った。 本心だ。予定調和なんてつまらない。トラブル上等だ。
「てか、お前。そんな顔も、できんだな」
泣きじゃくる顔。悔しがる顔。 いつも澄ました顔しか見せない彼女の、初めて見る人間臭い表情。 俺は、そっちのほうがずっと魅力的だと思った。
麗奈が「助けて」と言った時、クラスが一つになった。 マニュアルなんていらない。それぞれが自分で考えて動く。その熱量が心地よかった。
そして、俺は見た。 レジの隅で、ずっと気配を消していた水無月が、動くのを。 彼女は麦茶のピッチャーを掴むと、看板に何かを書き加えた。
『殿、感涙。本日のタピオカ、終了。代わって、「将軍の涙(麦茶)」、無料にて、振る舞い中』
――天才かよ。 俺は腹を抱えて笑った。 あの、石ころになりたがっていた彼女が。 誰にも関わりたくないと言っていた彼女が。 このピンチの状況を、ユーモアで救おうとしている。 しかも「将軍の涙」って! センス良すぎだろ!
その看板を見た客たちが、怒るどころか笑って麦茶を受け取っていく。 麗奈も、涙目のまま笑っている。
俺は、看板を書く水無月の背中を見ながら、震えるほど感動していた。 彼女はもう、誰かに守られるだけの存在じゃない。 このカオスな物語を、一緒に作る共犯者だ。
伊達政宗の眼帯を麗奈に貸してやりながら、俺は思った。 完璧なシナリオなんてクソ食らえだ。 俺たちが作るのは、泥臭くて、めちゃくちゃで、でも最高に笑える、俺たちだけのドラマだ。 そして、そのヒロインが、あんなに素敵な機転を利かせられる女の子だということが、俺は誇らしくてたまらなかった。
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】
藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。
そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。
記憶を抱えたまま、幼い頃に――。
どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、
結末は変わらない。
何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。
それでも私は今日も微笑む。
過去を知るのは、私だけ。
もう一度、大切な人たちと過ごすために。
もう一度、恋をするために。
「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」
十一度目の人生。
これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる