コミュ障ぼっちの私の目標は「石」。なのに新学期初日、隣の陽キャ王子に「お前、面白いな!」と絡まれ計画が完全崩壊。

Gaku

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太陽の独白

第8話:完璧(パーフェクト)なシナリオの壊し方

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九月。文化祭の季節がやってきた。  俺にとって、祭りは全力で楽しむものだ。準備期間のダラダラした空気も、当日の熱気も、全部ひっくるめて青春だろ、と思っている。  だからこそ、クラスの出し物を決めるホームルームの空気は、俺にとって息苦しい以外の何物でもなかった。

「……私が提案するのは、『本格プラネタリウム』です」

 教壇に立つ白鳥麗奈。  彼女のプレゼンは完璧だった。資料も見やすい、論理も通ってる、実現可能性も高い。  先生も感心してるし、クラスの連中も「まあ、楽そうだし、いっか」みたいな空気になっていた。  でも。  誰一人、ワクワクしていなかった。

 麗奈の顔もそうだ。彼女は「完璧な計画」を遂行することに必死で、眉間にしわを寄せて、まるで戦場の司令官みたいだ。  それって、本当に文化祭か?  仕事じゃねーんだぞ。    俺は、寝たふりをしていた顔を上げた。  ここで口を挟めば、麗奈の機嫌を損ねるのはわかってる。でも、このままじゃ全員が死んだ魚の目で当日を迎えることになる。それは俺が許せない。

「なあ、白鳥さん」

 俺は手を挙げた。麗奈が睨んでくる。

「それ、麗奈は楽しいかもしんねーけどさ。みんな、楽しいの?」

 教室が静まり返った。  俺が聞きたかったのは、それだけだ。  効率とか、クオリティとか、グランプリとか、どうでもいい。  準備中に笑い合えるか。当日に「やってやったぜ!」って叫べるか。それがないなら、やる意味なんてない。

 俺の一言が、堰を切った。  誰かが「もっとバカなことやりてえ」と言い出し、そこからはカオスだった。  プロレス、エイリアン、武将、タピオカ。  意味不明なアイデアが飛び交い、最終的に『戦国武将タピオカ茶屋』という、狂気じみた企画に決まった。  クラス中が爆笑していた。麗奈だけが青ざめていたけれど、俺にはわかっていた。こっちのほうが、絶対に「生きてる」って。

 そして当日。  俺たちの店は爆発的に流行った。  俺は伊達政宗のコスプレ(眼帯付き)で接客し、杏はギャル全開で客をさばき、秋葉は厨房で謎の儀式をしながらタピオカを茹でる。  めちゃくちゃだ。でも、最高に楽しい。  ただ一人、麗奈を除いては。

 彼女はマニュアルを抱きしめて、必死にこのカオスをコントロールしようとしていた。「セリフが違う」「茹で時間が違う」とイライラしながら。  そして、事件は起きた。  タピオカ全滅。  秋葉のミスだ。でも、この忙しさじゃ誰がミスしてもおかしくなかった。

 麗奈が崩れ落ちた。  「完璧だったのに」「私の計画では……」  彼女が泣き出した時、俺は胸が痛んだ。  彼女はずっと戦ってきたんだ。失敗しないように。誰からも文句を言われないように。そのためにガチガチの鎧を着込んで。  その鎧が今、砕け散った。

 俺は客を待たせて、彼女の元へ行った。  慰める? 違う。  俺が伝えたいのは、「失敗したお前はダメだ」じゃなくて、「失敗したお前も人間らしくていいじゃん」ってことだ。

「計画通り、いかねえから、面白いんじゃん」

 俺は笑って言った。  本心だ。予定調和なんてつまらない。トラブル上等だ。

「てか、お前。そんな顔も、できんだな」

 泣きじゃくる顔。悔しがる顔。  いつも澄ました顔しか見せない彼女の、初めて見る人間臭い表情。  俺は、そっちのほうがずっと魅力的だと思った。

 麗奈が「助けて」と言った時、クラスが一つになった。  マニュアルなんていらない。それぞれが自分で考えて動く。その熱量が心地よかった。

 そして、俺は見た。  レジの隅で、ずっと気配を消していた水無月が、動くのを。  彼女は麦茶のピッチャーを掴むと、看板に何かを書き加えた。

『殿、感涙。本日のタピオカ、終了。代わって、「将軍の涙(麦茶)」、無料にて、振る舞い中』

 ――天才かよ。  俺は腹を抱えて笑った。  あの、石ころになりたがっていた彼女が。  誰にも関わりたくないと言っていた彼女が。  このピンチの状況を、ユーモアで救おうとしている。  しかも「将軍の涙」って! センス良すぎだろ!

 その看板を見た客たちが、怒るどころか笑って麦茶を受け取っていく。  麗奈も、涙目のまま笑っている。

 俺は、看板を書く水無月の背中を見ながら、震えるほど感動していた。  彼女はもう、誰かに守られるだけの存在じゃない。  このカオスな物語を、一緒に作る共犯者だ。

 伊達政宗の眼帯を麗奈に貸してやりながら、俺は思った。  完璧なシナリオなんてクソ食らえだ。  俺たちが作るのは、泥臭くて、めちゃくちゃで、でも最高に笑える、俺たちだけのドラマだ。  そして、そのヒロインが、あんなに素敵な機転を利かせられる女の子だということが、俺は誇らしくてたまらなかった。
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