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第三章 帰還
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どのくらいの時間が経っただろうか。
扉が開き、シャルヴァが出てきた。
「――終わったぞ」
「兄さん……。兄はっ⁉」
グレティアは思わずシャルヴァに駆け寄っていた。
彼はちらりとグレティアを見てから小さく頷いた。
「心配するな。解毒は成功だ」
「――っ、ありがとうごさいます!」
(よかった……!)
これで兄が助かったんだ。グレティアは心の底から安堵してほっと息を吐き出した。
「そんな、馬鹿な……」
グレティアの隣でイーライが信じられないと呟く。
「解毒はしたが体力は消耗しているはずだ。しばらく寝かせておくといい」
室内に向かおうとするイーライの背に向かってシャルヴァが言った。
「…………わかりました」
イーライがまだどこか納得がいかない表情を浮かべたまま頷いた。
◆
リゼオンをイーライに任せ、グレティアはシャルヴァとともにひとまず自宅に帰ってきた。
「本当にありがとうございました。――あの、夕食の支度をしますのでこちらで待っててください」
シャルヴァを食堂に案内すると、グレティアは厨房に向かおうとした。
しかし、そこでシャルヴァに腕を掴まれる。
「え……? あの……?」
「夕食はいい。それよりも報酬の件だ」
「あ……」
グレティアははっと思い出して小さく息をのんだ。
森の屋敷で要求されたものはグレティア自身だった。
「私があなたのものになるという話でしたよね。えっと……、どうやってお渡ししたらいいんでしょう?」
グレティアはごくごく真面目な気持ちでシャルヴァを見上げた。
手足を切り落として差し出すように言われたらどうしよう。などと少しだけ不安になる。
「あの……。シャルヴァさん……?」
「シャルヴァでいい。――『もの』という言い方は正しくないな。要は俺の妻になれということだ」
まっすぐにグレティアを見つめながら、シャルヴァが静かな口調で言った。
「…………え? つま?」
一瞬なにを言われたのか理解できず、グレティアはぽかんと口を開けた。
(つまって……)
さすがに言葉の意味が理解できないほどグレティアも子どもではない。しかし、あまりに予想外すぎる言葉に頭がすぐに理解を拒んだようだ。
(ちょっと待って……。え……?)
頭の中が真っ白になってしまったかのように思考がまとまらない。
(私がこの人の妻になる……⁉)
そう心の中で反芻した瞬間、突然ふわりと身体が浮いた。
「――っ⁉」
目の前にシャルヴァの整った顔が見える。
気づけば彼の腕にしっかりと抱き上げられていた。
いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「あ、あのっ⁉」
「お前の部屋は?」
「厨房の向こうですけど、なんで……?」
「夫婦の営みにベッドは必要だろう?」
シャルヴァが薄く笑みを浮かべてグレティアを見下ろす。
(……ふうふのいとなみ?)
言葉の意味を理解するなりグレティアは全身の血液が沸騰したように身体が熱くなるのを感じた。心臓が早鐘を打ち、頭の中が一瞬でパニックに陥る。
「えっ⁉ わわっ! ちょっ、ちょっと待ってください!」
このまま部屋まで運ばれてはたまったものではないと、グレティアは慌ててじたばたと暴れた。
「なんだ? 嫌なのか?」
「嫌というか、その……」
シャルヴァのものになる。という言葉の意味するところがまさか男女のそれをさしているとは思っていなかった。とはいえ、兄を助けてもらった以上、約束を違えるわけにもいかない。
「あのっ、そういう意味だとは思っていなくて……。別の報酬ではだめですか?」
グレティアは思い切ってそう尋ねてみた。
いよいよ部屋の扉の前まで来たところで、シャルヴァがぴたりと立ち止まる。
「別の報酬?」
グレティアをじっと見つめたまま、シャルヴァが微かに目を細めた。
「お金とか宝石とか……。そんなにたくさんはありませんが……」
グレティアはもじもじと指を組みながら自分のできる範囲のものをシャルヴァに伝えた。
「ふむ」
シャルヴァは小さく吐息を漏らすと、じっとグレティアの瞳をのぞき込んだ。
鳶色の瞳に見つめられ、グレティアは思わず視線をさまよわせる。
(なんだろう……)
視線に耐えられず、ますます顔が赤くなっていくのがわかった。
(なにこれ?)
シャルヴァが人並外れて整った容姿をしているせいなのか、心臓がドキドキして、身体がふわふわした。それは今まで経験したことのない奇妙な感覚だった。
シャルヴァはそんなグレティアを眺めながら楽しげに口の端を持ち上げると、そっと身を屈めて耳元に顔を寄せた。
「金にも宝石にも興味はない」
「……え?」
シャルヴァは言い終えると同時に部屋の扉を開け、つかつかと中に入っていった。
そのままベッドまで進み、その上にグレティアを降ろす。
「俺が興味をそそられるのはおまえだけだ」
ベッドに押し倒されたグレティアはごく間近でシャルヴァの声を聞いた。
扉が開き、シャルヴァが出てきた。
「――終わったぞ」
「兄さん……。兄はっ⁉」
グレティアは思わずシャルヴァに駆け寄っていた。
彼はちらりとグレティアを見てから小さく頷いた。
「心配するな。解毒は成功だ」
「――っ、ありがとうごさいます!」
(よかった……!)
これで兄が助かったんだ。グレティアは心の底から安堵してほっと息を吐き出した。
「そんな、馬鹿な……」
グレティアの隣でイーライが信じられないと呟く。
「解毒はしたが体力は消耗しているはずだ。しばらく寝かせておくといい」
室内に向かおうとするイーライの背に向かってシャルヴァが言った。
「…………わかりました」
イーライがまだどこか納得がいかない表情を浮かべたまま頷いた。
◆
リゼオンをイーライに任せ、グレティアはシャルヴァとともにひとまず自宅に帰ってきた。
「本当にありがとうございました。――あの、夕食の支度をしますのでこちらで待っててください」
シャルヴァを食堂に案内すると、グレティアは厨房に向かおうとした。
しかし、そこでシャルヴァに腕を掴まれる。
「え……? あの……?」
「夕食はいい。それよりも報酬の件だ」
「あ……」
グレティアははっと思い出して小さく息をのんだ。
森の屋敷で要求されたものはグレティア自身だった。
「私があなたのものになるという話でしたよね。えっと……、どうやってお渡ししたらいいんでしょう?」
グレティアはごくごく真面目な気持ちでシャルヴァを見上げた。
手足を切り落として差し出すように言われたらどうしよう。などと少しだけ不安になる。
「あの……。シャルヴァさん……?」
「シャルヴァでいい。――『もの』という言い方は正しくないな。要は俺の妻になれということだ」
まっすぐにグレティアを見つめながら、シャルヴァが静かな口調で言った。
「…………え? つま?」
一瞬なにを言われたのか理解できず、グレティアはぽかんと口を開けた。
(つまって……)
さすがに言葉の意味が理解できないほどグレティアも子どもではない。しかし、あまりに予想外すぎる言葉に頭がすぐに理解を拒んだようだ。
(ちょっと待って……。え……?)
頭の中が真っ白になってしまったかのように思考がまとまらない。
(私がこの人の妻になる……⁉)
そう心の中で反芻した瞬間、突然ふわりと身体が浮いた。
「――っ⁉」
目の前にシャルヴァの整った顔が見える。
気づけば彼の腕にしっかりと抱き上げられていた。
いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「あ、あのっ⁉」
「お前の部屋は?」
「厨房の向こうですけど、なんで……?」
「夫婦の営みにベッドは必要だろう?」
シャルヴァが薄く笑みを浮かべてグレティアを見下ろす。
(……ふうふのいとなみ?)
言葉の意味を理解するなりグレティアは全身の血液が沸騰したように身体が熱くなるのを感じた。心臓が早鐘を打ち、頭の中が一瞬でパニックに陥る。
「えっ⁉ わわっ! ちょっ、ちょっと待ってください!」
このまま部屋まで運ばれてはたまったものではないと、グレティアは慌ててじたばたと暴れた。
「なんだ? 嫌なのか?」
「嫌というか、その……」
シャルヴァのものになる。という言葉の意味するところがまさか男女のそれをさしているとは思っていなかった。とはいえ、兄を助けてもらった以上、約束を違えるわけにもいかない。
「あのっ、そういう意味だとは思っていなくて……。別の報酬ではだめですか?」
グレティアは思い切ってそう尋ねてみた。
いよいよ部屋の扉の前まで来たところで、シャルヴァがぴたりと立ち止まる。
「別の報酬?」
グレティアをじっと見つめたまま、シャルヴァが微かに目を細めた。
「お金とか宝石とか……。そんなにたくさんはありませんが……」
グレティアはもじもじと指を組みながら自分のできる範囲のものをシャルヴァに伝えた。
「ふむ」
シャルヴァは小さく吐息を漏らすと、じっとグレティアの瞳をのぞき込んだ。
鳶色の瞳に見つめられ、グレティアは思わず視線をさまよわせる。
(なんだろう……)
視線に耐えられず、ますます顔が赤くなっていくのがわかった。
(なにこれ?)
シャルヴァが人並外れて整った容姿をしているせいなのか、心臓がドキドキして、身体がふわふわした。それは今まで経験したことのない奇妙な感覚だった。
シャルヴァはそんなグレティアを眺めながら楽しげに口の端を持ち上げると、そっと身を屈めて耳元に顔を寄せた。
「金にも宝石にも興味はない」
「……え?」
シャルヴァは言い終えると同時に部屋の扉を開け、つかつかと中に入っていった。
そのままベッドまで進み、その上にグレティアを降ろす。
「俺が興味をそそられるのはおまえだけだ」
ベッドに押し倒されたグレティアはごく間近でシャルヴァの声を聞いた。
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