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スピンオフ「剣と精霊の章」
探しもの2
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リーベが歩いた後は、血と肉だけが残っていた。
意気込んで飛び掛ってきた大男も、余裕綽々の笑みで魔術を放った女も、一人残らず息の根を止められていった。
エレメアは手を出さず――というより、出さない方が良かった。下手に魔術を撃っては、リーベに当たりかねない。頼まれてもいないのに魔術を当てたとなれば、それこそ本当に〝罰〟を受けることになってしまう。
それにリーベの速度をもってすれば、人間程度の反射速度に対応することなど簡単なこと。
大剣も、弓も、魔術も。それら全てが向けられる前に、リーベが動く。人間からすれば、まるでその場から消えたように錯覚するだろう。
風が通り過ぎたと認識したときには、命が散っている。自分が死んだことを分からないまま、ただの肉片へと変わっているのだ。
リーベが足を踏み入れてから、この場所はただただ殺戮を待つだけの空間になっていた。
各部屋をくまなく探し回っているが、運が悪くもこの施設内の最も権力のある人物に出会えていない。
虱潰しに調べていった結果、残るは最奥にあるひとつの部屋だけだった。
「流石にこれだけ騒いだら、事態を理解してるかな?」
『わしが中を見てこようか』
「いらない。百聞は一見に――しかずッ!」
リーベは思い切りドアを蹴り開けた。どうせ潰す組織なのだから、ドアがドアの形を保っていなくてもいいのだ。
中に入ると、そこにはバリケードが出来上がっていた。
できるだけ人間をかき集めたようで、防御魔術に長けた人間が最前に立ち、次に攻撃隊、一番奥に守られている人間が一人。奥にいる人間が、この中で最も権力のある者だろう。
いつでも魔術を発動出来るように、誰もが準備をしていた。
「り、リーベ・ラストルグエフ……!」
「まったく。その名前で呼ばないでくれるかなぁ?」
「やれー! 奴を殺すのだ!」
「〈煌きの連矢〉……!」
「〈切り裂く槍〉」
「〈闇矢〉!」
集まっていた構成員達が、口々に魔術を発動していく。中には防御魔術や、支援魔術を発動するものもおり、確実にリーベを殺さんとしている。
魔術式で部屋中がピカピカと光っている中、リーベは冷静であった。
これから彼に向けて大量の魔術が降り注ぐのにも関わらず、平然としている。それどころか、呆れてすらいた。
「エレメア」
『分かっておるわい』
エレメアとリーベが一緒に行動しだしてから、一年も経過していない。だがエレメアは、リーベの言わんとすることが分かっていた。
この状況を無事に切り抜けるには、彼女の力が必要だと。
リーベが上手く立ち回れば、もしかしたら回避も可能かもしれない。だがここは外ではないし、狭い室内だ。全てを避けきるのは難しいだろう。
であればエレメアが、魔術を打ち消したほうが早いのだ。
大精霊エレメアに、この程度の魔術を打ち消すことなど容易いこと。
構成員達が必死に魔術の詠唱をしているそばから、その魔術を全て消していく。つまらなそうに欠伸を漏らしながら、彼らの全ての魔術を消し去った。
ピカピカと魔術式で光っていた室内は、目の開けやすい普通の部屋へと戻っていた。
「な……なっ……! 魔術が消えた!? ば、化け物め!」
「おお、褒めてくれてありがとう」
「くっ……」
リーベにとっては、〝勇者の子〟という忌まわしい称号よりも、化け物扱いされたほうが嬉しいのだ。
ちょっとでもアリスに近付けた気がして、少しだけ気分を良くした。
「勇者を排除する団体ならば、母上の方につけばいいのに」
『勇者の怠惰で命を奪われた者の集いじゃったら、変わらんのではないか? 魔王も嫌う対象じゃろうて』
「分かっていないね。母上は与えることもしている。現に、パルドウィンでは孤児院を幾つも経営している。思慮深い御方だろう?」
『それもそうじゃが……』
エレメアの言いたかったことはそうではないのだが、これ以上は野暮だと思い口を噤む。
根本から狂ってしまっているリーベにとって、人間的な基準というものはとっくに存在しないのだ。
比較的善の存在であるエレメアが、どれだけ説いたとしても通じないだろう。
それにエレメアは、リーベの機嫌を損ねて魔力を吸われるのも恐ろしかったため、黙っていることにした。
「さて」
「ヒッ! わ、わた、私を殺すのか!」
「組織で一番偉い人はどこにいるの? これ以上、僕の学校生活を邪魔するなら、組織を潰しておかないと」
「教える! 教えるから!」
「それは良かった」
話が早い、と微笑むリーベ。
構成員は、これ以上リーベの機嫌を悪くしないよう、急いで動いた。机から地図を引っ張り出し、印を書く。そしてその横にガリガリと文字を書き出した。
『ふうむ。ここは外れじゃったのか』
「情報を得られるだけマシでしょ」
構成員は地図への記述を終えると、素早い動きでリーベの前へとやって来た。
ヘコヘコと媚びへつらうことなどせず、リーベの足元に瞬時に跪いた。敵意は一切ありません、と言わせるような態度であった。
そして王に土産を献上するかのように、自身で用意した地図をリーベへと渡す。
「ここの宿屋にいます。や、宿屋の受付に合言葉を話すと、裏部屋に連れていってくれます。そこにいつも、マスターはいるんです」
「マスター?」
「反勇者団体の代表です。我々は彼をマスターと呼んでいます」
「へー、悪趣味~」
リーベはそう言いながら、地図を受け取った。地図には拠点の場所と、例の合言葉が記載されていた。
この場所にはもう用事がないため、エレメアを連れて建物を出る。
構成員達が追ってくることなどなく、連絡を取っている様子もない。彼らは本当にリーベに畏怖し、情報を渡したのだろう。
リーベは建物を出てから、暫く思案した。そしてボロボロの建物を見ると、ポツリと呟く。
「エレメア、燃やして」
『仕方ないのう』
エレメアがパチンと指を鳴らせば、建物は一瞬で火に包まれた。
まだ中には構成員達が残っている。中からは男達の悲鳴が聞こえていた。
意気込んで飛び掛ってきた大男も、余裕綽々の笑みで魔術を放った女も、一人残らず息の根を止められていった。
エレメアは手を出さず――というより、出さない方が良かった。下手に魔術を撃っては、リーベに当たりかねない。頼まれてもいないのに魔術を当てたとなれば、それこそ本当に〝罰〟を受けることになってしまう。
それにリーベの速度をもってすれば、人間程度の反射速度に対応することなど簡単なこと。
大剣も、弓も、魔術も。それら全てが向けられる前に、リーベが動く。人間からすれば、まるでその場から消えたように錯覚するだろう。
風が通り過ぎたと認識したときには、命が散っている。自分が死んだことを分からないまま、ただの肉片へと変わっているのだ。
リーベが足を踏み入れてから、この場所はただただ殺戮を待つだけの空間になっていた。
各部屋をくまなく探し回っているが、運が悪くもこの施設内の最も権力のある人物に出会えていない。
虱潰しに調べていった結果、残るは最奥にあるひとつの部屋だけだった。
「流石にこれだけ騒いだら、事態を理解してるかな?」
『わしが中を見てこようか』
「いらない。百聞は一見に――しかずッ!」
リーベは思い切りドアを蹴り開けた。どうせ潰す組織なのだから、ドアがドアの形を保っていなくてもいいのだ。
中に入ると、そこにはバリケードが出来上がっていた。
できるだけ人間をかき集めたようで、防御魔術に長けた人間が最前に立ち、次に攻撃隊、一番奥に守られている人間が一人。奥にいる人間が、この中で最も権力のある者だろう。
いつでも魔術を発動出来るように、誰もが準備をしていた。
「り、リーベ・ラストルグエフ……!」
「まったく。その名前で呼ばないでくれるかなぁ?」
「やれー! 奴を殺すのだ!」
「〈煌きの連矢〉……!」
「〈切り裂く槍〉」
「〈闇矢〉!」
集まっていた構成員達が、口々に魔術を発動していく。中には防御魔術や、支援魔術を発動するものもおり、確実にリーベを殺さんとしている。
魔術式で部屋中がピカピカと光っている中、リーベは冷静であった。
これから彼に向けて大量の魔術が降り注ぐのにも関わらず、平然としている。それどころか、呆れてすらいた。
「エレメア」
『分かっておるわい』
エレメアとリーベが一緒に行動しだしてから、一年も経過していない。だがエレメアは、リーベの言わんとすることが分かっていた。
この状況を無事に切り抜けるには、彼女の力が必要だと。
リーベが上手く立ち回れば、もしかしたら回避も可能かもしれない。だがここは外ではないし、狭い室内だ。全てを避けきるのは難しいだろう。
であればエレメアが、魔術を打ち消したほうが早いのだ。
大精霊エレメアに、この程度の魔術を打ち消すことなど容易いこと。
構成員達が必死に魔術の詠唱をしているそばから、その魔術を全て消していく。つまらなそうに欠伸を漏らしながら、彼らの全ての魔術を消し去った。
ピカピカと魔術式で光っていた室内は、目の開けやすい普通の部屋へと戻っていた。
「な……なっ……! 魔術が消えた!? ば、化け物め!」
「おお、褒めてくれてありがとう」
「くっ……」
リーベにとっては、〝勇者の子〟という忌まわしい称号よりも、化け物扱いされたほうが嬉しいのだ。
ちょっとでもアリスに近付けた気がして、少しだけ気分を良くした。
「勇者を排除する団体ならば、母上の方につけばいいのに」
『勇者の怠惰で命を奪われた者の集いじゃったら、変わらんのではないか? 魔王も嫌う対象じゃろうて』
「分かっていないね。母上は与えることもしている。現に、パルドウィンでは孤児院を幾つも経営している。思慮深い御方だろう?」
『それもそうじゃが……』
エレメアの言いたかったことはそうではないのだが、これ以上は野暮だと思い口を噤む。
根本から狂ってしまっているリーベにとって、人間的な基準というものはとっくに存在しないのだ。
比較的善の存在であるエレメアが、どれだけ説いたとしても通じないだろう。
それにエレメアは、リーベの機嫌を損ねて魔力を吸われるのも恐ろしかったため、黙っていることにした。
「さて」
「ヒッ! わ、わた、私を殺すのか!」
「組織で一番偉い人はどこにいるの? これ以上、僕の学校生活を邪魔するなら、組織を潰しておかないと」
「教える! 教えるから!」
「それは良かった」
話が早い、と微笑むリーベ。
構成員は、これ以上リーベの機嫌を悪くしないよう、急いで動いた。机から地図を引っ張り出し、印を書く。そしてその横にガリガリと文字を書き出した。
『ふうむ。ここは外れじゃったのか』
「情報を得られるだけマシでしょ」
構成員は地図への記述を終えると、素早い動きでリーベの前へとやって来た。
ヘコヘコと媚びへつらうことなどせず、リーベの足元に瞬時に跪いた。敵意は一切ありません、と言わせるような態度であった。
そして王に土産を献上するかのように、自身で用意した地図をリーベへと渡す。
「ここの宿屋にいます。や、宿屋の受付に合言葉を話すと、裏部屋に連れていってくれます。そこにいつも、マスターはいるんです」
「マスター?」
「反勇者団体の代表です。我々は彼をマスターと呼んでいます」
「へー、悪趣味~」
リーベはそう言いながら、地図を受け取った。地図には拠点の場所と、例の合言葉が記載されていた。
この場所にはもう用事がないため、エレメアを連れて建物を出る。
構成員達が追ってくることなどなく、連絡を取っている様子もない。彼らは本当にリーベに畏怖し、情報を渡したのだろう。
リーベは建物を出てから、暫く思案した。そしてボロボロの建物を見ると、ポツリと呟く。
「エレメア、燃やして」
『仕方ないのう』
エレメアがパチンと指を鳴らせば、建物は一瞬で火に包まれた。
まだ中には構成員達が残っている。中からは男達の悲鳴が聞こえていた。
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