魔王アリスは、正義の味方を殺したい。

ボヌ無音

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スピンオフ「デュインズ」

一つ下

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 「早いとこすっ飛ばそう。四階層に上がるよ」
「分かりました」

 事前に内部を探知していたこともあり、アリスは〈転移門〉を生成すると、二人はそこへ入った。
 第四階層は薄暗く、松明などがなければ歩くことすら難しいくらいだ。アリスにとって暗闇というのは問題にはならず、今周囲がよく見えていないのはリーベだけだ。
 階層内ではズルズルという引きずる音が響いていた。視覚が奪われているリーベでも、その音は耳に届いている。
 何かしらの敵がいることは把握できた。

「……音がしますね。一体何が……」
「蛇の魔獣がいるよ。後々のことを考えて、倒しておこっか」
「ではお任せ下さい」
「明かりはいる?」

 リーベの視力や夜目は、アリスや幹部に比べれば人並みだ。普通の人間よりも研ぎ澄まされていると言えども、限りがある。
 戦闘において視覚は重要。それはリーベであろうと変わりない。
 アリスならば階層内を照らすことは容易だ。

「いえ、行けます」
「え~? ほんとに~?」
「はい。ご心配ありがとうございます」
「じゃあ頑張って~」

 リーベがアリスから少し離れ、〝相手〟のいる方へとゆっくり動く。彼の移動に伴って、地面がジャリジャリと小さく音を立てた。
 ズルリズルリ、と敵の移動音も耳に届く。その這う音だけでも、相当大きい。体自体音同様に巨大なのだ。
 そして相手もリーベに気付いているはずだ。這いずる音は、リーベの様子を伺うようにも聞こえた。
 この暗闇を任されているということは、相手はリーベを補足しているということ。それであれば、コソコソとしている理由はない。

「さて、僕の剣が……異世界の魔物にも通用するのか」

 リーベは剣を握り直す。小さく金属の音がして、リーベと共に覚悟を決めたように聞こえた。

「行くぞ」

 そう小さくつぶやくと、リーベは動いた。人の目では消えたようにも見える高速移動は、もはや英雄の領域を超えていると言っても過言ではない。
 風を切り空間を駆け回れば、暗闇の中でもうっすらと敵を捕捉できた。
 この階層を支配していたのは、十数メートル以上もある巨大な蛇であった。ドラゴンであるハインツと比較しても、大きいといえるだろう。
 外から見た塔の空間ではありえないサイズを収容できるのは、この塔全体に充満している魔力が部屋を広げているからだ。

 近くまで駆けてきて気づいたが、大蛇は傷を負っているようだった。焦げ目のようなものがついていて、火傷しているのだと分かる。上の階層にいる者が付けたのか、今まで戦ってきた者たちが付けたのか。
 死ななければダンジョンの魔術で復活もないだろうし、大蛇も傷を気にしている様子もない。これだけ巨大な蛇だ。皮も分厚く出来ている。本当にかすり傷程度なのだろう。

 だが、傷は傷だ。リーベはそれを利用することにした。
 リーベは飛び上がると、火傷で脆くなっている部分に対して、攻撃を仕掛けた。〈剣聖〉というスキルもあることで、剣による攻撃力はさらに増す。
 驚くほどあっさりと、蛇の皮がスパリと切れる。
 流石に完全に切断は不可能だったようだが、更なる傷を与えることは出来た。
 蛇にも通用しているようで、ジタバタと暴れている。体躯が体躯だけあり、階層全体がぐらぐらと揺れた。
 そのままリーベは動き回る蛇から逃げるように、蛇の体を蹴って宙を舞う。

(……よし、効いた!)

 リーベが喜んでいるのもつかの間。彼の死角から巨大な何かが飛んでくる――のではなく、リーベをはたき落とそうとした蛇の尾が彼を襲った。
 巨躯に見合わぬそのスピードと的確さで、まだ着地出来ていない空中のリーベを狙う。

「えっ――」

 当然だが、リーベには空を飛ぶ手段がない。
 初期に作られた幹部メンバーやアリスならば、浮遊するスキルや魔術を習得している。
 リーベはスキルどころか、魔術を扱うことすら出来ないのだ。
 であれば――空中での攻撃を回避する方法など、ありもしない。

「くっ」

 できるだけダメージを減らすように、リーベは体を丸め、頭を守る。当たってしまうのは避けられないのならば、被害を最小限にしたい。
 だが体格差もある。大蛇の薙ぎ払いは、そんじょそこらの攻撃とは訳が違う。
 ギュッと目を瞑り、衝撃を待つ。
 しかし数秒、十数秒と経過しても、リーベに激痛が襲うことはなかった。

「……?」
「も~。私じゃないんだから、状況を確認してから突っ込もうよ」
「は、母上!」

 気づけばアリスに抱えられ、その後ろではズズン――と蛇の尾が落下する。
 リーベが完全に切断しきれなかった太い蛇は、あっさりと二つに分けられてしまっていた。砂埃を立てて地面へと落ちたそれは、呆気なく――そして美しい切れ目だった。
 それだけではなく蛇は既に息絶えており、ピクリとも動かなくなっている。
 速さには自信があったリーベだったが、その比にもならないアリスの攻撃を知って、己の未熟さを痛感した。

(全く、分からなかった……)
「大丈夫?」
「はい。負傷はしていません。……その、申し訳ありませんでした」
「気にしないで。私も意地悪して、試すようなことしちゃってごめんね」
「そんなことありません! 僕の慢心が起こしたことです。母上に助けて頂かなければ、今頃重症でした」

 悔しさとやるせなさで、リーベは苦い顔をした。
 リーベはもう既に、幹部といっても差し支えない高レベルに達している。アリスもそれを認めているし、幹部達も同じだ。
 成長しているリーベを見つめて、アリスは嬉しそうに微笑んだ。

(ついつい手を出しちゃったけど、多分リーベでも勝てたろうな……)

 ステータスも十分。あの大蛇程度であれば、問題なくあしらえていただろう。
 薙ぎ払い攻撃も込みで、リーベの成長した攻撃耐性ならば戦闘を続けられていた。怪我を負ったとしても、大きな怪我にはならない。
 学院に入ったばかりのリーベならばまだしも、あれからもっと強くなっている。
 だがどうしても、手を出してしまったのだ。

(まだ生まれて六年だけど……戦える子になったんだな。あの勇者の子と一緒に戦ってるんだぁ。想像出来なかったなー)
「……母上?」
「強くなったねぇ、リーベ」
「え……?」
「じゃあ行こうか」
「はっ、はい!」
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