魔王アリスは、正義の味方を殺したい。

ボヌ無音

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スピンオフ「デュインズ」

迷子探し

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 アリスは計画せっていを書き換えた。弱い姉弟パーティーではなく、弱い姉に強い弟だ。
 姉は弟におんぶに抱っこで、たいした魔術も扱えない無能魔術師。なぜそんな状況で弟は独り立ちしないかというと、両親がいなくお互いに支え合っているから――である。

「弟に寄生をしている姉ってことにしよう」
「……お考えがあったとは……申し訳ありません」
「いーの、いーの。これでリーベも本気を出せるでしょ?」
「いえ、流石に本気を出したら人ではなくなるので、ある程度セーブします」
「あ、はい」

 リーベの言うとおりだ。
 この六年で、リーベのステータスは大幅に伸びている。もはや人間の領域などとうに出ており、幹部と肩を並べられるといっても過言ではないほどだ。
 本人は否定しているものの、世界は彼の否定を受け入れられないだろう。
 もはや人間ではなく、化け物なのだ。

「で、仕事仕事。なんだっけ」
「ダンジョンで行方不明になったパーティーの捜索です」

 ダンジョンへと送り出したパーティーの一つが、帰還報告もないまま数日経過していた。
 比較的首都から近いダンジョンだったため、まだ帰還しないということは――なにか非常事態が起こったのだ。
 救助と捜索依頼も出されたこともあって、ギルドは本格的に動き出した。
 とはいえ通常の地上地域の探索とは違って、ダンジョンは入り組んでいる。一度入れば出てくるのは簡単にはいかない。
 ただでさえ魔王が存命で、魔物たちは活発なのだ。見知らぬパーティーに命など捧げられるはずもない。たとえ羽振りが良くても、死んでしまえば元も子もないのだ。
 故に、この依頼は受注率を上げるためにも、どのランクでも引き受ける事ができるように設定されている。
 だからアリス達も、入ったばかりだが仕事を受けられたのだ。
 リーベの案内のもと、二人は該当するダンジョンへと足を進める。

「ミイラ取りがミイラになりそう」
「低ランクに頼んで良い仕事では無いと思うのですが……」
「藁にもすがる思いだとか?」
「あるいは使い捨てなのかもしれません」
「わぉ、魔王みたいな発言!」
「ありがとうございます!」
「喜ぶんだ……」

 リーベにとって、魔王とはアリスそのもの。彼にとって「魔王みたい」というのは、褒め言葉と同等である。

「そういえば、リーベはもうすぐ卒業?」
「はい。飛び級しました」
「おぉー。でもまだ学生なんでしょ。来てよかったの?」
「卒業条件は達成しています」

 元々リーベは両親のこともあって、学術レベルは高い。〝実家〟には勉強を教えてくれる精霊がいるし、学院で教えている内容など彼にとっては大したことない。
 リーベにとって学院を出る理由は、人間の社会で認められるためだ。物事を円滑にするには、確立された地位というものが必要になる。
 それは時として、学んだ場所が証明書になることがあるのだ。
 既にリーベは卒業に必要な条件を済ませている。他の学生がレポートや研究に追われる中、こうして敬愛する母と異世界を旅するほどの余裕があるのだ。
 それでもリーベは頻繁に学院を出入りしている。学院には必要なものが揃っているからだ。

「学院に通っているのも、施設を使いたいだけなんですよ」
「そうだったんだ。言ってくれればヨナーシュに用意させたのに……」
「いえ。母う……姉上のお手を煩わせるわけにはいきませんから」
「あら、そーお? 親離れしていくみたいで寂しいなあ」
「――とっ、というのは嘘です。是非お願いします」
「フフフッ、リーベはまだまだだなー。な~んつって」

 他愛のない話をしていれば、目的地が見えてきた。
 アリスの元いた世界ではよく見る建築物ビルに似ている。言い方を変えれば塔だ。
 外観からすれば、ダンジョンというには少々スリムな建築物であった。

「あれが目的のダンジョンです」
「おお、塔になってるんだ」
「内部は充満する魔力の作用により、見た目よりも広い構造になっているようです」
「ほー」
「頂上である十三階層目に、ボスが存在するそうです。現在攻略されているのは、七階層だということです」
「へえ、半分ちょいか。ボスは魔王の情報を持っていそうだね。依頼も終わって、この世界での仕事も進む。丁度いいじゃん」
「ええ。参りましょう」

 アリスは歩きながら、杖を適当に一本生成する。
 魔石も飾りも何もない、木で出来たシンプルな杖だ。魔導具屋や武器屋で一番安いものを買いました、と言わんばかりの簡単なものだった。
 これがあれば、よりアリスの〝弱さ〟を引き立てられるだろう。

「この世界のダンジョンは、ボスを討伐しなければ、他の階層の魔獣が一定間隔で復活するそうですよ」
「へー! どういう原理なんだろう、面白いね。生き返らせないでいいの楽かも。うちでも採用しよっかな?」
「いいと思います。ホムンクルスなどの再配置は面倒だと言う声もありますから」
「だーよね」



 ダンジョンに辿り着いた二人は、迷いなく中へと入った。まず二人を出迎えるのは、第一階層目だ。
 アリスがサッと探知をかけるが、敵の気配も人の気配も何も無い。ただの玄関口だ。

「気配はナシ。初めて踏み入れる場所だからオマケかな?」
「最初で最後の補給地点ということでしょうか」
「かもね。人もいないし、今のうちに探知するよ」
「はい」
「〈ホールド・ユー・タイト〉」

 パラケルススのスキルを発動すると、二人を光が包み込む。暖かな光はじわじわと回復を施している。
 外から見たサイズ通りの建築物なのであれば、この回復スキルは不要だろう。
 しかしこのダンジョンは、魔力と魔術によって拡張をされている。普通に探知を掛けてしまえば、アリスは吐き気や頭痛などの体調不良に陥ってしまう。
 常に回復をしながら行うことで、それらを避けることが出来るのだ。

 アリスの意識が建物に広がり、そこに棲みつく魔物や待ち構える化け物が見えてくる。
 二階層、三階層と隈なく探し、失踪したであろう人間のパーティーを探す。
 アリスは五階層まで探知を広げた時、ピタリとやめた。固まっている男女三名を発見したのだ。
 これが探しているパーティーと結びつけるのは、当然のことだろう。
 探知で見た様子では大きな負傷も見られない。ひとまずは安心といったところだ。

「いた。それに、この気配……」
「どうでしたか?」
「……ああ、うん。それなりに高い場所にいる。過信しすぎたんだろうね。生きているから、このまま急ごう」
「はい」
(しかし〝こっち〟の方は、なんで〝ついてきた〟? ……ああ、監視か。全く……)

 探知を行った際に、ひとつ有り得ない気配を感じとった。
 アリスの探知を察知して、いち早く範囲外に逃げようとしたようだが、それでも微かに感じ取れた。
 心配性の幹部のことだ。監視――保護者として、彼女を送り出したのだろう。
 虫のようにしぶとく素早く、隠密に長ける少女がいたのだ。

「めんどくさいからすっ飛ばそう。一つ前、四階層に上がるよ」
「分かりました」

 アリスは少しだけ、意地悪をした。
 だが少女――ベルであれば四階層など移動は容易いだろう。道中で魔物がいたところで、レベル200たる幹部の彼女には相手にすらならないのだから。
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