魔王アリスは、正義の味方を殺したい。

ボヌ無音

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スピンオフ「デュインズ」

姉弟パーティー

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 リーベの戦闘準備を整え、アリスは再びデュインズへとやって来た。
 一緒にいるアリスも、既に人間へと化けている。しかしながらいつもの金髪少女ではなく、黒髪になっていた。
 今回はリーベと母子――ではなく、姉弟として身分を偽って冒険者になる。リーベの肉体年齢から、アリスが母であるのは相手を納得させるには苦しい。疑いの目が向けられるからだ。
 もちろん、容姿も親世代の年齢に合せて変えられるが、母親と息子で冒険者をしているのも如何なものか、ということで姉と弟で落ち着いた。

「私とリーベは姉弟だよ。ファミリーネームは〝ウェル〟だ。いいね」
「僕のようなものが弟でよろしいのでしょうか?」
「いいのいいの。母上、じゃなくなるからね?」
「……姉上?」
「そんな感じ」

 聡明なリーベであれば、事前に説明しておけばあとはいいようにやってくれる。ぼろが出てしまうことなどもない。
 安心したアリスは、リーベとともに冒険者ギルドを目指した。


 首都に存在する冒険者ギルドは賑わいを見せていた。敗北して魔物が世界に蔓延っているからこそ、必要とされる職種なのだろう。
 エントランスには多くの冒険者でいっぱいだ。
 受付も一箇所ではなく、複数のスタッフがそれぞれ何箇所もの受付に立っている。それでも冒険者をさばききれないのか、待機している者も多くいた。

「次の方!」
「あ、私達だ」

 スタッフに呼ばれて受付カウンターへと行くと、愛想のいい女性スタッフが対応してくれた。

「こんにちは。いつもお疲れ様です」
「あー、新規登録をしたいんですが」
「あら、失礼致しました。ではこちらにお名前を。証明書を作ります」

 女性は簡単な記名だけをする書類を渡した。アリスが先にペンを取り、続いてリーベへと渡す。
 紙からはほんのりと魔力が漂っていた。細かい質疑応答や、身分の証明などを求められなかった理由はそれである。
 それぞれの魔力や能力を、簡単に出力できるものだろう。アリスは人間態になっている際は、相手から見られたときのステータスを抑えるように設定している。
 この魔術アイテムも、アリスが抑えている通りのステータスで出力しているはずだ。
 この世界での身分証明となるものがないアリスにとっては、サイン程度で証明してくれることは有り難いことであった。

「ふーん。試験とかないんだ」
「一律で低ランクからのスタートとなります。そこから戦績などを鑑みてランクアップを行っています」
「そうなんですね。とりあえずコツコツ依頼をこなせってことですね」
「そのとおりです。ご依頼を受けられますか?」
「リーベ、受けといて」
「はい、姉上」

 アリスはリーベを一人残して、壁際へと逃げる。これからの計画を立てたかったこともあるし、少しでもギルドを見ておきたかったのだ。
 ギルドは変わらず混みあっており、尚且つ様々な装備の人間がいる。白国は亜人などの差別がある国のため、見かけるのはほぼ人間だ。
 パーティーのメンバーとして、奴隷である亜人を受け入れている者もいる。人間よりも身体能力や魔力などが勝るため、取り入れているグループは多い。それでも亜人達の地位は低いのだ。

 アリスはそれをどうこう思うことはないが、たかが人間風情が上位の存在であることを名乗っているのは、滑稽なことであった。

 周囲から目を離して、考えにふける。これからリーベと動くにあたって、どう立ち回るか事前に練っておくべきだった。
 二人の〝設定〟は姉と弟であるとして、どういうパーティー設定にするべきか。彼女の計画では、目立つのを避けて弱い立場でやり繰りするつもりだった。
 力でねじ伏せるのもいいが、有名になりすぎて魔王からも注目を集めてしまっては困る。
 魔王に目をつけられて、情報が集まらないまま霊園に〝招待〟されなどしたら、面倒だ。敗北などは有り得ないが、せっかく見知らぬ世界を旅するのだからじっくりと味わいたい。

(リーベは魔術を使えないし、剣士確定だな。それなら私は魔術師として立ち回るか)

 弱者っぽく見せるために、杖でも見繕ったほうがいいのか――とも考える。
 デザインはどうであれ、仰々しい杖を持っていればあまり強いなどと思えないだろう。強すぎる力を制御するために持つものもいるだろうが、大抵は強くするためのもの。
 胡散臭い商人に押し付けられたような大きな杖でも適当に生成すれば、それらしくなる。

「よう、嬢ちゃん。一人か?」
「ん?」

 物思いに耽っていれば、いつの間にやら囲まれていた。周囲が見えなくなるほど男に取り囲まれている。
 アリスは女性としては比較的高身長の方だが、それでもすっぽりと隠されている。壁際に立っていたこともあって、逃げ場など一切なかった。
 動揺などせず男達を見据えているものの、男達にとっては気丈に振る舞う強気な女に見えているだろう。

「ヒヒヒ……。今、ギルドにはいったばっかりだろォ? あんなガキとじゃなくてよ、俺等が受け入れてやるぜ?」
「ククク……」
「いや、別に私は……」
「遠慮するなって。俺等はこれでも名は通ってるんだ」
「へえ、そうなんですか」

 その言葉を受けて、アリスは即座にステータスを閲覧した。
 そもそもステータスがいとも簡単に開ける時点で、強いという部類から外れる。論外だ。
 中身も中身で、至って普通――ただのチンピラと変わりない。技術もたいしてなく、力と威圧で周りをねじ伏せてきたタイプだろう。
 目立った魔術や剣術、その他技術の習得も見られず、一般人に毛が生えた程度だ。なんの面白みもないステータスである。

(まあ待ってる間は暇だし、お遊びに付き合ってやろっか)
「どうだ? 弱くはねぇから、満足させてやれるぜ?」

 そういう男の手が伸びる。アリスの腰を強く掴み、ぐいっと自身の方へと抱き寄せた。
 男の体とピッタリと密着したアリスは、驚いて目を丸くしている。

「うわっ、やめてください」
「ヒュウ、意外といい体してんじゃねぇか」
「まじかよ」
(おお、ありがとう。この体は気に入ってるんだ、褒めてもらって嬉しいよ)

 人間態になる際に、体型自体は大きな変更を施していない。角を隠し、肌を人のように見せ、髪色と目の色を変えているだけ。
 つまりアリスがこの世界にやってくるために、キャラクターメイクした通りの体型だ。アリス――麻子好みの体型を作っていたため、それを褒められる事自体は嬉しい。
 みだりに触れたことに関しては腹立たしいが、幹部や部下以外からの純粋な称賛に気分を良くした。

 そんなこともつかの間、ヒュンと何かが風を切る音が届く。次の瞬間には男の頭部に長細いものが直撃していた。
 カラカラと軽い音を立てて転がるのは、剣の鞘であった。

「いってぇ、なんだテメェ!」
「誰だ!」
「姉上から離れろ、ゴミクズ共」
「んだとぉ!?」

 鞘を投げた男――リーベは床から自身の鞘を拾い上げると、剣をしまって腰にさす。
 怒鳴る男達を気にせずアリスの元へとたどり着き、男を引き剥がしてアリスの身体検査を行う。男が触れた場所を入念に払い、まるでゴミを叩き落としているよう。

「姉上、お怪我はありませんか」
「ないよー」
「では少しお待ち頂けますか」
「うん?」

 このまま出て行くのかと思いきや、リーベはまだ用があるらしい。
 リーベは男どもの前に立つと、腰に差した剣に触れた。そっと手を掛けて、一瞬だけ抜いた。
 たった少し――キンッという軽い音がしたと思えば、次の瞬間には男はドサドサと倒れていく。
 アリスには何が起きたか分かっていた。その一瞬で、リーベが男達の首筋に攻撃を仕掛けていたのを見ていたのだ。剣で切ったのではなく、柄の部分で殴っていた。
 だが一般の人間からすれば、青年が構えたと思えば勝手に男が倒れたと思うだろう。それほどまでに高速なのであった。

「終わりました。参りましょう、姉上」
「う、うん……」

 これだけ人の行き交うギルドであれば、アリス達のやってしまったことを誰かが見ているのは当然のこと。
 視線は幾つも二人に注がれており、話題が広がるのも時間の問題だろう。
 アリスとしては弱い立場で隠れてコソコソと行動したかったため、まさかこんな早々に計画が崩れるとは思っていなかったのだった。
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