魔王アリスは、正義の味方を殺したい。

ボヌ無音

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スピンオフ「デュインズ」

勇者たる企業

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 ペール=オーラ・パガメントをご存知ではない?
 ならばこう言い換えようか、〝ペルガメント〟と。こうすれば、白国に住んでいる大抵の人間は理解が及ぶ。
 ペール=オーラ・パガメントは、その大企業たるペルガメントを経営するトップに立つ男。国王を除いて、この国を牛耳っているといっても過言ではないほどだ。
 ペルガメントの事業は多岐にわたる。一般市民向けの日用品や、貴族に向けた嗜好品。ホテル事業に、最近はギルドの展開も好調のようだ。

 そして何よりも、国民がこの企業を手放そうとしないのは、ある意味で〝勇者〟たる存在だからである。
 ペルガメントは魔王との架け橋となり、人間の国が滅びぬようにしている。都度贈り物を献上し、魔王の機嫌を取り、人々の安寧を懇願している。
 呆気なく散っていった勇者などとは違い、この大企業はホワイト・リィトだけではなくデュインズ全体を救い、知られる存在となった。
 ペルガメント――今やなくてはならない企業である。

 ◆

「旦那様」
「どうしました?」

 メイドは一人の男――彼女の主人たるペール=オーラ・パガメントに声をかけた。
 上から下まで高級品だとわかる上質な衣服に、清潔感のあるキッチリと整えられた頭髪。仕事柄、目を酷使するせいか手放せない眼鏡に、いつも携帯しているスケジュール帳を持っている。
 少し小走りに近付いてきたメイドは、綺麗に磨かれた銀のトレーを持っていた。
 そこには大賢者の封蝋が押された手紙が乗せられていた。仕事上、大賢者とのやり取りは多いため、見間違えることなどない。
 ペールは手紙を見て、はて、と首を傾げる。直近で賢者と関係するような取引は無かったし、上からお咎めのあるようなことはしていない。
 至って普通の業務を執り行っていた。
 かといって、大賢者とプライベートでお茶をするなどという関係でもない。それに己も賢者も、毎日忙殺されているほどだ。

「ありがとう」
「失礼致します」

 メイドは一礼すると、その場を離れていく。
 ペールは手紙が気になって仕方なく、書斎に付く前にその手紙を開封した。
 内容は重苦しいものではなく、業務的なことでもない。ある種の〝お願い〟のようなものであった。
 簡潔に言えば、あってほしい人がいる――ということだった。
 上に立つということもあって、ペールは人を紹介されることは珍しくもない。貴族から自身の娘息子を雇ってくれだとか、結婚してくれだとかの連絡も多い。
 これといって身を固める決心もなければ、満足のいく人員のみを雇用するつもりしかない。最近はそういった処理を秘書に任せているものの、流石に賢者からとなると直接見る他無い。

「……なに?」

 仕事でも何度も世話になっている賢者が紹介する人間だ。結果がどうであれ、会うべきなのは確かである。
 だが問題なのは、そこに書かれていた内容だ。
 賢者の来客が、魔王の技術を知ろうとしている。魔王との面識があるペルガメント経営者たるペールであれば、それをなんとかできるのではないか。

(……チッ、あのクソ賢者め……。面倒な話を持って来ましたねぇ)

 ペールは頭を抱えた。
 先程の通り。賢者の紹介であれば、一度は顔を合わせるべきだ。もちろん、あの賢者ならば断ったとて何も思わないだろう。
 だが内容が内容だ。魔王についてのことは、国がお触れを出すほど禁忌とされていること。賢者もそれを分かっているはずだ。
 それを知っていてもなお、その来客とやらを勧めてくる。
 つまり、賢者には何かしらの確信があるのだろう。その〝客〟とやらが、世界を変えてくれるという何かが。

(変えられては困るのですがね)

 ペール=オーラ・パガメントは、二つの顔を持つ男だ。
 大企業のトップという顔と、もう一つ――狡猾で邪悪な智将であり、魔王ヴァルナル・バックストームに忠義を尽くす男。
 レベル199の驚異の高レベルであり、魔術に精通した人である化け物。
 魔王への献上を名乗り出て犠牲となっているのも、全て自演にすぎない。国を、民を手のひらの上で転がすための演劇だ。

 賢者の推奨する人物ともなれば、現在の〝幸せ〟が崩れ去る可能性がある。それはどうしても避けたいのだ。
 ダンジョンに付与してある魔術に関してを知りたい、との記載を見れば、ペールはすぐに〈輪廻の唄〉のことだと理解した。
 残念ながらレベル199たるペールでさえも、〈輪廻の唄〉を知らない。
 扱えないというよりも、ヴァルナルが教えてくれないのだ。
 人間ということでまだ彼との間に壁があるのは分かっていたが、信用されていないとも受け取れてしまう。
 もっとも、一度ダンジョンに付与してしまえば二度も使うことはない魔術だ。そういうこともあって、ペールも強くねだることはなかった。

(知らないことが得をするなんてことも、あるのですね)

 魔王との関係性を突かれてしまえば危うかったが、魔術に関しての知識であれば回避できる。
 ペールは本当に魔術を知らないのだから。

「さて。そうと決まれば予定を調整しなくては……。来週のこの時間帯は――空いていますね。あのクソ賢者、どこから情報を……。……まあ、いいでしょう」
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