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スピンオフ「デュインズ」
裏の顔2
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アリスは一通り説明を終えた。事前に言っていただけあって、ペールは途中で口を挟むことなどなく、最後まできちんと聞いていた。
アリスの強さを理解するまでには時間がかかったものの、一度分かってしまえばすぐに命令などを受け入れた。
ペールは長い間、魔王ヴァルナルとともにいただけあるのだろう。
強者にはどういった態度で応じるべきかを、きちんと知っているのだ。
「さ、質問タイムだよ」
「………………私は、死ぬのですか」
「それは君次第だよ。私と今後、協力関係を結ぶならば命は助かる。裏切ったら死ぬ。それだけ。簡単でしょう?」
「……ですが、あいつは! 一筋縄ではいきません!」
「所詮はレベルが最高に達しているだけの魔族に過ぎない。母上の足元にも及ばん。それとも僕の母を疑っているのか?」
「そ、そうではありません! ただ……その、普通の女性にしか見えませんから」
ペールがそう言うと、アリスとリーベは顔を見合わせる。
そしてアリスは「ぷっ!」と吹き出した。真面目に保っていた表情は一瞬にして崩れ去り、腹を抱えて笑い出した。
それもそうだろう。アリスの今の状態が、素の状態だと思っているのだ。
これでペールの程度の低さが目に見える。
「あっはははは! 君ってレベル199で、最高峰で、魔術が得意だったよね? それでも分からないんだ? あーっははは! 傑作だよ、リーベ! これなら魔王も雑魚だねぇ!」
「母上が楽しそうでなによりです」
「なっ……どういうことですか……?」
「あーあ……おっかしい。気分がいいから見せてあげる」
アリスが力を込めると、体を作り変えていたものが変化――戻っていく。ぐちゃぐちゃと耳障りな音を立てて、人間の体が歪む。
冒険者だった女の姿は、肉体が新たに形成された。
それは〝向こうの世界〟では馴染み深い、魔王アリスたる姿である。
「やあ、人間の商人」
「……!! 変身、していたのですか!? ……ああ、ハハ。なるほど……私が見破れなかったから……ハハハ……」
「そういうこと」
実演されてしまえば、ペールも納得がいく。この世界を欺いて、人間社会を裏切り、魔王側についていた彼だからこそ。
それに彼は魔術に長けている。世界の最高レベルの大魔術師が見破れないレベルの力ともなれば、もはや心配などいらない。
これはあれだけ盛大に笑われても仕方ないことであった。
「そちらの方もですか?」
「いや。リーベは素のままだよ。魔術がからっきしでね」
「……」
「おい。勘違いするなよ、弱い訳では無いぞ。確かに母上には劣るが、人間程度ならば一瞬で葬れる」
「……失礼しました」
リーベが睨みをきかせれば、ペールは静かに答えた。リーベの実力こそは見ていないものの、その威圧感は本物だった。
それに〝人間程度ならば〟という言葉。それにはペールも含まれている。
少しでも機嫌を損ねるようならば、命はないぞと言われたようなものだ。
「よし、じゃあ二人とも手を出して」
「え? 僕が契約するのですか?」
「デュインズはリーベに任せようかなって思ってるんだ」
「そんな、恐れ多いです!」
「恐れ多いって……すで私よりも頭いいよ? それに私はトラッシュに勇者が送られてきたら対応しなくちゃだし。君の子供達にも〝遊び場〟は必要でしょ?」
「なるほど、では是非」
アリスはリーベとペールの手を取る。アリスの鱗が見える手が触れると、ペールは驚いたのか少しだけ震えた。
普通の女性の手と比べると、他種族が入り混じったアリスの手はざらつきを感じるだろう。それも驚く要因の一つだったかもしれない。
それに異世界の理解も及ばない魔術を施されるのだ。怯えないわけがない。
「じゃあ二人の間に隷属契約を結ぶよ。裏切ったら――まあ、頭のいい君には分かるよね」
「……ええ」
魔力を込めて、二人の間に結ぶ契約を連ねていく。内容はいつもと変わらない。裏切り行為の禁止だとか、秘密を話すことを禁ずることなど。
ペールは最初から最後までその魔術を見つめていたが、何一つ理解できなかった。分かったことがあるとしたら、自身の体に想像し得ないほどの強い力が刻まれたくらいだろう。
そしてそれゆえに、絶対に裏切りを働けなくなったことも。
「うん、これで良し。……っと、そうだった。霊園に行きたいんだけど」
「ああ、はい。では来月の頭――十日後ですね。物資を運ぶ予定があります。その輸送隊にご同行願います」
「オッケー。近くなったらまた連絡してー」
「ど、どちらに連絡を残せば……?」
「ん? 冒険者ギルド」
「畏まりました。では我々の護衛ということで、依頼を致しますね」
「はいよ~」
アリスは魔王アリスの姿から、冒険者へと戻る。世界にかけていた時間停止魔術も解除すれば、いつもどおりの世界が戻った。
魔王のいる地下霊園にいく予定を取り付けられたのならば、もうこの屋敷に用事はない。
あとは頃合いを見てペールが連絡してくるのを待つだけ。
ペールは焦りながら「ぜひもてなさせてください」と頼んできたが、気分にはなれず断りを入れた。
彼の見送りを背に、パガメント邸をあとにした。
「さてと」
「暫くは冒険者ですか」
「その前に月初めのことを皆に言ってこようかな。暇してる幹部がいれば、〝出席〟して欲しいし」
「あたしもペットの様子見たいでーす!」
今までにない大きな進展があったのだ。部下――幹部には共有しておくべきだろう。そう思ったアリスは、一旦城へと戻ることにした。
デュインズとトラッシュ間の移動は、〈転移門〉が必須だ。しかも二度も転移を挟まねばならないため、アリスとしても少し面倒ではある。
いつかフルスに直接転移できる力をねだろう、と都度思うのであった。
アリスは路地裏へと隠れ、念の為三人に隠密魔術を付与する。元々人が通らない道を選んでいるものの、万が一に備えてだ。
改めて誰も見ていないことを確認して、〈転移門〉を生成する。まずはフルスが生み出してくれた〝門〟のある小島に繋がる〈転移門〉だ。
〈転移門〉をくぐれば、すぐ目の前にフルスの用意した世界間を行き来する門が現れる。
真っ先にベルが門へと飛び込んで、アリスもそれに続こうとした。だが動こうとしないリーベを見て、足を止める。
「? おいでよ」
「僕もですか?」
「ちょっとくらいは嫁と子供の顔見ておきなよ~?」
「はあ」
「も~」
リーベにとってはアリスのため、魔王繁栄のための手札を増やすためだけに手に入れた家族だ。
愛情というよりも、部下や仲間に近い感情を抱いている。だから時間を割いて、様子を確認するだなんてことは理解しがたいこと。
それこそ人間味のないベルのほうが、まだましなほどだ。彼女の場合は〝趣味のペット〟のため〝愛情〟もそこそこ備わっているのだろう。
アリスに言われたからか、リーベも渋々といった様子で足を踏み入れる。
世界間の転移の門は、魔王城の謁見の間に直通している。玉座のあるこの部屋は、もっぱら転移先として設定されていることと、王たるアリスがいないことで誰もいないことがほとんどだ。
今回はたまたま掃除をしているホムンクルス・メイドが一人だけいた。
メイドはアリスとリーベを見つけるなり、掃除の手を止めて深々と頭を下げた。
「おかえりなさいませ、アリス魔王陛下。リーベお坊ちゃま」
「ただいま。エンプティは?」
「現在は主要部族の部落へと向かっております。定期監査とのことです」
「あらら、タイミングが悪かったね。じゃあみんなには通信で済まそっかな」
「僕は妻と子の様子を見て参ります」
「はいよー」
リーベが玉座の間から消えていき、アリスは全幹部へと通信を投げる。
「あーあー。みんな、久しぶり。進展があったから伝えるね」
『アリス様ッ! ご無事で何よりですッッ!』
『ほうほう。して、どんな?』
「とりあえず、魔王のいる場所へと向かう日程が決まった。物資を運ぶ輸送隊に同行させてもらえる。十日後だよ。予定がない子は一緒に来てね~」
できれば全員に来てもらいたかったが、トラッシュでの侵攻――もとい統治も進んでいる。幹部がそれぞれの拠点などで活躍し、上に立つものとして管理をしている。
それもあって予定を作ることができない場合も出てきている。
きっとアリスが命令さえすれば、無理にでも予定を生み出してくるだろう。だがそういうのは、もっと〝大きなイベント〟でやってほしいのだ。
――たとえば、強大な力を持つ勇者が現れた時とか。
異世界ではあるものの、デュインズはアリスにとって金持ちが郊外の土地を手に入れるような感覚だった。
あちらの魔王の幹部のレベルがあの程度なのであれば、〝大きなイベント〟にすらならない。
『はいはーい! あーし、絶対に行きます!』
『私もエクセターに確認と調整をしておきます』
『わたくしも、行けるよう調整をして参ります、参ります……』
「それじゃ十日後。デュインズに来てね、よろしくー」
簡素な業務連絡を終えて、アリスは通信魔術を切る。通話でしか聞いていないが、どの幹部も元気そうであった。
こちらの世界でアリス達に仇なすような存在がいないため、当然とも言えるのだが。
「母上、お待たせ致しました」
「もういいの?」
「はい。ちょうど昼寝の時間でしたので、顔だけ見てきました。待っている間はどうされますか?」
「黒国に行ってみようと思うんだ」
ブラック・シリル。通称「黒国」。
武力が権力を兼ねるその国は、大河を挟んで白国の反対側に位置する。
アリスは最終的に両国を統治する身としては、今のうちに顔を出しておくべきだと思ったのだ。
「あー、茜」
『はいはいはーい! あなたの下僕、金原 茜でーっす!』
「その挨拶流行ってるの?」
『どういうことですか? あ、ちょっとお待ち下さい!』
茜がそう言うと、遠方から破壊音にも近い足音が聞こえる。音からして壁や床がボロボロになっている気配がして、アリスは少しだけ頭を悩ませた。
気付いた魔族やメイドたちが直してくれればいいのだが――と半分他人事のように考える。
数秒もしないうちにその足音は、玉座の間の目の前まで到達する。かと思えばドアが破壊されるのではないかというくらいに勢いよく、扉が開けられた。
アリスのために急いできたのはいいが、一応ここ魔王城はアリスの住居である。破壊行為はやめてほしいものだ、とアリスもリーベも思った。
「御用でしょうか!?」
「……うん。デュインズに行こうか」
「はい! お供します!」
「あと今度から、落ち着いて来てね」
「? はい!」
アリスの強さを理解するまでには時間がかかったものの、一度分かってしまえばすぐに命令などを受け入れた。
ペールは長い間、魔王ヴァルナルとともにいただけあるのだろう。
強者にはどういった態度で応じるべきかを、きちんと知っているのだ。
「さ、質問タイムだよ」
「………………私は、死ぬのですか」
「それは君次第だよ。私と今後、協力関係を結ぶならば命は助かる。裏切ったら死ぬ。それだけ。簡単でしょう?」
「……ですが、あいつは! 一筋縄ではいきません!」
「所詮はレベルが最高に達しているだけの魔族に過ぎない。母上の足元にも及ばん。それとも僕の母を疑っているのか?」
「そ、そうではありません! ただ……その、普通の女性にしか見えませんから」
ペールがそう言うと、アリスとリーベは顔を見合わせる。
そしてアリスは「ぷっ!」と吹き出した。真面目に保っていた表情は一瞬にして崩れ去り、腹を抱えて笑い出した。
それもそうだろう。アリスの今の状態が、素の状態だと思っているのだ。
これでペールの程度の低さが目に見える。
「あっはははは! 君ってレベル199で、最高峰で、魔術が得意だったよね? それでも分からないんだ? あーっははは! 傑作だよ、リーベ! これなら魔王も雑魚だねぇ!」
「母上が楽しそうでなによりです」
「なっ……どういうことですか……?」
「あーあ……おっかしい。気分がいいから見せてあげる」
アリスが力を込めると、体を作り変えていたものが変化――戻っていく。ぐちゃぐちゃと耳障りな音を立てて、人間の体が歪む。
冒険者だった女の姿は、肉体が新たに形成された。
それは〝向こうの世界〟では馴染み深い、魔王アリスたる姿である。
「やあ、人間の商人」
「……!! 変身、していたのですか!? ……ああ、ハハ。なるほど……私が見破れなかったから……ハハハ……」
「そういうこと」
実演されてしまえば、ペールも納得がいく。この世界を欺いて、人間社会を裏切り、魔王側についていた彼だからこそ。
それに彼は魔術に長けている。世界の最高レベルの大魔術師が見破れないレベルの力ともなれば、もはや心配などいらない。
これはあれだけ盛大に笑われても仕方ないことであった。
「そちらの方もですか?」
「いや。リーベは素のままだよ。魔術がからっきしでね」
「……」
「おい。勘違いするなよ、弱い訳では無いぞ。確かに母上には劣るが、人間程度ならば一瞬で葬れる」
「……失礼しました」
リーベが睨みをきかせれば、ペールは静かに答えた。リーベの実力こそは見ていないものの、その威圧感は本物だった。
それに〝人間程度ならば〟という言葉。それにはペールも含まれている。
少しでも機嫌を損ねるようならば、命はないぞと言われたようなものだ。
「よし、じゃあ二人とも手を出して」
「え? 僕が契約するのですか?」
「デュインズはリーベに任せようかなって思ってるんだ」
「そんな、恐れ多いです!」
「恐れ多いって……すで私よりも頭いいよ? それに私はトラッシュに勇者が送られてきたら対応しなくちゃだし。君の子供達にも〝遊び場〟は必要でしょ?」
「なるほど、では是非」
アリスはリーベとペールの手を取る。アリスの鱗が見える手が触れると、ペールは驚いたのか少しだけ震えた。
普通の女性の手と比べると、他種族が入り混じったアリスの手はざらつきを感じるだろう。それも驚く要因の一つだったかもしれない。
それに異世界の理解も及ばない魔術を施されるのだ。怯えないわけがない。
「じゃあ二人の間に隷属契約を結ぶよ。裏切ったら――まあ、頭のいい君には分かるよね」
「……ええ」
魔力を込めて、二人の間に結ぶ契約を連ねていく。内容はいつもと変わらない。裏切り行為の禁止だとか、秘密を話すことを禁ずることなど。
ペールは最初から最後までその魔術を見つめていたが、何一つ理解できなかった。分かったことがあるとしたら、自身の体に想像し得ないほどの強い力が刻まれたくらいだろう。
そしてそれゆえに、絶対に裏切りを働けなくなったことも。
「うん、これで良し。……っと、そうだった。霊園に行きたいんだけど」
「ああ、はい。では来月の頭――十日後ですね。物資を運ぶ予定があります。その輸送隊にご同行願います」
「オッケー。近くなったらまた連絡してー」
「ど、どちらに連絡を残せば……?」
「ん? 冒険者ギルド」
「畏まりました。では我々の護衛ということで、依頼を致しますね」
「はいよ~」
アリスは魔王アリスの姿から、冒険者へと戻る。世界にかけていた時間停止魔術も解除すれば、いつもどおりの世界が戻った。
魔王のいる地下霊園にいく予定を取り付けられたのならば、もうこの屋敷に用事はない。
あとは頃合いを見てペールが連絡してくるのを待つだけ。
ペールは焦りながら「ぜひもてなさせてください」と頼んできたが、気分にはなれず断りを入れた。
彼の見送りを背に、パガメント邸をあとにした。
「さてと」
「暫くは冒険者ですか」
「その前に月初めのことを皆に言ってこようかな。暇してる幹部がいれば、〝出席〟して欲しいし」
「あたしもペットの様子見たいでーす!」
今までにない大きな進展があったのだ。部下――幹部には共有しておくべきだろう。そう思ったアリスは、一旦城へと戻ることにした。
デュインズとトラッシュ間の移動は、〈転移門〉が必須だ。しかも二度も転移を挟まねばならないため、アリスとしても少し面倒ではある。
いつかフルスに直接転移できる力をねだろう、と都度思うのであった。
アリスは路地裏へと隠れ、念の為三人に隠密魔術を付与する。元々人が通らない道を選んでいるものの、万が一に備えてだ。
改めて誰も見ていないことを確認して、〈転移門〉を生成する。まずはフルスが生み出してくれた〝門〟のある小島に繋がる〈転移門〉だ。
〈転移門〉をくぐれば、すぐ目の前にフルスの用意した世界間を行き来する門が現れる。
真っ先にベルが門へと飛び込んで、アリスもそれに続こうとした。だが動こうとしないリーベを見て、足を止める。
「? おいでよ」
「僕もですか?」
「ちょっとくらいは嫁と子供の顔見ておきなよ~?」
「はあ」
「も~」
リーベにとってはアリスのため、魔王繁栄のための手札を増やすためだけに手に入れた家族だ。
愛情というよりも、部下や仲間に近い感情を抱いている。だから時間を割いて、様子を確認するだなんてことは理解しがたいこと。
それこそ人間味のないベルのほうが、まだましなほどだ。彼女の場合は〝趣味のペット〟のため〝愛情〟もそこそこ備わっているのだろう。
アリスに言われたからか、リーベも渋々といった様子で足を踏み入れる。
世界間の転移の門は、魔王城の謁見の間に直通している。玉座のあるこの部屋は、もっぱら転移先として設定されていることと、王たるアリスがいないことで誰もいないことがほとんどだ。
今回はたまたま掃除をしているホムンクルス・メイドが一人だけいた。
メイドはアリスとリーベを見つけるなり、掃除の手を止めて深々と頭を下げた。
「おかえりなさいませ、アリス魔王陛下。リーベお坊ちゃま」
「ただいま。エンプティは?」
「現在は主要部族の部落へと向かっております。定期監査とのことです」
「あらら、タイミングが悪かったね。じゃあみんなには通信で済まそっかな」
「僕は妻と子の様子を見て参ります」
「はいよー」
リーベが玉座の間から消えていき、アリスは全幹部へと通信を投げる。
「あーあー。みんな、久しぶり。進展があったから伝えるね」
『アリス様ッ! ご無事で何よりですッッ!』
『ほうほう。して、どんな?』
「とりあえず、魔王のいる場所へと向かう日程が決まった。物資を運ぶ輸送隊に同行させてもらえる。十日後だよ。予定がない子は一緒に来てね~」
できれば全員に来てもらいたかったが、トラッシュでの侵攻――もとい統治も進んでいる。幹部がそれぞれの拠点などで活躍し、上に立つものとして管理をしている。
それもあって予定を作ることができない場合も出てきている。
きっとアリスが命令さえすれば、無理にでも予定を生み出してくるだろう。だがそういうのは、もっと〝大きなイベント〟でやってほしいのだ。
――たとえば、強大な力を持つ勇者が現れた時とか。
異世界ではあるものの、デュインズはアリスにとって金持ちが郊外の土地を手に入れるような感覚だった。
あちらの魔王の幹部のレベルがあの程度なのであれば、〝大きなイベント〟にすらならない。
『はいはーい! あーし、絶対に行きます!』
『私もエクセターに確認と調整をしておきます』
『わたくしも、行けるよう調整をして参ります、参ります……』
「それじゃ十日後。デュインズに来てね、よろしくー」
簡素な業務連絡を終えて、アリスは通信魔術を切る。通話でしか聞いていないが、どの幹部も元気そうであった。
こちらの世界でアリス達に仇なすような存在がいないため、当然とも言えるのだが。
「母上、お待たせ致しました」
「もういいの?」
「はい。ちょうど昼寝の時間でしたので、顔だけ見てきました。待っている間はどうされますか?」
「黒国に行ってみようと思うんだ」
ブラック・シリル。通称「黒国」。
武力が権力を兼ねるその国は、大河を挟んで白国の反対側に位置する。
アリスは最終的に両国を統治する身としては、今のうちに顔を出しておくべきだと思ったのだ。
「あー、茜」
『はいはいはーい! あなたの下僕、金原 茜でーっす!』
「その挨拶流行ってるの?」
『どういうことですか? あ、ちょっとお待ち下さい!』
茜がそう言うと、遠方から破壊音にも近い足音が聞こえる。音からして壁や床がボロボロになっている気配がして、アリスは少しだけ頭を悩ませた。
気付いた魔族やメイドたちが直してくれればいいのだが――と半分他人事のように考える。
数秒もしないうちにその足音は、玉座の間の目の前まで到達する。かと思えばドアが破壊されるのではないかというくらいに勢いよく、扉が開けられた。
アリスのために急いできたのはいいが、一応ここ魔王城はアリスの住居である。破壊行為はやめてほしいものだ、とアリスもリーベも思った。
「御用でしょうか!?」
「……うん。デュインズに行こうか」
「はい! お供します!」
「あと今度から、落ち着いて来てね」
「? はい!」
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