魔王アリスは、正義の味方を殺したい。

ボヌ無音

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スピンオフ「デュインズ」

黒に降る影1

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 アリス達が黒国へ行くという話を出したところ、ペールが船を用意してくれた。

 黒国は頭脳よりも武力を重んじるため、白国からは蛮族のように思われている。
 蛮族――黒国ですらも、あの魔王に勝てなかった。
 そんなこともあって、白国国民はより一層、彼らを蔑むようになった。戦うしか脳がない野蛮人だと言うのに、戦いですらまともな結果を出せないのだと。
 白国が更に黒国を忌み嫌うようになったせいで、両国を行き来する船が減ってしまったのだ。
 ペールもそれを知っていることもあり、今回の船の用意があったのだろう。

 船はアリスたちを下ろすと、逃げるように自国へと戻っていった。ペールの頼みでなければ、彼らもここに来たくはなかった。
 全速力で水の上を行く船を見送りながら、アリスは小さくため息を吐いた。

「ご主人様~」

 茜の声がアリスを呼んで、船から目線を戻す。
 船を降りてすぐ、アリスは茜に周囲を確認するよう命令を出していた。
 船がついた港には、ろくに整備もされていない森林が広がっている。ここが都市部に直結しているとは考えられず、近隣になにか人のいそうな場所がないか見てもらっていたのだ。
 茜は比較的早く戻ってきたため、森は広く広がっており、集落も近くにはさほどないのだと察する。

「どう?」
「あちらに集落がありました」
「ありがと、行こうか」

 今回のメンバーは、アリスを中心にベル、茜、リーベの四名だ。黒国が特に魔術を好まないこともあって、魔術を必要としない対人戦闘に特化したメンバーを連れてきてある。
 アリスは三人を引き連れて、港から離れていく。森の中へと入れば、伸び放題の草木が彼女たちを出迎えた。
 地面も草が生い茂っており、この場所をめったに人が通らないのがわかる。道であろう場所を踏みながら、茜の見つけた集落へと進んでいく。

「うーん。思いっきりジャングルだねえ」
「港から街まで舗装されてすらいないですね。茜、文明がない国なのか?」
「えー? 私の見た感じだと、建築物は普通でしたよ?」

 なんて、他愛のない話を続けながら森の中を歩いていた。
 するとアリスたちに向けて、軽いものが風を切って飛んでくる音が届く。それ――矢はアリス目掛けてまっすぐ飛び、確実に殺意を持っていた。
 だが矢はアリスに突き刺さる前に、茜によって止められてしまった。茜は勢いよく飛んできた矢をものともせず、器用にタイミングよく掴んでみせた。
 ほぼほぼそれは動物的な反射神経のようなものだった。掴んだものを目の前に持ってきて、やっとここでそれが矢だと気づく。
 矢じりにはべっとりと液体が塗りたくられており、不愉快な匂いが鼻を刺した。

「矢?」
「しかも毒付きだねぇ」
「ふうん。船が即座に引き返したのも頷けるね」
「この程度の攻撃はあしらえないと無意味ということでしょうか。流石は戦闘民族ですね」

 ただ森に足を踏み入れただけでこうなのだ。白国ではもっと酷い噂――事実も飛び交っていることだろう。
 彼らがこの国を忌み嫌うのも理解できてしまう。
 せっかく白国が外交に積極的だったとしても、入っただけで死の危険があるのならば、それは最初から〝縁がなかった〟のと同じなのだ。

「でもご主人様に向かって攻撃しただなんて……! 許せません!」
「落ち着きなさいな、毒で死ぬ私じゃないよ」
「はぁん♡格好よすぎて濡れましたぁ……♡」
「はあ……人選間違えたかな……」

 一時間ほど歩いていると、遠くに建物が見えてくる。建物の様子からして、茜の言う通り文明がないわけではないらしい。
 野蛮な民族と聞いていただけあって、もっと原始的な集落を想像していた。美的センスなどは置いといたとしても、人らしい生活の出来る家々が立ち並んでいる。

「ん?」
「姉上」
「うん、そうだね」

 アリスが違和感を覚えて小さく声を漏らせば、同じく感じ取っていたリーベも少ない言葉で反応する。茜もなんとなく把握したようで、あたりに警戒を敷いていた。
 草の上を行く足音が、明らかに聞こえる。これは一般人でも分かる音量だった。それも複数だ。しかも動物の足音ではなく人間のものである。
 アリスたちを取り囲むように、その足跡は鳴り続ける。

(隠密が得意じゃない、というよりかは――あえて相手に存在を教えているというべきかな)

 足音はアリスたちを伺うようだった。予定外の来訪者がどのように振る舞うのかを観察している。
 一度、矢の攻撃を受けている以上、ただ走っているのだと解釈するわけにもいかない。アリスたちが動けば足音も追随し、止まれば同じような場所をぐるぐると回る。
 狙われている対象が自身であることは確実だった。
 こちらの動きを待っているのであれば、動いてやらねば客として失礼というもの。〝歓迎〟してくれた彼らに対して、アリスはきちんと返答をしてやることにした。

「はあ。考えなくていいのは助かるね」
「姉上?」
「〈守護のプレッジ・オブ・誓約ガーディアン〉――範囲から出ないでね」
「はーい♡」
「はい!」
「はい」

 これから〝挨拶〟をするにあたって、身内が駄目になってしまっては困る。アリスはエキドナのスキルを展開し、効果範囲内に留まるように三人へ伝える。
 〈守護のプレッジ・オブ・誓約ガーディアン〉の最大効果を発揮するには、使用者の半径五メートル以内にいなければならない。
 効果範囲内に立っていれば、レベル190以下の攻撃を無効化出来るという恐ろしいスキルなのだ。
 デメリットとしては、効果は術者には適応されないということ。他にも防御系のスキルを習得しているエキドナだからこそ、きちんと扱えるスキルなのである。
 もちろん、全ての幹部のスキルを有するアリスも。

「ふぅう!」

 三人が範囲内に入ったことを確認すると、アリスはすぐに動いた。
 体から魔力を放出させ、オーラを放つ。爆発にも似た轟音が鳴り響き、まるで衝撃波のように広がったそれは、アリスから半径一キロほどまでに及んだ。
 収束したと思えば、ドサドサと人が倒れる音がする。彼らこそが周りに隠れていた者達なのだろう。
 スキルの効果内に収めるために少し加減をしたが、人間には強烈なオーラだ。

「大丈夫? スキル効果範囲内に抑えたつもりだったんだけど」
「問題ありません」
「軽くイきましたぁ……♡」
「茜はしばらく黙れる?」
「あーん、いじわるですー」

 アリスは倒れている人々に目もくれず、ふわりと飛んだ。浮遊能力のない茜とリーベも一緒に浮遊させ、それを追うようにベルが来る。
 今の今まで冒険者の人間の女であったアリスは、瘴気を纏い姿を戻した。
 魔王アリスが現れれば、茜は歓喜して、ベルは忠義を表すかのように頭を下げた。

「歩いていかなくてよろしいのでしょうか?」
「交渉ではなく実力行使が有効ならば、もう人である意味もない気がするんだ。管理はリーベだけど、どうせこれから私が支配するんだし」
「そのとおりですね」
「うん。上から見たらよく見える。首都まで一気に行こう」


 空を飛ぶのは圧倒的に早い。徒歩で地道に歩いてきた彼女たちだったが、その手間を省いたことで数分足らずで到着する。
 浮遊の際も遠慮のいらない高レベルの部下たちだ。人間であれば死んでいた速度を出しても、何ら問題ない。
 たどり着いた集落には、思ったよりも大きな都市が広がっていた。

「そこそこ広いな。ここは首都かな?」
「城のようなものもありますから、おそらくそうかと」
「ふむ」

 アリスが上空から見下ろせばと、城に教会のようなもの、主要施設、商業地域などが立ち並んでいるのが確認できた。
 蛮族と称される割には普通すぎる町並みで拍子抜けする。腕っぷしは悪くても、技術面で長けている者達が長年作り上げた結果なのか。はたまた白国の〝頭のおかしな国民〟がたまたま武力の国にやってきたのか。
 それを理解したところで、別にアリスの役に立つわけでもない。

「ちょっとやってみるか」

 アリスは自身に、持続回復魔術を付与する。こういう際は、アリスが限界を超えて魔術を使用するときだと、リーベはよく知っている。
 これから起こるであろう大きなイベントに、幼い頃に戻ったかのような目の輝きを覚えた。

「〈影縫いシャドウ・ソーイング〉」

 期待を大いに含んだ瞳を向けていたリーベをよそに、アリスは魔術を唱えた。
 アリスを中心に闇が城と城下町を包み込むように広がる。闇は地面へと染み込むと、即座に地に、壁に、影に触れている全ての人間を縫い付けた。
 意識はあれど身動きが全く取れない。そんな状態に陥っている。
 見える範囲の人間達が固まっているのを見ると、アリスは満足そうに微笑んだ。
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