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後編 第四章「楽園の守護者」
風の通り道2
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ウィアーズの周りを、激しい風が吹き荒れる。先程までの脅しのような突風とは違い、風をかすめた頬に切り傷ができた。
確実に攻撃性を伴う風に、誰もが――アレックスとダニーは困惑した。いくら魔王とて、精霊を敵に回してよいものなのかと。
しかし、次の瞬間――
『ぎゃんっ!』
ゴンッという鈍い音が響いた。すると途端に吹き荒れていた風がやみ、アレックスたちも地に足をつけることが出来た。
そこにあったのは、頭を抑えて震えているウィアーズと、右手を握りしめているアリスだ。
ウィアーズが動こうとした瞬間、先にアリスが動いた。風の精霊だというものだから、その速さには期待した。だがウィアーズは、アリスにはついてこられなかった。
やはり所詮はレベル199か、と呆れたアリスはそのまま猛攻――ではなく、右手を握りしめて軽い力で殴ったのだ。
『うぃ、ウィアを、精霊を殴ったの~!?』
『はぁ……。ウィアーズ。私を馬鹿にするのは結構だけど、それ以前に相手の実力をきちんと見なさい』
『どういうことなの~!?』
殴られるとは思わず、ウィアーズは困惑している。
殴られたこともそうだが、ウィアーズもウィアーズなりに速度には自信があった。だからそれを上回る人間離れした動きをされて、理解が追いついていないのだ。
さらに言えば馬鹿にしていたオータにまで諭されて、混乱しているのである。
「精霊はこんなものばかりなのだろうか」と、二人のやり取りを見ながらアリスはぼんやりと思った。
「まず私は人間じゃないし、今ここにいる六人で人間なのは二人だけ」
『意味がわからないの~!!』
「はぁ。ベル、ルーシー。周りを見張ってて。人が来たらすぐ知らせて」
「「はーい」」
二人に監視と人払いを頼むと、ベルとルーシーはその場から消えた。アリスとハインツには視認出来ていたが、アレックスとダニーには完全に消えたように見えていた。
もはやそのことに口を挟む気にもなれない。
二人がいなくなると、アリスは〝人間態〟から姿を戻した。
金髪碧眼の村娘のような格好から、いつもの魔王の姿へと戻っていく。百聞は一見にしかずだ。言葉で伝えるよりも見てもらうほうが早い。
しかしこの姿は他国に見せるには時期尚早だ。ベルとルーシーには、その監視兼抑止のためにでてもらった。
『な、なんなの~!?』
『なんですか、それぇ~!?』
「オータも驚くのか……」
『アリス、かっこいい』
「ありがとう、ジュン」
ウィアーズもオータですらも、アリスの本当の姿を見て驚いている。
オータは初めて見たときにアリスが〝尋常ではない〟と理解していたから、アリスの正体に気付いていたと思っていたが違ったらしい。
アリスの変身は精霊にすら分からないようだ。レベル199の精霊を欺けるのであれば、今後どこに行っても何ら問題ないだろう。
「私はアリス・ヴェル・トレラント。魔王だよ」
『魔王~!?』
「レベルは200」
『あ、ありえないの……!』
ウィアーズがあまりにも否定をするものだから、アリスは呆れたように息を吐く。
ウィアーズたちは、今まで自分たちを凌駕する存在に出会ったことがない。だからこそアリスを信じられないし、信じたくなかったのだろう。
風の精霊であるウィアーズを殴ったという事実があれど、まだ心が追いついていない。
「信じないとか多すぎでしょ……。君はステータスとか見れないの?」
『んぐぐぐ……』
「見れないんだな……」
見られないからこそ、アリスに対して恐怖心を感じず、怖気づくことなく突進してきたのである。戦闘力的にはどうであれ、こればかりはオータに劣っていたといえる。
〝休息所〟たるこの教会を管理しているせいでもある。
オータは引きこもりではあるものの、最奥で待ち構える――ボス兼報酬だ。遺跡の化け物の管理をしたり、様々なトラップを仕掛けたりする。
表に出て戦うことはあまりないものの、それでも戦闘を必要とする遺跡の管理者だけあって、それなりに知識や備えがあるのだ。
それとは違い、ただ休息所を用意しているだけのウィアーズは、ふだんのんびりとしている。そのせいか、様々な危機管理能力が削がれてしまったのだ。
ある意味、自業自得ともいえよう。
『ふーんだ! ウィアがやられても、あと三人は残ってるの! 楽園の精霊の五人のうち、一人にすぎないの~』
「どこかで聞いたような台詞だな……――というか五人もいるってこと?」
『あ、はい。そうです。水、風、土、火それぞれの精霊と、それらを統べる大精霊が最奥にいらっしゃいます』
ウィアーズもオータも、出会った相手が悪いだけで、精霊という存在は遥かに高い場所にいる強い種族だ。人間を超越した存在であるがゆえに、人間では想像できない、扱えない魔術を使える。
そんな精霊がこの小さな島に五人もいるのならば、人々が興味をそそられてやってきてしまうのもわかる。
もっとも、真実に触れた人間は無事に帰れるとも限らないのだが。だからこそ精霊たちは、この庭でのびのびと暮らせているのだ。
「へー。みんなレベルは199?」
『そうです』
「じゃあ大丈夫だね」
『大丈夫ってどういうことなの~!?』
普通ならば怯えて驚いてしまうレベルも、アリスにとってはただの数字に過ぎない。
今まで見てきた人間の、どれとも違う反応を見せるアリス。ウィアーズは困惑を隠せないでいた。
『アリス様。ト・ナモミらしき軍がこちらへ向かってきています』
「! 了解。そろそろ出発するか」
ベルからの通信が入る。後方の監視を頼んでいた彼女たちが、何かを観測したのだろう。先程帝国軍を見ていたこともあって、それとは違う様相の人間の軍はト・ナモミと断定しても構わないはずだ。
遺跡に入ることも出来ただろうが、彼らはそれを避けてきたのだろう。先に帝国軍が入っているから譲っただけなのかもしれないが、どちらにせよ遭遇は避けたい。
しかし、これでアリスの目的地が決まった。目的地は、最奥の大精霊。
ウィアーズのように頑固な連中もいるかもしれない以上、ボスを服従させるのが一番だと考えた。それに付随して、ウィアーズを始めとする精霊らもアリス側につくはずだ。
『ウィアは一緒に行かないのっ! 大精霊様がぜーったい勝つのっ!』
「あっそ。じゃあこいつは後で回収しよう。みんな行くよ~」
『回収されないの~!!』
空中で地団駄を踏んでいるウィアーズを放置し、一行は最奥へと足を進めることにした。
確実に攻撃性を伴う風に、誰もが――アレックスとダニーは困惑した。いくら魔王とて、精霊を敵に回してよいものなのかと。
しかし、次の瞬間――
『ぎゃんっ!』
ゴンッという鈍い音が響いた。すると途端に吹き荒れていた風がやみ、アレックスたちも地に足をつけることが出来た。
そこにあったのは、頭を抑えて震えているウィアーズと、右手を握りしめているアリスだ。
ウィアーズが動こうとした瞬間、先にアリスが動いた。風の精霊だというものだから、その速さには期待した。だがウィアーズは、アリスにはついてこられなかった。
やはり所詮はレベル199か、と呆れたアリスはそのまま猛攻――ではなく、右手を握りしめて軽い力で殴ったのだ。
『うぃ、ウィアを、精霊を殴ったの~!?』
『はぁ……。ウィアーズ。私を馬鹿にするのは結構だけど、それ以前に相手の実力をきちんと見なさい』
『どういうことなの~!?』
殴られるとは思わず、ウィアーズは困惑している。
殴られたこともそうだが、ウィアーズもウィアーズなりに速度には自信があった。だからそれを上回る人間離れした動きをされて、理解が追いついていないのだ。
さらに言えば馬鹿にしていたオータにまで諭されて、混乱しているのである。
「精霊はこんなものばかりなのだろうか」と、二人のやり取りを見ながらアリスはぼんやりと思った。
「まず私は人間じゃないし、今ここにいる六人で人間なのは二人だけ」
『意味がわからないの~!!』
「はぁ。ベル、ルーシー。周りを見張ってて。人が来たらすぐ知らせて」
「「はーい」」
二人に監視と人払いを頼むと、ベルとルーシーはその場から消えた。アリスとハインツには視認出来ていたが、アレックスとダニーには完全に消えたように見えていた。
もはやそのことに口を挟む気にもなれない。
二人がいなくなると、アリスは〝人間態〟から姿を戻した。
金髪碧眼の村娘のような格好から、いつもの魔王の姿へと戻っていく。百聞は一見にしかずだ。言葉で伝えるよりも見てもらうほうが早い。
しかしこの姿は他国に見せるには時期尚早だ。ベルとルーシーには、その監視兼抑止のためにでてもらった。
『な、なんなの~!?』
『なんですか、それぇ~!?』
「オータも驚くのか……」
『アリス、かっこいい』
「ありがとう、ジュン」
ウィアーズもオータですらも、アリスの本当の姿を見て驚いている。
オータは初めて見たときにアリスが〝尋常ではない〟と理解していたから、アリスの正体に気付いていたと思っていたが違ったらしい。
アリスの変身は精霊にすら分からないようだ。レベル199の精霊を欺けるのであれば、今後どこに行っても何ら問題ないだろう。
「私はアリス・ヴェル・トレラント。魔王だよ」
『魔王~!?』
「レベルは200」
『あ、ありえないの……!』
ウィアーズがあまりにも否定をするものだから、アリスは呆れたように息を吐く。
ウィアーズたちは、今まで自分たちを凌駕する存在に出会ったことがない。だからこそアリスを信じられないし、信じたくなかったのだろう。
風の精霊であるウィアーズを殴ったという事実があれど、まだ心が追いついていない。
「信じないとか多すぎでしょ……。君はステータスとか見れないの?」
『んぐぐぐ……』
「見れないんだな……」
見られないからこそ、アリスに対して恐怖心を感じず、怖気づくことなく突進してきたのである。戦闘力的にはどうであれ、こればかりはオータに劣っていたといえる。
〝休息所〟たるこの教会を管理しているせいでもある。
オータは引きこもりではあるものの、最奥で待ち構える――ボス兼報酬だ。遺跡の化け物の管理をしたり、様々なトラップを仕掛けたりする。
表に出て戦うことはあまりないものの、それでも戦闘を必要とする遺跡の管理者だけあって、それなりに知識や備えがあるのだ。
それとは違い、ただ休息所を用意しているだけのウィアーズは、ふだんのんびりとしている。そのせいか、様々な危機管理能力が削がれてしまったのだ。
ある意味、自業自得ともいえよう。
『ふーんだ! ウィアがやられても、あと三人は残ってるの! 楽園の精霊の五人のうち、一人にすぎないの~』
「どこかで聞いたような台詞だな……――というか五人もいるってこと?」
『あ、はい。そうです。水、風、土、火それぞれの精霊と、それらを統べる大精霊が最奥にいらっしゃいます』
ウィアーズもオータも、出会った相手が悪いだけで、精霊という存在は遥かに高い場所にいる強い種族だ。人間を超越した存在であるがゆえに、人間では想像できない、扱えない魔術を使える。
そんな精霊がこの小さな島に五人もいるのならば、人々が興味をそそられてやってきてしまうのもわかる。
もっとも、真実に触れた人間は無事に帰れるとも限らないのだが。だからこそ精霊たちは、この庭でのびのびと暮らせているのだ。
「へー。みんなレベルは199?」
『そうです』
「じゃあ大丈夫だね」
『大丈夫ってどういうことなの~!?』
普通ならば怯えて驚いてしまうレベルも、アリスにとってはただの数字に過ぎない。
今まで見てきた人間の、どれとも違う反応を見せるアリス。ウィアーズは困惑を隠せないでいた。
『アリス様。ト・ナモミらしき軍がこちらへ向かってきています』
「! 了解。そろそろ出発するか」
ベルからの通信が入る。後方の監視を頼んでいた彼女たちが、何かを観測したのだろう。先程帝国軍を見ていたこともあって、それとは違う様相の人間の軍はト・ナモミと断定しても構わないはずだ。
遺跡に入ることも出来ただろうが、彼らはそれを避けてきたのだろう。先に帝国軍が入っているから譲っただけなのかもしれないが、どちらにせよ遭遇は避けたい。
しかし、これでアリスの目的地が決まった。目的地は、最奥の大精霊。
ウィアーズのように頑固な連中もいるかもしれない以上、ボスを服従させるのが一番だと考えた。それに付随して、ウィアーズを始めとする精霊らもアリス側につくはずだ。
『ウィアは一緒に行かないのっ! 大精霊様がぜーったい勝つのっ!』
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