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後編 第四章「楽園の守護者」
鎮座する岩
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ウィアーズの管理下から抜けると、また再び森が広がっている。次の目的地へと足を進めながら、特に魔獣もいない何の変哲もない森の中を歩く。
アリスと幹部だけならば、走っていけば良いのだが――仲間には人間もいる。それにすぐに終わらせて帰っても、勇者と戦うまでまた暇になってしまうのである。
『ウィアーズの教会を抜ければ、次は土の精霊・エアラの管理下です』
「ほうほう」
『彼女の管理する〝土の試練〟は、非常に入り組んだダンジョンでして。一度迷い込めば二度と出てこれないのです』
「なるほどね」
土の精霊、エアラ。彼女は天然気質なウィアーズや、どこか抜けているオータとは違い、真面目で神経質だ。
常にダンジョンを監視しており、中に入った人間を二度と出さないよう務める。ウィアーズの生ぬるい試練を通り抜けた人間たちが、油断した結果、必ずと言って命を落とす。
『それがあちらの山です』
「あちらの山」
オータに言われて見てみれば、目の前には荘厳で険しく高い山がそびえ立っていた。
この山脈は、ぐるりと島を一周しており、決して人を通さぬようにどんと構えている。
そしてダンジョンと言うだけあって、各地に入口が設置されている。土の精霊は山の中をくり抜いて、迷路を作りあげた。そしてその迷路の難易度は、異常なほど高い。
もちろん、山を登ろうものならば、それもエアラの怒りに触れる。強制的にダンジョン内に転移させられたり、精霊の怒りと謳ってそのまま殺すことだって有り得るのだ。
『山を切り抜いて作りまして。最奥に向かうには必ず通らねばなりません』
「なーるほど。じゃあ大抵の人間は、このダンジョンで脱落するわけだ」
『脱落というか、死ぬのですけどね』
リタイアして帰れるだなんて甘いことはない。厳しくも難易度の高いダンジョンで、必ず殺されるのだ。
未知の世界の探索は楽しいものの、流石に山レベルの巨大な迷路を迷うほど、アリスは気が長い訳では無い。
探知をして最短ルートを割り出すのも手だが、オータの遺跡にて痛い目を見ている。治癒をしながら探知するほど、時間をかけてやれない。
それに遺跡にて学んだこともあった。
アリスは後ろに待機している幹部の方へと、くりると振り返る。ルーシーとハインツを指差して、指示を出した。
「ルーシー、バフ。ハインツ、全力攻撃」
「りょ! ですっ」
「承りましたッッ!!」
『え、何をする気ですか? まさか攻撃とか言いませんよね? 山ですよ??』
「そのまさかだ」
ハインツが力を込めると、体が変化していく。メキメキと音を立てて骨格が変わり、巨大な両翼が背から生える。190センチ近い巨漢だったハインツだが、その姿すら跡形もない。
完全に変身を終えた頃には、漆黒のドラゴンへとなった。
ハインツは竜人ではあるものの、滅多に変身を行わない。変身をしてドラゴン形態で戦わなくてもいいほど、周りが生ぬるいのだ。
直近で変身をしたとしても、リーベがドラゴンを見たいからと強請ったときくらいだろう。
元々ハインツは人間種に対しての有利スキルを得ていることもあって、完全体にならずとも渡り合えるのだ。
『ド、ドラゴン~!?』
『わあ、すごい。アリスの部下、強そう』
オータは驚き、影の中にいるジュンは喜んでいる。
引きこもり精霊もとい、水の精霊オータは流石にドラゴンを見たことがないようで。それに加えてアリスの部下が、人間からドラゴンに変わったことも驚きのひとつなのだろう。
そんな二人に構わず、今度はルーシーが動いた。知り得る強化魔術をハインツに付与するためだ。
ルーシーから幾つかのバフを受け取ると、ハインツは大きな両翼を羽ばたかせた。バフによる影響なのか、上空へ飛び立っただけで起きた風が酷く激しい。
アリスが咄嗟に魔力を溢れさせて層を作り、幹部を含む全員を包み込む。おかげでダニーとアレックスも、吹き飛ばされずに済んでいる。
これならば山をも砕く威力を期待できそうだ――と、アリスは口角を上げる。
ハインツはある程度まで上昇すると、大きく息を吸い込み始めた。
アリスは余波を警戒し、まだ魔力の壁を解除しなかった。魔力の壁を保つために集中しつつも、ハインツがどれほどの威力を出してくれるのか楽しみにしていた。
「〈Eis・Hagel・Schneesturm〉ッッ!」
ハインツが最大火力のブレスを打ち込む。それはもはや、攻撃というよりかは災害に近い。下手したら耳を破壊するのではないか、という勢いの激しい攻撃音であった。
空が一瞬、凍りついたようにも感じた。ビリビリとひりつく空気は、アリスの魔力の層があっても感じられるほどだ。
この保護の中にいなければ、今頃命はないだろう。
氷のブレスによって空が白くなっていたのが晴れると、上空にハインツが見える。そして遠くにあった山は、削れてなくなっていた。
『あ、あはは、あははは……』
「……な、なっ!」
「ははは、なんだあの魔王さん。俺ァ、もうなんでもいいわ……」
オータが失笑し、アレックスは言葉を失っている。ダニーに至っては完全に諦めきっており、この魔王軍はなんでもありなんだなぁと遠い目をしていた。
『あーのー……。こんな派手にやって、不審に思われませんかねぇ?』
「ん? ここは誰も帰らない島だぞ?」
『あー、なるほどです……』
ニッコリとアリスは答える。
アリスにとって、誰も帰らない島という概念は、非常に助かるものだった。
目撃されたのならば、消してしまえばいい。その単純明快なパターンで成り立つのだから、変にひねる必要も無い。
それに遠くから見ただけでは、アリス達が攻撃したとは思えない。未知の島であるが故に、この島にはドラゴンがいると思われるだけだ。
さて、山を超えるか――と思っていたとき。崩れてなくなった山の方面から、何かが超高速で飛んでくる。
明らかに殺意を伴ったそれは、土の精霊・エアラであった。赤黒いショートヘアに、眼鏡からは黒い目が覗く。生真面目そうな顔立ちは、彼女の性格のとおりだ。まとう衣装はきっちりとした軍服である。
当然だが彼女は、エアラ自身の管理下である山を破壊されて憤怒しているのである。
自分の領域に人間を招き入れる前に、その遥かな遠方から破壊されれば、それはそれは怒るに決まっている。
『何をした! 私の試練場が粉々ではないか!』
『わあ、エアラがこんなに怒ってるの、初めて見ました~』
『……オータか? 説明をしろ』
『実はですねぇ……――』
精霊の中でもエアラは力が強いほうだ。普段のオータならば、彼女を怒らせぬように振る舞っていたが、それよりも強い脅威の前では悟りを開く。
まるでエアラが吠える子犬のように見えて仕方がないのだ。
いつもの命令口調で厳しいエアラの前でも、冷静に説明を始めた。
自分の遺跡で起こったことから、何もかもすべて。
『なるほど。信じ難いと言いたいが、事実が目の前にある』
『すんなり了承するんですね』
『元より私の意思などない。全ては大精霊様に従うのみ』
『……そうですか』
エアラもウィアーズよろしく、大精霊と言う。彼女にならば従うと、絶対なる忠誠心を向けている。
そこまで慕う存在とは、一体どのようなものなのか。アリスは疑問と興味が更に増える。
ウィアーズはともかく、山を丸ごとダンジョンにしてしまうほど強いエアラが、ここまで盲目的に従っている存在だ。
「ねーねー、そんなに大精霊ってすごいの? あーし、ぜんっぜん分かんないし」
アリスが聞こうとしたことを代弁したのは、ルーシーだった。彼女の場合は、アリス以外に強い存在はいないという、絶対的な思いから来ていた。
そしてなによりも、アリスの命令〝配下に入れ〟という言葉に素直に従わない精霊たちに、嫌気が差していたのだろう。
ルーシーは抜けているが、その分素直だ。思ったことをすぐに聞いていく。
『はい、もちろん! Sランク魔術を全て扱えるんですよ!』
「へー、それならアリス様の方が強いし」
『え?』
ルーシーの問いに、オータが元気よく答える。彼女も恐怖でアリスに従っているものの、やはり自分の直属の上司を慕うという気持ちは捨てられない。
自慢も交えて大精霊を紹介すれば、ルーシーも負けじとアリスの強さを押し出す。
とはいっても、Sランクを全て扱えるのであれば、相当強力だ。そもそもSランクは、人間種では到底到達できない領域だ。
勇者などならばまだしも、この世界のほとんどの人間は扱えない。
「そうだねぇ」
『え? まさか、そんな……』
「私はXランク全部使えるから」
『……アッハハハ、……はぁ……』
神の領域とされるXランク。それを全て使えるのであれば、もはやその大精霊とやらに勝算はない。
Xランクを打ち消すには、同等のランク――つまりXランクではないと太刀打ち出来ないのだ。アリスがXランクを繰り出してしまえば、その大精霊とやらは敗北が確定するのだ。
「とりあえず次に行こうか。えーと……」
『火の精霊、イヴの元ですね』
「そうそれ」
アリスと幹部だけならば、走っていけば良いのだが――仲間には人間もいる。それにすぐに終わらせて帰っても、勇者と戦うまでまた暇になってしまうのである。
『ウィアーズの教会を抜ければ、次は土の精霊・エアラの管理下です』
「ほうほう」
『彼女の管理する〝土の試練〟は、非常に入り組んだダンジョンでして。一度迷い込めば二度と出てこれないのです』
「なるほどね」
土の精霊、エアラ。彼女は天然気質なウィアーズや、どこか抜けているオータとは違い、真面目で神経質だ。
常にダンジョンを監視しており、中に入った人間を二度と出さないよう務める。ウィアーズの生ぬるい試練を通り抜けた人間たちが、油断した結果、必ずと言って命を落とす。
『それがあちらの山です』
「あちらの山」
オータに言われて見てみれば、目の前には荘厳で険しく高い山がそびえ立っていた。
この山脈は、ぐるりと島を一周しており、決して人を通さぬようにどんと構えている。
そしてダンジョンと言うだけあって、各地に入口が設置されている。土の精霊は山の中をくり抜いて、迷路を作りあげた。そしてその迷路の難易度は、異常なほど高い。
もちろん、山を登ろうものならば、それもエアラの怒りに触れる。強制的にダンジョン内に転移させられたり、精霊の怒りと謳ってそのまま殺すことだって有り得るのだ。
『山を切り抜いて作りまして。最奥に向かうには必ず通らねばなりません』
「なーるほど。じゃあ大抵の人間は、このダンジョンで脱落するわけだ」
『脱落というか、死ぬのですけどね』
リタイアして帰れるだなんて甘いことはない。厳しくも難易度の高いダンジョンで、必ず殺されるのだ。
未知の世界の探索は楽しいものの、流石に山レベルの巨大な迷路を迷うほど、アリスは気が長い訳では無い。
探知をして最短ルートを割り出すのも手だが、オータの遺跡にて痛い目を見ている。治癒をしながら探知するほど、時間をかけてやれない。
それに遺跡にて学んだこともあった。
アリスは後ろに待機している幹部の方へと、くりると振り返る。ルーシーとハインツを指差して、指示を出した。
「ルーシー、バフ。ハインツ、全力攻撃」
「りょ! ですっ」
「承りましたッッ!!」
『え、何をする気ですか? まさか攻撃とか言いませんよね? 山ですよ??』
「そのまさかだ」
ハインツが力を込めると、体が変化していく。メキメキと音を立てて骨格が変わり、巨大な両翼が背から生える。190センチ近い巨漢だったハインツだが、その姿すら跡形もない。
完全に変身を終えた頃には、漆黒のドラゴンへとなった。
ハインツは竜人ではあるものの、滅多に変身を行わない。変身をしてドラゴン形態で戦わなくてもいいほど、周りが生ぬるいのだ。
直近で変身をしたとしても、リーベがドラゴンを見たいからと強請ったときくらいだろう。
元々ハインツは人間種に対しての有利スキルを得ていることもあって、完全体にならずとも渡り合えるのだ。
『ド、ドラゴン~!?』
『わあ、すごい。アリスの部下、強そう』
オータは驚き、影の中にいるジュンは喜んでいる。
引きこもり精霊もとい、水の精霊オータは流石にドラゴンを見たことがないようで。それに加えてアリスの部下が、人間からドラゴンに変わったことも驚きのひとつなのだろう。
そんな二人に構わず、今度はルーシーが動いた。知り得る強化魔術をハインツに付与するためだ。
ルーシーから幾つかのバフを受け取ると、ハインツは大きな両翼を羽ばたかせた。バフによる影響なのか、上空へ飛び立っただけで起きた風が酷く激しい。
アリスが咄嗟に魔力を溢れさせて層を作り、幹部を含む全員を包み込む。おかげでダニーとアレックスも、吹き飛ばされずに済んでいる。
これならば山をも砕く威力を期待できそうだ――と、アリスは口角を上げる。
ハインツはある程度まで上昇すると、大きく息を吸い込み始めた。
アリスは余波を警戒し、まだ魔力の壁を解除しなかった。魔力の壁を保つために集中しつつも、ハインツがどれほどの威力を出してくれるのか楽しみにしていた。
「〈Eis・Hagel・Schneesturm〉ッッ!」
ハインツが最大火力のブレスを打ち込む。それはもはや、攻撃というよりかは災害に近い。下手したら耳を破壊するのではないか、という勢いの激しい攻撃音であった。
空が一瞬、凍りついたようにも感じた。ビリビリとひりつく空気は、アリスの魔力の層があっても感じられるほどだ。
この保護の中にいなければ、今頃命はないだろう。
氷のブレスによって空が白くなっていたのが晴れると、上空にハインツが見える。そして遠くにあった山は、削れてなくなっていた。
『あ、あはは、あははは……』
「……な、なっ!」
「ははは、なんだあの魔王さん。俺ァ、もうなんでもいいわ……」
オータが失笑し、アレックスは言葉を失っている。ダニーに至っては完全に諦めきっており、この魔王軍はなんでもありなんだなぁと遠い目をしていた。
『あーのー……。こんな派手にやって、不審に思われませんかねぇ?』
「ん? ここは誰も帰らない島だぞ?」
『あー、なるほどです……』
ニッコリとアリスは答える。
アリスにとって、誰も帰らない島という概念は、非常に助かるものだった。
目撃されたのならば、消してしまえばいい。その単純明快なパターンで成り立つのだから、変にひねる必要も無い。
それに遠くから見ただけでは、アリス達が攻撃したとは思えない。未知の島であるが故に、この島にはドラゴンがいると思われるだけだ。
さて、山を超えるか――と思っていたとき。崩れてなくなった山の方面から、何かが超高速で飛んでくる。
明らかに殺意を伴ったそれは、土の精霊・エアラであった。赤黒いショートヘアに、眼鏡からは黒い目が覗く。生真面目そうな顔立ちは、彼女の性格のとおりだ。まとう衣装はきっちりとした軍服である。
当然だが彼女は、エアラ自身の管理下である山を破壊されて憤怒しているのである。
自分の領域に人間を招き入れる前に、その遥かな遠方から破壊されれば、それはそれは怒るに決まっている。
『何をした! 私の試練場が粉々ではないか!』
『わあ、エアラがこんなに怒ってるの、初めて見ました~』
『……オータか? 説明をしろ』
『実はですねぇ……――』
精霊の中でもエアラは力が強いほうだ。普段のオータならば、彼女を怒らせぬように振る舞っていたが、それよりも強い脅威の前では悟りを開く。
まるでエアラが吠える子犬のように見えて仕方がないのだ。
いつもの命令口調で厳しいエアラの前でも、冷静に説明を始めた。
自分の遺跡で起こったことから、何もかもすべて。
『なるほど。信じ難いと言いたいが、事実が目の前にある』
『すんなり了承するんですね』
『元より私の意思などない。全ては大精霊様に従うのみ』
『……そうですか』
エアラもウィアーズよろしく、大精霊と言う。彼女にならば従うと、絶対なる忠誠心を向けている。
そこまで慕う存在とは、一体どのようなものなのか。アリスは疑問と興味が更に増える。
ウィアーズはともかく、山を丸ごとダンジョンにしてしまうほど強いエアラが、ここまで盲目的に従っている存在だ。
「ねーねー、そんなに大精霊ってすごいの? あーし、ぜんっぜん分かんないし」
アリスが聞こうとしたことを代弁したのは、ルーシーだった。彼女の場合は、アリス以外に強い存在はいないという、絶対的な思いから来ていた。
そしてなによりも、アリスの命令〝配下に入れ〟という言葉に素直に従わない精霊たちに、嫌気が差していたのだろう。
ルーシーは抜けているが、その分素直だ。思ったことをすぐに聞いていく。
『はい、もちろん! Sランク魔術を全て扱えるんですよ!』
「へー、それならアリス様の方が強いし」
『え?』
ルーシーの問いに、オータが元気よく答える。彼女も恐怖でアリスに従っているものの、やはり自分の直属の上司を慕うという気持ちは捨てられない。
自慢も交えて大精霊を紹介すれば、ルーシーも負けじとアリスの強さを押し出す。
とはいっても、Sランクを全て扱えるのであれば、相当強力だ。そもそもSランクは、人間種では到底到達できない領域だ。
勇者などならばまだしも、この世界のほとんどの人間は扱えない。
「そうだねぇ」
『え? まさか、そんな……』
「私はXランク全部使えるから」
『……アッハハハ、……はぁ……』
神の領域とされるXランク。それを全て使えるのであれば、もはやその大精霊とやらに勝算はない。
Xランクを打ち消すには、同等のランク――つまりXランクではないと太刀打ち出来ないのだ。アリスがXランクを繰り出してしまえば、その大精霊とやらは敗北が確定するのだ。
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