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後編 第四章「楽園の守護者」
村娘にご注意
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森の中を、二人の少女が進む。片方は高速で地を駆け、もう片方は素早く飛んでそれに追随していた。
上位悪魔であり蟲であるベル・フェゴールと、堕天使であり幹部一の魔術師ルーシー・フェルだ。
アリスから、後方から続く他国の軍勢の排除を頼まれて、パルドウィンの一行が来ていた道を仲良く引き返している。
「おっ、あれじゃない?」
「あったりー!」
「あれは――リトヴェッタだね」
「さっきのムカつくヤツ!?」
「そうそう」
暫く移動を続けていれば、前方に見覚えのある軍隊を発見する。先程、遺跡から出た際に出くわしたリトヴェッタ帝国軍だった。
あの時はアリスの気まぐれという名の慈悲により生き延びたものの、今度こそその息の根を止めることとなった。
連れてこられている軍勢が、大した強さでは無いのが彼らにとっての幸いだろう。これで一軍だった場合、帝国への損害が大きくなる。
聖女の実兄である皇子の無能さが、幸運を引き起こしたのだ。
「ちょーどイイし! 懲らしめよ!」
「隊長だったから、生かす対象じゃないの?」
「あーっ! そーだね、さいあく!」
「まあまあ、絶望を与えるという意味で」
「だねっ!」
二人はそんな会話をしながら、帝国軍の前に飛び出した。
帝国軍は、二軍以下であれども訓練の結果がきちんと発揮できているらしく、突如現れた生命体に対してすぐ攻撃態勢を取った。
「!! 何者だ!」
「村娘……? この島には人が住んでいるのでしょうか?」
ジョン・マグワイア隊長と、その補佐であるアデル・リバー副隊長が声を上げる。どちらも、軍の誰もが思った疑問だった。
飛び出してきたのは、ずっと警戒していた魔物などではなかった。
可憐で、どこの村にでも居そうな普通の娘。戦いなんて知らず、村で育ち、村で結婚し、村で死ぬような。
だからこそ、彼らの中で引き上がっていた警戒心が、一気に緩む。戦闘態勢を解除する者までいるくらいだ。
そんな甘い考えの彼らに、少女達からの慈悲などない。
尊敬し、愛し、唯一従う存在である魔王アリスから、殺してこいと命令を受けた。であれば、それを遂行するのみ。
しかしその命令には、全員を殺せとは言われなかった。ここで見聞きしたことを、国に持ち帰る生還者を作らねばならない。
二人はどう処理するか頭を抱えている。
「どーする?」
「巻き込むといけないからさぁ、生かすやつだけ保護できない?」
「りょ!」
ルーシーは軽快に返事をすると、手にしていた杖をくるりと回した。
すると、一瞬のうちに部隊長と副隊長、その他三名が捕縛される。ギチギチと体を縛りあげた紐は、そんじょそこらの抵抗では抜け出せない。
更にそれだけではなく、縛り上げられた五名はふわりと浮遊した。完全に地から足が離れ、浮遊の経験がない彼らは、落ちるかもしれないという恐怖で青ざめている。
はなから帝国側に選択権と主導権などなく、突如現れた二人組にされるがままだ。
「隊長クラスと、あと数人って言ってたよね!」
「いち、に……。うん。五人も残れば十分だよ」
「あ、船員も?」
「戦闘要員じゃないなら、いらなくない? それに船の人殺したら、情報持って帰れないでしょ」
「たしかに! ベルってば天才じゃん!」
きゃあきゃあ、とまるで恋愛話に花を咲かせるような少女の声色で話す二人。
喋っている内容としては、恋愛とは全く関係のない血なまぐさい話なのだが、そんな話すら二人にとっては明るくなってしまう。
そんな二人の喋り方のせいか、帝国軍はまだ危機感を感じていないようだった。
「おい!」
「なんだこれは!」
「直ちに下ろせ!!」
「なんか言ってるねぇ」
「ま、どうせ動けないっしょ!」
「だね。そいじゃ、殺りますかぁ」
浮遊させられ騒いでいる隊長らを尻目に、ベルはスキル〈武器生成〉を使用した。その名の通り武器を作るスキルだ。
ベルは基本的に近接戦闘を好むため、作るのは剣の類となる。
今回生成したのも、双剣だ。何か魔術が付与されているわけではなく、ただただ切れ味の鋭い普通の剣だった。人間相手なのであれば、この程度でいいと思ったのだろう。
もっとも、何を生成しようとも、人間程度がベルの速さについて来られるわけがないのだ。
ベルは武器を作るとすぐに動いた。傍目からすれば、消えたと同等だった。
たった数秒前にそこにいた少女は、一瞬にして消えた。
本気を出したスピードではなかったため、速さに自信があるわけではないルーシーでも目で追えた。
ベルは高速で移動すると、大勢いる帝国軍の中から適当な人間を一人選ぶ。そして遠慮など無く、その双剣で男の首を薙いだ。
「まずひとり~」
ベルがそう言えば、帝国軍の人間はやっとベルがどこに移動をしたのか把握できた。帝国軍のど真ん中に立っていた彼女をみて、誰もが驚愕している。
そしてベルの目の前にいた男は、しばらく置いてからぐらりと傾いた。地面に倒れれば、ベルによって斬られた首がゴロンと転がる。
殺されたことも、死んだことも気づかないまま、男は逝った。
「……え?」
「なん……」
とはいえ、彼ら人間にはまだ理解できない。彼らの知識の中では、ベルのような動きを可能とする生命体は存在しないからだ。
強い冒険者や戦士だとしても、目で追える動きをしてくれる。そうとしか動けない。
海の向こうにいたはずの勇者は、それを凌駕する力を持っているとも聞いたことがあるが、ただの一般兵士である彼らが見たことなどあるわけもなく。
「食べても良いと思う?」
「いんじゃね~? どうせ見た目変わってるし」
「やりぃ。ちょうどお腹すいてたんだよねぇ」
頭が追いついていない兵士たちに、気を使ってやるはずもない二人。
彼女たちの興味は、既に違う方へと向いていた。彼女たち、というよりはベルの興味とも言える。
アリスには殺すように言われたが、食べるなとも言われていない。どうせ国に帰さないのだから、ここにある死体はどう扱っても良いはずだ。
ベルは倒れていた兵士の腕を掴むと、剣で肘から下を切り取った。骨もあったはずなのだが、先程の首を切ったときのように滑らかに切断される。
〝余計な布類〟を取り払うと、ベルは嬉しそうに微笑む。鍛えられた兵士の肉は、それはそれは美味なはずだ。
アリ=マイア周辺の人間は、アリスに心酔し、崇め称えている人間が多い。そんなある種の部下のような人間を、食べられるはずもない。それこそ、見つかってはアリスに叱られてしまう。
だからベルは、普段から食べたくても食べられなかった。稀に罪人などを捕らえたときに、おこぼれをもらうくらいだ。
食べなくても生活していけるものの、一度その味を知ってしまえば戻れない。
ベルはそのまま、骨ごと肉の部分にがぶりとかぶりついた。ゴリゴリと音を立てて、嬉しそうに咀嚼する。
「食べ、てる……?」
「ひ、ひぃいい!」
「化け物!!」
ようやく事態の深刻さを理解した兵士たちは、一目散に逃げていく。森の中に散り散りになるように走った。
当たり前だが、殺すべき相手が四方八方に散ってしまえば、処理が余計に面倒になる。
「あ、こら。――〈蜘蛛の糸〉」
ベルは片手間で仕事をするかのように、スキル〈蜘蛛の糸〉を使用する。
〈蜘蛛の糸〉は、その質を好きに調整できる便利なスキルだ。触れただけで切れてしまうような鋭い糸から、絹のように滑らかで服を編むに適した素材にも可能だ。
このスキルを用いて、己の奴隷に与える衣装を作っていたりするのだが――今回使うのはそんな柔らかいものではない。
確実に人を殺せる糸だ。
細くありつつも殺傷力を持った糸が森に張り巡らされ、そこを通った兵士は途端に肉塊へと姿を変えていく。
「しかしこんなに食いきれるかな?」
「魔術空間にしまっとけば?」
「新鮮じゃないと美味しくないじゃん!」
「ゴブリンとかに、リョーリしてもらえばよくね? カンブツ、だっけ?」
「保存食か! 残りを掃除して、魔術空間にしまってくる~」
そう言い残すと、ベルは残った生存者を殺すために動いた。
もはやそれは戦闘などと言うには残酷で、誰もが死んだことを悟らぬうちに息絶えていく。
ベルの動きなど見えるはずもない。必死に防御の魔術を唱えたところで、圧倒的なレベル差の前では作用しない。
紙を切るかのように優しく滑らかに、首や胴、体が切り刻まれる。
捕縛され浮遊している五人の前で、成すすべもなく仲間が次々と死んでいった。
「何を……しているんだ……?」
「は? 見てわかんない感じ?」
「分かるわけが……」
ジョンは状況を理解できていなかったわけではない。目の前で少女の姿をした何者かに、抵抗も出来ないまま殺されている部下――という現状を分かっていた。
しかし、頭で分かっていても、心が追いつかない。
今まで聞いてきた、学んできた常識とはかけ離れたことだった。
「あーしらは、だいだいだーいすきな〝魔王様〟にメーレーされて、あんたらを殺すために来たし」
「魔王……? 殺す……?」
「そ! ここで縛ってるやつらは、帰してあげる。自分のお家のエライヒトに、化け物がいたってホーコクするといいし」
「じゃ、じゃあ、あの部下は……」
「だから殺すって言ってるじゃん。何度も言わせんな!」
もとより、命乞いなど意味はない。アリスが命令したのならば、その通りにするだけだ。
ルーシーは幹部の中では比較的、人間に対して優しさなどを持ち合わせている。しかしそれはそれ、これはこれ。
それにそもそも、遺跡から出た際に起きた会話のせいで、ルーシーには帝国軍に対して優しさを見せるつもりなどなかった。
「終わったよー」
「おっけー!」
ベルがあっという間に、その〝処理〟を終える。
死体も全て魔術空間に収納したため、その場に残っているのは血痕や装備品くらいだ。
死体すら残してくれない村娘二人に対して、ジョンは更に絶望を深める。
ルーシーは五人の拘束を解くと、浮遊させていた体を地面へとおろした。特に優しくおろしてやるわけではなく、乱暴に落とした。
普段であればきちんと着地出来る高さであったが、誰もが動揺しているためか、尻餅をついたりと情けない形で地に落ちた。
「じゃ、とっとと帰りな」
「は?」
「あーしらはト・ナモミも潰してくるからさぁ、相手する暇ないんだよね」
「……」
「そんじゃ!」
「隊長さん、ご馳走様でした!」
言いたいことだけ言うと、ベルとルーシーはまるで風のように駆けていった。
突如やってきて虐殺し、数十名近くいた部下はほぼ全滅。残されたのはたった五人。死体の一部を持って帰ることすら許されず、乾いた笑いが溢れた。
「……は、ははは……」
「……戻りましょう、隊長」
「あぁ……」
上位悪魔であり蟲であるベル・フェゴールと、堕天使であり幹部一の魔術師ルーシー・フェルだ。
アリスから、後方から続く他国の軍勢の排除を頼まれて、パルドウィンの一行が来ていた道を仲良く引き返している。
「おっ、あれじゃない?」
「あったりー!」
「あれは――リトヴェッタだね」
「さっきのムカつくヤツ!?」
「そうそう」
暫く移動を続けていれば、前方に見覚えのある軍隊を発見する。先程、遺跡から出た際に出くわしたリトヴェッタ帝国軍だった。
あの時はアリスの気まぐれという名の慈悲により生き延びたものの、今度こそその息の根を止めることとなった。
連れてこられている軍勢が、大した強さでは無いのが彼らにとっての幸いだろう。これで一軍だった場合、帝国への損害が大きくなる。
聖女の実兄である皇子の無能さが、幸運を引き起こしたのだ。
「ちょーどイイし! 懲らしめよ!」
「隊長だったから、生かす対象じゃないの?」
「あーっ! そーだね、さいあく!」
「まあまあ、絶望を与えるという意味で」
「だねっ!」
二人はそんな会話をしながら、帝国軍の前に飛び出した。
帝国軍は、二軍以下であれども訓練の結果がきちんと発揮できているらしく、突如現れた生命体に対してすぐ攻撃態勢を取った。
「!! 何者だ!」
「村娘……? この島には人が住んでいるのでしょうか?」
ジョン・マグワイア隊長と、その補佐であるアデル・リバー副隊長が声を上げる。どちらも、軍の誰もが思った疑問だった。
飛び出してきたのは、ずっと警戒していた魔物などではなかった。
可憐で、どこの村にでも居そうな普通の娘。戦いなんて知らず、村で育ち、村で結婚し、村で死ぬような。
だからこそ、彼らの中で引き上がっていた警戒心が、一気に緩む。戦闘態勢を解除する者までいるくらいだ。
そんな甘い考えの彼らに、少女達からの慈悲などない。
尊敬し、愛し、唯一従う存在である魔王アリスから、殺してこいと命令を受けた。であれば、それを遂行するのみ。
しかしその命令には、全員を殺せとは言われなかった。ここで見聞きしたことを、国に持ち帰る生還者を作らねばならない。
二人はどう処理するか頭を抱えている。
「どーする?」
「巻き込むといけないからさぁ、生かすやつだけ保護できない?」
「りょ!」
ルーシーは軽快に返事をすると、手にしていた杖をくるりと回した。
すると、一瞬のうちに部隊長と副隊長、その他三名が捕縛される。ギチギチと体を縛りあげた紐は、そんじょそこらの抵抗では抜け出せない。
更にそれだけではなく、縛り上げられた五名はふわりと浮遊した。完全に地から足が離れ、浮遊の経験がない彼らは、落ちるかもしれないという恐怖で青ざめている。
はなから帝国側に選択権と主導権などなく、突如現れた二人組にされるがままだ。
「隊長クラスと、あと数人って言ってたよね!」
「いち、に……。うん。五人も残れば十分だよ」
「あ、船員も?」
「戦闘要員じゃないなら、いらなくない? それに船の人殺したら、情報持って帰れないでしょ」
「たしかに! ベルってば天才じゃん!」
きゃあきゃあ、とまるで恋愛話に花を咲かせるような少女の声色で話す二人。
喋っている内容としては、恋愛とは全く関係のない血なまぐさい話なのだが、そんな話すら二人にとっては明るくなってしまう。
そんな二人の喋り方のせいか、帝国軍はまだ危機感を感じていないようだった。
「おい!」
「なんだこれは!」
「直ちに下ろせ!!」
「なんか言ってるねぇ」
「ま、どうせ動けないっしょ!」
「だね。そいじゃ、殺りますかぁ」
浮遊させられ騒いでいる隊長らを尻目に、ベルはスキル〈武器生成〉を使用した。その名の通り武器を作るスキルだ。
ベルは基本的に近接戦闘を好むため、作るのは剣の類となる。
今回生成したのも、双剣だ。何か魔術が付与されているわけではなく、ただただ切れ味の鋭い普通の剣だった。人間相手なのであれば、この程度でいいと思ったのだろう。
もっとも、何を生成しようとも、人間程度がベルの速さについて来られるわけがないのだ。
ベルは武器を作るとすぐに動いた。傍目からすれば、消えたと同等だった。
たった数秒前にそこにいた少女は、一瞬にして消えた。
本気を出したスピードではなかったため、速さに自信があるわけではないルーシーでも目で追えた。
ベルは高速で移動すると、大勢いる帝国軍の中から適当な人間を一人選ぶ。そして遠慮など無く、その双剣で男の首を薙いだ。
「まずひとり~」
ベルがそう言えば、帝国軍の人間はやっとベルがどこに移動をしたのか把握できた。帝国軍のど真ん中に立っていた彼女をみて、誰もが驚愕している。
そしてベルの目の前にいた男は、しばらく置いてからぐらりと傾いた。地面に倒れれば、ベルによって斬られた首がゴロンと転がる。
殺されたことも、死んだことも気づかないまま、男は逝った。
「……え?」
「なん……」
とはいえ、彼ら人間にはまだ理解できない。彼らの知識の中では、ベルのような動きを可能とする生命体は存在しないからだ。
強い冒険者や戦士だとしても、目で追える動きをしてくれる。そうとしか動けない。
海の向こうにいたはずの勇者は、それを凌駕する力を持っているとも聞いたことがあるが、ただの一般兵士である彼らが見たことなどあるわけもなく。
「食べても良いと思う?」
「いんじゃね~? どうせ見た目変わってるし」
「やりぃ。ちょうどお腹すいてたんだよねぇ」
頭が追いついていない兵士たちに、気を使ってやるはずもない二人。
彼女たちの興味は、既に違う方へと向いていた。彼女たち、というよりはベルの興味とも言える。
アリスには殺すように言われたが、食べるなとも言われていない。どうせ国に帰さないのだから、ここにある死体はどう扱っても良いはずだ。
ベルは倒れていた兵士の腕を掴むと、剣で肘から下を切り取った。骨もあったはずなのだが、先程の首を切ったときのように滑らかに切断される。
〝余計な布類〟を取り払うと、ベルは嬉しそうに微笑む。鍛えられた兵士の肉は、それはそれは美味なはずだ。
アリ=マイア周辺の人間は、アリスに心酔し、崇め称えている人間が多い。そんなある種の部下のような人間を、食べられるはずもない。それこそ、見つかってはアリスに叱られてしまう。
だからベルは、普段から食べたくても食べられなかった。稀に罪人などを捕らえたときに、おこぼれをもらうくらいだ。
食べなくても生活していけるものの、一度その味を知ってしまえば戻れない。
ベルはそのまま、骨ごと肉の部分にがぶりとかぶりついた。ゴリゴリと音を立てて、嬉しそうに咀嚼する。
「食べ、てる……?」
「ひ、ひぃいい!」
「化け物!!」
ようやく事態の深刻さを理解した兵士たちは、一目散に逃げていく。森の中に散り散りになるように走った。
当たり前だが、殺すべき相手が四方八方に散ってしまえば、処理が余計に面倒になる。
「あ、こら。――〈蜘蛛の糸〉」
ベルは片手間で仕事をするかのように、スキル〈蜘蛛の糸〉を使用する。
〈蜘蛛の糸〉は、その質を好きに調整できる便利なスキルだ。触れただけで切れてしまうような鋭い糸から、絹のように滑らかで服を編むに適した素材にも可能だ。
このスキルを用いて、己の奴隷に与える衣装を作っていたりするのだが――今回使うのはそんな柔らかいものではない。
確実に人を殺せる糸だ。
細くありつつも殺傷力を持った糸が森に張り巡らされ、そこを通った兵士は途端に肉塊へと姿を変えていく。
「しかしこんなに食いきれるかな?」
「魔術空間にしまっとけば?」
「新鮮じゃないと美味しくないじゃん!」
「ゴブリンとかに、リョーリしてもらえばよくね? カンブツ、だっけ?」
「保存食か! 残りを掃除して、魔術空間にしまってくる~」
そう言い残すと、ベルは残った生存者を殺すために動いた。
もはやそれは戦闘などと言うには残酷で、誰もが死んだことを悟らぬうちに息絶えていく。
ベルの動きなど見えるはずもない。必死に防御の魔術を唱えたところで、圧倒的なレベル差の前では作用しない。
紙を切るかのように優しく滑らかに、首や胴、体が切り刻まれる。
捕縛され浮遊している五人の前で、成すすべもなく仲間が次々と死んでいった。
「何を……しているんだ……?」
「は? 見てわかんない感じ?」
「分かるわけが……」
ジョンは状況を理解できていなかったわけではない。目の前で少女の姿をした何者かに、抵抗も出来ないまま殺されている部下――という現状を分かっていた。
しかし、頭で分かっていても、心が追いつかない。
今まで聞いてきた、学んできた常識とはかけ離れたことだった。
「あーしらは、だいだいだーいすきな〝魔王様〟にメーレーされて、あんたらを殺すために来たし」
「魔王……? 殺す……?」
「そ! ここで縛ってるやつらは、帰してあげる。自分のお家のエライヒトに、化け物がいたってホーコクするといいし」
「じゃ、じゃあ、あの部下は……」
「だから殺すって言ってるじゃん。何度も言わせんな!」
もとより、命乞いなど意味はない。アリスが命令したのならば、その通りにするだけだ。
ルーシーは幹部の中では比較的、人間に対して優しさなどを持ち合わせている。しかしそれはそれ、これはこれ。
それにそもそも、遺跡から出た際に起きた会話のせいで、ルーシーには帝国軍に対して優しさを見せるつもりなどなかった。
「終わったよー」
「おっけー!」
ベルがあっという間に、その〝処理〟を終える。
死体も全て魔術空間に収納したため、その場に残っているのは血痕や装備品くらいだ。
死体すら残してくれない村娘二人に対して、ジョンは更に絶望を深める。
ルーシーは五人の拘束を解くと、浮遊させていた体を地面へとおろした。特に優しくおろしてやるわけではなく、乱暴に落とした。
普段であればきちんと着地出来る高さであったが、誰もが動揺しているためか、尻餅をついたりと情けない形で地に落ちた。
「じゃ、とっとと帰りな」
「は?」
「あーしらはト・ナモミも潰してくるからさぁ、相手する暇ないんだよね」
「……」
「そんじゃ!」
「隊長さん、ご馳走様でした!」
言いたいことだけ言うと、ベルとルーシーはまるで風のように駆けていった。
突如やってきて虐殺し、数十名近くいた部下はほぼ全滅。残されたのはたった五人。死体の一部を持って帰ることすら許されず、乾いた笑いが溢れた。
「……は、ははは……」
「……戻りましょう、隊長」
「あぁ……」
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