Someday small seeds will bloom‥〜幼き恋〜

櫻井 優

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第1章    王家と公爵家

4ーレオンsideー

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いつもと変わらない風景に少し飽き
勉強も新しいことを覚えると復習ばかりさせられ
つまんないなーって思いながらも自分がこのお城の
後継者である事は幼き頃から自覚はしていた



ふといつものように窓の方へと目線を向けた時




「あ、いつもの子だ‥」



椅子から降り、窓の近くに寄って
自室から少し遠い噴水の方を見た




「どこの家の子かな‥
 いつも何読んでるんだろ」






そう思い、急に部屋をキョロキョロと周りを見た






「今なら1人だし、少し抜け出しても大丈夫かな」




そう言って勢いよく部屋を飛び出して
噴水のある場所まで走って行った
幸にもお城の中は自分の庭と一緒だ
見つからないように気をつけた





噴水から近い通路に出ると目の前のベンチに座り
本を読んでる背中に思わず声をかけてしまった





「ねぇ、君、こんなところで1人なの?」




目の前の女の子はビクッと体を震わせた




(あ、やっちゃった)



ちょっと悪かったかな、と思っていたら
ふわっとした金色と白が混ざったような色をした髪が
動いてこちらを振り向いた





白い肌に薄緑をした瞳、少しふっくらとした唇が
レオンの視界に入ってきた





(‥すごく綺麗な女の子)



レオンは王室に来る色んな人と会ってきた、でも
こんな心臓を掴まれたような感覚になったのは
この女の子が初めてだった




「あ、ごめんね。脅かすつもりはなかったんだ」




ふと我に返り、ちょっと早口気味になってしまった




(なんか僕らしくないな‥)





「え、ううん!大丈夫です!ちょっとだけ
 びっくりしちゃっただけですから」




女の子は多分僕よりも年下だ
でもちゃんと敬語を使うという事は
教養が行き届いてる貴族の子供だという事がわかる



少し歩みを進めて彼女のいるベンチに
近づいた


彼女の手元には少し分厚い本があった




「本読んでたんだね、邪魔しちゃった」


「気にしないでください。何回も読んでる本だから」



普通なら少しでも嫌な顔をするかと思う場面で
彼女は微笑んだ



(優しいんだね‥)




「何の本なの?僕も読んだことあるやつかな」




女の子の隣に急に座るのは失礼だと思ったけど
もう少し話をしたくなって普段は絶対に
初めて会った女の子の隣になんて座らないのに
自然と腰を下ろした





「あ、その本なら読んだよ!
 王子様とお姫様のお話でしょ?」


「知ってるの?」


「知ってるよ!
 優しいお姫様が王子様に見初められて結婚するお話」






前に母の部屋に入った時に見つけた本だった












「母さん、この本だけちょっと古いですね」





部屋の本棚に赤い表紙が少し擦れている本があった




「レオン、それはねずっと昔から読まれてる本で
 心優しいお姫様と王子様の話なのよ」



「そうなんですね、面白いですか?」



よくあるハッピーエンドの話だろうなぁと思った




「それはね、ちょっとだけ悲しいお話だけど
 読んでみたらわかるわよ、レオンに貸してあげる」





そう昔に言われ読んだ。
たしかに普通にあるお姫様と王子様の本ではなかった


でも最後はお互いの大切さを知り幸せに暮らしたと
いう話ではある






(王子様がちょっと変だけど)





彼女と本の話をしてると
隣からクスクスと笑い声がした






(え、笑われた‥?なんで)





彼女を見ると少し楽しそうに笑っていた




「え、なに」


すると彼女はクスクスと笑いながら


「私も同じところで同じこと思ってたから
 ちょっとおかしくて‥」




隣にいる彼女の笑い声は僕にとって
すごく心地よかった。

そう思うのと同時に
僕も一緒に笑っていた




色んな話をしている中、僕は自分の名を
言っていないと気づき、隣にいる彼女の名前も
知りたかった。





「ねぇ‥名前はなんて言うの?僕はレオ」




この時が1番緊張した




「レオ‥?」




小さくそう言った時、どくんっと自分に響いた





「そうレオって呼んで!君はなんて名前?」




彼女は少し戸惑いを見せていた





(やっぱり君は貴族の子だね
そんなすぐには言えないように
ちゃんと教育されてきたんだね)



貴族に生まれた人はすぐに身分をバラさないように
と教育をされている。どんな危険に巻き込まれる
可能性もある、特に女の子は誘拐などの標的にされ
危ない目に遭わされてしまうかもしれないから



やっぱお城にいてもダメかな‥
少し残念に思った時


小さい声で



「マリア‥」



と聞こえた








(マリア‥)



「マリアって言うんだね、とても似合ってる」



そう思わず言ってしまった




彼女以外にこんなぴったりな名前がある人は
いないと思うくらい似合う名前だった



「あ、ありがとう‥嬉しい」



少し照れているように見えたその顔が
すごく可愛かった





「ねぇ、」


「うん‥?」












「僕、君のこと、マリアって呼んでも良いかな?」





マリアの大きな薄緑色残して瞳が見開いた
でもすぐ目を細めて微笑みながら





「うん、いいよ」








嬉しかった。
本来ならちゃんとした場で挨拶をしてからだ


でも君だけは離しちゃいけない気がしたから






そんな事を思っている時
マリアの方の奥にある扉からぞろぞろと人が
出てきたのが見えた



(やば、貴族のお偉い様方と父さんの話し合いが
 終わったんだ、部屋に戻らなきゃ)





「あ、ごめん!僕、部屋に戻らなきゃ!
 部屋から抜け出してきちゃったから
 バレたら怒られる」



ベンチから慌てて立ち上がるレオ




「マリア、またね!!」




本当はまだいたかった。
でもこの国の第一王子である僕が
こんな風に出歩いてるのを見られたら
父さんに怒られてしまう





マリア、またね







この言葉は咄嗟に出た
次会えるかなんて保証はどこにもない
でも貴族の娘なら社交界に出たりもするだろう
また、会えるよ、マリア‥







































「父さん‥今なんて仰いました‥?」



「なんだ、聞いていなかったのか、お前は」



「いえ、聞いてましたけど‥もう一度お願いします」



「ベルナール公爵の長女でお前の2つ下になる
 マリア・ベルナールとの婚約が正式に決まった
 また詳しい日程は公爵との話し合いで決める」






目の前に差し出された一つの姿絵と
耳から聞こえた、マリアと言う名前







昔から許嫁がいるのは知っていた
でもどこの貴族の娘でどんな女性で、どんな名前で
どんな姿をしているかなんて知らなかった





でも目の前にある姿絵は最近描かれたもので
2年前に数十分話をしただけの女の子がいた



金色に白みかかったような髪
薄緑色の大きな目
微笑んでいる顔

あの時よりもずっと綺麗になっていた。






(マリア‥君が僕の婚約者だったんだね)





あの時、神様が巡り合わせてくれたんだ







「レオン!聞いておるのか!」



父さんの声が聞こえてきた



「あ、ごめんなさい。
 あまりにも美しい女性だったので」




これは本音だ




「マリア嬢は貴族の中でも有名なくらい
 美しいと言われているからな。ロイドが‥
 ベルナール公爵があれだけ可愛がるのも
 仕方あるまい、、あいつ社交界や人が
 集まる場所には一切連れてきていないからな
 レオンもお披露目会で初めて会うであろうな」




ロイド・ベルナール公爵はマリアの父で
僕の父である現国王の御学友であり
父がもっとも信頼を得ている方だ





(ごめん、父さん。一度会ってる‥)



心の中で苦笑いするしかなかった
























あっという間に婚約式とお披露目会の日が来た




この時のために新しくあつらえた白をベースに
薄い水色とピンク色のグラデーションがかかる
マリアのドレスに合わせた色味の王家の正装に
腕を通した。



男性は女性ほど装飾を身に付けないが
皇太子という証明のバッヂに王家の紋章
そして蝶の飾りが付いていた




「レオン様、ご婚約おめでとうございます
 いってらっしゃいませ‥」



大きな扉が開き、僕の側近達が後ろでお辞儀をして
祝いの言葉をくれた






「あぁ、ありがとう。いってくるよ」











2年前に見た君と姿絵の君は
同じようで違う姿をしていた



階段を一歩、また一歩と降りながら
反対側のまだ閉まったままの扉に
目を向けながら、本物のマリアに
会いたい気持ちがどんどん高まる






階段を全て降り終え、目の前にある階段上を見上げた
と同時に扉が開いた




僕にはもったいないんじゃないかと思うくらいに
美しく華やかに成長したマリアが階段を降りてくる



ホールにいる誰もがその目に焼き付けておきたく
なるような幼さもまだ少し残る姿に
僕はこの子を守ると誓った。









「レオ‥」



少し離れた反対側にいたマリアが
そう呟いた気がした













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