Someday small seeds will bloom‥〜幼き恋〜

櫻井 優

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第2章     学舎と友

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あれから一回だけと言ったアレンとナイルは
お互いの相手を変え、また踊り
アレンはまた最後にレイチェルと踊っていた

軽食を取りながら談笑をしていたら
会場が暗くなり、真ん中だけ大きな光りが当たる


「何か始まるのかな‥?」

レイチェルもこれだけは知らない様子で

最上級生が再びマイクの前に立ち話し出した


「本日はたくさんお集まり頂きありがとうございます
 今宵の宴ももうすぐ終わろうとしてます
 皆さまのご意見をたくさんお聞きした中で
 選ばれた方に最後の締めのラストダンスを
 こちらの真ん中で踊って頂こうと思います」

ざわざわとした人がいたり
待ってましたと嬉しそうにする人がいたりと
反応はさまざまで


「聞いた事ないぞ、そんなのあるなんて」

アレンが小声で言った

「私も聞いた事ないわ‥」

とレイチェルもアイネも言った


するとライトが2つに分かれ
一つはマリアの隣にいたレオンに注がれた

「え‥?」

とマリアが言った

「まずはこの国の王太子様である
 レオン・D・フィシャール殿下」

そうアナウンスがなる


「レオン、知っていたのか‥?」

レオンは目を見開きながら

「いや‥聞いていない、そんなのがあるなんて」

驚いていた

「続いて、レオン殿下のお相手はこちら」

ライトが反対側の1人の生徒に当たる

「サエルシア公爵家御令嬢
 ローズ・サエルシア様」

向こうも驚いた様子で、でも周りの令嬢は
キャーキャーと騒いでいた


「レオン様‥?」

マリアの名前を呼ぶ声にレオンはマリアの手を強く握る


「レオン、これは‥お前でも断れないぞ」

とナイルが言った

「‥なんで」

レオンが唇を噛み締めた


「レオン様‥」

マリアがそっとレオンの手を離した

「マリア‥?」

マリアはレオンを見上げて

「私は大丈夫ですから‥行ってください」

と笑った


「さぁさぁ御二方前の方へ」

マイクから聞こえる声が2人をうなが


「マリア、僕は君以外とは「レオン様!」」

マリアの聞いた事のない声

「待ってますから‥」

レオンはマリアの力なく言う言葉に
自分の不甲斐なさに腹が立った

ゆっくりと前に歩いていくレオン
それを後ろから眺めることしかできないマリア



「マリア‥」

アレンの手を握るマリア

「‥‥」

主役の2人がお互いに一礼をした後、音楽が流れる


マリアは婚約式の時は仕方ないと思っていたけど
レオンが自分以外の女の人の手を取り
自分以外とダンスをする姿を見るのは苦しかった



「お兄様、ちょっとお手洗いに行ってきますね」

そうアレンの手を離した

「ちょ、マリア!」

「マリア!」

と叫ぶアレンとレイチェル
でも2人の声は聞こえたなかった


レオンはダンスを踊っている中
自分がオーダーメイドをした青いドレスが
ホールから去るのが見えた


「(マリア⁉︎)」


でも途中で離すわけにもいかず、そのまま踊るレオン



ーーーーーーーー


思わずホールからロビーへ出てきてしまったマリアは
少し離れた死角になったソファに腰を掛けた


「はぁ‥この気持ちが嫉妬なのかな‥?
 でも‥選ばれた事だから断れないって言ってたし」

レオン様と踊るローズ様は綺麗だった

赤と黒のグラデーションになった
大人なドレスに身を包んだローズ


「2年も違うとこんなにも私って‥」


と言った時、ホールの方から出てきた令嬢達が
話していたのをマリアは聞いてしまった


「ねぇあの話知ってます?」
「あぁ、レオン様とローズ様の話?」
「そう元々2人は小さい時に許嫁だったって」


「(え‥許嫁‥って)」


マリアは驚きのあまり声が出そうだったのを
両手で押さえた

心臓も早くなった



「ほらベルナール家がなかなか御令嬢ができなくて
 サエルシア家にその話が王家から言われたって
 でもその1年後にアレン様のご兄妹が生まれて
 白紙に戻されてベルナール家との決まりで
 今の婚約者になったってお父様が話されてるのを
 聞いたのよ」

「でもそれが本当ならローズ様が可哀想だわ」

「まぁ赤子の時の話らしいし、親達だけは知ってても
 ローズ様は知らないかも」

「知らない方が幸せよね、私なら今の婚約者を
 恨んでしまいそう」

最後に笑ってお手洗いに入って行く令嬢達





「うそ‥私が‥生まれたから‥」

マリアは衝撃的な話で頭が回らなかった

でもなぜがここから離れなきゃと立ち上がり
ふらふらとお手洗いからはだいぶ離れた
さらに奥のソファまで歩いて行った



ーーーーーーー

どれくらいこの場所にいたかわからない
でも微かに自分の名前を呼ぶ声に気づいた


「レイチェルとアイネ‥?」


顔を上げるとレイチェルとアイネが慌てて
駆け寄ってきた


「「マリア!!」」


心配したのか2人が抱きついてきた


「マリア!1時間以上もどこにいたの⁉︎」

レイチェルが少し怒った様子で言った

「アレン様も王太子様も皆
 マリアを必死で探してるのよ」

「ご、ごめんなさい‥」

マリアは緊張が解けたのか目から
涙が溢れてきた

「マリアどうしたの?」
「マリア泣かないで‥何があったの?」

突然泣き出したマリアに2人は戸惑いながら
ぽつぽつとゆっくりマリアの話をきいた




「そんなの嘘よ!!」

レイチェルはさらに怒っていた

「王太子様がそんな事するわけないじゃない」

「でも私達よりも何年も先に生まれた御令嬢が
 話していたのよ‥?」

「例えば、例えばよ?マリア
 もしその話が本当にあったとしても
 王太子様がマリアに嫌なことしたり
 大切にされなかったことあるの?」

「ない‥」


マリアの中で今までのレオンの顔や行動、動作が
溢れてくる


「ずっとマリアは王太子様の大切な人よ
 じゃないとあんなに必死な顔をして
 マリアを探さないわ‥
 王太子様を信じてあげて、マリア」


「私、レオン様を愛してるの‥レイチェル」

「皆、知ってるわ‥」

レイチェルはマリアを抱きしめた





ーーーーーーー



「マリア!!」

少し離れた場所からレオンの声が聞こえてきた


アイネが3人を呼びに行ったらしい

マリアを見つけてほっとした様な顔をしたレオンは
汗で少し乱れる髪、緩めたネクタイとボタンが
とれたシャツの姿になっていた



マリアの前でしゃがみ込んでマリアの顔を見た

「マリア‥泣いてたの‥?」

ううんと横に振るマリア

「じゃあなんで僕の顔を見てくれないの?」

「皆に迷惑かけてごめんなさい‥」

「マリア、僕は謝ってほしいわけじゃない」

レオンはマリアの顔に触れて少し上げた


「やっぱり泣いていたんだね‥どうして?」

レオンの優しい言葉にマリアはまた涙を流す
それを見たレオンはアレン達に


「すまない、ちょっとだけマリアと2人にしてほしい」

そう言った

アレンとナイルはレイチェル達を連れてその場を去った





ーーーーーーー


「マリア、僕がマリア以外の人と踊ったから
 僕に怒ってる?」

違うと首を振るマリア

「‥じゃあどうして何も言わないの?」

マリアは黙ったまま、ぎゅっと手を握る


「あまり力入れないで、マリアの手が傷ついてしまう」


レオンはマリアの手を優しく解き、自分の手を重ねた


「‥マリア、顔あげて」

レオンは空いた片手でマリアの顔を自分に向けた


「泣いてる君も可愛いけど
 僕はマリアの笑ってる顔が好きだよ」


マリアの目に映るレオンはとても優しかった


「‥‥レオン‥さまぁ‥」

「‥ん」


レオンは握っていた手を離し、マリアの涙を指で拭った


「わたし‥わたしはレオン様が、すきです‥っ」


レオンはマリアの突然の言葉に目を見開いたけど
すぐに目を細めて


「知ってるよ」

と泣いて赤くなったまぶたにキスをした


「初めて会った時から‥レオン様しか好きじゃないの」

「僕もそうだよ」


レオンはマリアを抱きしめた

「君が生まれた時から僕の好きな子はマリアだって
 決まっていたんだよ、だからもう泣かないで」


マリアはその言葉に驚いた
嬉しくてまた涙が出た
そっとレオンを抱きしめ返した




(レオン様‥‥‥)




ーーーーーーー




「レオン、ベルナールの車を手配しておいた」

「わかった。僕はナイルと帰るよ
 マリアのお友達はナイルの車で送ってあげてくれ」

マリアはレオンに抱き抱えられていた

「マリアは‥」

「マリアはちょっと泣き疲れたんだろうね
 寝ちゃったよ」

レオンは自分の腕の中でスヤスヤと眠る
マリアに優しく顔を擦り寄せた

「車まで連れて行く」




車まで行き、マリアを車に乗せる前に

「おやすみ、僕のマリア‥」

と優しく頬に唇を落とした




マリアとアレンを乗せた車を見届けたレオンは
隣にいたナイルに






「ちょっと頼まれてくれないか、ナイル」


そうマリアの前では絶対に出さない低い声で言った





「はい、王太子殿下」




レオンは堅く拳を握り
鋭い目つきで真っ直ぐ前を見ていた



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