星誓のフォーマルハウト ~追放した神官が超優秀だと気付いたけど絶対戻ってこいとは言わない~

noyuki

文字の大きさ
7 / 34
第一章

もう後はないと思ってください(6/7)

しおりを挟む
「〈フォーマルハウト〉はここにいますか」

 〈瑠璃の兜亭〉に入るや否やそう問いかけた人物の姿を見て、店主ことおやっさん……もといルッツは目を丸くした。

「奥のテーブル席にいるが……あいつら何かしたんで……?」
「少々手続きの不備がありまして」

 ルッツに目礼すると、彼女はカツカツと靴を鳴らして店の奥へと向かっていった。

「フォル・シグノ」
「んん?」

 名前を呼ばれて振り向いたフォルは、その姿を見て咥えていた腸詰を思いっきり噴出した。不意打ちの腸詰攻撃を見事に見切って回避したその人物は冷ややかな視線をフォルに向ける。

「今のはギルドへの反抗意思とみなせばよろしいですか?」
「いやいやいや! すいません許してくださいなんでもしますから!」

 丁寧に結い上げられた髪、ピンと張った背筋にシワの一切ない整った衣服。腕には羊皮紙の束を抱え、腰のポーチにはインク壺と羽ペンが入っているのをメイシスの冒険者であれば誰もが知っている。

 その姿を目にすると、フォルだけでなくミアも動揺して手にしていた葉野菜の漬物を取りこぼした。

「イルゼさん!? フォル! アンタ何やったのよ!」
「何もしてねぇって!」
「その何もしていないのが問題なのです」

 イルゼと呼ばれた妙齢の女性は羊皮紙の束から一枚を抜き出すとフォルに突き付けた。

「先ほどなんでもすると言いましたね? ではこの書類に必要事項を記入の上提出をお願いします。今、ここでです」
「これは……?」
「パーティーメンバー変更の申請書類です。メンバーの増減があった際には必ず提出するようにと、パーティーの登録手続きの際に教えたはずですが」
「あ……」
「あんたねぇ……」
「わざわざご足労いただき申し訳ない」

 イルゼへの謝罪はフォルの代わりにシャラが。

「他国へいけばただのゴロツキと思われかねない貴方方冒険者が、人々の羨望を集め一職業として成り立っているのはギルドの厳格な管理と手厚い援助があるからだということをお忘れなきよう」

 冒険者ギルド。メイシス王国で冒険者稼業をするならギルドに登録することを避けては通れない。

 ギルドの発行する身分証は文字通り冒険者の身分を証明し円滑な依頼受注システムを構築すると共に、冒険者パーティーに格、つまり星によるランクを設けることで分不相応な依頼受注を防ぎ高い依頼達成率を確保する。また、ギルドによる依頼内容の精査、パーティーの格付けは適性な報酬金額の設定や安全性など冒険者自身を守ることにも繋がる。

 イルゼの言う通り、ギルドの存在しない他国では冒険者の扱いなどただのゴロツキ同然だ。身分も実力もはっきりしない者に好き好んで仕事を依頼する者もいない。ギルドあっての冒険者なのだ。

 そしてこのイルゼは冒険者ギルドのギルドマスター補佐。どんなに強面の巨漢だろうとも、メイシスで冒険者として生きていきたいなら絶対に彼女には逆らえない。

 イルゼはテーブルに並んだ料理やエールをぐいっっと脇に避けて空間を作ると代わりにポーチから取り出したインク壺と羽ペンを並べる。

「食べてからじゃダメ……?」
「あいにく忙しい身ですので。それに今すぐに書いていただいて受け取っておかないと貴方はいつまでも提出しなさそうな気がするので」

 有無を言わせぬ様子に仕方なくフォルはフォークの代わりに羽ペンを手に取った。

「それと、書きながら聞いていただければよいのですが」

 ふと思い出したようにイルゼは言う。

「貴方方〈フォーマルハウト〉は直近の依頼を失敗していますね。しかも、五ツ星にしては低難度かつ本来非推奨である再受注をしてもなお失敗している」

 イルゼがぺラリと手元の羊皮紙を捲った。そこには数数多の冒険者パーティーの詳細な情報が記載されている。

「五ツ星として、これは由々しき事態です。五ツ星はギルドが定める最高ランクの評価です。こと依頼の範疇に収まるものであるならばその全てを解決し、名指しで依頼がくることも多くある。彼らにこなせぬ依頼はないと、彼らで無理ならば他のいかなる冒険者であっても無理だというギルドのお墨付きが五ツ星なのです。もちろん人である以上、判断ミスや体調不良などで依頼を遂行できないことはあるでしょう。ですが二度同じ依頼を失敗するというのは五ツ星に相応しくないと判断されてもやむを得ない結果です」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 慌ててミアが待ったをかける。

「二回目の時は魔族の妨害があって……ちゃんと報告もしましたよね?」
「もちろん把握しております。その報告を疑ってもおりません。貴方方が嘘を吐くような人柄でないことは把握しておりますので。ですが……」

 イルゼは〈フォーマルハウト〉の面々一人一人を見やった後、

「狼牙族一体の乱入なら、十分対処した上で依頼遂行が可能なはずです。五ツ星であるならば」

 反論できずに、一同が押し黙る。その沈黙にイルゼは溜息を一つ。

「……ですが、すぐに降格というわけではありません。貴方方には輝かしい経歴が多くありますし、ギルドとしても、他の五ツ星パーティーが嫌がった依頼を積極的に引き受けてくれる貴方方には感謝しています」

 それは〈フォーマルハウト〉のリーダーであるフォルの性格とその得物の特性による部分が大きい。

 フォルは〈フォーマハウト〉名指しできた依頼を断らない。例え報酬に比して難易度が高くても、だ。もちろん限度はあるが、頼られれば可能な限り力になるのが彼のモットーである。

 また、フォルの持つ星剣ファム・アル・フートはしぶとい魔獣の駆除に絶大な効果を発揮する。他の冒険者が手を焼く魔獣であってもファム・アル・フートの使い手であるフォルならば何の問題にもならないという事態が往々にして存在するのだ。

「また、信じがたいことですが現状世間の評価としては貴方方です。〈フォーマルハウト〉を目標として冒険者を志す者は多い。ギルドとしてもそんな大看板を降格させたくはありません」
「そんな褒められると照れちゃうなぁ……」
「手が止まっていますよ」
「はい」

 フォルが書き終えた書類に目を通し、不備がないかを確認したイルゼは一つ頷く。

「――もう後はないと思ってください。次の依頼、もしそれが不甲斐ない結果に終われば、ギルドとしては〈フォーマルハウト〉を四ツ星に降格させなくてはなりません。いいですね?」

 〈フォーマルハウト〉の面々が神妙に頷いたのを確認したイルゼは、テキパキと書類と筆記用具を回収してその場を後にした。
 彼女はいつも忙しなく働いている。いつ休暇をとっているのか分からないほどに。彼女の尽力があればこその冒険者稼業だ。冒険者たちはイルゼに頭が上がらない。

「……どうしたもんかね」

 再びフォークを手に取ったフォルは皿の上の腸詰にそれを突き立てると皿ごと手元に引き寄せる。

「どうもこうも……イルゼさんを納得させるような結果を出すしかないんじゃない?」

 ポイッとミアは口の中に漬物を放り込む。

「お前それほんと好きな」
「あんただっていつもその腸詰食べてるじゃない」

 二人の食べ物の好みはともかく。

「実際どうするのだ。エリクのいない状態で、今までと同じ難度の依頼をこなすのは正直難しいぞ」

 〈フォーマルハウト〉の三人が腕を組んでうぅむと唸った。

「〈フォーマルハウト〉の皆さん!!」

 そんな悩む一同にかけられる声があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...