星誓のフォーマルハウト ~追放した神官が超優秀だと気付いたけど絶対戻ってこいとは言わない~

noyuki

文字の大きさ
10 / 34
第二章

よ、よろしくお願いします!(2/5)

しおりを挟む
「ということでこちら、〈フォーマルハウト〉新メンバーのナナカちゃんです!」
「ナナカ・マインです!よ、よろしくお願いします!」

 〈瑠璃の兜亭〉に入るや否や、フォルがルッツに新メンバーを紹介した。

 橙色だいだいいろの髪を頭の両端で結んだ女性がペコリと頭を下げる。歳の頃はフォルたちと同じほど。歳にしては幼く見える顔立ちが緊張しているのか少し強張っている。

 そして彼女が頭を下げた拍子に、揺れる。

「……おいフォル」

 指をくいくいと動かしてルッツはフォルを側に呼んだ。寄ってきたフォルの首に腕を回して耳元で囁く。

「オメー、の大きさでメンバー決めたんじゃねぇだろうな」
「ハハ、そんな、まさか。全員で話し合った結果デスヨ」

 なぜか片言のフォルだが、ちゃんとミアとシャラとも話し合った結果である。

「あのぅ、何か?」
「いやいや、そうかそうか。あんたが〈フォーマルハウト〉の新メンバーか。こんな馬鹿共だが、うちの看板だ。よろしく面倒見てやってくれよ」
「そんな、面倒を見てもらうのは寧ろ私の方です」

 そう言うナナカは神官であった。その身に纏う白いローブがその証拠である。

 しかしそのローブ以上に目を引くのが、ゆったりとした衣装を押し上げてその存在を主張する、たわわに実った果実。ありていに言ってしまえば大きな胸だった。
 ナナカの隣に佇むミアは、何事かとこちらの様子を窺う同業者たちの視線がナナカの一部分に集まるのを感じ取ると、一度自分の胸に視線を落とし、スンッと表情を消した。はっきり言って勝負にならない。

「これから精いっぱい頑張らせていただきますので、どうかよろしくお願いします!」

 もう慣れて気にならなくなっているのか、男共の視線を感じていないかのようにナナカが胸の前で両手を握って気合いを入れる。

「あまり気負い過ぎないでくれ。某らも早くナナカが馴染めるように努力しよう」

 シャラが優しく声をかけるが、まだナナカの緊張がほぐれた様子はない。当然だ。なにせ数多くいる冒険者の頂点に立つ五ツ星のパーティーに加わったのである。新メンバーの募集要項をクリアしているということはナナカはそれなりに経験のある冒険者のはずだが、気負うなという方が無理な話だろう。

「ま、そんなわけでさ。おやっさん。なんかいい依頼ある?」

 ちょっと待つようにフォルに言い、カウンターの下から依頼書の束を引っ張り出したルッツはしばらく羊皮紙を眺める。やがて一枚の目に留まった依頼書をフォルに差し出した。

「これなんかどうだ?」 
「ふむ……いいね」

 そしてフォルは女性陣に向き直る。

「――というわけで次に〈フォーマルハウト〉が受ける依頼が決まりました!」

 びしりとフォルが突き出した依頼書をまずミアが受け取り、順に回していく。

「なになに……未踏破の古代遺跡の探索、ね」
「未踏破の古代遺跡……しかもかなり大規模なものですね……」

 ごくり、とナナカは唾を飲んだ。依頼書を持つ手にも力が籠る。

「こんなにあっさり決めてしまっていいのか?もっと熟考してもいいと思うが……」

 次の依頼は、五ツ星を維持するためには失敗は許されない。だからこそ慎重になるべきだと言うシャラの意見はもっともだ。

「遺跡の探索なら運がよければ楽に終わるかもしれねぇだろ?それに、これ以上依頼を受けないのはイルゼさんになんか言われそうだろ……」

 面接には数日を要した。その間、冒険者ギルド的にはフォルたちは何もしていないことになる。
 次の依頼の結果如何では、と警告をされて次の依頼をなかなか受けないのはそれはそれで悪印象になりかねない。

「どうしたナナカ。緊張してんのか?」
「そりゃしますよぉ! 未踏破の古代遺跡ですよ! 三ツ星だった時には考えられないような高難度の依頼ですよ……」

 このメイシス王国には古い時代の建築物が多く遺されている。地表に露出しているものはそのほとんどが倒壊しているが、岩山をくりぬいて作られたものや地下に作られたものはまだ形を残したまま現存している。途方もない時間をかけて建設されたであろうそれらの中には地下深く広がり迷宮と化しているものも少なくない。
 そしてそれらを探索することは冒険者の本業と言っても過言ではない仕事である。それらの遺跡に眠る古代の調度品や装飾品、あるいは〈星辰物〉を求めて冒険者はそこに脚を踏み入れるのだ。フォルのファム・アル・フートもそうやって手に入れたものなのである。

 しかし古代遺跡の探索と一口に言っても状況によってその難易度は大きく変わる。古代遺跡は言ってしまえば巨大な穴倉だ。つまり身体の大きな魔獣にとって絶好の寝床となる。場合によっては遺跡内で一つの生態系が形作られていることもあるぐらいだ。未踏破の古代遺跡を探索するということは何が潜んでいるのかまったく分からない状態で、落盤などの地形情報も探りつつ探索するということである。

 以上を踏まえて未踏破の古代遺跡の探索は四ツ星ないし五ツ星のパーティーが先行して探索、魔獣の脅威を取り除きつつ大まかな地図を作製。その後、その情報を頼りに三ツ星や二ツ星のパーティーが細部まで探索するというのが通例になってる。

 これを成功させればイルゼも文句はあるまい。そしてナナカにとっては初の三ツ星相当以上の依頼となるわけだ。

「そう緊張すんなって。なんもいねぇかもしれないし」
「そういうこと言ってるととんでもないの出て来たりして」

 茶化したミアだったが、ナナカはあはは……と苦笑いするしかない。

 遺跡内で古代の調度品類などと並んで冒険者の懐を潤すものが見つかることがある。以前にその遺跡に探索に入った『前任者』の遺品である。トラブル防止のために冒険者ギルドが定めた取り決めで、遺跡内で発見された〈星辰物〉以外のあらゆる物については発見者がその所有権を持つが、帰ってこなかった冒険者の遺品が古市で売られているなんてことはよくあることだ。

 なお〈星辰物〉のみギルドに報告義務があり、ギルドに取得報告をせずに〈星辰物〉を所有することは罪となる。〈星辰物〉の性能如何によっては取り上げられることもあるが、その場合は大金と引き換えとなるので損ではない。

「どんなの出てこようが、俺たちにかかりゃ問題ないない! だって今まで苦戦したことないし!」
「この間人猟犬に負けたところだがな」
「……ま、なんとかなるさ! 新戦力、ナナカの信仰術があれば俺たちは負けねぇ! いやまぁ、飛んでるのは無理だけど? その点、天井のある遺跡の中ならその心配もないしな!」

 楽観が過ぎるかもしれないが、あながち間違いでもあるまい。こと白兵戦においてならフォル、ミア、シャラの三人の実力は確かなものだ。以前までなら欠けていた連携も日々の訓練でだいぶ培われてきた。三人だけの戦闘力ならば以前よりも上である。

 あとはナナカがそれをさらに上へと上げることができるか、だ。

「出発は明日だ! 今から消耗品とかの買い出しに行くぞ!」
「無駄遣いしちゃ駄目よ! すーぐ余計なもの買おうとするんだもん」
「某は訓練に行きたいのだが……明日に備えて筋肉を仕上げておきたい」
「緊張してるの私だけですかぁ……? でも、皆さんを見てたら私も落ち着いてきたかも」

 気楽な様子の三人を見て緊張を解すナナカ。

 彼女を加えた四人で、新生〈フォーマルハウト〉の進退を決める依頼が明日始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...