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第二章
よ、よろしくお願いします!(2/5)
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「ということでこちら、〈フォーマルハウト〉新メンバーのナナカちゃんです!」
「ナナカ・マインです!よ、よろしくお願いします!」
〈瑠璃の兜亭〉に入るや否や、フォルがルッツに新メンバーを紹介した。
橙色の髪を頭の両端で結んだ女性がペコリと頭を下げる。歳の頃はフォルたちと同じほど。歳にしては幼く見える顔立ちが緊張しているのか少し強張っている。
そして彼女が頭を下げた拍子に、揺れる。
「……おいフォル」
指をくいくいと動かしてルッツはフォルを側に呼んだ。寄ってきたフォルの首に腕を回して耳元で囁く。
「オメー、アレの大きさでメンバー決めたんじゃねぇだろうな」
「ハハ、そんな、まさか。全員で話し合った結果デスヨ」
なぜか片言のフォルだが、ちゃんとミアとシャラとも話し合った結果である。
「あのぅ、何か?」
「いやいや、そうかそうか。あんたが〈フォーマルハウト〉の新メンバーか。こんな馬鹿共だが、うちの看板だ。よろしく面倒見てやってくれよ」
「そんな、面倒を見てもらうのは寧ろ私の方です」
そう言うナナカは神官であった。その身に纏う白いローブがその証拠である。
しかしそのローブ以上に目を引くのが、ゆったりとした衣装を押し上げてその存在を主張する、たわわに実った果実。ありていに言ってしまえば大きな胸だった。
ナナカの隣に佇むミアは、何事かとこちらの様子を窺う同業者たちの視線がナナカの一部分に集まるのを感じ取ると、一度自分の胸に視線を落とし、スンッと表情を消した。はっきり言って勝負にならない。
「これから精いっぱい頑張らせていただきますので、どうかよろしくお願いします!」
もう慣れて気にならなくなっているのか、男共の視線を感じていないかのようにナナカが胸の前で両手を握って気合いを入れる。
「あまり気負い過ぎないでくれ。某らも早くナナカが馴染めるように努力しよう」
シャラが優しく声をかけるが、まだナナカの緊張がほぐれた様子はない。当然だ。なにせ数多くいる冒険者の頂点に立つ五ツ星のパーティーに加わったのである。新メンバーの募集要項をクリアしているということはナナカはそれなりに経験のある冒険者のはずだが、気負うなという方が無理な話だろう。
「ま、そんなわけでさ。おやっさん。なんかいい依頼ある?」
ちょっと待つようにフォルに言い、カウンターの下から依頼書の束を引っ張り出したルッツはしばらく羊皮紙を眺める。やがて一枚の目に留まった依頼書をフォルに差し出した。
「これなんかどうだ?」
「ふむ……いいね」
そしてフォルは女性陣に向き直る。
「――というわけで次に〈フォーマルハウト〉が受ける依頼が決まりました!」
びしりとフォルが突き出した依頼書をまずミアが受け取り、順に回していく。
「なになに……未踏破の古代遺跡の探索、ね」
「未踏破の古代遺跡……しかもかなり大規模なものですね……」
ごくり、とナナカは唾を飲んだ。依頼書を持つ手にも力が籠る。
「こんなにあっさり決めてしまっていいのか?もっと熟考してもいいと思うが……」
次の依頼は、五ツ星を維持するためには失敗は許されない。だからこそ慎重になるべきだと言うシャラの意見はもっともだ。
「遺跡の探索なら運がよければ楽に終わるかもしれねぇだろ?それに、これ以上依頼を受けないのはイルゼさんになんか言われそうだろ……」
面接には数日を要した。その間、冒険者ギルド的にはフォルたちは何もしていないことになる。
次の依頼の結果如何では、と警告をされて次の依頼をなかなか受けないのはそれはそれで悪印象になりかねない。
「どうしたナナカ。緊張してんのか?」
「そりゃしますよぉ! 未踏破の古代遺跡ですよ! 三ツ星だった時には考えられないような高難度の依頼ですよ……」
このメイシス王国には古い時代の建築物が多く遺されている。地表に露出しているものはそのほとんどが倒壊しているが、岩山をくりぬいて作られたものや地下に作られたものはまだ形を残したまま現存している。途方もない時間をかけて建設されたであろうそれらの中には地下深く広がり迷宮と化しているものも少なくない。
そしてそれらを探索することは冒険者の本業と言っても過言ではない仕事である。それらの遺跡に眠る古代の調度品や装飾品、あるいは〈星辰物〉を求めて冒険者はそこに脚を踏み入れるのだ。フォルのファム・アル・フートもそうやって手に入れたものなのである。
しかし古代遺跡の探索と一口に言っても状況によってその難易度は大きく変わる。古代遺跡は言ってしまえば巨大な穴倉だ。つまり身体の大きな魔獣にとって絶好の寝床となる。場合によっては遺跡内で一つの生態系が形作られていることもあるぐらいだ。未踏破の古代遺跡を探索するということは何が潜んでいるのかまったく分からない状態で、落盤などの地形情報も探りつつ探索するということである。
以上を踏まえて未踏破の古代遺跡の探索は四ツ星ないし五ツ星のパーティーが先行して探索、魔獣の脅威を取り除きつつ大まかな地図を作製。その後、その情報を頼りに三ツ星や二ツ星のパーティーが細部まで探索するというのが通例になってる。
これを成功させればイルゼも文句はあるまい。そしてナナカにとっては初の三ツ星相当以上の依頼となるわけだ。
「そう緊張すんなって。なんもいねぇかもしれないし」
「そういうこと言ってるととんでもないの出て来たりして」
茶化したミアだったが、ナナカはあはは……と苦笑いするしかない。
遺跡内で古代の調度品類などと並んで冒険者の懐を潤すものが見つかることがある。以前にその遺跡に探索に入った『前任者』の遺品である。トラブル防止のために冒険者ギルドが定めた取り決めで、遺跡内で発見された〈星辰物〉以外のあらゆる物については発見者がその所有権を持つが、帰ってこなかった冒険者の遺品が古市で売られているなんてことはよくあることだ。
なお〈星辰物〉のみギルドに報告義務があり、ギルドに取得報告をせずに〈星辰物〉を所有することは罪となる。〈星辰物〉の性能如何によっては取り上げられることもあるが、その場合は大金と引き換えとなるので損ではない。
「どんなの出てこようが、俺たちにかかりゃ問題ないない! だって今まで苦戦したことないし!」
「この間人猟犬に負けたところだがな」
「……ま、なんとかなるさ! 新戦力、ナナカの信仰術があれば俺たちは負けねぇ! いやまぁ、飛んでるのは無理だけど? その点、天井のある遺跡の中ならその心配もないしな!」
楽観が過ぎるかもしれないが、あながち間違いでもあるまい。こと白兵戦においてならフォル、ミア、シャラの三人の実力は確かなものだ。以前までなら欠けていた連携も日々の訓練でだいぶ培われてきた。三人だけの戦闘力ならば以前よりも上である。
あとはナナカがそれをさらに上へと上げることができるか、だ。
「出発は明日だ! 今から消耗品とかの買い出しに行くぞ!」
「無駄遣いしちゃ駄目よ! すーぐ余計なもの買おうとするんだもん」
「某は訓練に行きたいのだが……明日に備えて筋肉を仕上げておきたい」
「緊張してるの私だけですかぁ……? でも、皆さんを見てたら私も落ち着いてきたかも」
気楽な様子の三人を見て緊張を解すナナカ。
彼女を加えた四人で、新生〈フォーマルハウト〉の進退を決める依頼が明日始まる。
「ナナカ・マインです!よ、よろしくお願いします!」
〈瑠璃の兜亭〉に入るや否や、フォルがルッツに新メンバーを紹介した。
橙色の髪を頭の両端で結んだ女性がペコリと頭を下げる。歳の頃はフォルたちと同じほど。歳にしては幼く見える顔立ちが緊張しているのか少し強張っている。
そして彼女が頭を下げた拍子に、揺れる。
「……おいフォル」
指をくいくいと動かしてルッツはフォルを側に呼んだ。寄ってきたフォルの首に腕を回して耳元で囁く。
「オメー、アレの大きさでメンバー決めたんじゃねぇだろうな」
「ハハ、そんな、まさか。全員で話し合った結果デスヨ」
なぜか片言のフォルだが、ちゃんとミアとシャラとも話し合った結果である。
「あのぅ、何か?」
「いやいや、そうかそうか。あんたが〈フォーマルハウト〉の新メンバーか。こんな馬鹿共だが、うちの看板だ。よろしく面倒見てやってくれよ」
「そんな、面倒を見てもらうのは寧ろ私の方です」
そう言うナナカは神官であった。その身に纏う白いローブがその証拠である。
しかしそのローブ以上に目を引くのが、ゆったりとした衣装を押し上げてその存在を主張する、たわわに実った果実。ありていに言ってしまえば大きな胸だった。
ナナカの隣に佇むミアは、何事かとこちらの様子を窺う同業者たちの視線がナナカの一部分に集まるのを感じ取ると、一度自分の胸に視線を落とし、スンッと表情を消した。はっきり言って勝負にならない。
「これから精いっぱい頑張らせていただきますので、どうかよろしくお願いします!」
もう慣れて気にならなくなっているのか、男共の視線を感じていないかのようにナナカが胸の前で両手を握って気合いを入れる。
「あまり気負い過ぎないでくれ。某らも早くナナカが馴染めるように努力しよう」
シャラが優しく声をかけるが、まだナナカの緊張がほぐれた様子はない。当然だ。なにせ数多くいる冒険者の頂点に立つ五ツ星のパーティーに加わったのである。新メンバーの募集要項をクリアしているということはナナカはそれなりに経験のある冒険者のはずだが、気負うなという方が無理な話だろう。
「ま、そんなわけでさ。おやっさん。なんかいい依頼ある?」
ちょっと待つようにフォルに言い、カウンターの下から依頼書の束を引っ張り出したルッツはしばらく羊皮紙を眺める。やがて一枚の目に留まった依頼書をフォルに差し出した。
「これなんかどうだ?」
「ふむ……いいね」
そしてフォルは女性陣に向き直る。
「――というわけで次に〈フォーマルハウト〉が受ける依頼が決まりました!」
びしりとフォルが突き出した依頼書をまずミアが受け取り、順に回していく。
「なになに……未踏破の古代遺跡の探索、ね」
「未踏破の古代遺跡……しかもかなり大規模なものですね……」
ごくり、とナナカは唾を飲んだ。依頼書を持つ手にも力が籠る。
「こんなにあっさり決めてしまっていいのか?もっと熟考してもいいと思うが……」
次の依頼は、五ツ星を維持するためには失敗は許されない。だからこそ慎重になるべきだと言うシャラの意見はもっともだ。
「遺跡の探索なら運がよければ楽に終わるかもしれねぇだろ?それに、これ以上依頼を受けないのはイルゼさんになんか言われそうだろ……」
面接には数日を要した。その間、冒険者ギルド的にはフォルたちは何もしていないことになる。
次の依頼の結果如何では、と警告をされて次の依頼をなかなか受けないのはそれはそれで悪印象になりかねない。
「どうしたナナカ。緊張してんのか?」
「そりゃしますよぉ! 未踏破の古代遺跡ですよ! 三ツ星だった時には考えられないような高難度の依頼ですよ……」
このメイシス王国には古い時代の建築物が多く遺されている。地表に露出しているものはそのほとんどが倒壊しているが、岩山をくりぬいて作られたものや地下に作られたものはまだ形を残したまま現存している。途方もない時間をかけて建設されたであろうそれらの中には地下深く広がり迷宮と化しているものも少なくない。
そしてそれらを探索することは冒険者の本業と言っても過言ではない仕事である。それらの遺跡に眠る古代の調度品や装飾品、あるいは〈星辰物〉を求めて冒険者はそこに脚を踏み入れるのだ。フォルのファム・アル・フートもそうやって手に入れたものなのである。
しかし古代遺跡の探索と一口に言っても状況によってその難易度は大きく変わる。古代遺跡は言ってしまえば巨大な穴倉だ。つまり身体の大きな魔獣にとって絶好の寝床となる。場合によっては遺跡内で一つの生態系が形作られていることもあるぐらいだ。未踏破の古代遺跡を探索するということは何が潜んでいるのかまったく分からない状態で、落盤などの地形情報も探りつつ探索するということである。
以上を踏まえて未踏破の古代遺跡の探索は四ツ星ないし五ツ星のパーティーが先行して探索、魔獣の脅威を取り除きつつ大まかな地図を作製。その後、その情報を頼りに三ツ星や二ツ星のパーティーが細部まで探索するというのが通例になってる。
これを成功させればイルゼも文句はあるまい。そしてナナカにとっては初の三ツ星相当以上の依頼となるわけだ。
「そう緊張すんなって。なんもいねぇかもしれないし」
「そういうこと言ってるととんでもないの出て来たりして」
茶化したミアだったが、ナナカはあはは……と苦笑いするしかない。
遺跡内で古代の調度品類などと並んで冒険者の懐を潤すものが見つかることがある。以前にその遺跡に探索に入った『前任者』の遺品である。トラブル防止のために冒険者ギルドが定めた取り決めで、遺跡内で発見された〈星辰物〉以外のあらゆる物については発見者がその所有権を持つが、帰ってこなかった冒険者の遺品が古市で売られているなんてことはよくあることだ。
なお〈星辰物〉のみギルドに報告義務があり、ギルドに取得報告をせずに〈星辰物〉を所有することは罪となる。〈星辰物〉の性能如何によっては取り上げられることもあるが、その場合は大金と引き換えとなるので損ではない。
「どんなの出てこようが、俺たちにかかりゃ問題ないない! だって今まで苦戦したことないし!」
「この間人猟犬に負けたところだがな」
「……ま、なんとかなるさ! 新戦力、ナナカの信仰術があれば俺たちは負けねぇ! いやまぁ、飛んでるのは無理だけど? その点、天井のある遺跡の中ならその心配もないしな!」
楽観が過ぎるかもしれないが、あながち間違いでもあるまい。こと白兵戦においてならフォル、ミア、シャラの三人の実力は確かなものだ。以前までなら欠けていた連携も日々の訓練でだいぶ培われてきた。三人だけの戦闘力ならば以前よりも上である。
あとはナナカがそれをさらに上へと上げることができるか、だ。
「出発は明日だ! 今から消耗品とかの買い出しに行くぞ!」
「無駄遣いしちゃ駄目よ! すーぐ余計なもの買おうとするんだもん」
「某は訓練に行きたいのだが……明日に備えて筋肉を仕上げておきたい」
「緊張してるの私だけですかぁ……? でも、皆さんを見てたら私も落ち着いてきたかも」
気楽な様子の三人を見て緊張を解すナナカ。
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