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第五章
ばーか(7/9)
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「舐めるなよ……フォル!!」
片手で払われた錫杖がフォルを弾き飛ばす。常人の膂力ではない。見ればエリクの身体が淡い光を放っていた。
「自分に〈光輝〉をかけることもできんのかよ……!!」
自身を強化できるというのもさることながら、エリクは現在も多くの魔族、魔獣に〈光輝陣〉をかけているはずだ。そのうえでさらに〈光輝〉など……。
「お前、ほんとにバケモンだな。そっち側がお似合いだよ」
「そうさ。もう僕はそっち側には戻れない。もう僕の頭上には……『星』は輝いていないんだ!」
今度はエリクの方から攻める。技術も何もないただ錫杖を振り回すだけの連撃だったが、通常の何倍にも強化された身体能力がその一発一発を達人の一撃へと昇華させる。強化された身体能力に頭がついていかないということもなかった。いつかこういう日がくると漠然と理解していたのかもしれない。エリクも鍛錬を積んでいたのだ。
フォルはなんとかその攻撃を回避し、時には受け止めるが攻撃に転じる隙がない。一撃を受け止める度に星剣を通じて持つ手が痺れた。速いうえに重い。〈光輝〉の出力が段違いだ。しかも練命行と違い、その強化は一時的なものではなく恒常的であり、肉体変化を伴わないため負担もない。
何度目か攻防の末、鍔競り合いになる。素の身体能力では負けていないはずのフォルが徐々に押されていく。
〝ナナカの〈光輝〉が回ってこねぇ……!?〟
フォルの焦りに気付いたエリクがチラリと視線をフォルの背後に送った。
「僕の相手をしていていいのか? 後ろで神官とシャラが押されてるぞ」
「くッ!!」
フォルは一対一に持ち込めればエリクを仕留められると思ったから突撃した。だが、そのアテが外れた。となれば、シャラはナナカを護りながら二体の魔族を相手にすることになる。フォルに〈光輝〉を回す余裕などあろうはずがない。断続的に響いている甲高い金属音はミアが戦っている音だろう。こちらもすぐに決着はつきそうにない。
ジリジリとフォルが押し込められて体勢を崩されていく。
「僕たちは……僕は……! お前を殺して自分の居場所を手に入れるッ! 僕を必要だと言ってくれる彼らのためにも!!」
「そんなてめぇ勝手な都合で、何人も人間を殺させてたまるかよ!!」
「手を出してこなければもう殺さない! 放っておいてくれ!」
「そういうわけにいくかよ!」
戦況は徐々にだが魔族側の優勢となりつつあった。強化された魔族、魔獣が数の不利を覆し人間の兵士たちを押している。
「だったら! どうしろっていうんだ! どうすればこいつらはここで生きられるんだッ!!」
「知るかよ! 少なくともお前らが最初にここに来た冒険者を殺した時、もう争うしか道はなくなったんだよッ!!」
あの時、もしエリクが先頭に立ち〈ポラリス〉を説得していれば。もし〈ポラリス〉が魔族たちの存在を口外しないと約束してくれれば。もし彼らがエリクの思想に共感してくれたのなら。共感はさらなる共感を呼び、いずれは大きな波となったかもしれない。その波が世界を変えたかもしれない。魔族と親し気に暮す神官の存在が、人々の価値観に揺らぎを与えたかもしれない。
ほんの小さな可能性。されど確かにあった可能性。それを捨て去って殺し殺される選択をしたのはエリク自身だ。
「だったら、戦って勝ちとるだけだ!!」
エリクがさらに力を込めた。抑え込まれたフォルの脚が大地を抉って後退する。
このままでは数の不利を覆し、魔族側が勝利するだろう。エリクを倒さない限り、もう人間側が勝利するのは難しい。
だというのに、フォルは笑った。なぜなら彼は信じていたから。自分のかけた保険は必ず間に合うと。
「そうやって自分の思い通りにいかないことを相手の考えを無視して通そうとする。自分が絶対に正しい、他は間違っていると譲らない。相手のことをよく知ろうともしない。そんなだからお前をクビにしたんだ。いいか。お前が大嫌いでどれだけ誘ってもこなかった酒の席で俺が得たもの、お前に見せてやるよ」
そして、空が半透明の紫紺の半球に包まれた。
「な、なんだってんだこいつぁ!?」
半球に包まれたのはエリクたちを中心とした一画。まるで彼らだけを戦場から隔離するように突如として現れたドーム状の壁に、空からナナカの背を狙っていたトルスムは阻まれた。
「この! くそっ! エリクの旦那ァッ!」
槍や脚で何度も壁を突いたり蹴ったりするがドームはビクともしない。そしてドームの外、響いてきた爆音と人間の歓声にトルスムは驚愕した。
「人間共の増援……!!」
それもただの兵士の増援ではない。統一された装備ではない多用な武器を持つ者たちに加えて星術師に神官の姿もある。
このバラバラな装備、性別でありながらも四人ほどを一単位として国の兵士以上にとれた統率、連携。対魔族、魔獣に特化した動き。魔族ですら彼らが何者なのか知っている。今まで幾度なく戦い、殺し殺されを繰り返してきた因縁の者たち。
「冒険者共……!!」
隻眼の魔族は憎々し気にその名を呟いた。
片手で払われた錫杖がフォルを弾き飛ばす。常人の膂力ではない。見ればエリクの身体が淡い光を放っていた。
「自分に〈光輝〉をかけることもできんのかよ……!!」
自身を強化できるというのもさることながら、エリクは現在も多くの魔族、魔獣に〈光輝陣〉をかけているはずだ。そのうえでさらに〈光輝〉など……。
「お前、ほんとにバケモンだな。そっち側がお似合いだよ」
「そうさ。もう僕はそっち側には戻れない。もう僕の頭上には……『星』は輝いていないんだ!」
今度はエリクの方から攻める。技術も何もないただ錫杖を振り回すだけの連撃だったが、通常の何倍にも強化された身体能力がその一発一発を達人の一撃へと昇華させる。強化された身体能力に頭がついていかないということもなかった。いつかこういう日がくると漠然と理解していたのかもしれない。エリクも鍛錬を積んでいたのだ。
フォルはなんとかその攻撃を回避し、時には受け止めるが攻撃に転じる隙がない。一撃を受け止める度に星剣を通じて持つ手が痺れた。速いうえに重い。〈光輝〉の出力が段違いだ。しかも練命行と違い、その強化は一時的なものではなく恒常的であり、肉体変化を伴わないため負担もない。
何度目か攻防の末、鍔競り合いになる。素の身体能力では負けていないはずのフォルが徐々に押されていく。
〝ナナカの〈光輝〉が回ってこねぇ……!?〟
フォルの焦りに気付いたエリクがチラリと視線をフォルの背後に送った。
「僕の相手をしていていいのか? 後ろで神官とシャラが押されてるぞ」
「くッ!!」
フォルは一対一に持ち込めればエリクを仕留められると思ったから突撃した。だが、そのアテが外れた。となれば、シャラはナナカを護りながら二体の魔族を相手にすることになる。フォルに〈光輝〉を回す余裕などあろうはずがない。断続的に響いている甲高い金属音はミアが戦っている音だろう。こちらもすぐに決着はつきそうにない。
ジリジリとフォルが押し込められて体勢を崩されていく。
「僕たちは……僕は……! お前を殺して自分の居場所を手に入れるッ! 僕を必要だと言ってくれる彼らのためにも!!」
「そんなてめぇ勝手な都合で、何人も人間を殺させてたまるかよ!!」
「手を出してこなければもう殺さない! 放っておいてくれ!」
「そういうわけにいくかよ!」
戦況は徐々にだが魔族側の優勢となりつつあった。強化された魔族、魔獣が数の不利を覆し人間の兵士たちを押している。
「だったら! どうしろっていうんだ! どうすればこいつらはここで生きられるんだッ!!」
「知るかよ! 少なくともお前らが最初にここに来た冒険者を殺した時、もう争うしか道はなくなったんだよッ!!」
あの時、もしエリクが先頭に立ち〈ポラリス〉を説得していれば。もし〈ポラリス〉が魔族たちの存在を口外しないと約束してくれれば。もし彼らがエリクの思想に共感してくれたのなら。共感はさらなる共感を呼び、いずれは大きな波となったかもしれない。その波が世界を変えたかもしれない。魔族と親し気に暮す神官の存在が、人々の価値観に揺らぎを与えたかもしれない。
ほんの小さな可能性。されど確かにあった可能性。それを捨て去って殺し殺される選択をしたのはエリク自身だ。
「だったら、戦って勝ちとるだけだ!!」
エリクがさらに力を込めた。抑え込まれたフォルの脚が大地を抉って後退する。
このままでは数の不利を覆し、魔族側が勝利するだろう。エリクを倒さない限り、もう人間側が勝利するのは難しい。
だというのに、フォルは笑った。なぜなら彼は信じていたから。自分のかけた保険は必ず間に合うと。
「そうやって自分の思い通りにいかないことを相手の考えを無視して通そうとする。自分が絶対に正しい、他は間違っていると譲らない。相手のことをよく知ろうともしない。そんなだからお前をクビにしたんだ。いいか。お前が大嫌いでどれだけ誘ってもこなかった酒の席で俺が得たもの、お前に見せてやるよ」
そして、空が半透明の紫紺の半球に包まれた。
「な、なんだってんだこいつぁ!?」
半球に包まれたのはエリクたちを中心とした一画。まるで彼らだけを戦場から隔離するように突如として現れたドーム状の壁に、空からナナカの背を狙っていたトルスムは阻まれた。
「この! くそっ! エリクの旦那ァッ!」
槍や脚で何度も壁を突いたり蹴ったりするがドームはビクともしない。そしてドームの外、響いてきた爆音と人間の歓声にトルスムは驚愕した。
「人間共の増援……!!」
それもただの兵士の増援ではない。統一された装備ではない多用な武器を持つ者たちに加えて星術師に神官の姿もある。
このバラバラな装備、性別でありながらも四人ほどを一単位として国の兵士以上にとれた統率、連携。対魔族、魔獣に特化した動き。魔族ですら彼らが何者なのか知っている。今まで幾度なく戦い、殺し殺されを繰り返してきた因縁の者たち。
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隻眼の魔族は憎々し気にその名を呟いた。
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