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第五章
ばーか(6/9)
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「だけど、お前をクビにしたことを間違いだったなんて思ってねぇよ」
「ッ!!」
「俺は共に命をかけられるようなやつとパーティーを組みたかった。お前はそうじゃなかった。それだけだ」
そう言ってフォルは星剣を正眼に構えた。
同時に、エリクを護るように数体の魔族が集まる。片耳の狼牙族、隻眼の有翼族、片角の牛頭族。魔族の中でもエリクが特に親しくしている者たち。その姿を見て、ナナカがハッと息を飲んだ。
「この魔族たち……忘れもしない……! フォルさん! こいつらですっ! 私のもといたパーティーを、仲間を殺した魔族の集団……同族から追放された罪人たち!」
そしてミアも魔族の一体を見て気付く。
「あの狼牙族……もしかして……」
「うむ。間違いなかろう」
シャラも同意する。あの狼牙族には見覚えがある。
「そうか……あの日、俺が取り逃がしたのが全ての始まりだったんだな……」
人猟犬を逃がすために敵うはずのないフォルたちの前に飛び込んできた魔族。必殺の星剣で手傷を負わせたはずの魔族。
なぜその傷が治っているのか。答えは一つしかない。絶対に治らないはずの傷を癒せるなど、規格外の存在でなければ無理だ。そしてその規格外の存在が目の前にいる。
あの時、フォルたちがきちんと魔族の息の根を止めていれば、その死を確認していれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
「……何が命をかけられるようなやつだ! 僕のことを知ろうともしなかったクセに!!」
エリクは叫んだ。人間の側にいた時にはついぞ上げることのなかった叫び。
それを、それをフォルは――
「ハッ」
一笑に付した。
「何が……何が可笑しい……?」
ますます険しい表情になるエリクに反して、元五ツ星パーティーのリーダーは一人で何度も何度も頷いた。
「今のでよく分かったよ。なんでテメェが人間を裏切ったのか」
構えを解いたフォルが星剣をエリクに突き付ける。
「テメェはようはチヤホヤされたかったんだ。こんなに頑張ってる自分すごい。だからもっと頼りにされるべきで、もっと褒められるべきだ。だから裏切った。そいつら、魔族から追放された連中だろ? だから頼れるのはお前しかいないわけだ。さぞすげぇすげぇってチヤホヤされたんだろうな? なんて……くだらない理由だ」
そう吐き捨てた。
「魔族との融和のためとか、そんな綺麗な理由じゃねぇ。テメェは自分の自尊心を満たしてくれる存在が魔族しかいないから人間を裏切ったんだ。なんて馬鹿馬鹿しい理由だ。同情の余地がない」
「黙れェッ!!」
狼牙族、アルシャがぐるると唸る。
「馬鹿にされて怒ってくれる仲間ができたのか。よかったな」
それは心からの言葉だった。
「おいフォル、あまりエリクを挑発するのは……」
「いーや、まだ言っとかなきゃならねぇことがある」
シャラがフォルを止めたが、構わずフォルは続けた。
「おいエリク、さっき僕のことを知ろうともしなかったクセにって言ったな?」
そしてフォルはまずシャラを指さした。
「こいつはシャラ。戦闘部族リュガ族の出身で家名は発音が難しすぎてリュガ族以外には言えない。見ての通り筋肉馬鹿だが体臭を気にしたり意外と乙女な部分がある。一見不愛想だが、喜怒哀楽はけっこうはっきりしてるほう」
突然何を言い出すのかと怪訝な顔をするエリクの前で、フォルは次にミアを指さす。
「こいつはミア・アン。意地っ張りで素直じゃねぇけど、実はけっこう寂しがり屋。なんだかんだ一番気が合うのはこいつかもしれねぇ。〈瑠璃の兜亭〉の漬物が好物。胸はない」
「おい」
刺すようなミアの視線にはかまわず、
「こいつはナナカ・マイン。新たに〈フォーマルハウト〉に加わった女神アリエの神官だ。少し心配性なところはあるが、優しいし面倒見がいい。料理もうまい。あと胸がデカい」
「フォルさん……?」
皆が怪訝に思う中、フォルは最後にエリクを指さした。
「お前はエリク・ハヴェルカ。〈フォーマルハウト〉の初期メンバーの一人。酒は嫌いじゃないが騒ぐのは嫌い。ぐちぐちとねちっこい性格でプライドが高い。人前で意見を言うのが苦手。好きなものは甘い物、嫌いな物は漬物」
そこまで言ったフォルは一息入れる。そしてエリクの目をしっかり見てこう言った。
「シャラ、ミア、ナナカのことならまだまだ俺は知ってる。だけどお前のことはこれぐらいしか知らない。知れなかった。あれだけ長い間一緒のパーティーにいたのにだ。その上で訊くが、お前は俺のことどれくらい知ってる?」
「さっきから何をべらべらと……知るわけないだろお前のことなんかッ!!」
フォルはだろうな、と呟き、もう一度星剣を構えた。それを合図に両陣営が臨戦態勢となる。
「他人のことを知ろうともしないくせ、他人に自分のことを知ってもらえるなんて思うんじゃねぇよ。ばーか」
「黙れぇええッ!!」
それが戦闘開始の合図となった。
まず最初に衝突したのは両陣営でもっとも速いミアとアルシャ。短剣と鉤爪が何度も交錯し火花を散らす。
「トルスム! ゴルク! 赤髪には手を出すな! 後ろの神官を狙え!」
エリクの指示で有翼族と牛頭族がナナカへと狙いを定める。
「じゃあ俺の相手はお前がしてくれるのか!? 神官のお前がァ!!」
他の魔族に狙われず、フリーになったフォルは一直線にエリクの元へと辿り着く。エリクは規格外の能力を持つが神官だ。直接の戦闘能力は低い。少なくともフォルはエリクが直接戦っているところは見たことがない。せいぜい信仰術で敵の攻撃を防いだり、あるいは敵を弾き飛ばしたりしていた程度だ。
〝こいつを殺せば全部終わるッ!!〟
すでに決意はしていた。必ず殺す、まさしく必殺の星剣をフォルは振るう。
キィン!
驚愕にフォルの目が見開かれる。真正面とはいえ、全力で放ったフォルの一撃がいともたやすく、錫杖で受け止められていた。
「ッ!!」
「俺は共に命をかけられるようなやつとパーティーを組みたかった。お前はそうじゃなかった。それだけだ」
そう言ってフォルは星剣を正眼に構えた。
同時に、エリクを護るように数体の魔族が集まる。片耳の狼牙族、隻眼の有翼族、片角の牛頭族。魔族の中でもエリクが特に親しくしている者たち。その姿を見て、ナナカがハッと息を飲んだ。
「この魔族たち……忘れもしない……! フォルさん! こいつらですっ! 私のもといたパーティーを、仲間を殺した魔族の集団……同族から追放された罪人たち!」
そしてミアも魔族の一体を見て気付く。
「あの狼牙族……もしかして……」
「うむ。間違いなかろう」
シャラも同意する。あの狼牙族には見覚えがある。
「そうか……あの日、俺が取り逃がしたのが全ての始まりだったんだな……」
人猟犬を逃がすために敵うはずのないフォルたちの前に飛び込んできた魔族。必殺の星剣で手傷を負わせたはずの魔族。
なぜその傷が治っているのか。答えは一つしかない。絶対に治らないはずの傷を癒せるなど、規格外の存在でなければ無理だ。そしてその規格外の存在が目の前にいる。
あの時、フォルたちがきちんと魔族の息の根を止めていれば、その死を確認していれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
「……何が命をかけられるようなやつだ! 僕のことを知ろうともしなかったクセに!!」
エリクは叫んだ。人間の側にいた時にはついぞ上げることのなかった叫び。
それを、それをフォルは――
「ハッ」
一笑に付した。
「何が……何が可笑しい……?」
ますます険しい表情になるエリクに反して、元五ツ星パーティーのリーダーは一人で何度も何度も頷いた。
「今のでよく分かったよ。なんでテメェが人間を裏切ったのか」
構えを解いたフォルが星剣をエリクに突き付ける。
「テメェはようはチヤホヤされたかったんだ。こんなに頑張ってる自分すごい。だからもっと頼りにされるべきで、もっと褒められるべきだ。だから裏切った。そいつら、魔族から追放された連中だろ? だから頼れるのはお前しかいないわけだ。さぞすげぇすげぇってチヤホヤされたんだろうな? なんて……くだらない理由だ」
そう吐き捨てた。
「魔族との融和のためとか、そんな綺麗な理由じゃねぇ。テメェは自分の自尊心を満たしてくれる存在が魔族しかいないから人間を裏切ったんだ。なんて馬鹿馬鹿しい理由だ。同情の余地がない」
「黙れェッ!!」
狼牙族、アルシャがぐるると唸る。
「馬鹿にされて怒ってくれる仲間ができたのか。よかったな」
それは心からの言葉だった。
「おいフォル、あまりエリクを挑発するのは……」
「いーや、まだ言っとかなきゃならねぇことがある」
シャラがフォルを止めたが、構わずフォルは続けた。
「おいエリク、さっき僕のことを知ろうともしなかったクセにって言ったな?」
そしてフォルはまずシャラを指さした。
「こいつはシャラ。戦闘部族リュガ族の出身で家名は発音が難しすぎてリュガ族以外には言えない。見ての通り筋肉馬鹿だが体臭を気にしたり意外と乙女な部分がある。一見不愛想だが、喜怒哀楽はけっこうはっきりしてるほう」
突然何を言い出すのかと怪訝な顔をするエリクの前で、フォルは次にミアを指さす。
「こいつはミア・アン。意地っ張りで素直じゃねぇけど、実はけっこう寂しがり屋。なんだかんだ一番気が合うのはこいつかもしれねぇ。〈瑠璃の兜亭〉の漬物が好物。胸はない」
「おい」
刺すようなミアの視線にはかまわず、
「こいつはナナカ・マイン。新たに〈フォーマルハウト〉に加わった女神アリエの神官だ。少し心配性なところはあるが、優しいし面倒見がいい。料理もうまい。あと胸がデカい」
「フォルさん……?」
皆が怪訝に思う中、フォルは最後にエリクを指さした。
「お前はエリク・ハヴェルカ。〈フォーマルハウト〉の初期メンバーの一人。酒は嫌いじゃないが騒ぐのは嫌い。ぐちぐちとねちっこい性格でプライドが高い。人前で意見を言うのが苦手。好きなものは甘い物、嫌いな物は漬物」
そこまで言ったフォルは一息入れる。そしてエリクの目をしっかり見てこう言った。
「シャラ、ミア、ナナカのことならまだまだ俺は知ってる。だけどお前のことはこれぐらいしか知らない。知れなかった。あれだけ長い間一緒のパーティーにいたのにだ。その上で訊くが、お前は俺のことどれくらい知ってる?」
「さっきから何をべらべらと……知るわけないだろお前のことなんかッ!!」
フォルはだろうな、と呟き、もう一度星剣を構えた。それを合図に両陣営が臨戦態勢となる。
「他人のことを知ろうともしないくせ、他人に自分のことを知ってもらえるなんて思うんじゃねぇよ。ばーか」
「黙れぇええッ!!」
それが戦闘開始の合図となった。
まず最初に衝突したのは両陣営でもっとも速いミアとアルシャ。短剣と鉤爪が何度も交錯し火花を散らす。
「トルスム! ゴルク! 赤髪には手を出すな! 後ろの神官を狙え!」
エリクの指示で有翼族と牛頭族がナナカへと狙いを定める。
「じゃあ俺の相手はお前がしてくれるのか!? 神官のお前がァ!!」
他の魔族に狙われず、フリーになったフォルは一直線にエリクの元へと辿り着く。エリクは規格外の能力を持つが神官だ。直接の戦闘能力は低い。少なくともフォルはエリクが直接戦っているところは見たことがない。せいぜい信仰術で敵の攻撃を防いだり、あるいは敵を弾き飛ばしたりしていた程度だ。
〝こいつを殺せば全部終わるッ!!〟
すでに決意はしていた。必ず殺す、まさしく必殺の星剣をフォルは振るう。
キィン!
驚愕にフォルの目が見開かれる。真正面とはいえ、全力で放ったフォルの一撃がいともたやすく、錫杖で受け止められていた。
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